腹部・骨盤のCTでは、検査の目的が別のところにあっても、画像の下の方に膀胱・前立腺・精嚢が写ります。これらの臓器では、基本的にどのようなことに着目して読影すればよいのでしょうか?
- 膀胱の大きさと形(尿閉・憩室・肉柱形成)
- 膀胱壁の肥厚(全体か、一部か)
- 膀胱の中の腫瘤・欠損像
- 膀胱の中や壁のガス・結石・液体の漏れ
- 前立腺(腫大・石灰化・膿瘍・がんを疑う濃染)
- 精嚢(左右差・嚢胞・壁肥厚)
- 周囲(リンパ節・脂肪織・瘻孔・術後の変化)
の有無について、まずは順番に見てみましょう。
以下、それぞれの所見で考える主な原因・鑑別と、次に何を見るか・どの検査へ進むかを解説します。膀胱の位置関係と壁の構造は膀胱の解剖まとめに、前立腺の区域は前立腺のMRI解剖と画像の読み方にまとめています。
先に結論:腹部・骨盤CTで膀胱・前立腺・精嚢を見るときの7つのチェックポイント
- 膀胱の大きさ:大きく張っていれば尿閉を考え、上流の水腎症と前立腺の大きさを確認する。小さく縮んでいるときは壁の厚さを評価しにくい
- 壁の厚さ:全体が均一に厚いか(前立腺肥大・神経因性膀胱・膀胱炎)、一部だけ厚いか(膀胱癌・憩室炎の波及)
- 中の腫瘤:壁から盛り上がって造影される腫瘤は膀胱癌を考える。血のかたまりは造影されない
- ガス・結石・漏れ:壁の中のガスは気腫性膀胱炎。外傷では膀胱の外への尿(造影剤)の漏れを探す
- 前立腺:大きさ、膀胱への突出、中の低吸収(膿瘍)、辺縁の限局した濃染(がんの可能性)
- 精嚢:左右差・嚢胞・壁の厚さ。嚢胞があれば同じ側の腎臓の有無を見る
- 周囲:骨盤リンパ節、膀胱周囲の脂肪織混濁、腸管との瘻孔(膀胱内のガス)
1. 膀胱の大きさ・形(尿閉・憩室・肉柱形成)
- 膀胱が大きく張っている:尿閉。前立腺肥大症、神経因性膀胱、薬の影響、尿道の狭窄などを考えます。両側の水腎症・水尿管症があれば、膀胱の出口の問題を疑います。詳しくは水腎症・尿閉のCT画像所見へ
- 壁の凸凹(肉柱形成):出口の閉塞が長く続くと、壁の筋肉が太くなり内腔が凸凹になります。膀胱の肉柱形成や神経因性膀胱の記事も参照してください
- 膀胱から袋状に飛び出す構造:膀胱憩室。憩室の中は尿が停滞しやすく、結石や腫瘍ができることがあるので、中に造影される部分がないかを見ます
次に見ること:膀胱の張りが強いときは前立腺の大きさと上流の尿路の拡張を確認します。膀胱が縮んでいるときは、壁が厚く見えても評価を保留し、必要なら尿をためた状態での再評価やエコーにつなげます。
2. 膀胱壁の肥厚
| 肥厚の形 | 考える病気と見るポイント |
|---|---|
| 全体が均一に厚い | 前立腺肥大症などの出口の閉塞、神経因性膀胱、膀胱炎、放射線治療後。まとめはびまん性膀胱壁肥厚の原因と鑑別へ |
| 一部だけ厚い・盛り上がる | 膀胱癌を第一に考える。壁の外の脂肪へのはみ出しや、尿管口の巻き込み(水腎症)も確認 |
| 腸管に接する部分だけ厚い | 大腸憩室炎・クローン病・大腸癌の波及。膀胱内のガスがあれば瘻孔を疑う(大腸憩室炎と結腸膀胱瘻) |
| 腫瘍のように厚いが炎症 | マラコプラキア、BCG治療後の変化など |
3. 膀胱の中の腫瘤・欠損像

引用:Radiopaedia(Bladder papillary urothelial carcinoma)
膀胱の右後壁から内腔へ盛り上がる、よく造影される腫瘤が見えます。詳しくは膀胱癌の画像診断|CT・MRI画像所見と深達度の記事へ。
- 膀胱癌:壁から盛り上がる、造影される腫瘤。広い基部で壁に付くか、外の脂肪へ広がるかを見ます。筋層浸潤の評価はMRI(VI-RADS)が担います
- 血のかたまり(凝血塊):単純CTでやや高吸収で、造影されず、体位で動くことがあります。血尿があれば腫瘍が隠れていないかを確認します
- 造影剤の流れによる見かけの欠損:排泄相では、尿管から出る造影剤の流れ(尿管ジェット)や、造影剤と尿が層になる様子が腫瘤のように見えることがあります(排泄相で膀胱内に見える造影剤と尿管ジェット)
- 前立腺の膀胱への突出:大きな前立腺(中葉)が膀胱の底から盛り上がり、腫瘍に見えることがあります。矢状断・冠状断で前立腺とつながっているかを確認します
