日常臨床や救急外来で腹部CTを読むとき、腎臓や膵臓のうしろにある後腹膜と、そこを走る腹部大動脈・下大静脈では、どのようなことに着目すればよいのでしょうか?
- 腹部大動脈(太さ・壁・周囲の血腫や炎症)
- 下大静脈・腸骨静脈(血栓・変異・圧迫)
- リンパ節(大きさ・分布・中の様子)
- 大血管を包む軟部影(後腹膜線維症・リンパ腫など)
- 後腹膜の液体・血腫・ガス
- 腸腰筋(膿瘍・血腫・左右差)
- 後腹膜の腫瘤・嚢胞
の有無について、まずは順番に見てみましょう。
以下、それぞれの所見で考える主な原因・鑑別と、次に何を見るか・どの検査へ進むかを解説します。後腹膜の区分(前腎傍腔・腎周囲腔・後腎傍腔)は後腹膜臓器とは?後腹膜腔の3コンパートメントにまとめています。
先に結論:腹部CTで後腹膜・大血管を見るときの7つのチェックポイント
- 大動脈の太さ:瘤があれば最大径を測り、周りの血腫・壁の高吸収(切迫破裂のサイン)がないかを見る
- 大動脈の中と壁:内膜のめくれ(フラップ)や壁の三日月形の肥厚があれば解離・壁内血腫を考え、範囲と枝への広がりを追う
- 下大静脈・腸骨静脈:血栓、腫瘍の進展、左下大静脈などの変異、フィルターの位置
- リンパ節:場所ごとの大きさの目安を超えるか、数珠状に連なるか、中が壊死しているか
- 大血管を包む軟部影:大動脈の前と横を包む板状の影は後腹膜線維症・炎症性大動脈瘤・リンパ腫を見分ける
- 液体・血腫・ガス:どの区画にあるかで出どころ(大動脈・腎・膵・十二指腸・結腸)を推定する
- 腸腰筋:左右差、腫れ、中の低吸収やガス。脊椎や腎の炎症からの波及を探す
1. 腹部大動脈の太さ(大動脈瘤)と破裂のサイン
腹部大動脈瘤は、研究では直径3 cm以上の拡張として定義されることが多く、救急外来のエコーの系統的レビューもこの定義を用いていました(Rubano 2013)。同じレビューでは、大動脈瘤の患者の50%は、低血圧・背部痛・拍動性腫瘤の3つがそろわないとされ、症状だけで否定しにくい病気です(Rubano 2013)。用語と形(紡錘状・嚢状、真性・仮性)は大動脈瘤とは?定義と分類を参照してください。
- 測り方:大動脈の走行に直交する断面で外壁から外壁までを測ると、斜めに切れたことによる過大評価を避けられます。過去の画像と並べて大きくなる速さを見ます
- 破裂:多くは大動脈瘤に後腹膜血腫を伴う形で見つかり、血液は腎周囲腔や腎傍腔へ広がります。壁の途切れや、輪状につながる石灰化の一部の切れ目が破れた場所の手がかりになります(Rakita 2007)
- 切迫破裂:瘤の拡大、内腔に比べて血栓が少ないこと、壁在血栓の中の出血、瘤の縁の三日月形の高吸収(crescent sign)が不安定さのサインとされます。瘤の後ろの壁が椎体に沿って垂れ下がる形(draped aorta)は、被覆された破裂と関連します(Rakita 2007)
- CTの所見を壁の中・内腔・壁の外に分けると、壁の中の所見は切迫破裂、内腔と壁の外の所見は破裂を示すと整理されています(Vu 2014)

引用:Radiopaedia(Ruptured abdominal aortic aneurysm)
腹部大動脈瘤の左側から後腹膜へ広がる血腫が、左の腸腰筋の前から腎の周りにかけて見えます。詳しくは大動脈瘤破裂のCT画像所見|後腹膜血腫・crescent signの記事へ。
瘤の周りが「血腫」ではなく「軟部影」のときは、炎症性腹部大動脈瘤(瘤の前と横を包む厚い軟部影、後ろの壁は保たれやすい)や、感染性大動脈瘤(短い期間で大きくなる嚢状の瘤、周りの脂肪織の混濁やガス)を考えます。少量の血腫は十二指腸・瘤周囲の線維化・リンパ節と紛らわしいことがあります(Rakita 2007)。

引用:Radiopaedia(Inflammatory aortic aneurysm – longitudinal imaging)
拡張した大動脈の前方から側方を、造影される厚い軟部影が帯状に包んでいます。詳しくは炎症性腹部大動脈瘤の画像診断の記事へ。
次に見ること:破裂を疑えば造影CTで血管外漏出と破裂部位、腸骨動脈・腎動脈との位置関係を確認します。症状のない瘤が偶然見つかったときは、大きさに応じた経過観察や血管外科への相談の流れになります(Khosa 2013, Wanhainen 2024)。
2. 大動脈の中と壁(解離・壁内血腫)
