胃のCTの見方 膨らませる理由と偽の壁肥厚

胃のCTで「胃壁が厚い」と書かれていました。検査前には水(または発泡剤)も飲みましたが、胃を膨らませるのはなぜですか?壁が厚いと胃癌なのでしょうか?
胃は空っぽで縮んでいると、壁が重なって実際より厚く見えます。水や空気で膨らませると、壁の本当の厚さと形が見やすくなります。ただ、膨らませても壁が厚いままの所は要注意で、縮んだ部分の偽の肥厚との見分け方と、癌・リンパ腫・GIST・炎症の大まかな違いを整理します。

先に結論:胃は「膨らませて」「厚い所が本当に厚いか」を確かめてから読む

項目 ポイント
なぜ膨らませるか 縮んだ胃は壁が重なって厚く見える。伸ばすと壁の厚さ・内腔・粘膜面が評価しやすい
偽の壁肥厚 前庭部(幽門の手前)は正常でも厚く、5mmを超えることが多い。縮んだ部分・斜めに切れる部分も厚く見える
本物を疑う所見 不整・非対称・壁が一部だけ急に厚い、膨らませても変わらない、層構造の乱れ、周囲脂肪織の濃度上昇
原因の絞り込み 癌・リンパ腫・GIST・炎症は所見が重なる。広がり・潰瘍・層構造・リンパ節で見当をつけ、最後は内視鏡と生検
早期の病変 CTは苦手。早期胃癌の発見は内視鏡が基本

胃CTを読む前に:胃の壁と、膨らませる理由

胃は袋状の臓器で、中身が空だと壁がたたまれて、粘膜のひだ(皺襞)が重なります。CTは断面で壁を見る検査なので、縮んだ胃では壁が実際より厚く、病変の有無も分かりにくくなります。そこで、胃の中を水や空気で満たし、壁を伸ばしてから撮影する方法が使われます。

どれくらい伸びているかで、壁の厚さの見え方は変わります。前庭部の壁を測った153人の検討(Pickhardt 2003)では、胃の伸展が最も悪いグレード1の平均壁厚は6.9mm、最も良いグレード4では4.0mmでした。同じ人の同じ場所でも、伸ばし方で厚さの見え方が変わることが分かります。

胃の状態 CTでの見え方
縮んでいる(空虚・収縮) 壁が重なって厚く見える。内腔が狭く、粘膜面の凹凸や腫瘤が分かりにくい
よく伸びている 壁の厚さ・層構造・内腔への突出が見やすい。厚いままの所は病的な可能性が上がる
伸ばしすぎ・ガスの偏り 壁が薄く見える。内容物(食物残渣・液)があると腫瘤と紛らわしいことがある

胃を膨らませる方法:水と空気

胃を伸ばす方法は大きく2つです。

方法 内容 特徴
水で膨らませる(hydro-CT) 検査前に水を飲む。陽性の経口造影剤ではなく水を使う 壁と内腔の濃度差が出る。点滴からの造影剤による壁の造影効果を評価しやすい
空気で膨らませる(air-CT) 発泡剤などで胃の中にガスを作る 内腔が空気で黒くなり、壁の内面が見やすい。ガスの偏りが出ることがある

どちらがよいかは、研究によって結論が分かれます。胃癌の深達度(T分類)を調べた研究では、空気で膨らませたCTの正診率は58例中48例(83%)、水で膨らませたCTは57例中49例(86%)で、有意な差はありませんでした(Kumano 2012)。また、膨らませたCTと膨らませないCTを各86人ずつで比べた研究でも、T分類・リンパ節転移(N分類)・漿膜浸潤の診断能に有意な差は見られませんでした(Lee 2022)。「膨らませればいつも病期診断が上がる」と言い切れるわけではありません。

それでも、壁の厚さや形を読むときは、よく伸びた胃のほうが判断しやすいというのが読影の基本です。検査前の飲水や発泡剤、腸管の動きを抑える薬を使うかどうかは検査施設で異なり、持病によっては使えないこともあります。指示は主治医・検査施設に従ってください。胃癌の病期(T・N・M)の見方は、胃癌の造影CT所見で解説しています。

症例 70歳代男性 胃癌

胃癌 造影CT 軸位断像 噴門部の壁肥厚
引用:Radiopaedia(Gastric adenocarcinoma)

胃の中に液体が溜まって伸びた状態で、胃の内側寄り(噴門側)の壁が厚くなっています。症例ページでは、噴門部から小弯側に沿った体部で壁の厚さが不整で左右非対称に増し(最大21mm)、周囲に脂肪織の濃度上昇があり、内視鏡と生検で胃癌と確認されたと記載されています。