血尿の検査とCT:顕微鏡的血尿で精査された24,366人(30研究)を集めた解析では、膀胱癌が見つかった割合は2.00%、上部尿路の尿路上皮癌は0.02%、腎細胞癌は0.18%で、危険因子の多い集団では膀胱癌が4.61%に上がりました(Waisbrod 2021)。CTで膀胱に所見がなくても、膀胱鏡の代わりにはならない点を知っておきます。
4. ガス・結石・膀胱からの漏れ
膀胱のガス
膀胱内のガスは、カテーテルや検査のあとなら珍しくありません。注意するのは壁の中のガスと、処置歴がないのに内腔にガスがある場合です。

膀胱の内腔のガスに加えて、膀胱の壁に沿って並ぶ小さなガス(矢印)が見えます。詳しくは気腫性膀胱炎の画像診断の記事へ。
- 気腫性膀胱炎:53例を集めた文献の検討では、糖尿病のある高齢女性が多く(62.2%)、典型的な膀胱炎の症状があったのは53.3%だけでした。血尿は82.3%にあり、CTが最も感度・特異度の高い検査とされています(Grupper 2007)
- 20例のCTの検討では、ガスの形は塊状・線状の集まり(40%)、壁に沿って1列に並ぶ数珠状(30%)、壁を全周にわたって何層にも裂くガス(30%)の3つに分かれました。糖尿病のほか、神経因性膀胱、長期の尿道カテーテル、免疫抑制が危険因子として挙げられています(Arshad 2026)
- 膀胱腸瘻:処置歴のない内腔のガスで、腸管との間の壁肥厚や脂肪織の混濁があれば、憩室炎・大腸癌・クローン病による瘻孔を疑います
次に見ること:ガスが膀胱にとどまるか、尿管・腎臓(気腫性腎盂腎炎)まで広がっていないかを確認します。
膀胱結石

膀胱の後ろの方(背側)に、2つの高吸収の結石が見えます(矢印)。詳しくは膀胱結石の原因とCT画像診断のポイントの記事へ。
膀胱結石は、尿の流れが悪い状態(前立腺肥大症・神経因性膀胱・憩室)で生じやすいので、原因となる出口の問題もあわせて確認します。膀胱の外側にある丸い石灰化は静脈石のことが多く、膀胱の中か外かを見分けます。
外傷での膀胱損傷
骨盤骨折などの外傷で血尿がある場合は、膀胱を造影剤で満たしてCTを撮るCT膀胱造影が使われます。鈍的外傷で血尿のある55人の前向きの検討では、CT膀胱造影で損傷が見つかった5人はいずれも手術で確認され、残りの50人では通常の膀胱造影でも損傷はありませんでした(Peng 1999)。急性期にはCT膀胱造影が最初の画像検査として選ばれるようになっています(Fouladi 2020)。
- 腹膜内破裂:造影剤が腸管の間や結腸傍溝など腹腔内に広がる
- 腹膜外破裂:造影剤が膀胱のまわりの腹膜外の脂肪(膀胱前腔など)にとどまる
- 尿道の損傷を疑うときは逆行性尿道造影(RUG)で確認します
通常の造影CTで膀胱が十分に張っていないと、小さな損傷が見えないことがある点に注意します。
5. 前立腺
前立腺の腫大

恥骨の後ろで前立腺が左右に大きく広がり、中心部には尿道カテーテルが低吸収に見えます。詳しくは前立腺腫大・前立腺肥大症のCT・MRI画像所見の記事へ。
前立腺肥大症は主に移行域が大きくなる病気で、CTでは前立腺全体の大きさ、膀胱の底への突出、膀胱の張り・肉柱形成・水腎症の有無を見ます。CTでは前立腺の内部構造がほとんど区別できないため、がんとの区別はMRIやPSAの検査に委ねます。
前立腺の中の低吸収(膿瘍・嚢胞)

引用:Radiopaedia(Prostatic abscess – large)
腫れた前立腺の中に、縁が造影される低吸収の領域が見えます。詳しくは急性前立腺炎・前立腺膿瘍のCT・MRI画像診断の記事へ。
- 前立腺膿瘍:発熱や会陰部痛があり、前立腺の中に縁の染まる低吸収域が見えれば疑います。糖尿病や免疫低下のある人で問題になりやすく、ドレナージの要否の判断に画像が使われます
- 前立腺の嚢胞:正中にあるものは前立腺小室嚢胞・ミュラー管嚢胞(前立腺嚢胞性疾患)、多房性で大きなものはまれな前立腺嚢胞腺腫を考えます
前立腺の石灰化
前立腺の中の小さな石灰化はCTでよく見られ、多くは心配のいらない所見です(前立腺の石灰化とは?)。前立腺のまわりの静脈叢の静脈石とも区別します。
前立腺癌を疑う濃染
