前立腺がんは一般的に予後の良いがんで知られています。
腫瘍マーカーであるPSAが4.0ng/ml以上であるときに、引っかかることが多く、その後の方針は施設によっても異なりますが、前立腺の生検や前立腺のMRI検査が行われます。
前立腺のMRI検査は生検と比較して感度は高いですが、特異度が低いと言われています。
今回はそんな前立腺癌はMRI検査でどのような画像所見を示すのか、どのように病期分類されるのかについてまとめました。
前立腺癌のMRI所見
- T2WIにてlow
- dynamicにて早期相で増強効果、後期相でwashoutを呈する。
- DWIにてhigh、ADCにてlow
※3つ揃うのは50%程度。いずれか1つのみの場合も30%程度ある。
※washoutは27〜55%に見られる。washoutが見られるほどGleason score高く、悪性度が高い傾向。
※Gleason高いほど、ADC値は落ちる傾向あり。
※移行域癌はGleason低く、悪性度が低い傾向あり。
これが以前言われていたことですが、2015年のPI-RADS v2では大きく変わりました。
これにより前立腺MRIで前立腺がんの画像診断はより標準化されました。
PI-RADS v2の要点
PI-RADS v2では、前立腺の部位によりみるべきシークエンスを代えるというのがポイントです。
すなわち、移行域では前立腺ガンと間質優位型の前立腺肥大のオーバーラップがかなりあるため、DWIや造影MRIよりもT2強調像をしっかりチェックすることが大事です。
また辺縁域では、DWIをしっかりチェックすることが大事です。
詳しくはこちらにまとめました→前立腺癌のMRI画像診断におけるPI-RADS v2まとめ!
前立腺癌病期分類(T因子)
- T1:直腸指診で触知することが不可能な腫瘍で、画像でも診断が不可能。
- T2:腫瘍が触知可能(あるいは画像で診断可能)で前立腺に限局した状態
- T3:前立腺外へ進展している状態(T3a:被膜外浸潤/T3b:精嚢浸潤)
- T4:膀胱・直腸など隣接臓器への浸潤。
T3aに対する治療は拡大前立腺全摘除術(前立腺周囲の脂肪層を付けて摘出)、IMRT、小線源治療+外部照射併用、ホルモン治療が行われます。
前立腺全摘術を行なった場合、術後の合併症として、性腺機能低下や尿失禁が起こることがあります。
一方で被膜外浸潤のないT2以下の場合は、その合併症が起こりにくい、神経温存手術を施行します。
つまり、T3以上なのかT2以下なのかは治療方針や術後の合併症の起こりやすさにも直結し、T3以上の診断が最重要であり、被膜外浸潤をいかに診断できるかが重要であるということです。(しかし難しい。)
EAUガイドライン
- T因子診断はCTやMRIでは不十分。
- Endorectal MRIは、熱心な泌尿器放射線科医が読影するとDRE+TRUSよりもステージングに寄与する。
→MRIはグレードC:DRE, TRUS , CTに比べてT因子における正確性は高いが、その値は50-90%と幅広い。
T3a(被膜外浸潤)診断のポイント
被膜外浸潤を疑わせる所見
- 被膜断裂
- a.被膜と腫瘍が広く接する(12mm以上):2方向で確認する。
- b.前立腺外への不整膨隆
- c.直腸前立腺角(retroprostatic angle)の鈍化
- d.神経血管束(NVB)の左右非対称化
直接所見(b,c):周囲脂肪組織へ進展→ほぼ確実に被膜外浸潤あり。 関節所見(a,d):腫瘍自体は前立腺内→軽微な被膜外浸潤の可能性。
解剖の復習と被膜外浸潤
症例 70歳代男性
被膜外浸潤の有無についてのレポート例
- 「抽出できた所見」、「所見の解釈」を分けて記載せよ。
1)「被膜外浸潤あり」というメッセージ例
「前立腺midglandの高さではT2強調像で6~10時方向の辺縁域に低信号を呈する腫瘤を認める。特に7~9時方向にかけては被膜を表す低信号線が腫瘤により断裂し、同部は外方へ不整に膨隆していることから、被膜外浸潤を伴う前立腺癌と考える。」
2)「軽微な被膜外浸潤があるかもしれない」というメッセージ例
「前立腺apex〜midglandの高さでは、T2強調像で3〜6時方向の辺縁域に低信号腫瘤を認め、前立腺癌を疑う腫瘤による被膜の断裂や不整な膨隆は描出されず、肉眼的なレベルでの被膜外浸潤の可能性は低い。しかし腫瘤は12mm以上にわたり被膜と接しており、またT2強調冠状断像でも左側で被膜と腫瘤の接する幅が広いことから、顕微鏡的な被膜外浸潤を伴う状態がありうる」
3)「被膜外浸潤なし」というメッセージ例
「前立腺apexの高さでは、T2強調像で10〜11時方向の辺縁域に低信号を呈する腫瘤を認め、外科的被膜が不明瞭化している移行域への浸潤を伴う辺縁域癌と考える一方、外側方向に関しては辺縁域の腫瘤と前立腺被膜との間に健常な高信号を呈する辺縁域が残っており、被膜外浸潤はない」
画像診断2010年4月 ここが知りたい!前立腺癌所見の書き方 獨協医科大学 楫靖先生より引用
T3b(精嚢浸潤)診断のポイント
精嚢浸潤を疑わせる所見
- 精嚢内腔液が消失し、充実性腫瘍に置き換わる(液が貯まるspaceがなくなる)→T2WI低信号、Gdで造影。
- 壁、隔壁の肥厚。
- corで精嚢浸潤が分かりやすいことあり。
症例 60歳代男性
※精嚢へ浸潤する経路としては、「前立腺から直接、あるいは射精管を経由する中心からの浸潤」「神経血管束を経由する外側からの浸潤」「血行性転移」の3つが考えられている。
ところが前立腺全摘除術後の再発規定因子としては、
- 精囊浸潤、切除断端陽性>被膜外浸潤、リンパ節の有無、Gleason scoreの値
(熊本ら 臨泌2010)
と報告されており、つまり被膜外浸潤の有無は実はそれほど重要でもないとも言われています。
T2かT3かで迷ったら、原則的には低いstageを選択するのですが、
- 明らかなT3a
- 切除断端陽性の危険性がある腫瘍(特に前立腺尖部腹側)
- 精囊浸潤
がある場合には、その旨を落とさずに、報告することが大事です。
※前立腺尖部腹側は手術で前立腺全摘出をする際に、取り残しやすい所なので注意。
T4(膀胱・直腸など隣接臓器への浸潤)診断のポイント
膀胱・直腸
- ともにT2WIで固有筋層が低信号なので、癌により筋層の低信号線が断裂していたら確定。
- 直腸と前立腺の間に存在するはずの脂肪(high)が腫瘍の存在により消失しているときに直腸浸潤を疑う。
- 骨盤底(外尿道括約筋、肛門挙筋など)はcornalで評価せよ。