大動脈瘤とは大動脈にできたコブのことです。

コブが大きくなり、破裂してしまうと即、命に関わる病気です。

コブは通常、無症状のことが多いので、高血圧などのリスクがある人は、定期的にエコーなど検査をして、この病気があることをあらかじめ知っておく必要があります。

今回は、大動脈瘤の定義から、分類、原因、破裂の種類、CT画像所見、治療までまとめました。

大動脈瘤の定義は?

胸部大動脈の正常径は3cm、腹部大動脈の正常径は2cmと言われており、それぞれ1.5倍である4.5cm、3cm以上に拡張した場合を動脈瘤と定義します。

大動脈瘤の定義
  • 胸部大動脈瘤 大動脈径>4.5cm
  • 腹部大動脈瘤 大動脈径>3cm

 

※1.5倍に満たない大動脈径の拡大に対しては、瘤状拡張という用語が用いられます。

大動脈瘤の分類は?

大動脈瘤の分類には以下の点で分類します。

  • 大動脈瘤の存在部位
  • 大動脈瘤の形状
  • 大動脈瘤壁の形状

大動脈瘤の存在部位による分類

動脈瘤が大動脈のうちどこに存在するのかで分類します。具体的には

  • 胸部(上行、弓部、下行):TAA(thoracic aortic aneurysm)と呼ばれる。
  • 胸腹部(Crawford分類Ⅰ〜Ⅴ型):TAAA(thracoabdominal aortic aneurysm)と呼ばれる。
  • 腹部(腎動脈の上か下か):AAA(abdominal aortic aneurysm)と呼ばれる。

のどこにあるかで分けます。

胸部下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤では、術前に脊髄を栄養する動脈の一つであるアダムキュービッツ動脈(Adamkiewicz artery)の同定が重要といわれています。

胸部上行大動脈、大動脈弓部、胸部下行大動脈の境界
  • 上行大動脈:大動脈弁輪部から腕頭動脈分岐部まで、
  • 弓部:腕頭動脈分岐部から左右肺動脈分岐部レベルにあたる第3、あるいは第4胸椎レベルまで
  • 下行大動脈:これより遠位側
腹部大動脈(瘤)の境界
  • 腎動脈分岐部を基準として腎動脈上、傍腎動脈、腎動脈下腹部大動脈に分類される。
胸腹部動脈瘤のCrawford分類

  • I型:左鎖骨下動脈より腎動脈まで及ぶ動脈瘤
  • II型:左鎖骨下動脈より腎動脈末梢側に進展する動脈瘤
  • III型:Th6レベルの下行大動脈より腎動脈末梢側に進展する動脈瘤
  • IV型:腹部分枝動脈以下の腹部大動脈全体に及ぶ動脈瘤
  • V型:Th6レベルの下行大動脈より腎動脈中枢に進展する動脈瘤

 

大動脈瘤の形状・形態による分類

動脈瘤には腹部であれ、頭の血管であれ、2種類の形状に分けられます。それが

  • 嚢状動脈瘤(saccular aneurysm):壁の一部に限られコブ状を呈する場合
  • 紡錘状動脈瘤(fusiform aneurysm):大動脈壁の拡大が概ね全周性

の2種類です。前者の嚢状の方が危険であり、サイズが小さくても破裂の危険があります。この点は頭の血管においても同様です。

紡錘状の場合も以下に当てはまる場合は破裂の危険があり、手術の適応となります。

なお、嚢状瘤の一般的な定義は、まだ局所、または変則性の大動脈の拡大という曖昧な定義しかなく、どちらか判断に迷う場合には、嚢状瘤として取り扱います。

大動脈瘤壁の形状による分類

大動脈瘤壁の形状については、

  • 真性動脈瘤:大動脈壁が3層が保たれた本来の大動脈の壁から成る瘤。
  • 仮性動脈瘤:一部もしくは3層が破綻し、本来の大動脈壁構造を伴わず破綻した外膜の一部や血栓、周囲結合織により囲まれている動脈瘤。
  • 解離性大動脈瘤:大動脈解離により生じた偽腔が拡大し動脈瘤となったもの

に分けることができます。

仮性動脈瘤は、外傷や手術、炎症後に起こることが多いと言われています。

中膜レベルで2層に剥離したものは、大動脈解離と定義されます。その大動脈解離が原因となり、慢性期に大動脈が拡張したものを解離性大動脈瘤と言います。

 

大動脈瘤の原因は?