縮んだ部分の「偽の壁肥厚」

壁が厚く見えても、病気とは限りません。代表が前庭部(胃の出口、幽門の手前)です。ここは筋層が発達していて、正常でも厚く見えます。造影CTで病変のない153人を調べた検討では、前庭部の遠位が胃体部より厚く見えた人が99%(152人)に上り、96%は全周性に滑らかに厚く、平均壁厚は5.1mm、5mmを超えた人が56%、10mmを超えた人も5%いました。厚い範囲の長さは平均4.6cmで、最大12mmに達し、粘膜下に低吸収の線状の縞が見えることも24%にありました(Pickhardt 2003)。胃体部の前壁は平均2.0mmと薄く、前庭部との差ははっきりしています(Pickhardt 2003)。幽門部の筋層による見かけの肥厚は、胃幽門部は筋層が発達して壁肥厚に見えるでも解説しています。

前庭部以外にも、偽の肥厚を作りやすい場所があります。

場所・状況 厚く見える理由
前庭部・幽門 筋層が発達している。蠕動で収縮していると、さらに厚く見える
食道胃接合部(噴門) 壁が斜めに切れるため厚く見えることがある
縮んだ胃体部・穹窿部 皺襞が重なり、壁が厚い塊のように見える
内容物が残っている胃 食物や液体が壁と区別しにくく、腫瘤のように見える

偽肥厚か本物かを見分けるチェック

見る点 偽の肥厚を考える 本物の肥厚を考える
広がり 前庭部など決まった場所で、滑らかに移行する 壁の一部が急に厚くなる、段差がある
形 左右対称・全周性で滑らか 不整・非対称、内腔に突出する
層構造 保たれている(粘膜下の低吸収の縞は正常でもある) 層構造が消える、粘膜面が潰瘍状
周囲 脂肪織はきれい 脂肪織の濃度上昇、リンパ節腫大
伸展を変えると 伸びると薄くなる 伸びても厚いまま
過去の画像 以前から同じ 新しい・厚くなっている

壁の厚さの数字だけで良悪性は決められません。前庭部の壁肥厚があり内視鏡も受けた111人の検討では、平均の壁厚は悪性群13.68mm、良性群9.22mmと差がありましたが(Akbas 2019)、平均値の差であり、1人ずつの判断には厚さに加えて形・層構造・周囲の所見が必要です。

一方で、CTで偶然「壁が厚い」と指摘された場合は、内視鏡で確かめる価値があります。CTで偶然見つかった消化管壁肥厚129例では、内視鏡で病的な所見が見つかったのは83%で、約30%が悪性でした。悪性は前庭部よりも噴門・食道胃接合部のほうが多く、この研究では内視鏡が勧められています(Somuncu 2021)。気になる症状(胃の痛み、食欲低下、黒い便、体重減少など)があれば、医療機関を受診してください。

壁肥厚のパターン:癌・リンパ腫・GIST・炎症

壁が本当に厚いと考えたら、次は原因です。CTでの大まかな違いは次のとおりです。

疾患 壁肥厚の特徴 覚えておくこと
胃癌 局所的で不整・非対称。潰瘍を伴う。壁の一部が厚い 進行癌27例では、壁が侵された範囲はすべて全周の50%未満(Fan 2008)。スキルス胃癌は例外的に壁が広範囲に厚くなる
リンパ腫 広い範囲が滑らかに厚い(全周性のことが多い)。潰瘍は少なめ 25例中23例で壁の75%を超える範囲が侵され、潰瘍があったのは1例でした(Fan 2008)。ただし胃癌と所見は重なる(Gossios 2000)
GIST・粘膜下腫瘍 粘膜面は保たれ、壁内から内腔や壁外へ突出する腫瘤 壁全体が厚いというより腫瘤として見える(胃粘膜下腫瘍)
炎症(胃炎・潰瘍・AGMLなど) 粘膜下の浮腫で低吸収の層を伴う。粘膜が強く造影される アニサキスなどでも壁肥厚を作る(AGML)

癌とリンパ腫は特に紛らわしく、「胃癌とリンパ腫は所見が重なり、区別が難しい」とされています(Gossios 2000)。進行胃癌27例とリンパ腫25例を比べた研究では、胃癌27例中23例(85.2%)に壁の内側が線状に強く造影される所見(white line sign)があり、リンパ腫の25例には見られませんでした(Fan 2008)。ただし症例数が少なく、どの所見も例外があります。CTの所見は「どれらしいか」の見当をつける手がかりで、診断を決めるのは内視鏡での生検です。

症例 40歳代男性 胃のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫

胃びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 造影CT 軸位断像 胃壁の粘膜下浮腫と粘膜の造影
引用:Radiopaedia(Gastric diffuse large B-cell lymphoma)

胃の壁が厚く、内側の粘膜が強く造影され、その外側に低吸収の層が見えます。症例ページでは、前庭部の壁の厚い造影される潰瘍性の腫瘤に加え、胃体下部から前庭部に低吸収の粘膜下肥厚(浮腫)とびまん性の粘膜の造影増強があり、腫瘍は浮腫より高い吸収値で区別できると解説されています。

