先に結論:腸恥滑液包炎(腸腰筋滑液包炎)
- 腸恥滑液包(ちょうちかつえきほう)は、股関節の前、腸腰筋の裏にある体で最も大きい滑液包で、一部の人では股関節とつながっています。腸腰筋滑液包とも呼ばれ、ここに炎症や液体貯留が起きた状態が腸恥滑液包炎(ちょうちかつえきほうえん)です
- 変形性股関節症(最多)・関節リウマチ・感染・PVNS・滑膜骨軟骨腫症などで股関節に水がたまると、この袋がふくらみ、足の付け根の腫れ・痛みや、大きいと大腿静脈・神経の圧迫(足のむくみ・しびれ)の原因になります
- CT・MRIでは腸腰筋に沿った、股関節につながる袋状の液体として見え、リンパ節腫大・膿瘍・腫瘍と間違えないことが大切です
※足の付け根の腫れや痛み、片足のむくみがあるときは、整形外科を受診してください。
腸恥滑液包炎/腸腰筋滑液包(iliopsoas bursitis)
- 滑液包炎とは? 骨盤周囲には多くの滑液包が潜在するが、機械的刺激や感染により炎症が生じた状態が滑液包炎。主なものとして、腸恥滑液包炎、転子滑液包炎、坐骨滑液包炎等がある。
- iliopsoas bursa(腸恥滑液包)は、股関節の腹側に潜在的に位置する滑液包。
- その前方は腸腰筋、後方は腸恥隆起、内側は臼蓋関節唇、頭側は鼠径靭帯、尾側は恥骨大靭帯で境されている。
- この滑液包は一部の人で股関節と交通している。滑液包の液体貯留が指摘された股関節造影CT178件では、25件で股関節から滑液包への造影剤の流入(交通)が確認されています(Ribet 2025)。一方、手術で確認された腸恥滑液包炎18例の検討では、MRIで全例に股関節との交通が描出されています(Wunderbaldinger 2002)。
- 股関節の内圧が高まるような病態において、腸恥滑液包には関節液が多量に貯留し、膨隆する。時には骨盤内にまで入り込んだ腫瘤を形成することもある。
- 逆に、骨盤内に発生した嚢胞性疾患(例えば膿瘍やリンパ嚢胞)が、まれに股関節腹側にまで進展し、この滑液包に酷似することがあり、注意を要する。
- 腸恥滑液包の膨隆を惹起する最も多い原因疾患は変形性関節症であり、他に、関節リウマチ、結核性・化膿性股関節炎、色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS、現在のWHO分類ではびまん型腱滑膜巨細胞腫)、滑膜骨軟骨腫症などがある。
- 時に充実性病変に酷似する所見を呈し、鼠径部のリンパ節腫大などと紛らわしいことがあるので注意する必要がある。末期変形性股関節症で人工股関節置換術を受けた544例の術前CTでは、37例に腸恥滑液包炎が見られた(Dan 2022)。このうち下肢の高度な腫れなど症状を伴った2例は、いずれも腸腰筋腱と大腿神経血管束を取り囲む「ハート型」であり、この形は大腿静脈・神経の圧迫に注意すべきサインとされる。
腸恥滑液包炎の症状
文献54例のまとめでは、最も多い症状は股関節の痛み(74%)で、次いで下肢のむくみ(16.7%)でした。感染を伴う場合は発熱を伴うことがあり、診断が遅れると重症化しうるため注意が必要です(Saha 2025)。
CT・MRIでの見え方
- 典型像は壁が薄く境界明瞭な嚢胞状の病変で、股関節との交通と辺縁の造影効果を伴います(Wunderbaldinger 2002)。
- 壁は83%で薄く、17%で厚くなっていました。股関節との交通はMRIで全例描出された一方、超音波では44%、CTでは40%で描出できず、大きさや広がり、股関節との交通の評価はMRIが最も正確とされます(Wunderbaldinger 2002)。
腸腰筋膿瘍などとの見分け方
| 病変 | 場所・形 | 見分けるポイント |
| 腸恥滑液包炎 | 股関節の前、腸腰筋腱のまわりの袋 | 股関節とのつながり、股関節の変形や関節液の貯留を伴うことが多い |
| 腸腰筋膿瘍 | 腸腰筋の中(腰椎のそばから鼠径部まで) | 筋肉そのものが腫れ、厚い壁が造影される |
| 鼠径部のリンパ節腫大 | 大腿の血管の前・内側 | 充実性で、股関節とはつながらない |
症例 70歳代男性

両側股関節周囲に滑液包への液体貯留多数あり。
症例 50歳代男性

右側股関節周囲に滑液包への液体貯留多数あり。
症例 70歳代女性 右腸骨窩の圧痛

引用:Radiopaedia(Iliopsoas bursitis)
右股関節(右大腿骨頭)の前方に、内部が水に近い低吸収の楕円形の嚢胞性病変が見られ、拡張した腸腰筋滑液包です。この症例では右股関節に変形性関節症の変化も伴っていました。
腸恥滑液包炎でよくある疑問(Q&A)
Q. 「腸恥滑液包炎」の読み方は?
A. 「ちょうちかつえきほうえん」と読みます。「腸恥骨滑液包炎」「腸腰筋滑液包炎」も同じものを指します。
Q. 治療はどうするのですか?
A. 原因となっている股関節の病気(変形性股関節症など)の治療が基本です。症状が強い場合は、穿刺して中の液を抜く・注射をする・手術で袋を取るなどが検討されます。感染が疑われるときは早めの治療が必要です。
参考文献
- Wunderbaldinger P, Bremer C, Schellenberger E, et al. Imaging features of iliopsoas bursitis. Eur Radiol. 2002;12(2):409-15. PubMed
- Ribet F, Chapuis C, Ropars M, et al. Iliopsoas bursa: a morphological study based on CT-arthrography. Surg Radiol Anat. 2025;48(1):7. PubMed
- Dan J, Okanoue Y, Kitaoka K, et al. Prevalence of iliopsoas bursitis in patients with end-stage hip osteoarthritis. Mod Rheumatol. 2022;32(5):1013-1015. PubMed
- Saha D, McAnena AP, Pandya A, et al. Septic and Aseptic Iliopsoas Bursitis – A Systematic Review of the Literature. Ortop Traumatol Rehabil. 2025;27(1):1-8. PubMed
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