造影CTで前立腺の辺縁域に限局した強い造影が見えたときは、前立腺癌のことがあります。生検で確かめられた前立腺癌100人と対照100人を比べた研究では、この所見の感度は0.83、特異度は0.92で、偶然見つかったときはPSAの測定や危険因子との照合を勧めています(Huang 2019)。一方、27人でMRI・生検と比べた研究では、生検に対するCTの感度は63.64%にとどまりました(Jia 2016)。CTで所見がないことはがんの否定にはならず、詳しい評価はMRI(前立腺癌のMRI画像診断)で行います。転移の評価では前立腺癌の所属リンパ節と骨盤の骨も確認します。
6. 精嚢
精嚢は膀胱の後ろ、前立腺の上にある左右一対の臓器で、CTでは蝶ネクタイのような形に見えます。
- 精嚢の嚢胞:先天的な精嚢嚢胞は同じ側の腎臓の欠損(無形成)や形成不全を伴うことが多いとされています(Kim 2009)。精嚢に嚢胞を見たら、腎臓が2つあるかを確認します
- 片側の精嚢がない:同じ側の腎臓の無形成と関連します(Kim 2009)
- 壁が厚い・左右差:炎症、放射線治療後の変化、アミロイドーシスは精嚢の壁をびまん性に厚くし、前立腺癌の浸潤と紛らわしいことがあります(Kim 2009)
- 腫瘍:精嚢から出る腫瘍はきわめてまれで、多くは前立腺・膀胱・直腸のがんが直接広がったものです(Kim 2009)。精嚢の正常な形が失われていないかを見ます
精嚢の評価はCTでは限られるため、疑わしいときはMRIへ進みます。
7. 周囲(リンパ節・脂肪織・術後の変化)
- 骨盤リンパ節:閉鎖・内腸骨・外腸骨リンパ節の腫大は、膀胱癌・前立腺癌の転移で問題になります。場所の名前は前立腺癌の所属リンパ節で確認できます
- 膀胱周囲の脂肪織混濁:膀胱炎・憩室炎・虫垂炎などの炎症の波及、膀胱癌の壁外への広がり
- 術後の変化:回腸導管・新膀胱などの尿路変向術や膀胱全摘術後の画像は、正常の形を知っておくと漏れや再発を見つけやすくなります
偶然見つかったときの扱い
- 膀胱の壁の一部が厚い・盛り上がる:膀胱が十分に張っていたか、尿管ジェットなどの見かけの所見ではないかを確認したうえで、膀胱癌の可能性があれば泌尿器科での膀胱鏡の検討につなげます
- 前立腺の辺縁の限局した濃染:PSAの測定や危険因子との照合を勧める根拠があります(Huang 2019)。報告書には場所と大きさを書きます
- 前立腺の石灰化・小さな正中の嚢胞:多くは経過観察で足ります
- 精嚢の嚢胞:腎臓の有無を確認して記載します
尿が出にくい、血尿が出る、排尿時の痛みや発熱が続くなどの気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
膀胱・前立腺・精嚢で見落としやすい場所と、確認のしかた
| 場所 | 見落としやすい理由 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 膀胱の前壁・ドーム | 腸管や腹壁に接し、横断像では接線方向になって小さな腫瘤や憩室が見えにくい | 矢状断で膀胱の上面と前面を確認する |
| 膀胱の底(三角部)と前立腺の境 | 前立腺の突出と腫瘍、尿管口の病変が重なる | 冠状断・矢状断で前立腺とのつながりを見て、尿管の下端まで追う |
| 縮んだ膀胱の壁 | 尿が少ないと全体が厚く見え、本当の壁肥厚や腫瘤が隠れる | 過去の画像や尿のたまった別の検査と比べる |
| 憩室の中 | 開口部が小さく、中の結石や腫瘍に気づきにくい | 憩室を見つけたら中に造影される部分がないか確認する |
| 画像の下端(前立腺の先端・尿道) | 撮影範囲の端になり、前立腺の尖部や会陰の病変が切れていることがある | 撮影範囲が十分か確認し、必要なら追加の検査を考える |
膀胱・前立腺の読影でよくある疑問(Q&A)
Q. CTで膀胱の壁が厚いと言われました。がんでしょうか?
A. 膀胱が縮んでいると壁は厚く見えます。全体が均一に厚いときは前立腺肥大症などによる出口の閉塞や膀胱炎が多く、一部だけが厚い・盛り上がるときは膀胱癌を考えて膀胱鏡などで確認します。
Q. CTで前立腺癌は分かりますか?