早期の病変は内視鏡:CTで分かることと分からないこと

CTは壁の外への広がりやリンパ節、遠隔転移を見るのが得意です。一方で、粘膜にとどまる早期胃癌は、通常の断面像だけでは見つけにくい検査です。胃癌104例(うち早期胃癌63例)と対照35例で比べた研究では、通常の軸位断CTの感度は全体で76.7%、早期胃癌では62.9%でした。3次元の仮想内視鏡像で読むと、それぞれ95.1%と91.9%に上がりましたが、特異度は82.9%から74.3%に下がっています(Kim 2012)。

つまりCTは、早期胃癌を除外する検査ではありません。胃の症状や健診のバリウム検査・血液検査の異常があるとき、また、CTで壁肥厚を指摘されたときは、胃カメラ(内視鏡)で粘膜を直接見るのが基本です。胃癌の病期診断でCTが担う役割は、胃癌の造影CT所見を参照してください。

胃CTの読み方:チェックリスト

  1. 胃は十分に伸びているか(内容物・ガスの偏りも確認)
  2. 壁が厚い所はどこか。前庭部・噴門など、正常でも厚く見える場所か
  3. 厚みは全周性か、一部か。不整・非対称か
  4. 層構造(粘膜の造影・粘膜下の低吸収)は保たれているか
  5. 潰瘍・内腔への突出・壁外の腫瘤はないか
  6. 周囲の脂肪織の濃度上昇、リンパ節、腹水・腹膜の結節はないか
  7. 過去の画像と比べて変化しているか

腹部CT全体を読む順番は腹部CTの読み方にまとめています。

よくある疑問(Q&A)

Q. 水を飲んで撮影するのは、いつも必要ですか?
A. 施設や目的によって異なります。胃の壁をよく見たいときには水や発泡剤で膨らませますが、膨らませなくても病期診断の精度に差がなかったという報告もあります(Lee 2022)。実際の準備は、検査施設の指示に従ってください。

Q. CTで「胃の壁が厚い」と書かれていたら、胃癌ですか?
A. そうとは限りません。前庭部は正常でも厚く、5mmを超える人が半数以上います(Pickhardt 2003)。一方で、CTで偶然壁肥厚を指摘された人の約30%が悪性だった報告もあるため(Somuncu 2021)、症状の有無にかかわらず、主治医に相談して内視鏡の必要性を確認してください。

Q. CTで異常がなければ、胃カメラは受けなくてもよいですか?
A. いいえ。早期胃癌は通常のCTでは見つけにくく、軸位断CTの早期胃癌の感度は62.9%という報告があります(Kim 2012)。胃癌の検診や症状の精査は、内視鏡を基本に考えてください。

Q. 胃癌とリンパ腫は、CTで見分けられますか?
A. 壁の侵される範囲、潰瘍の有無、リンパ節の分布などで見当はつきますが、所見は重なります(Gossios 2000、Fan 2008)。最終的には内視鏡での生検で診断します。

参考文献

  1. Pickhardt PJ, Asher DB. Wall thickening of the gastric antrum as a normal finding: multidetector CT with cadaveric comparison. AJR Am J Roentgenol. 2003;181(4):973-9. PubMed
  2. Lee YH, Chan WH, Lai YC, et al. Gastric hydrodistension CT versus CT without gastric distension in preoperative TN staging of gastric carcinoma: analysis of single-center cancer registry. Sci Rep. 2022;12(1):11321. PubMed
  3. Kumano S, Okada M, Shimono T, et al. T-staging of gastric cancer of air-filling multidetector-row CT: comparison with hydro-multidetector-row CT. Eur J Radiol. 2012;81(11):2953-60. PubMed
  4. Somuncu E, Topal Ü, Sönmez S, et al. Incidentally Detected Gastrointestinal Wall Thickness on Abdominal Computed Tomography; What Does it Mean for Endoscopy?. Arch Iran Med. 2021;24(4):296-300. PubMed
  5. Akbas A, Bakir H, Dasiran MF, et al. Significance of Gastric Wall Thickening Detected in Abdominal CT Scan to Predict Gastric Malignancy. J Oncol. 2019;2019:8581547. PubMed
  6. Fan WJ, Lu YC, Liu LZ, et al. [Comparison of CT findings between gastric cancer and gastric lymphoma]. Ai Zheng. 2008;27(5):539-43. PubMed
  7. Gossios K, Katsimbri P, Tsianos E. CT features of gastric lymphoma. Eur Radiol. 2000;10(3):425-30. PubMed
  8. Kim JH, Eun HW, Hong SS, et al. Gastric cancer detection using MDCT compared with 2D axial CT: diagnostic accuracy of three different reconstruction techniques. Abdom Imaging. 2012;37(4):541-8. PubMed

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