腹部CTを読むとき、腹壁はつい「画像の外枠」として流してしまいがちです。しかし腸閉塞の原因がお腹の外側のヘルニアだった、ということは珍しくありません。腹壁では次のようなことに着目します。

  • 腹壁の層構造と左右差(皮下脂肪・筋肉・腹膜前脂肪)
  • 鼠径部のヘルニア(外鼠径・内鼠径・大腿ヘルニア)
  • 前腹壁・側腹壁のヘルニア(臍・白線・腹壁瘢痕・傍ストーマ・Spigelian・腰ヘルニア)
  • 骨盤のヘルニア(閉鎖孔ヘルニアなど)
  • 嵌頓・絞扼のサイン
  • 腹壁の腫瘤・液体・血腫(ヘルニアに似たもの)
  • 腹壁の血管(下腹壁動静脈・臍傍静脈)

の有無について、まずは順番に見てみましょう。

以下、それぞれの所見で考える主な原因・鑑別と、次に何を見るか・どの検査へ進むかを解説します。ヘルニアの種類の全体像は外ヘルニアの種類と内ヘルニアとの違いにまとめています。

先に結論:腹部CTで腹壁を見るときの7つのチェックポイント

  1. 層構造と左右差:皮下脂肪・筋肉(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)・腹膜前脂肪の層を左右で比べ、筋膜の欠損と、そこから外へ出る脂肪・腸管を探す
  2. 鼠径部:ヘルニア嚢が下腹壁動静脈の外側から出るか内側から出るか、鼠径靭帯の上か下(大腿静脈の内側)かで、外鼠径・内鼠径・大腿ヘルニアを分ける
  3. 前腹壁・側腹壁:臍・白線・手術創・ストーマ・トロカー孔・腹直筋の外縁・腰の三角の部分に欠損がないか
  4. 骨盤:恥骨筋と外閉鎖筋のあいだに腸管が入り込む閉鎖孔ヘルニアは、やせた高齢女性の腸閉塞で探す
  5. 嵌頓・絞扼:ヘルニアの口で腸の太さが変わっていないか。脱出した腸の壁の造影低下・壁肥厚・腸間膜の液体・ヘルニア嚢内の液体を確認する
  6. ヘルニアに似たもの:腹直筋鞘血腫・膿瘍・子宮内膜症・腫瘍・Nuck管水腫・偽ヘルニアなど、筋膜の欠損がないのにふくらんでいるもの
  7. 血管:腹壁の静脈の拡張(門脈圧亢進の側副血行路)、外傷や抗凝固療法中の腹壁内出血

1. 腹壁の層構造と、見る順番

腹壁は外側から、皮膚・皮下脂肪・筋肉と筋膜・腹膜前脂肪(横筋筋膜の内側)・腹膜の順に重なっています。前方は左右の腹直筋が白線をはさんで並び、側方は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3枚が重なります。各筋肉のCTでの見え方は腹壁の筋肉4つの解剖とCT画像、骨盤や大腿までの筋肉は骨盤・大腿部周辺の筋肉のCT画像解剖まとめで確認できます。

多列検出器CTは腹壁を細かく描き出せるので、ヘルニアの有無と中身、ヘルニアと腫瘍・血腫・膿瘍との区別、手術前後の合併症の評価に役立つとされています(Aguirre 2005)。読み方のコツは次のとおりです。

  • 上から下まで、左右を比べながら1枚ずつ見る:腹壁は左右対称なので、片側だけ脂肪が筋肉の外へ出ていれば気づきやすくなります
  • 矢状断・冠状断を併用する:横断像では欠損の大きさやヘルニアの口(頸部)の幅がわかりにくいことがあります
  • 腸閉塞があれば、腹壁を最初に見直す:拡張した腸をたどった先がヘルニアの中、ということがあるためです

2. 鼠径部のヘルニア(外鼠径・内鼠径・大腿)

外鼠径ヘルニアと下腹壁動静脈・鼠径管の位置関係
腹壁を内側から見た模式図です。外側臍ヒダ(下腹壁動静脈)の外側にある外側鼠径窩から鼠径管へ入るのが外鼠径ヘルニア(緑)、鼠径靭帯の下で外腸骨(大腿)動静脈の内側を通るのが大腿ヘルニアの通り道です。詳しくは鼠径ヘルニアの解剖の記事へ。

鼠径部のヘルニアは、下腹壁動静脈との位置関係と鼠径靭帯の上か下かで分けます。横断CTでは、内鼠径ヘルニアは下腹壁動静脈の前内側・下方へ、外鼠径ヘルニアは後外側・上方から出て、大腿ヘルニアは下腹壁動静脈より下で総大腿静脈の内側に出て、口が細い漏斗状のことが多く、大腿静脈を圧迫することがあります(Burkhardt 2011)。