- 大動脈解離:内腔を2つに分けるフラップと、真腔・偽腔。腹部では腹腔動脈・上腸間膜動脈・腎動脈がどちらの腔から出ているかを確認し、腸管や腎臓の造影不良(臓器虚血)を探します。分類と見方は大動脈解離のCT画像診断まとめへ
- 偽腔閉塞型・壁内血腫:単純CTで壁の三日月形の高吸収として見えることがあり、造影CTだけでは血栓と区別しにくいため単純CTも見ます。急性大動脈症候群の整理は急性大動脈症候群とは?AoD・IMH・PAUへ
3. 下大静脈・腸骨静脈
- 血栓・腫瘍の進展:下大静脈の中の造影欠損。腎細胞癌などの腫瘍栓では、中に造影される部分があることが手がかりになります。造影のタイミングが早いと、腎静脈から入る造影剤と入らない血液が混ざって血栓のように見えることがあり、遅い相で見直します
- 変異:左下大静脈・重複下大静脈は、大動脈の左側の管状の構造としてリンパ節と間違えやすい代表です。肝部下大静脈がないときは奇静脈連結を考えます
- 人工物:下大静脈フィルターは、位置・傾き・脚の突出・血栓を確認します
腸骨静脈や性腺静脈の拡張・血栓、血管の圧迫症候群も、ACRの偶発所見の提言で扱われています(Khosa 2013)。
4. リンパ節
CTでのリンパ節の大きさは短径で考えます。上腹部CTで正常な大きさの上限を場所ごとに調べた研究(130人)では、後横隔膜脚腔6 mm、上部の傍大動脈9 mm、下部の傍大動脈11 mmなどとされ、場所によっては1 cm未満でも異常のことがあると述べられています(Dorfman 1991)。後横隔膜脚腔については後横隔膜脚腔(retrocrural space)とはにまとめています。
| リンパ節の見え方 | 考える病気と見るポイント |
|---|---|
| 大血管を囲むように多数が融合 | 悪性リンパ腫。血管を押しつぶさずに包み込む形が手がかり。鑑別の全体像はリンパ節腫脹の鑑別診断まとめへ |
| 原発巣の流れに沿って腫大 | がんの転移。精巣腫瘍は腎門の高さの傍大動脈に転移しやすく(primary landing zone)、骨盤の臓器のがんは骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節を下からたどる |
| 中が低吸収で縁が染まる | 壊死を伴う転移、結核性リンパ節炎など |
| リンパ節に見える血管・正常構造 | 左下大静脈・性腺静脈・腰静脈、十二指腸の一部。連続するスライスで管としてつながるかを確認 |
次に見ること:大きさだけでなく分布(片側・両側、上から下までの連なり)と、原発巣の候補(精巣・腎・婦人科臓器・消化管)を探します。
5. 大血管を包む軟部影(後腹膜線維症など)
後腹膜線維症は、腹部大動脈や腸骨動脈のまわりに線維化と炎症が広がる、まれな病気です(Peisen 2020)。CTでは大動脈の前と横を包む板状の軟部影として見え、尿管を巻き込んで水腎症を起こしたり、静脈の狭窄や血栓を合併したりします(Czerniak 2025)。

引用:Radiopaedia(Retroperitoneal fibrosis)
下部腰椎の高さで、大動脈と下大静脈の前を板状の軟部影が包んでいます。詳しくは後腹膜線維症とは?CT・MRI所見と水腎症、悪性との鑑別の記事へ。
- 鑑別:画像では、リンパ腫・肉腫・多発性骨髄腫・Erdheim-Chester病などとの区別が必要です(Peisen 2020)。大動脈を前に持ち上げる・大きく分葉する軟部影は悪性を疑う手がかりになります
- 原因:特発性が多く、IgG4関連疾患などの自己免疫・炎症性の病気と関連することがあります(Czerniak 2025)。膵臓・胆管・腎臓など他の臓器の病変も探します
- 次の検査:病変の評価と経過観察にはMRIが適しているとされ、FDG-PETは炎症の活動性の評価に使われます。画像だけで決めきれないときは生検が必要です(Czerniak 2025, Peisen 2020)
6. 後腹膜の液体・血腫・ガス
液体やガスがどの区画にあるかを見ると、出どころを推定できます。
| 場所 | 主な出どころ |
|---|---|
| 前腎傍腔 | 膵炎の液体、十二指腸・上行/下行結腸の穿孔。ガスがあれば大腸穿孔(後腹膜気腫)や十二指腸の穿孔を考える |
| 腎周囲腔 | 腎臓・副腎からの出血、尿の漏れ、腎の感染。大動脈瘤破裂の血液も広がる |
