胸部CTは肺を見るための検査と思われがちですが、画面の中央には心臓・心膜・大血管も写っています。肺の読影に気を取られて、ここを見落とさないようにしましょう。胸部CTで心臓・大血管を見るときは、次のようなことに着目します。
- 心臓の大きさと形(心拡大・どの部屋が大きいか)
- 心膜(心嚢液・心膜肥厚・石灰化)
- 石灰化(冠動脈・大動脈弁・僧帽弁輪・心筋)
- 心臓の中の構造(血栓・腫瘍・人工物)
- 肺動脈(太さ・肺塞栓・右心負荷)
- 胸部大動脈(太さ・解離・損傷・壁肥厚)
- 静脈と血管の変異(上大静脈・左上大静脈遺残など)
の有無について、まずは順番に見てみましょう。
以下、それぞれの所見で考える主な原因・鑑別と、次に何を見るか・どの検査へ進むかを解説します。縦隔条件で見える構造の名前は胸部CTの縦隔の解剖、心臓の部屋の見分け方は心臓CTの正常解剖で確認できます。
先に結論:胸部CTで心臓・大血管を見るときの7つのチェックポイント
- 大きさ・形:心拡大はあるか。どの部屋(右房・右室・左房・左室)が大きいかで原因を考える
- 心膜:心臓のまわりの液体(心嚢液)、心膜の肥厚・石灰化。液体の濃さ(CT値)と、心臓が押されていないかを見る
- 石灰化:冠動脈の石灰化は造影なしの胸部CTでも評価できる。大動脈弁・僧帽弁輪の石灰化も拾う
- 心臓の中:造影CTでは、左心耳や心室の中の造影欠損(血栓・腫瘍)を探す
- 肺動脈:主肺動脈が太い→肺高血圧を考える。造影CTでは肺動脈の中の造影欠損(肺塞栓)と、右室の拡大を確認する
- 胸部大動脈:上行・弓部・下行大動脈の太さ、内膜のめくれ(解離)、壁の厚み、周りの血腫
- 静脈・変異:左上大静脈遺残などの変異や、カテーテル・ペースメーカーのリードの位置
1. 心臓の大きさと形
胸部CTは通常、心電図同期をしないため、心臓の拍動で輪郭がぶれます。大きさははっきり大きい・小さいを拾い、細かい計測は心エコーに任せるという姿勢が実用的です。見るときは「全体が大きいか」よりも、どの部屋が大きいかに注目します。
- 左室が大きい・壁が厚い:高血圧・大動脈弁の病気・心筋症など。心筋の壁が厚いときは心アミロイドーシスなどの心筋の病気も鑑別に挙がります
- 左房が大きい:僧帽弁の病気・心房細動。左心耳に血栓がないかを造影CTで見ます
- 右房・右室が大きい:肺高血圧・肺塞栓・三尖弁の病気・心房中隔欠損など
- 心臓の左の縁の脂肪:胸部X線で心拡大に見える原因が心膜外の脂肪だった、ということがあります。心膜外脂肪塊とシルエットサインを参照してください
次に見ること:心拡大があれば、胸水・肺うっ血(小葉間隔壁の肥厚・すりガラス影)を確認し、心不全を考えます。息切れで来た人の画像の見分け方は息切れ・呼吸困難の胸部画像にまとめています。心臓の機能や弁の動きは心エコー、心筋の性状は心臓MRIで評価します。
2. 心膜(心嚢液・心膜肥厚・石灰化)

胸部CT横断像で、心臓のまわりを水に近い濃さの液体が帯状に取り囲んでいる心嚢液貯留の例です。詳しくは心嚢液(心嚢水)貯留のCT画像診断の記事へ。
心膜は心臓を包む袋で、正常ではごく少量の液体しかありません。心膜の層の構造は心膜腔(心嚢)とはで解説しています。
心嚢液
- 水に近い濃さ:心不全・腎不全・甲状腺機能低下症などによる漏出液のことが多い
- 濃い液体:感染・悪性腫瘍・出血などによる滲出液や血性の液体を考えます。心嚢穿刺を受けた96例の検討では、CT値は滲出液で14.85±10.7 HU、漏出液で1.13±4.3 HUと滲出液のほうが高く、4.7 HUを境にすると感度80%・特異度87.7%で滲出液を見分けられました(Çetin 2017)
- 高吸収の液体:大動脈解離や外傷・心筋梗塞後の破裂による血性心嚢液は緊急の所見です
