
先に結論:首の嚢胞は「場所×年齢」で絞る。ただし成人の側頸部(特に上の方)の嚢胞は、鰓裂嚢胞と決めつけず、中咽頭癌の嚢胞状リンパ節転移をまず考える
| 場所 | 代表的な病気 | 年齢の目安 |
|---|---|---|
| 前頸部の正中 | 甲状舌管嚢胞 | 小児に多いが成人でも見つかる |
| 側頸部(耳の下から鎖骨の上) | 鰓裂嚢胞、リンパ管腫(嚢胞性) | 鰓裂嚢胞は小児〜若年成人、リンパ管腫は乳幼児が中心 |
| 顎の下・口腔底 | ガマ腫(ラヌーラ)、類皮嚢胞・類表皮嚢胞 | ガマ腫は小児〜成人、類皮嚢胞は若年 |
| 成人の側頸部(上内深頸領域) | 嚢胞状リンパ節転移(HPV関連中咽頭癌など) | 40歳以上で特に注意 |
首の嚢胞を絞るときの考え方
首のしこりの鑑別は、炎症・リンパ節・唾液腺・甲状腺・先天性・腫瘍と広がります。この記事はその中の「中が液体の袋状の塊」だけを対象に、場所と年齢の2軸で整理する早見表です。しこり全体の診かたではなく、嚢胞に絞って比べることが目的です。
先天性の頸部嚢胞性腫瘤は、甲状舌管嚢胞が最も多く、そのほかに鰓裂嚢胞、嚢胞性ヒグローマ(リンパ管腫)、頸部の胸腺嚢胞・気管支原性嚢胞、口腔底の類皮嚢胞・類表皮嚢胞があります(Gaddikeri 2014)。多くは典型的な位置と画像の特徴を持つため、位置を言えることが最初の手がかりになります。
場所で絞る:正中・側方・口腔底
前頸部の正中:甲状舌管嚢胞
先天性の頸部腫瘤で最も多いのが甲状舌管嚢胞で、頸部の前方正中に嚢胞性の病変があれば診断は容易とされています(Koeller 1999)。胎児期に舌の根もとから甲状腺が降りてくる道すじ(甲状舌管)の遺残から生じるため、舌骨の近くにでき、ものを飲み込むときや舌を出したときに動くのが典型です。詳しくは甲状舌管嚢胞(正中頸嚢胞)とは?と、甲状腺先天性疾患の画像診断(異所性甲状腺・甲状舌管嚢胞)で説明しています。舌の付け根にある異所性甲状腺との区別は異所性甲状腺(舌甲状腺)を参照してください。
側頸部:鰓裂嚢胞とリンパ管腫
鰓裂嚢胞の大部分は第2鰓裂由来で、口蓋扁桃のくぼみ(扁桃窩)から鎖骨の上までのどこにでも生じうるとされます(Koeller 1999)。典型は胸鎖乳突筋の前方の、顎の角に近い場所の嚢胞です。画像のくわしい分類は鰓裂嚢胞(側頸嚢胞)の画像所見に、のどの奥の瘻孔(梨状窩瘻)と甲状腺の化膿性炎症の関係は急性化膿性甲状腺炎と梨状窩瘻にあります。
嚢胞性ヒグローマは、リンパ管腫(リンパ管奇形)のうち最も多い型で、頸部では後頸部間隙に最も多く、筋膜の境界を守らずに周囲へ広がるのが特徴です(Koeller 1999)。乳幼児が中心で、いくつもの部屋(多房性)に分かれ、出血すると中に液面(液体の層)ができることがあります。小児の頸部リンパ管奇形170例の検討では、MRIで液面形成が45例中21例(46.7%)にみられ、診断率は超音波93.0%、造影CT 94.7%、造影MRI 100%でした(Chen 2024)。詳細はリンパ管腫(リンパ管奇形)のCT・MRI画像所見を、血管の異常との区別は体表の血管腫と血管奇形(ISSVA分類)を読んでください。
顎の下・口腔底:ガマ腫と類皮嚢胞
類皮嚢胞・類表皮嚢胞は外胚葉の組織が埋もれて生じる嚢胞で、頸部領域では口腔底が最も多い場所です(Koeller 1999)。内容物に脂肪や皮膚の付属器を含むため、CTやMRIで脂肪が見えることが手がかりになります。
ガマ腫(ラヌーラ)は、舌下腺などから唾液が漏れてできる偽嚢胞で、口の底が青白く膨らみます。顎の下まで広がるタイプ(いわゆる顎下型・舌下型)の画像はガマ腫(ラヌーラ)とは?にまとめています。唾液腺の石による腫れは嚢胞とは別の病気で、唾石症を参照してください。
