腹部CTの読み方 見る順番と見落としチェックリスト

腹部CTは枚数が多くて、どこから見ればいいのかわかりません。結局いつも、気になった所だけ見てしまいます。
それが見落としの原因になりやすいところです。臓器ごとに決まった順で全部を見る「系統的読影」が基本になります。実質臓器、管腔、血管、腹膜・後腹膜、骨と肺底部の順に、見る点と見落としやすい所を表にします。

先に結論:決まった順で「全部」見る。見つけた後も順番を最後まで続ける

項目 ポイント
見る順番 実質臓器 → 管腔(消化管) → 血管 → 腹膜・後腹膜・腹壁 → 骨と肺底部
消化管の追い方 「管を端から追う」。拡張と虚脱の境目、壁の厚さと造影を確認する
急性腹症で確認する4点 ガス・液体・脂肪織の濃度・血管
ウィンドウ 標準だけで読まず、広いウィンドウ・肺野条件・骨条件に切り替える
見落としやすい所 虫垂、閉塞の移行部、小さなfree air、骨盤、肺底部、骨

なぜ「見る順番」が必要なのか

腹部CTは数百枚の断面で構成され、読む側の注意力にも限りがあります。腹部CTの読影の誤りを調べた研究では、694人の検査を複数の放射線科医が見直したところ、報告の誤りは53人で計56件(7.6%)あり、そのうち19件が臨床的に重要でした(Bechtold 1997)。誤り率を左右した最大の要因は読む医師の技量でした(Bechtold 1997)。

救急外来の体のCTで、放射線科研修医の暫定読影と指導医の最終読影を比べた研究では、203件中20件(10%)で診断や治療を変える大きな違いがあり、虫垂炎、腸閉塞、大腸癌の見落としが含まれていました(Tieng 2007)。

では、熟練した医師はどう読んでいるのでしょうか。腹部画像の専門医22人に、正常な腹部CTを読む手順を言葉にしてもらった研究では、全員が臓器ごとに順番に見る方法を取っていました。肝臓のような大きな臓器は断面を連続して追い、腎臓などの小さな臓器は往復して確認する、という使い分けです。手順のばらつきが最も大きかったのは、体壁と腸管・腸間膜でした(Kliewer 2021)。研修医が習得するべき「型」として、この記事では次の順番を使います。

読み始める前の準備

  • 撮影条件を確認する:単純か造影か、造影ならどの時相か(動脈相・門脈相・平衡相など)で、見えるものが変わります。
  • 横断像だけで済ませない:冠状断・矢状断を併用すると、消化管や血管のつながりが追いやすくなります(腹部CTの冠状断・矢状断の解剖)。43人の研修医に行った探索課題の実験では、冠状断の再構成は軸位断より約40%短い時間で見られ、正確さに有意差はありませんでした(McMenamin 2015)。
  • 臨床情報と過去画像を見る:症状、手術歴、前回のCTを先に確認します。
  • 正常の解剖を頭に入れておく:解剖は腹部CTの解剖で確認できます。

造影の時相を確認する

時相 主に見やすいもの
単純 石灰化、結石、出血による高濃度、脂肪の含有
動脈相 動脈、腎の皮質、早期に染まる腫瘤
門脈相 門脈・静脈、肝・脾・膵の実質、腸管壁の造影
平衡相(遅い時相) 造影剤の抜けや残り、腎の排泄、一部の腫瘍の後期の染まり

ウィンドウの切り替え

CTの白黒の見え方は、ウィンドウ(表示するCT値の範囲)で変わります。標準の軟部組織条件だけでは、重要な所見が埋もれることがあります。

条件 見やすくなるもの
標準(軟部組織) 臓器の形、腫瘤、造影の有無、腹水
広いウィンドウ(脂肪条件) free airと腸管ガスの区別、腸管壁内のガス、脂肪織の濃度上昇(腹部CTの脂肪ウインドウとは?)
狭いウィンドウ(肝条件など) 肝・膵のわずかな濃度差、低コントラストの病変(腹部CTの肝臓の読影ポイント)
肺野条件 肺底部の結節・浸潤影・胸水、気胸、free airの確認
骨条件 骨の溶骨・硬化・骨折