| 後腎傍腔 | 抗凝固療法中の出血、腸腰筋からの出血など。後腎傍腔の画像診断も参照 |
| 骨盤の腹膜外腔 | カテーテル検査の穿刺部からの出血(穿刺部合併症と後腹膜血腫)、骨盤骨折、膀胱損傷 |
- 新しい血腫は単純CTでやや高吸収に見え、時間とともに濃さが下がります。抗凝固薬の使用歴を確認します
- 造影CTで造影剤が血管の外へ漏れる所見があれば、出血が続いていることを示し、止血の治療(血管内治療など)の検討につながります
- 腹膜の内か外かの見分け方は腹膜・腹腔と腹膜外腔の違いにまとめています
7. 腸腰筋(膿瘍・血腫・左右差)
腸腰筋は左右を比べやすい筋肉です。片側の腫れ・中の低吸収・縁の造影・ガスがあれば腸腰筋膿瘍を考えます。

右の腸腰筋が腫れ、中に低吸収の膿のたまりが見えます(矢印)。冠状断で筋肉に沿って縦に広がる様子が分かります。詳しくは腸腰筋膿瘍とは?原因・症状とCT・MRI画像所見の記事へ。
- 原因を探す:脊椎(化膿性脊椎炎・術後感染)からの波及が重要な原因で、感染があって背部痛や股関節痛がある人では腸腰筋膿瘍を考える必要があります(Mückley 2003)。腎臓・腸管(虫垂炎・クローン病・憩室炎)からの波及も探します
- 早い時期は見えにくい:15人の検討では、症状が出てから5日以内のCTの感度は単純CTで33%、造影CTで50%にとどまり、6日目以降は100%でした(Takada 2015)。症状が続くときは日をおいた再検査を考えます
- 腸腰筋の血腫:抗凝固療法中に多く、単純CTで高吸収や液面形成(ヘマトクリット効果)が見えることがあります
- 股関節との交通:鼠径部の嚢胞状の病変は腸恥滑液包炎のことがあります
8. 後腹膜の腫瘤・嚢胞
臓器(腎・副腎・膵)から離れた場所の腫瘤は、後腹膜原発の腫瘍を考えます。
- 脂肪を含む:脂肪肉腫を考えます。腎から出る血管筋脂肪腫との区別には、腎実質の欠け(claw sign)の有無を見ます
- 充実性:平滑筋肉腫(下大静脈から出ることがある)、神経原性腫瘍(脊椎の横、神経に沿う)、リンパ腫など
- 嚢胞性:リンパ管腫、嚢胞性リンパ節転移、膵の嚢胞性病変など。整理は後腹膜の嚢胞性病変の鑑別診断へ
次に見ること:どの臓器から出ているか(臓器との境界の脂肪の線、臓器を押しているか食い込んでいるか)を冠状断・矢状断で確認し、MRIや生検の計画につなげます。
偶然見つかったときの扱い
米国放射線学会(ACR)の偶発所見委員会は、腹部・骨盤のCT・MRIで偶然見つかる腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤・脾動脈瘤・腎動脈瘤・内臓動脈瘤、静脈の変異、圧迫症候群、静脈血栓、性腺・骨盤の静脈の所見について、定義と扱いの提言をまとめています(Khosa 2013)。大動脈瘤の経過観察や治療の判断は、欧州血管外科学会の診療ガイドラインでも扱われています(Wanhainen 2024)。報告書には最大径と測った断面を書き、過去の画像があれば変化も記載します。
腰や背中の痛み、腹部の拍動するしこり、発熱が続くなどの気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
後腹膜・大血管で見落としやすい場所と、確認のしかた
| 場所 | 見落としやすい理由 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 後横隔膜脚腔 | 横隔膜脚の後ろの狭い場所で、小さなリンパ節や大動脈周囲の病変が脚と重なる | 大動脈の後ろを上から下まで追う。後横隔膜脚腔の目安と比べる |
| 大動脈分岐部〜総腸骨動脈 | 腹部の画像の下端・骨盤の画像の上端にあたり、腸骨動脈瘤や分岐部の軟部影が見逃されやすい | 冠状断で大動脈から腸骨動脈まで1本につなげて見る |
| 左腎静脈の高さ | 大動脈と上腸間膜動脈の間を通る左腎静脈や性腺静脈が、リンパ節と紛らわしい | 連続スライスで管としてつながるか、静脈相で染まるかを確認 |
| 腸腰筋の下部 | 骨盤に入ると腸骨筋と合わさり、左右差が分かりにくい | 鼠径部まで左右を比べ、冠状断で筋肉の形を追う |
| 単純CTの大動脈の壁 | 造影CTだけを見ると、壁内血腫の三日月形の高吸収に気づきにくい | 単純CTがあれば大動脈の壁の濃さを見る習慣をつける |
後腹膜・大血管の読影でよくある疑問(Q&A)