大動脈瘤の原因には、 以下の原因があります。

  • 動脈硬化によるもの(最多
  • 外傷によるもの
  • 炎症によるもの:ベーチェット病高安動脈炎IgG4関連疾患など
  • 感染によるもの
  • 先天的な疾患によるもの:Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群、Loeys-Dietz症候群、Turner症候群など

動脈硬化が起こると、壁内に粥腫が形成され、壁が脆くなります。これにより大動脈が拡大します。

他には、危険因子として、高血圧、喫煙、慢性閉塞性肺疾患が破裂を助長するといわれています。

外傷による大動脈瘤

  • 主に交通外傷や高所からの落下が原因となり発生する。
  • 大動脈狭部が最多。

炎症性動脈瘤

  • 動脈瘤壁の肥厚、動脈瘤周囲や後腹膜に広がる線維化(外筒のように広がりMantle signと呼ばれる)、消化管や尿路などの周囲臓器への炎症による癒着とそれに伴う瘻孔形成、水腎症を特徴とする動脈瘤。
  • 腹部大動脈瘤の310%の頻度。
  • IgG4関連疾患の動脈病変と考えられるものと重度の動脈硬化による変化と考えられるものが混在。

感染性動脈瘤

  • 敗血症や感染巣からの感染性塞栓が動脈硬化などで損傷している大動脈壁に付着して炎症を起こし大動脈瘤を形成したもの
  • 現在では既存の大動脈瘤に感染が加わったものも含まれる。
  • 大動脈瘤全体の0.51.3%の頻度。
  • 原因菌としては、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌の頻度が高い。
  • 大動脈周囲の炎症性浮腫や膿瘍形成を伴った嚢状動脈瘤として描出されることが多い。

大動脈瘤の症状は?

通常、無症状のことが多いですが、症状を有する場合は特に注意が必要です。

大動脈瘤による症状には

  • 圧迫症状
  • 破裂に伴う症状

があります。

破裂を起こさなくても瘤が大きくなると、周囲の臓器を圧迫することによる圧迫症状が出てきます。圧迫症状には、

  • 咳嗽
  • 胸部痛、背部痛
  • 腰痛、腹痛(腹部の場合)

が挙げられます。

破裂に伴う症状には、

  • 動脈瘤の破裂による強い痛み
  • 血圧低下などショック症状

を来すことがあり、これは破裂や切迫破裂(破裂の危険性がある動脈瘤)の状態を示唆し、注意が必要です。

大動脈瘤の破裂の種類は?

  • frank rupture(open rupture):動脈壁が完全に断裂している状態。胸腔や縦隔、後腹膜、腹腔内などの大動脈の外に血腫が存在する。
  • contained rupture(sealed rupture):断裂した動脈壁が血腫や周囲臓器により被包されている状態。
  • impending rupture:今後破裂の危険が高い動脈瘤で、切迫破裂と呼ばれる。切迫破裂は動脈瘤を原因とする疼痛がありますが、瘤の破綻を生じていない状態。瘤壁や壁在血栓内にCTで高吸収を示す血腫が見られる。

の3種類に分けることができます。

frank rupture(open rupture)は、大動脈からの血腫が外に出てしまっているため、重症度が最も高い病態です。

大動脈瘤のCT画像診断は?

