前立腺腫大(prostatic enlargement)は、高齢男性のCT検査でしばしば遭遇する所見の一つです。
しかし、単にサイズが大きいからといって即座に「前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia: BPH)」と診断することはできません。
本記事では、前立腺腫大の定義やCTでの評価方法、そして鑑別上の注意点について解説します。
前立腺腫大の定義とCTでの測定方法
前立腺腫大は、文字通り前立腺のサイズが大きくなった状態を指します。画像診断における前立腺腫大の目安としては、
- 体積が30mL以上
または
- 横径(左右径)が5cm以上
の場合とされています。
CTでは前立腺の最大縦径・横径・前後径を測定し、以下の式を用いておおよその体積を求めます:
体積(mL) ≒ 縦径 × 横径 × 前後径 × 1/2
例えば、各径がそれぞれ4cm、5cm、3cmであれば、体積はおおよそ30mLとなります。このように、体積30mL以上を一つの目安としますが、体積50mL以上でより明確な腫大と見なされることもあります 。
(円柱体積を求める厳密な公式(4π/3 × 左右半径 × 前後半径 × 上下半径)がありますが、臨床の現場では簡便に(左右直径 × 前後直径 × 上下直径)/ 2で計算されることが多いです。)
前立腺腫大=前立腺肥大症(BPH)ではない
重要なのは、前立腺腫大があっても、それだけで前立腺肥大症(BPH)とは言えないという点です。
前立腺肥大症という診断は、単に前立腺が腫大しているだけでなく、それに伴う頻尿や尿道閉塞などの症状が出現した場合に診断されるためです。
前立腺肥大症(BPH)は臨床的に排尿症状を伴う状態を指す疾患概念であり、CTで腫大があっても、無症候性の患者も存在します。
したがって、前立腺のサイズのみでカルテやレポートに記載する際には、症状の有無にかかわらず客観的な画像所見である「前立腺腫大」と記載する方が無難とされます。
CTにおける前立腺腫大の典型的所見
- 前立腺の中心部(移行域)が肥大し、膀胱底部に圧迫を及ぼしている
- 左右対称性が保たれている場合が多いが、腫瘍性病変との鑑別のため注意深い評価が必要
- 膀胱内に残尿が貯留することがある(慢性尿閉や水腎症の原因となる)
- 前立腺の石灰化や辺縁の不整、明らかなmass effectを認める場合は、前立腺癌の可能性も鑑別に加える必要がある
また、CTでは膀胱壁の肥厚や膀胱内の結石、憩室の存在など、下部尿路閉塞に伴う変化も評価できます。
症例 80歳代男性
前立腺の左右径が67mm(>50mm)と腫大しています。
前立腺腫大と診断できます。
中心部にはバルーンカテーテルが低吸収として見えており、この方は症状もあり、前立腺肥大症と診断されています。
まとめ
- 前立腺体積30mL以上で「腫大」と定義される
- 画像的腫大=前立腺肥大症(BPH)ではない
- 膀胱圧排、残尿、上部尿路拡張などの合併所見に注目
- 症状や検査値とあわせて総合的に診断する
参考文献・出典
- [1] Prostatomegaly | Radiopaedia.org
- [2] Benign Prostatic Hyperplasia – StatPearls – NCBI Bookshelf
- [3] Benign Prostatic Hyperplasia – Merck Manuals Professional Edition
- [4] Prostate – Radiology Key
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