Q. 大動脈のまわりに少し軟部影があります。血腫か、線維化か、リンパ節かをどう見分けますか?
A. 単純CTでやや高吸収で、大動脈瘤に接して非対称に広がれば血腫を考えます。大動脈の前と横を均一な厚さで包み、造影でゆっくり染まれば後腹膜線維症や炎症性大動脈瘤を、結節が集まって分葉していればリンパ節(リンパ腫・転移)を考えます。少量の血腫は十二指腸や線維化と紛らわしいことがあり(Rakita 2007)、過去画像との比較が役立ちます。
Q. リンパ節は何ミリから「腫れている」と考えますか?
A. 場所によって目安が異なります。上腹部の研究では、短径で後横隔膜脚腔6 mm、上部傍大動脈9 mm、下部傍大動脈11 mmが正常の上限とされました(Dorfman 1991)。大きさに加えて、数・分布・中の壊死を合わせて判断します。
Q. 腸腰筋膿瘍が疑わしいのに、CTではっきりしません。
A. 発症から間もない時期はCTでもMRIでも見えないことがあります(Takada 2015)。症状が続くときは日をおいて再検査し、脊椎や股関節の感染巣もあわせて探します。
まとめ
後腹膜・大血管のCTでは、
- 大動脈の太さと、破裂・切迫破裂・解離のサイン
- 下大静脈の血栓と変異
- リンパ節の大きさ・分布
- 大血管を包む軟部影(後腹膜線維症など)
- 液体・血腫・ガスの区画
- 腸腰筋の左右差
を順番に確認し、冠状断で上下のつながりを見ることが見落としを減らす助けになります。
あわせて読みたい:腹部CTの読み方
参考文献
- Rubano E, Mehta N, Caputo W, et al. Systematic review: emergency department bedside ultrasonography for diagnosing suspected abdominal aortic aneurysm. Acad Emerg Med. 2013;20(2):128-38. PubMed
- Rakita D, Newatia A, Hines JJ, et al. Spectrum of CT findings in rupture and impending rupture of abdominal aortic aneurysms. Radiographics. 2007;27(2):497-507. PubMed
- Vu KN, Kaitoukov Y, Morin-Roy F, et al. Rupture signs on computed tomography, treatment, and outcome of abdominal aortic aneurysms. Insights Imaging. 2014;5(3):281-93. PubMed
- Khosa F, Krinsky G, Macari M, et al. Managing incidental findings on abdominal and pelvic CT and MRI, Part 2: white paper of the ACR Incidental Findings Committee II on vascular findings. J Am Coll Radiol. 2013;10(10):789-94. PubMed
- Wanhainen A, Van Herzeele I, Bastos Goncalves F, et al. Editor’s Choice — European Society for Vascular Surgery (ESVS) 2024 Clinical Practice Guidelines on the Management of Abdominal Aorto-Iliac Artery Aneurysms. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2024;67(2):192-331. PubMed
- Dorfman RE, Alpern MB, Gross BH, et al. Upper abdominal lymph nodes: criteria for normal size determined with CT. Radiology. 1991;180(2):319-22. PubMed
- Peisen F, Thaiss WM, Ekert K, et al. Retroperitoneal Fibrosis and its Differential Diagnoses: The Role of Radiological Imaging. Rofo. 2020;192(10):929-936. PubMed
- Czerniak S, Mathur M. Multimodality imaging review of retroperitoneal fibrosis. Abdom Radiol (NY). 2025;50(9):4450-4468. PubMed
- Mückley T, Schütz T, Kirschner M, et al. Psoas abscess: the spine as a primary source of infection. Spine (Phila Pa 1976). 2003;28(6):E106-13. PubMed
- Takada T, Terada K, Kajiwara H, et al. Limitations of using imaging diagnosis for psoas abscess in its early stage. Intern Med. 2015;54(20):2589-93. PubMed
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