CT値はあくまで目安で、最終的な性状は穿刺液の検査で決まります。心タンポナーデ(液体で心臓が押されて広がれない状態)は臨床症状と心エコーで判断しますが、CTでも右房・右室の虚脱や、上大静脈・下大静脈の拡張があれば注意を促します。
心膜の肥厚・石灰化・腫瘤
- 収縮性心膜炎:心膜が厚く硬くなり、石灰化することがあります。下大静脈の拡張や心房の拡大を伴います
- 心膜転移:結節状の心膜肥厚と、量の多い心嚢液
- 心膜嚢胞:右心横隔膜角に多い、水の濃さの薄い壁の嚢胞
- 心膜洞(心膜陥凹):大動脈や肺動脈のそばの小さな液体の袋で、リンパ節と間違えやすい正常構造です

引用:Radiopaedia(Calcific constrictive pericarditis)
造影CT横断像で、心臓の表面を取り囲む心膜に厚い石灰化が見える収縮性心膜炎の例です。詳しくは収縮性心膜炎のCT所見の記事へ。
3. 石灰化(冠動脈・弁・大動脈)

胸部単純CTの横断像と冠状断像で、大動脈弁に石灰化(矢印)が見えます。横断像では僧帽弁の石灰化も確認できます。詳しくは大動脈石灰化とは?胸部CTで偶然見つかった大動脈弁・大動脈の石灰化の記事へ。
- 冠動脈の石灰化:動脈硬化の目印です。心臓を対象としない造影なしの胸部CTでも冠動脈の石灰化を評価・報告するための指針が、米国の心血管CTの学会と胸部放射線の学会から共同で出されています(Hecht 2017)。肺癌検診や肺の経過観察のCTでも、冠動脈に石灰化があるかどうかと、おおよその程度を書いておくと役に立ちます。
- 大動脈弁の石灰化:程度が強ければ大動脈弁狭窄症を疑い、心エコーで評価します
- 僧帽弁輪の石灰化:高齢者に多く、弁の機能は心エコーで確認します
- 心筋の石灰化:古い心筋梗塞の壁に沿った石灰化や、心室瘤を伴うことがあります
次に見ること:冠動脈の狭窄そのものを調べるには、心電図同期の冠動脈CT(心臓CT)やほかの心臓の検査が必要です。造影なしの胸部CTの石灰化だけで狭窄の程度は決められません。
4. 心臓の中の構造(血栓・腫瘍・人工物)
造影CTでは、心臓の部屋の中の造影されない部分を探します。
- 左心耳の造影欠損:血栓のことがありますが、血流が遅いだけで造影剤が混ざりきらず欠損に見えることもあり、遅れた相の画像や経食道心エコーで確かめます
- 左室の心尖部の造影欠損:心筋梗塞後で壁が薄く動きの悪い部分に血栓ができることがあります
- 心臓の腫瘍:左房の心房中隔に付く心臓粘液腫、右房に多い心臓血管肉腫など。心臓の腫瘍で最も多いのは転移です
- 人工物:ペースメーカーのリード、人工弁、閉鎖栓の位置。金属のアーチファクトで周りが見えにくくなります
5. 肺動脈(太さ・肺塞栓・右心負荷)

上は肺野条件で両肺に蜂巣肺が広がる間質性肺炎、下は同じ人の縦隔条件で、主肺動脈が大動脈より太く拡張している(計測線)肺高血圧症の例です。詳しくは肺高血圧症の画像診断の記事へ。
肺動脈の太さ
主肺動脈は、右肺動脈が分かれる高さで測ります。フラミンガム研究の3,171人の心臓CTでは、主肺動脈の径の平均は25.1±2.8 mmで、正常の上限の目安は男性29 mm・女性27 mm、主肺動脈と上行大動脈の径の比は0.9とされました(Truong 2012)。これより太ければ肺高血圧を考え、原因として間質性肺炎・COPD・慢性の肺塞栓・左心系の病気・先天性の短絡などを探します。
肺塞栓と右心負荷

ダイナミック造影CTで、右肺動脈の本幹に造影欠損(血栓、橙の矢印)があり、右房が著しく拡張しています(黄の矢印)。腹部では胆嚢の漿膜下浮腫と下大静脈の拡張も見られます。詳しくは肺血栓塞栓症のCT画像診断の記事へ。
