「胸部CTを読んでいたら、大動脈弁に石灰化が見える…でもこれ、放っておいていいの?」
救急外来や日常臨床で胸部CTを読影していたら日常的にぶつかるこの疑問。特に心臓目的でないCTでも、大動脈弁の石灰化はしばしば偶然見つかります。
この石灰化、加齢による変化で済ませてよい場合もあれば、重大な心疾患や脳梗塞の原因となるサインである場合もあります。本記事では、CT画像で偶然見つかった大動脈弁石灰化への対応を、視覚的評価から臨床対応、さらには脳梗塞リスクまで網羅的に解説します。
大動脈弁石灰化とは何か?
大動脈弁石灰化(aortic valve calcification)は、動脈硬化や加齢に伴って弁尖にカルシウムが沈着する現象です。80歳以上の高齢者では一般的ですが、弁の可動性を障害し、進行すると大動脈弁狭窄症(AS)につながる可能性があります。
また、近年では石灰化片が末梢に塞栓し、脳梗塞を引き起こす「石灰化塞栓」も報告されており、注意が必要です[3]。
まずはここから:CTによる4段階視覚評価
偶然見つかった石灰化に対して、非造影CTで簡便に行える視覚的4段階評価が提案されています[1]。
- 石灰化なし
- 軽度石灰化
- 中等度石灰化
- 高度石灰化
中等度石灰化以上では心エコーによる評価が推奨されており、特に高度石灰化では大動脈弁狭窄症の可能性が高いため、循環器内科への紹介や定期フォローが必要です[1]。
症例 70歳代男性
大動脈弁には軽度~中等度石灰化を認めています。
横断像では僧帽弁の石灰化も確認できます。
症例 80歳代女性
大動脈弁には高度石灰化を認めています。
ただし拍動によるアーチファクトで横断像は二重に見える部位ありますのでそれで過大評価になったり、大動脈解離などと誤診しないように注意が必要です。
CTで石灰化を見つけたら?診断の5ステップ
大動脈弁石灰化を偶然発見した際は、以下のステップで対応を検討します[1]。
- 患者の年齢と症状を確認: 高齢者や心雑音の既往があるか確認。
- 視覚的なグレード評価:中等度石灰化以上なら心エコーを検討。
- 心電図同期CTの併用(可能なら): 弁開閉の評価が可能。
- 脳梗塞歴・神経症状の確認: 石灰化塞栓のリスク評価。
- 循環器内科へ紹介: TAVIや外科的置換(SAVR)の適応判断。
—胸部CTのレポート一例—-
(文献1を参考)
石灰化塞栓による脳梗塞にも注意
大動脈弁の石灰化は、塞栓源として脳梗塞の原因になることがあります。これを「石灰化脳塞栓(calcified cerebral embolism)」と呼び、頭部CTで皮質・皮質下に石灰化を伴う小梗塞として描出されることがあります[3]。
特に心房細動のない症例で脳梗塞を発症した場合、大動脈弁からの石灰化片脱落を念頭に置きましょう。全身の非造影CTで大動脈弁や上行大動脈の石灰化を確認することで、診断につながるケースもあります。
関連記事:脳梗塞の種類(分類)まとめ!心原性、アテローム血栓性、ラクナ梗塞!
参考文献
- 画像診断 Vol.42 No.11, 2022年, A185–6.
- Williams MC, et al. Reporting incidental coronary, aortic valve and thoracic aortic calcification on non-gated thoracic CT. J Cardiovasc Comput Tomogr. 2021;15(6):514–522.
- Maurer J, et al. CT findings of calcified cerebral emboli: diagnostic clues and implications for stroke mechanism. AJNR Am J Neuroradiol. 2007;28(1):130–135.
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