神経因性膀胱(neurogenic bladder)は、中枢または末梢神経系の障害により膀胱機能が異常をきたす状態です。

画像診断は、病態の評価や治療方針の決定において重要な役割を果たします。

排尿機能の神経支配

排尿は以下の神経中枢によって制御されています:

  • 橋排尿中枢(Pontine micturition center):排尿筋と括約筋の協調を制御
  • 仙髄排尿中枢(S2–S4):排尿反射の中枢
  • 大脳皮質:排尿の抑制と意識的な制御

これらの中枢の障害により、神経因性膀胱が発症します。

神経因性膀胱の分類と画像所見

上位運動ニューロン障害(橋と仙髄の間)

脳梗塞、多発性硬化症、脊髄損傷などが原因で、排尿筋と外尿道括約筋の協調が失われる「排尿筋外尿道括約筋協調不全(DSD)」が生じます。これにより、膀胱内圧が上昇し、以下のような画像所見が認められます:

  • 膀胱壁の肥厚と肉柱形成:膀胱壁が不整で網目状の構造を呈します。
  • 膀胱憩室:膀胱壁の突出が見られます。
  • 上部尿路の拡張:水腎症や水尿管症が伴うことがあります。
  • クリスマスツリー様膀胱:垂直方向に伸びた膀胱で、特徴的な形状を示します。

これらの所見は、膀胱造影やCTで明瞭に描出されます。

関連記事:膀胱の肉柱形成とは?慢性尿路閉塞や神経因性膀胱に伴うCT画像所見と臨床的意義

下位運動ニューロン障害(S2–S4以下)

末梢神経の障害により、排尿筋の収縮が起こらず、弛緩性の膀胱が形成されます。画像所見としては:

  • 膀胱の過度な拡張:大容量で緊満感のない膀胱が見られます。
  • 排尿時の排出不全:排尿筋の収縮が認められず、残尿が多くなります。
  • 膀胱壁の変化:長期的には肉柱形成や壁肥厚、憩室が生じることがあります。

これらの所見も、膀胱造影やCTで確認できます。

知覚神経障害

糖尿病や悪性貧血、脊髄癆などによる知覚神経の障害では、膀胱の感覚が低下し、無緊張で大容量の膀胱が形成されます。画像所見としては:

  • 平滑で拡張した膀胱:膀胱壁は薄く、内部に尿が大量に貯留しています。

画像診断の役割

神経因性膀胱の評価には、以下の画像診断が有用です:

  • 膀胱造影(VCUG):膀胱の形態や排尿時の動態を評価できます。DSDの診断にも有用です。
  • CT:膀胱壁の肥厚や憩室、上部尿路の拡張を詳細に描出できます。
  • 超音波検査:非侵襲的に膀胱の容量や壁の状態を評価できます。

これらの検査を組み合わせることで、神経因性膀胱の病態を正確に把握し、適切な治療方針を立てることが可能です。

症例 40歳代男性 慢性的排尿障害、脊椎外傷の既往

引用:radiopedia

膀胱造影で、膀胱は垂直方向に伸び、肉柱形成により輪郭は不整で、憩室を多数認めている。左膀胱尿管逆流あり。

神経因性膀胱を疑う所見です。

症例 70歳代男性 腰髄損傷

Neurogenic bladder1

両側上部尿路は拡張し、膀胱も著明に拡張しています。

神経因性膀胱を疑う所見です。

参考文献・出典

  • Hirshberg BV, Myers DT, Williams TR. The “Christmas tree” bladder. Abdom Radiol. 2018;43(12):3525–3526. doi:10.1007/s00261-018-1648-3.
  • Stoffel JT. Detrusor sphincter dyssynergia: a review of physiology, diagnosis, and treatment strategies. Transl Androl Urol. 2016;5(1):82–91. doi:10.21037/tau.2016.01.03.
  • Fernbach SK, Feinstein KA, Schmidt MB. Pediatric voiding cystourethrography: a pictorial guide. Radiographics. 2000;20(1):155–168. doi:10.1148/radiographics.20.1.g00ja06155.

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