鎖骨の上・縦隔に近い場所
頸部の胸腺嚢胞はまれで、下顎角から胸骨までのどこにでも見つかります(Koeller 1999)。胸腺の遺残が首に残る場合は、子どもの胸腺が大きいと言われたらも参考になります。縦隔にもつながる嚢胞は縦隔嚢胞性疾患のCT・MRI画像所見と胸腺嚢胞(thymic cyst)を読んでください。喉頭瘤(のどの空気のたまり)は喉頭癌にしばしば合併するとされており(Koeller 1999)、成人で喉頭瘤が見つかったときは喉頭を調べる必要があります。
年齢で絞る:小児・若年・成人
先天性の頸部嚢胞は、多くが乳児期から小児期に診断されますが、どの年齢層にも現れうるとされています(Koeller 1999、Gaddikeri 2014)。ここで大切なのは、「嚢胞だから先天性」と決めつけないことです。次の表のように、年齢が上がるほど「嚢胞状の腫瘍」の可能性を考える必要があります。
| 年齢層 | まず考えるもの | 追加で考えるもの |
|---|---|---|
| 乳幼児 | リンパ管腫(嚢胞性ヒグローマ)、甲状舌管嚢胞 | 鰓裂嚢胞、血管奇形、筋性斜頸などの別の腫れ |
| 学童〜若年成人 | 甲状舌管嚢胞、鰓裂嚢胞、ガマ腫、類皮嚢胞 | 化膿したリンパ節、猫ひっかき病など |
| 40歳以上の成人 | (上内深頸領域の嚢胞は)嚢胞状リンパ節転移を先に疑う | 鰓裂嚢胞、まれな鰓裂嚢胞癌、悪性リンパ腫の壊死 |
小児の頸部腫瘤の画像検査の進め方は赤ちゃんの首のしこり(筋性斜頸)で一部を紹介しています。膿の貯留で嚢胞に見える場合は頸部膿瘍(扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍)のCT画像診断、扁桃周囲膿瘍も確認してください。
成人の側頸部の嚢胞:HPV関連中咽頭癌の嚢胞状リンパ節転移をまず考える
この記事で最も伝えたいのは、成人の上頸部(耳の下から顎の角のあたり)の嚢胞は、鰓裂嚢胞と診断する前に、中咽頭癌の転移を除外することです。理由は3つあります。
- 頭頸部癌のうち、頸部郭清術を受けた100人を調べた研究で、20人にリンパ節の嚢胞状転移があり、そのうち17人の原発巣は口蓋扁桃または舌根(舌扁桃)で、3人は原発不明でした。嚢胞状転移がある13人のうち11人(87%)でHPV(ヒトパピローマウイルス)のDNAが検出され、充実性の転移21人では検出されませんでした(Goldenberg 2008)。
- 中咽頭癌の治療前CT 136件(HPV陽性と陰性をT分類・部位・喫煙状況で対にしたもの)を、HPVの結果を伏せて読影した研究では、嚢胞状のリンパ節転移はHPV陽性で36%、陰性で9%でした(Cantrell 2013)。
- 放射線化学療法を受けた中咽頭癌98人のMRI検討でも、嚢胞状リンパ節転移はp16陽性で39.4%、p16陰性で18.5%と、p16陽性で多くみられました(Huang 2017)。
40歳を超える成人の上頸部の嚢胞は、鰓裂嚢胞、嚢胞状の扁平上皮癌転移、鰓裂嚢胞癌が鑑別に挙がり、治療を始める前に画像診断、有力な原発部位(中咽頭の各部位)の生検、HPVやEBウイルスの検査まで調べるべきだと述べられています。なお鰓裂嚢胞癌と確定した例は40例に満たず、診断は「ほかを除外してから」にすべきとされています(Bradley 2013)。実際に、61歳男性の頸部腫瘤が穿刺細胞診で良性、鰓裂嚢胞を疑って切除したところ扁平上皮癌が見つかり、PET/CTや内視鏡で原発が見つからないまま3カ月ごとに超音波で経過をみて、約2年半後にリンパ節の腫れから、HPV関連の中咽頭癌と判明した報告があります(Ferraro 2024)。