見る順番の全体像

順番 見る所 主な確認点
①実質臓器 肝・胆嚢・胆管・膵・脾・副腎・腎 大きさ、形、濃度、造影効果、結石、内部の腫瘤
②管腔(消化管) 食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・虫垂 拡張、壁の厚さ、造影、内容物、移行部
③血管 大動脈・下大静脈・門脈・腸間膜の血管・腎の血管 径、閉塞、解離、血栓、石灰化
④腹膜・後腹膜・腹壁 腹水、遊離ガス、腸間膜、リンパ節、腹壁・鼠径部 脂肪織の濃度、結節、ヘルニア、血腫
⑤骨・肺底部・骨盤臓器 椎体・肋骨・骨盤・股関節、肺の下部、骨盤内臓器 溶骨・硬化・骨折、結節・浸潤影・胸水

①実質臓器:同じ順番で左右・前後を比べる

肝臓は上から下まで連続して追い、腎・脾・副腎は左右を比べます。ここで大切なのは、「濃度」と「造影の様子」を分けて見ることです。単純CTで低濃度なのか、造影で染まらないのか、あとから染まるのかで、嚢胞・血管腫・腫瘍の見分けが変わります。胆嚢と胆管は、結石、壁の肥厚、胆管拡張を見ます。膵臓は大きさの左右差、膵管の拡張、周囲の脂肪織の濃度上昇を確認します。

臓器 特に見る点
肝臓 大きさ・辺縁、低吸収域、胆管拡張、門脈の血栓
胆嚢・胆管 結石、壁の肥厚、周囲の液体、胆管の拡張と途絶
膵臓 膵管拡張、萎縮、周囲脂肪織の濁り、腫瘤
脾臓・副腎 脾の大きさ・外傷後の裂け目、副腎の結節
腎臓・尿管 水腎症、結石、造影の左右差、腫瘤

②管腔:管を端から追う

消化管は、胃から直腸まで一本の管として追い、ひとつの場所だけで判断しないのがコツです。確認する点は次の通りです。

  • 拡張している部分と、つぶれている部分の境目(移行部)があるか
  • 壁が厚くなっていないか、造影が弱くなっていないか
  • 腸管の周りの脂肪織が白く濁っていないか(炎症のサイン)
  • 虫垂は盲腸から出る位置を探し、先端まで追えたか

救急外来のCTでは、虫垂炎・腸閉塞・大腸癌の見落としが、研修医の暫定読影と最終読影の大きな違いに含まれていました(Tieng 2007)。

③血管:太さと中身を見る

大動脈は径と壁の石灰化、解離の有無を、門脈や腸間膜の血管は血栓による「造影の抜け」を確認します。時相が合っていないと血管の評価が難しいので、ここでも撮影条件が効いてきます。

④腹膜・後腹膜・腹壁:脂肪織の濃度が語る

最初は正常な脂肪の黒さを覚えておき、そこから外れた「白っぽく濁った脂肪」に注意します。腹水の量と性状、free airの有無、腸間膜の結節、リンパ節の腫大、鼠径部のヘルニアを順に見ます。

急性腹症で確認する4点

確認する点 具体例
ガス 腹腔内の遊離ガス、腸管壁内のガス、門脈内のガス
液体 腹水(量・分布)、腸管内の液体、血液を疑う高濃度の液体
脂肪織の濃度 虫垂周囲・憩室周囲・膵周囲・腸間膜の濁り
血管 血栓・閉塞、動脈瘤、造影不良の腸管

遊離ガスの検出ではCTがX線より高感度とされ、スカウト像(位置決めの画像)にも手がかりがあります(Pinto 2016)。

症例 40歳代女性 消化性潰瘍穿孔

消化性潰瘍穿孔 造影CT 門脈相 腹腔内遊離ガス
引用:Radiopaedia(Perforated peptic ulcer)

造影CT(門脈相)の肝臓の高さの断面。肝臓の前方、腹壁の直下という最も高い位置(非依存部)に、遊離ガスが黒く見える。背側には肺底部が写っている。症例ページでは、幽門と十二指腸球部の移行部に2つの潰瘍があり、ガスと壁のむくみ、周囲の脂肪織の濃度上昇を伴う穿孔と記載されている。

⑤骨・肺底部・骨盤臓器:最後に見直す

骨と肺底部は、画像の端にあるために見過ごされやすい場所です。腹部・骨盤のCTでは、偶然の骨病変がよく見つかります。進行のゆっくりした病変か、悪性を疑う病変かは、骨のX線と同じ形態評価の原則で判断し、年齢や骨の痛みの有無も手がかりになります(Nguyen 2017)。

肺底部も大切です。腹痛で救急外来を受診し、呼吸器症状がなかった患者さんで、腹部CTの肺底部の所見が新型コロナウイルス感染症の最初の手がかりになった報告があります(Siegel 2020)。胸部と腹部のCTを別々の医師が読む場合も、胸部画像にだけ膵癌が写っていた例や、腹部画像で肺塞栓が最もよく見えた例が報告されており、境界部の見落としに注意が必要です(Kelm 2025)。