肺塞栓では、肺動脈の中の造影欠損を中枢から末梢までたどるとともに、右室が左室より大きくなっていないかを見ます。造影CTでの右室拡大は、肺塞栓の30日以内の死亡と関連し(オッズ比2.08)、肺塞栓による死亡とはさらに強く関連していました(オッズ比7.35)(Becattini 2014)。心室中隔が左室側へ押されていないか、下大静脈・肝静脈へ造影剤が逆流していないかも、右心負荷の手がかりです。
6. 胸部大動脈(太さ・解離・損傷・壁肥厚)
太さ
大動脈の太さは年齢・性別・体格で変わります。冠動脈石灰化の検査を受けた4,039人の心臓CTでは、肺動脈が分かれる高さで上行大動脈33±4 mm、下行大動脈24±3 mmで、正常の上限はそれぞれ41 mmと30 mmでした(Wolak 2008)。上限を超えていれば拡張・瘤として記載し、以前の画像と比べて大きくなっていないかを確認します。
解離・損傷・壁肥厚
- 大動脈解離:造影CTで大動脈の中に内膜のめくれ(フラップ)があり、真腔と偽腔に分かれます。単純CTでは内膜の石灰化が内側へずれていることや、壁の中の三日月形の高吸収(壁内血腫)が手がかりです。上行大動脈に及ぶかどうか、心嚢液・縦隔の血腫がないかを確認します
- 胸部大動脈損傷:交通外傷などで大動脈峡部に起こりやすく、縦隔の血腫を伴います
- 高安動脈炎:若い女性で大動脈や分枝の壁が全周性に厚くなります
- 大動脈の石灰化・粥腫:動脈硬化の程度の目安になります
次に見ること:解離や破裂が疑われる場合は、単純と造影(動脈相)を組み合わせたCTで範囲と分枝の血流を評価し、速やかに主治医へ伝えます。
7. 静脈と血管の変異
- 左上大静脈遺残(PLSVC):大動脈弓の左側を下り、冠静脈洞へ流れ込む静脈。カテーテルやペースメーカーのリードが思わぬ方向へ進む原因になります
- 上大静脈の狭窄・閉塞:肺癌や縦隔の腫瘍で上大静脈が押されると、胸壁や縦隔の側副血行路が太くなります
- 冠動脈の起始の異常:冠動脈起始異常は若い人の突然死の原因になることがあります
心臓・大血管の所見が偶然見つかったときの扱い
米国放射線科専門医会(ACR)の偶発所見委員会は、胸部CTで偶然見つかった縦隔と心臓・血管の所見について、よく出会うものごとの扱いを白書にまとめています(Munden 2018)。実際の報告書では、次の点を書いておくと主治医が次の一手を決めやすくなります。
- 冠動脈の石灰化:有無とおおよその程度。動脈硬化の危険因子の管理につながります
- 大動脈・肺動脈の拡張:測った高さと径。以前の画像があれば変化の有無
- 心嚢液・弁の石灰化・心拡大:程度。症状や心エコーの結果とあわせて判断してもらう
気になる症状がある方や、検査の結果で心臓や血管の所見を指摘された方は、医療機関で相談してください。
心臓・大血管で見落としやすい場所と、確認のしかた
| 場所 | 見落としやすい理由 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 肺野条件だけで読んだとき | 心臓・大血管は肺野条件ではつぶれて見え、心嚢液や血栓がわからない | 縦隔条件に切り替えて心臓・大血管を見る。条件の意味は胸部CTの縦隔条件とはへ |
| 心臓の下面・横隔膜との境 | 心嚢液は少量だと心臓の下や後ろにだけたまり、横隔膜・肝臓と紛れる | 冠状断・矢状断で心臓の下縁を確認する |
| 上行大動脈の根元 | 拍動でぶれて、解離のフラップがアーチファクトと紛らわしい | 複数の断面で連続して見えるか確認する。迷えば心電図同期の造影CTを考える |
| 肺動脈の区域枝より先 | 小さな塞栓は末梢の細い枝にだけある | 肺動脈を中枢から末梢へ1本ずつたどる |
| 大動脈・肺動脈のまわりの小さな液体 | 心膜洞をリンパ節や腫瘤と間違えやすい | 水の濃さで、心膜の位置に沿っているかを見る。胸部CTの偽病変も参照 |
心臓・大血管の読影でよくある疑問(Q&A)