症例 嚢胞状リンパ節転移

引用:Huang YH, et al. Cystic nodal metastasis in patients with oropharyngeal squamous cell carcinoma receiving chemoradiotherapy. PLoS One. 2017;12(7):e0180779 (Figure 2). CC BY 4.0(原著)
40歳代男性の舌根の中咽頭扁平上皮癌で、左頸部レベルIIAに、薄く境界明瞭な壁と均一な液体の内容を持つ嚢胞状のリンパ節(矢印)がみられます(A〜C:MRI)。化学放射線療法の終了3カ月後には縮小しています(D)。
リンパ節の高さの呼び方は頸部リンパ節のレベル分類を、頸部の間隙は頸部間隙と深頸筋膜と頸部MRIの正常解剖ツールを参照してください。
画像の手がかり:超音波・CT・MRI
| 病気 | 超音波・CT・MRIの手がかり | ここを確認する |
|---|---|---|
| 甲状舌管嚢胞 | 前頸部の正中、舌骨の近くの嚢胞。内部は液体 | 舌骨との関係、甲状腺が正常にあるか |
| 鰓裂嚢胞 | 側頸部(胸鎖乳突筋の前方)の薄壁の嚢胞 | 成人なら壁の肥厚や結節の有無 |
| リンパ管腫 | 多房性で、筋膜を越えて周囲へ広がる。液面がある場合は出血 | 広がりの範囲、血管成分の有無 |
| 類皮・類表皮嚢胞 | 口腔底の嚢胞。脂肪を含むことがある | 口腔底の筋肉(顎舌骨筋)との位置関係 |
| ガマ腫 | 口の底の嚢胞。顎の下まで広がるものもある | 舌下腺との連続 |
| 嚢胞状リンパ節転移 | 成人の上頸部の嚢胞。壁の肥厚・壁在結節 | 中咽頭(扁桃・舌根)に原発がないか |
画像検査は、まず超音波で嚢胞か充実性かを区別し、広がりが不明確ならCTやMRIを使います。小児のリンパ管奇形の検討では、急性期は超音波と造影CT、安定した病変は超音波と造影MRIの組み合わせが提案されています(Chen 2024)。成人で原発巣を疑うときは、のどの診察(内視鏡)と画像を組み合わせて調べます。
嚢胞に見える別の病気
嚢胞のように見えても、次のような病気があります。壊死したリンパ節、膿瘍、神経の腫瘍の嚢胞変性などは、内部が液体のように見えます。
| 嚢胞のように見える病気 | どの記事を読むか |
|---|---|
| リンパ節の腫れ(感染・転移・リンパ腫) | 頸部リンパ節腫脹・腫大の鑑別、リンパ節腫脹の鑑別診断まとめ、頸部リンパ節の悪性リンパ腫 |
| 結核・猫ひっかき病・菊池病 | 頸部結核性リンパ節炎、猫ひっかき病、菊池病 |
| 神経・血管の腫瘍 | 神経鞘腫の非典型像、傍神経節腫(頸動脈小体腫瘍) |
| 唾液腺の腫瘍 | 耳下腺腫瘍の画像診断、多形腺腫 |
| 甲状腺の結節・癌 | 甲状腺結節の鑑別とエコー所見、甲状腺癌の画像診断と転移の特徴 |
| 軟部組織の腫瘍・皮下のしこり | 軟部腫瘍の画像診断と鑑別 |
受診の目安
首のしこりが見つかったら、嚢胞かどうかを自分で判断せず、耳鼻咽喉科や頭頸部外科を受診して超音波などで調べてもらいましょう。次のようなときは、早めの受診が望まれます。
- 数日〜数週のうちに大きくなる、硬い、動かない
- 痛み・赤み・発熱を伴う(感染して膿がたまっている可能性)
- のどの違和感、飲み込みにくさ、声がれ、息苦しさがある
- 40歳以上で、片側の首のしこりが続く
気になる症状があれば医療機関へ相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 嚢胞なら悪性ではありませんか?