  • 外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア:鼠径管に沿って前下方へ伸び、男性では精索に沿って陰嚢まで達することがあります。早期の内鼠径ヘルニアでは、ヘルニア嚢が鼠径管の脂肪を外側へ押して三日月形に引き伸ばすlateral crescent signが手がかりになるとされます(Burkhardt 2011)
  • 大腿ヘルニア:鼠径靭帯の下、大腿静脈のすぐ内側。女性に多く、小さくても腸がはまり込みやすい型です
  • 中身:脂肪(大網・腹膜前脂肪)だけか、小腸・大腸・膀胱・卵巣・虫垂などが入っているかを書き分けます

下腹壁動脈が見えにくいときは、恥骨結節を目印にする方法もあります。恥骨結節を通る線を基準にして42例を検討した研究では、下腹壁動脈は90%で描出でき、どの症例でもCTの診断が手術所見と一致しました(Delabrousse 2007)。

大腿ヘルニアを見つけたら、小さくても報告書で目立たせる価値があります。鼠径部ヘルニア476例の検討では、絞扼の累積確率は鼠径ヘルニアで3か月2.8%・2年4.5%だったのに対し、大腿ヘルニアでは3か月で22%・21か月で45%でした(Gallegos 1991)。

次に見ること:鼠径管の中の腫瘤がヘルニアでないこともあります。陰嚢水腫・精索の腫瘍などは鼠径管から陰嚢にかけて起こる病気、女性の鼠径部の嚢胞はヌック管水腫、精索の中を通る構造は精管・精索のCT画像解剖で確認できます。

3. 前腹壁・側腹壁のヘルニア

白線ヘルニア
引用:Radiopaedia(Epigastric hernia)
造影CT横断像で、左右の腹直筋のあいだ(白線)の欠損から腹膜前の脂肪が皮下へ出ている白線ヘルニアの例です。詳しくは白線ヘルニアと偽ヘルニア、腹直筋離開のCTの記事へ。

  • 臍ヘルニア・臍傍ヘルニア:臍の輪の欠損から脂肪や腸が出る。肥満・腹水・妊娠など腹圧が上がる状態で目立ちます
  • 白線ヘルニア(上腹部ヘルニア):臍より上の正中。腹直筋離開は白線が薄く広がっただけで筋膜の欠損はなく、ヘルニアとは区別します
  • 腹壁瘢痕ヘルニア・トロカー孔ヘルニア:手術創やポート孔の筋膜が開いたもの。欠損の幅と、ヘルニア嚢の中の腸の数を書きます
  • 傍ストーマヘルニア:人工肛門の脇から腸や脂肪が出る。大腸癌術後の評価では大腸癌術後のCT(傍ストーマヘルニア)も参照してください
  • Spigelianヘルニア:腹直筋の外縁(半月線)に沿った下腹部の欠損。外腹斜筋の腱膜の下にとどまることが多く、皮膚の上からは触れにくい型です
  • 腰ヘルニア:背側の上腰三角・下腰三角から出るもの

腰ヘルニア
単純CT横断像で、第12肋骨の下、側腹部の筋肉のすき間(上腰三角)から腹壁の外へふくらむ腰ヘルニアの例です(点線の円)。詳しくは腰ヘルニア(lumbar hernia)の記事へ。

腹壁のヘルニアは「欠損が大きいほうが安全」と考えられがちですが、腹壁ヘルニアの緊急手術88例と待機手術264例を比べた研究では、どの大きさのヘルニアでも腸の障害が起きており、ヘルニアの高さが高いことや、CTで測ったヘルニアの角度が小さいことが緊急手術と関連していました(Mueck 2017)。サイズだけで「心配ない」とは書かないほうが安全です。

4. 骨盤のヘルニア(閉鎖孔ヘルニアなど)

閉鎖孔ヘルニア
腹部単純CTで、拡張した小腸をたどると閉鎖孔の部分で腸の太さが急に変わり(caliber change)、恥骨の外側・閉鎖孔の外で腸管が嵌頓しています。冠状断でも同じ腸管が確認できます。詳しくは閉鎖孔ヘルニアの記事へ。

閉鎖孔ヘルニアは、やせた高齢女性の原因のはっきりしない腸閉塞で探すべきヘルニアです。外から見てもふくらみがわかりにくいため、CTで恥骨筋と外閉鎖筋のあいだを左右比べて見ます。閉鎖孔ヘルニア23例の検討では、壁肥厚や腹水といった虚血のサインは腸切除が必要だった症例のすべてにあり、腸が生きていた症例の69%ではどちらも見られませんでした(Huszty 2007)。