読み終えたあとの確認

最後に、依頼の目的(何を知りたい検査だったか)に答えられているかを確認します。主病変が見つかっても、付随する所見(合併症、腹水、リンパ節、血管の異常)がそろっているか、前回と比べて変化がないかを、もう一度ざっと見直します。順番が頭に入ると、一度に見る範囲が広がり、確認の時間も短くなります。

救急で見落としやすい所のまとめ

見落としやすい所 確認のコツ
虫垂 盲腸から出る位置を探し、先端まで追う。周囲の脂肪織の濁りを手がかりにする
閉塞の移行部 拡張した腸を逆にたどって、つぶれた腸との境目を探す
小さなfree air 広いウィンドウで、腹壁直下・肝の前面・横隔膜下を確認する
大腸の腫瘍 壁の局所的な肥厚と、周囲の脂肪織の濁りを手がかりにする
骨盤 卵巣・子宮・膀胱・精巣周囲、骨盤の骨
肺底部・骨 肺野条件・骨条件に切り替えて、最後に確認する

1つ異常を見つけると、他の所見への注意が下がる現象を「satisfaction of search」といいます。放射線科で50年以上研究されてきた現象で、最初の異常が見つかったあとの2つ目以降の検出率が下がることを指します(Adamo 2021)。見落としが起こる仕組みと対策は読影の見落としはなぜ起こる?にまとめています。見つけた後も、順番を最後まで続けましょう。

よくある疑問(Q&A)

Q. 最初に何から見ればよいですか?
A. 専門医の手順は施設や人で異なりますが、全員が臓器ごとの系統的な見方を取っていました(Kliewer 2021)。この記事の順番(実質臓器から始めて、管腔、血管、腹膜・後腹膜、骨と肺底部)を型として使い、自分の型を作るのがおすすめです。

Q. 冠状断だけで読んでもよいですか?
A. 冠状断は読む時間を短縮できたという実験があります(McMenamin 2015)。一方、小さな病変や管腔の内部は横断像でも確認するのが一般的な使い方です。

Q. 肺底部まで見る必要はありますか?
A. 見る必要があります。腹部CTの肺底部の所見が、腹痛で受診した患者さんの診断の手がかりになった報告があります(Siegel 2020)。

Q. 研修医の読影は、どのくらい直されますか?
A. 救急外来のCTで、放射線科研修医の暫定読影と最終読影の間に大きな違いがあったのは10%、小さな違いは20%でした(Tieng 2007)。研修医の読影結果は、最終的な読影で確認してもらうことが大切です。

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参考文献

  1. Kliewer MA, Hartung M, Green CS. The Search Patterns of Abdominal Imaging Subspecialists for Abdominal Computed Tomography: Toward a Foundational Pattern for New Radiology Residents. J Clin Imaging Sci. 2021;11:1. PubMed
  2. Bechtold RE, Chen MY, Ott DJ, et al. Interpretation of abdominal CT: analysis of errors and their causes. J Comput Assist Tomogr. 1997;21(5):681-5. PubMed
  3. Tieng N, Grinberg D, Li SF. Discrepancies in interpretation of ED body computed tomographic scans by radiology residents. Am J Emerg Med. 2007;25(1):45-8. PubMed
  4. McMenamin D, Pearce A, Klassen M. Visual search in abdominopelvic CT interpretation: accuracy and time efficiency between coronal MPR and axial images. Acad Radiol. 2015;22(2):164-8. PubMed
  5. Pinto A, Miele V, Schillirò ML, et al. Spectrum of Signs of Pneumoperitoneum. Semin Ultrasound CT MR. 2016;37(1):3-9. PubMed
  6. Nguyen M, Beaulieu C, Weinstein S, et al. The incidental bone lesion on computed tomography: management tips for abdominal radiologists. Abdom Radiol (NY). 2017;42(5):1586-1605. PubMed
  7. Siegel A, Chang PJ, Jarou ZJ, et al. Lung Base Findings of Coronavirus Disease (COVID-19) on Abdominal CT in Patients With Predominant Gastrointestinal Symptoms. AJR Am J Roentgenol. 2020;215(3):607-609. PubMed
  8. Kelm ZS, Ron ED, Olson MC, et al. Concurrent Chest and Abdominal CT: Managing Pitfalls of Splitting Interpretation by Subspecialty. Radiographics. 2025;45(3):e240069. PubMed

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