嚢胞は先天性のものが多い一方、成人の上頸部の嚢胞は、中咽頭癌のリンパ節転移が嚢胞状に見えることがあります(Goldenberg 2008、Bradley 2013)。年齢と場所を合わせた確認が必要です。
Q2. 穿刺細胞診で良性と言われたら安心ですか?
細胞診で良性でも、病理で扁平上皮癌が見つかった報告があります(Ferraro 2024)。画像の特徴(壁の肥厚・結節)が気になるときは、主治医と経過の見方を相談してください。
Q3. 甲状舌管嚢胞や鰓裂嚢胞は手術が必要ですか?
治療方針は、症状、感染の有無、大きさ、年齢により異なります。この記事では治療は扱いません。診断のついた病気ごとの記事と、主治医の説明を参考にしてください。
Q4. 首の嚢胞の検査は何から始めますか?
一般的には超音波で嚢胞かどうかを見て、必要に応じてCTやMRIを追加します。小児のリンパ管奇形では、急性期は超音波と造影CT、安定した病変では超音波と造影MRIが提案されています(Chen 2024)。
参考文献
- Koeller KK, Alamo L, Adair CF, et al. Congenital cystic masses of the neck: radiologic-pathologic correlation. Radiographics. 1999;19(1):121-146. PubMed
- Gaddikeri S, Vattoth S, Gaddikeri RS, et al. Congenital cystic neck masses: embryology and imaging appearances, with clinicopathological correlation. Curr Probl Diagn Radiol. 2014;43(2):55-67. PubMed
- Goldenberg D, Begum S, Westra WH, et al. Cystic lymph node metastasis in patients with head and neck cancer: An HPV-associated phenomenon. Head Neck. 2008;30(7):898-903. PubMed
- Cantrell SC, Peck BW, Li G, et al. Differences in imaging characteristics of HPV-positive and HPV-negative oropharyngeal cancers: a blinded matched-pair analysis. AJNR Am J Neuroradiol. 2013;34(10):2005-2009. PubMed
- Huang YH, Yeh CH, Cheng NM, et al. Cystic nodal metastasis in patients with oropharyngeal squamous cell carcinoma receiving chemoradiotherapy: Relationship with human papillomavirus status and failure patterns. PLoS One. 2017;12(7):e0180779. PubMed
- Bradley PT, Bradley PJ. Branchial cleft cyst carcinoma: fact or fiction? Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg. 2013;21(2):118-123. PubMed
- Ferraro T, Pershad AR, Arora S, et al. The utility of ultrasonographic surveillance in management of a presumed branchial cleft cyst later confirmed HPV-associated oropharyngeal cancer. Oral Oncol. 2024;151:106743. PubMed
- Chen W, Xu H, Zhang L, et al. Imaging manifestations of head and neck lymphatic malformations: A single-center experience of 170 surgical cases. Head Neck. 2024;46(6):1475-1485. PubMed
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