Q. 肺の検査のCTで「冠動脈に石灰化がある」と言われました。心臓が悪いということですか?
A. 冠動脈の石灰化は動脈硬化があることを示しますが、それだけで血管が細くなっている(狭窄)とは限りません。年齢や血圧・コレステロール・糖尿病などの危険因子とあわせて評価します。胸の痛みや息切れなどの症状がある方は、医療機関で相談してください。
Q. 造影しない胸部CTで、大動脈解離はわかりますか?
A. 内膜の石灰化が内側へずれている、壁の中に三日月形の白い部分(壁内血腫)がある、といった手がかりで疑うことはできます。ただし範囲や血流の評価には造影CTが必要です。
Q. 心嚢液が少しあると言われました。心配はいりませんか?
A. ごく少量の心嚢液は正常でもあり、症状がなければ経過をみることが多い所見です。量が多い、濃い液体である、心臓が押されているといった場合は、原因を調べるために心エコーや血液検査などを行います。
まとめ
胸部CTの心臓・大血管では、
- 縦隔条件に切り替え、心臓の大きさと「どの部屋が大きいか」を見る
- 心嚢液の量と濃さ、心膜の肥厚・石灰化を確認する
- 冠動脈・弁の石灰化は造影なしのCTでも拾って記載する
- 肺動脈の太さ、肺塞栓と右室の拡大を見る
- 胸部大動脈の太さ・解離・壁の変化、静脈の変異を確認する
の順に見ると、肺以外の大事な所見の見落としを減らせます。
あわせて読みたい:胸部CTの縦隔の解剖|縦隔条件で見える血管・臓器をスライスの高さごとに解説
あわせて読みたい:心臓CTの正常解剖|右房・右室・左房・左室・心耳・弁・冠静脈洞の見分け方
参考文献
- Çetin MS, Özcan Çetin EH, Özdemir M, et al. Effectiveness of computed tomography attenuation values in characterization of pericardial effusion. Anatol J Cardiol. 2017;17(4):322-327. PubMed
- Hecht HS, Cronin P, Blaha MJ, et al. 2016 SCCT/STR guidelines for coronary artery calcium scoring of noncontrast noncardiac chest CT scans: A report of the Society of Cardiovascular Computed Tomography and Society of Thoracic Radiology. J Cardiovasc Comput Tomogr. 2017;11(1):74-84. PubMed
- Truong QA, Massaro JM, Rogers IS, et al. Reference values for normal pulmonary artery dimensions by noncontrast cardiac computed tomography: the Framingham Heart Study. Circ Cardiovasc Imaging. 2012;5(1):147-54. PubMed
- Becattini C, Agnelli G, Germini F, et al. Computed tomography to assess risk of death in acute pulmonary embolism: a meta-analysis. Eur Respir J. 2014;43(6):1678-90. PubMed
- Wolak A, Gransar H, Thomson LE, et al. Aortic size assessment by noncontrast cardiac computed tomography: normal limits by age, gender, and body surface area. JACC Cardiovasc Imaging. 2008;1(2):200-9. PubMed
- Munden RF, Carter BW, Chiles C, et al. Managing Incidental Findings on Thoracic CT: Mediastinal and Cardiovascular Findings. A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2018;15(8):1087-1096. PubMed
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