そのほか、坐骨孔ヘルニア・会陰ヘルニアなどもまれにあります。腹腔の中の「すき間」に腸が入り込む内ヘルニアや、Roux-en-Y術後の内ヘルニアは腹壁を通らない点で区別しますが、腸閉塞の原因として同時に考えます。

5. 嵌頓・絞扼のサイン

ヘルニアの中身が戻らなくなった状態が嵌頓、血の流れが悪くなった状態が絞扼です。CTでは次の順に確認します。

  • 腸閉塞の有無:ヘルニアの口の手前で腸が拡張し、口の先で細くなっていないか(caliber change)
  • 脱出した腸の壁:造影が弱い・壁が厚い・単純CTで壁が白い(出血)
  • 周りの液体と脂肪織:ヘルニア嚢の中の液体、腸間膜の液体・脂肪織の濃度上昇
  • 口の形:口が細く、脱出した腸が多いほど戻りにくい

腸閉塞で絞扼を予測するCT所見のメタ解析(9研究・768例)では、腸管壁の造影低下が最も特異度が高く(95%)、腸間膜の液体が最も感度が高い(89%)所見でした。壁肥厚は感度48%・特異度83%にとどまりました(Millet 2015)。つまり「腸壁の造影低下があれば絞扼を強く疑い、腸間膜に液体がなければ絞扼の可能性は下がる」と考えます。腸閉塞全体の見方は腹部CTの読み方の流れに沿って確認してください。

次に見ること:嵌頓・絞扼が疑われるときは、造影CTで腸の壁の染まり方を評価し、外科へ速やかに伝えます。単純CTしかない場合も、液体と壁肥厚の有無は報告できます。

6. ヘルニアに似たもの(腹壁の腫瘤・液体・血腫)

筋膜の欠損がないのに腹壁がふくらんでいるときは、ヘルニア以外の病変を考えます。

所見 主な原因・鑑別 手がかり
筋肉の中の高吸収の腫れ 腹直筋鞘血腫・外傷・抗凝固療法中の出血 単純CTで白い。造影で造影剤が漏れ出していれば活動性出血を考える
縁が造影される液体 腹壁膿瘍・術後の感染 周りの脂肪織の濃度上昇、ガスを含むことがある
手術創の近くの結節 腹壁の子宮内膜症、腫瘍の播種・転移、デスモイド 帝王切開の創に沿った結節なら子宮内膜症を考える
脂肪と同じ濃さの腫瘤 脂肪腫 筋膜の欠損がなく、腹腔内と連続しない
欠損のない筋肉のゆるみ 偽ヘルニア(帯状疱疹後の神経麻痺など)・腹直筋離開 筋肉が薄く伸びているが、穴はあいていない

臍や鼠径部の子宮内膜症は異所性子宮内膜症、筋肉の中の脂肪腫のCTは外腹斜筋の解剖とCT画像に例があります。偽ヘルニアは白線ヘルニアと偽ヘルニアのCTで解説しています。

7. 腹壁の血管

  • 下腹壁動静脈:鼠径ヘルニアの分類の目印であり、腹直筋鞘血腫の出血源にもなります
  • 臍のまわりの静脈の拡張:肝硬変などで門脈圧が上がると、臍傍静脈が開いて腹壁の静脈が太くなります。門脈圧亢進の側副血行路を参照し、肝臓・脾臓・腹水もあわせて確認します

ヘルニアが偶然見つかったときの扱い

症状のない小さなヘルニアは、腹部CTでよく偶然見つかります。読影では次の点を書いておくと、外科医が手術の要否を判断しやすくなります。

  • 種類と左右(外鼠径・内鼠径・大腿・臍など)
  • 中身(脂肪だけか、腸管・膀胱などを含むか)
  • 欠損の大きさと口の形、腸閉塞や嵌頓のサインがないこと

脂肪だけの小さな鼠径ヘルニアは経過をみることも多い一方、上で触れたとおり大腿ヘルニアは絞扼しやすい型なので、見つけたら外科に相談するよう明記します(Gallegos 1991)。気になるふくらみや痛みがある方は、医療機関で相談してください。