A. 辺縁の限局した強い造影ががんを示すことはありますが(Huang 2019)、見えないがんも多く(Jia 2016)、CTでの評価には限界があります。PSAの値やMRIで詳しく調べます。
Q. 膀胱にガスがあるのは異常ですか?
A. カテーテルや膀胱の検査のあとなら、よくある所見です。処置歴がないのにガスがある場合や、壁の中にガスがある場合は、気腫性膀胱炎や腸管との瘻孔を考えます(Grupper 2007)。
まとめ
膀胱・前立腺・精嚢のCTでは、
- 膀胱の張り具合と形(尿閉・憩室・肉柱形成)
- 壁肥厚が全体か一部か
- 造影される腫瘤の有無
- ガス・結石・造影剤の漏れ
- 前立腺の大きさ・低吸収・辺縁の濃染
- 精嚢の左右差と腎臓の有無
を順番に確認し、矢状断・冠状断を併用すると見落としを減らせます。
あわせて読みたい:腹部CTの読み方
参考文献
- Waisbrod S, Natsos A, Wettstein MS, et al. Assessment of Diagnostic Yield of Cystoscopy and Computed Tomographic Urography for Urinary Tract Cancers in Patients Evaluated for Microhematuria: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2021;4(5):e218409. PubMed
- Grupper M, Kravtsov A, Potasman I. Emphysematous cystitis: illustrative case report and review of the literature. Medicine (Baltimore). 2007;86(1):47-53. PubMed
- Arshad H, Kawamoto S, Fishman EK. Emphysematous cystitis: imaging patterns and diagnostic approach on CT. Emerg Radiol. 2026. PubMed
- Peng MY, Parisky YR, Cornwell EE 3rd, et al. CT cystography versus conventional cystography in evaluation of bladder injury. AJR Am J Roentgenol. 1999;173(5):1269-72. PubMed
- Fouladi DF, Shayesteh S, Fishman EK, et al. Imaging of urinary bladder injury: the role of CT cystography. Emerg Radiol. 2020;27(1):87-95. PubMed
- Huang G, Lebovic G, Vlachou PA. Diagnostic Value of CT in Detecting Peripheral Zone Prostate Cancer. AJR Am J Roentgenol. 2019;213(4):831-835. PubMed
- Jia JB, Houshyar R, Verma S, et al. Prostate cancer on computed tomography: A direct comparison with multi-parametric magnetic resonance imaging and tissue pathology. Eur J Radiol. 2016;85(1):261-267. PubMed
- Kim B, Kawashima A, Ryu JA, et al. Imaging of the seminal vesicle and vas deferens. Radiographics. 2009;29(4):1105-21. PubMed
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