膀胱の肉柱形成(bladder trabeculation)は、膀胱壁の平滑筋が過剰に発達し、内腔に向かって網目状または凹凸状の構造が形成される状態を指します。

これは、長期間にわたる排尿障害や膀胱内圧の上昇により、膀胱筋層が過度に負荷を受けた結果として生じます。

肉柱形成の原因

膀胱の肉柱形成は、以下のような慢性的な膀胱出口閉塞や神経因性膀胱に続発します:

これらの状態では、排尿時に強い腹圧や膀胱収縮が必要となり、筋層に過負荷がかかることで肉柱が発達していきます。

画像所見と診断のポイント

肉柱形成は、以下のような画像所見として認識されます:

  • CT:膀胱壁の肥厚と内腔に向かって突出する壁構造。高分解能画像では、凹凸が網目状に見えることがあります。
  • 超音波:膀胱内腔において線状・網状の陰影構造がみられます。
  • MRI:T2強調画像で膀胱壁の肥厚や不整構造がより明瞭に描出されます。

特にCTやMRIでは、膀胱の拡張状態と肉柱形成の程度を同時に評価でき、排尿障害の慢性度を推定する上で有用です。

症例 70歳代女性 神経因性膀胱

膀胱はびまん性に壁肥厚を認め膀胱憩室あり。

また多数の内腔に向かって突出する壁構造を認め、膀胱の肉柱形成を疑う所見です。

臨床的意義と対応

肉柱形成は、慢性的な排尿障害の存在を示唆する重要なサインです。進行すると、膀胱のコンプライアンス低下や、残尿の増加、さらには腎後性水腎症などの上部尿路障害を引き起こすことがあります。

そのため、肉柱形成を認めた場合は、以下のような包括的な評価が必要です:

  • 前立腺や尿道の通過障害の有無
  • 神経学的な異常(例:脊髄疾患)
  • 残尿量や排尿筋機能の評価

特異な形態:クリスマスツリー膀胱

重度の肉柱形成では、膀胱内が幾何学的に拡張し、上部が狭く、下部が広がった形となることがあり、これは「クリスマスツリー膀胱」と呼ばれます。特に神経因性膀胱に典型的で、重症例の指標のひとつです。

関連記事:神経因性膀胱の画像所見と病態:CT・膀胱造影による診断のポイント

まとめ

膀胱の肉柱形成は、単なる構造異常ではなく、長期間にわたる排尿障害の証拠です。

CTや超音波でこの所見が見られた場合には、背景にある疾患の検索と、上部尿路への影響評価を速やかに行うことが求められます。

参考文献・出典

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  • WebMD. What is Bladder Trabeculation? https://www.webmd.com/urinary-incontinence-oab/what-is-bladder-trabeculation

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