腹壁で見落としやすい場所と、確認のしかた

場所 見落としやすい理由 確認のしかた
大腿静脈の内側 大腿ヘルニアは小さく、リンパ節や血管と紛れる 鼠径靭帯の下で左右の大腿静脈の内側を比べ、腸管とつながるかを上下にたどる
恥骨筋と外閉鎖筋のあいだ 閉鎖孔ヘルニアは撮影範囲の下端にかかり、体の外からふくらまない 腸閉塞のときは撮影範囲の下端まで見る。左右を比べる
撮影範囲の端 陰嚢まで下がったヘルニアや、側腹部・背中の皮下が範囲外や画面の端にかかる 表示範囲(FOV)を広げた画像や冠状断で外縁まで見る
手術創・ストーマ・トロカー孔 術後の変化として見過ごしやすい 過去の手術歴を確認し、創の下の筋膜の連続性を矢状断で見る
腹直筋の外縁(半月線) Spigelianヘルニアは腱膜の下にとどまり、皮下にふくらまない 腹直筋の外側で、筋肉の層のあいだに入り込んだ脂肪や腸管を探す
  • 体位と腹圧:CTは仰向けで息を止めて撮るため、立つと出るヘルニアが写らないことがあります。症状と画像が合わないときは、超音波で立位やいきんだ状態を見る方法があります。
  • 胸と腹の境:腹壁ではありませんが、横隔膜の孔から腹部の臓器が胸へ出る成人の横隔膜ヘルニアも、腹部CTの上端で一緒に確認します。

腹壁の読影でよくある疑問(Q&A)

Q. CTで「脂肪の鼠径ヘルニアがある」と書かれていました。すぐ手術が必要ですか?
A. 中身が脂肪だけで、腸閉塞や嵌頓のサインがなければ、急いで手術が必要な所見ではないことが多いです。ただし大腿ヘルニアは絞扼しやすいため、種類によって考え方が変わります。ふくらみが戻らない・痛む・吐き気があるといった症状が出たときは、早めに医療機関を受診してください。

Q. 外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアは、CTでどう見分けますか?
A. 下腹壁動静脈を見つけ、ヘルニアがその外側(後外側)から出ていれば外鼠径、内側(前内側)から出ていれば内鼠径と考えます。血管が見えにくいときは恥骨結節を目印にする方法もあります。

Q. 腸閉塞のCTで、ヘルニアが原因かどうかはどこを見ればよいですか?
A. 拡張した腸を下流へたどり、細くなる場所が腹壁の外(鼠径部・閉鎖孔・臍・手術創)にないかを確認します。ヘルニアの中の腸の壁の造影低下や、腸間膜の液体があれば絞扼を疑います。

まとめ

腹壁のCTでは、

  • 層構造を左右で比べ、筋膜の欠損と外へ出る脂肪・腸管を探す
  • 鼠径部は下腹壁動静脈・鼠径靭帯・大腿静脈との位置関係で種類を分ける
  • 臍・白線・手術創・ストーマ・半月線・腰・閉鎖孔まで確認する
  • 嵌頓・絞扼は腸壁の造影低下と腸間膜の液体に注目する
  • 欠損がないふくらみは血腫・膿瘍・子宮内膜症・腫瘍・偽ヘルニアを考える

の順に見ると、見落としを減らせます。腸閉塞を見たら、まず腹壁のヘルニアを探すことを習慣にしておくと役立ちます。

あわせて読みたい:腹部CTの読み方

あわせて読みたい:外ヘルニアとは?種類と内ヘルニアとの違い、CT画像所見

参考文献

  1. Aguirre DA, Santosa AC, Casola G, et al. Abdominal wall hernias: imaging features, complications, and diagnostic pitfalls at multi-detector row CT. Radiographics. 2005;25(6):1501-20. PubMed
  2. Burkhardt JH, Arshanskiy Y, Munson JL, et al. Diagnosis of inguinal region hernias with axial CT: the lateral crescent sign and other key findings. Radiographics. 2011;31(2):E1-12. PubMed
  3. Delabrousse E, Denue PO, Aubry S, et al. The pubic tubercle: a CT landmark in groin hernia. Abdom Imaging. 2007;32(6):803-6. PubMed
  4. Gallegos NC, Dawson J, Jarvis M, et al. Risk of strangulation in groin hernias. Br J Surg. 1991;78(10):1171-3. PubMed
  5. Mueck KM, Holihan JL, Mo J, et al. Computed tomography findings associated with the risk for emergency ventral hernia repair. Am J Surg. 2017;214(1):42-46. PubMed
  6. Huszty G, Mogami K, Sawada T, et al. Preoperative evaluation of irreversible bowel ischemia in obturator hernia. Hepatogastroenterology. 2007;54(75):775-9. PubMed
  7. Millet I, Taourel P, Ruyer A, et al. Value of CT findings to predict surgical ischemia in small bowel obstruction: A systematic review and meta-analysis. Eur Radiol. 2015;25(6):1823-35. PubMed

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