大動脈瘤のCT画像検査では、上に述べたように最大短径を用いてフォローします。

CT画像検査では、

  • 大動脈瘤が存在すること
  • 存在する範囲(胸部、胸腹部、腹部)
    • 腹部大動脈瘤の場合は、腎動脈分岐部の上か下か、両方か。
  • 瘤の形状(嚢状、紡錘状)
  • 最大短径及びその経時的変化
  • 破裂や切迫破裂を疑うような血腫の有無。

をチェックしていきます。

破裂のリスクが高い動脈瘤を疑う所見

  • 短期間における動脈瘤径の増大や、壁在血栓の縮小が挙げられます。
  • また腹痛などの臨床症状を伴う切迫破裂においては、high attenuating crescent signにも注目する必要があります。

High attenuating crescent sign

  • CTで壁在血栓の辺縁部に認められる三日月状の高濃度域のこと。
  • 動脈瘤壁、あるいは壁在血栓内の出血を示すとされており、破裂あるいは切迫破裂をきたした動脈瘤において高頻度に認められる所見です。
  • ただし、陽性的中率は53%と高くないため、腹痛などの臨床症状を伴っている場合において、破裂の危険を疑わせる所見として注目する必要があります。

動脈瘤の破裂を示唆する所見

  • 胸部大動脈瘤であれば動脈瘤周囲から広がる縦隔内や胸腔内、心嚢内の血腫
  • 腹部大動脈瘤であれば後腹膜や腹腔内へと広がる血腫
  • 造影CTであれば血腫内に広がる造影剤のextravasationが認められることがあります。

 

症例 80歳代 男性

大動脈弓部に最大短径52mm大の嚢状動脈瘤及びその腹側に最大短径43mm大の紡錘状動脈瘤を認めています。

症例 80歳代 男性

大動脈瘤の破裂および後腹膜への広汎な血腫を認めており、動脈壁が完全に断裂している状態であるfrank ruptureの状態です。

大動脈瘤の手術適応は?

  • 大動脈基部及び上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤では無症状の非解離性動脈瘤、感染瘤、仮性瘤において最大径55mm以上
  • 胸部下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤では最大径に60mm以上
  • 腹部大動脈瘤においては55mm以上

が手術適応となります。

ただし、この動脈径以下であっても半年で5mm以上の拡大速度がある場合、あるいは臨床症状を伴っている場合には、やはり外科的処置を行うことが推奨されます。

嚢状動脈瘤に対しては破裂のリスクが高いと考えられるために、紡錘状動脈瘤に比較して大動脈径が小さい段階で手術適応とされる場合が多くあります。

大動脈瘤では基本的に「最大短径」を用います。

CTやMRI検査、血管造影において、動脈瘤の短径のサイズが最も大きいところを測定します。フォローする場合は、前回と同じ断面に合わせて最大短径を比較することが重要です。

大動脈瘤の治療は?

動脈瘤の治療は、以下のように胸部と腹部で分けられます。

胸部大動脈瘤

  • 人工血管置換術(開胸手術による)
  • ステントグラフト内挿術(血管内治療による)

腹部大動脈瘤

腎動脈下腹部大動脈瘤の場合
  • 人工血管置換術(開腹or後腹膜経路下による)
  • ステントグラフト挿入術(血管内治療による)

※ステントグラフト挿入術はendovascular aneurysm repairの頭文字をとって、EVARと略して呼ばれる。

腎動脈上腹部大動脈瘤・傍腎動脈腹部大動脈瘤の場合
  • 腎動脈などの大動脈からの分枝血管の再建を含めた人工血管置換術
  • 窓付きステントグラフト
  • chimney法を用いたEVAR

 

古い大動脈解離が動脈瘤になることもあります。

参考文献)これだけは知っておきたい心臓・血管疾患の画像診断 P214-237

最後に

今回は大動脈瘤についてまとめました。

尿管結石だと思っていたら、大動脈瘤の切迫破裂だったというケースもあります。

大動脈瘤は通常無症状ですので、まずは人間ドックなどのスクリーニングで存在の有無を把握しておく必要があります。

その上で、最大短径を用いたサイズのフォローが重要とされます。

また古い大動脈解離が動脈瘤になることもありその点も注意が必要です。

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