先に結論:耳下腺腫瘍の種類と画像診断(多形腺腫・ワルチン腫瘍)

耳下腺腫瘍の多くは良性で、良性では多形腺腫が最も多く、ワルチン腫瘍が2番目です。スペインの良性耳下腺腫瘍291個では、多形腺腫52.7%、ワルチン腫瘍37.6%でした(Yanes-Diaz 2023)。

多形腺腫 ワルチン腫瘍
特徴 最も多い良性腫瘍。女性にやや多い。取り残すと再発し、長く放置するとまれにがん化するため手術が基本 中高年の男性・喫煙者に多い。耳下腺の下の端(尾部)にでき、両側・多発することがある。経過観察も選ばれる
MRI T2強調像で強い高信号、境界明瞭で分葉状 T2強調像で低〜中間信号、嚢胞を含むことがある

手術の前には、腫瘍が顔面神経より外側の浅葉か内側の深葉かが重要で、MRIでは顔面神経の目印として下顎後静脈を使います。T2強調像で低信号・境界不明瞭・痛みや顔面神経まひがあるときは悪性(がん)も考えます。耳の下や頬のしこりが大きくなる・痛む・顔が動かしにくいなど気になる症状があれば、耳鼻咽喉科を受診してください。

耳下腺腫瘍総論

まず、唾液腺とは?
  • 大唾液腺:耳下腺・顎下腺、舌下腺
  • 小唾液腺:口腔・咽頭・喉頭・副鼻腔・気管に分布

にわけられる。耳下腺は大唾液腺に分類。

耳下腺腫瘍の画像診断では、局在診断と鑑別診断が大事です。

耳下腺腫瘍の局在

  • 顔面神経と耳下腺管
  • 下顎後静脈と補助線

何が大切か?耳鼻科医は何を恐れている?

★術後顔面神経麻痺。
★多形腺腫術後再発。を恐れている。

・顔面神経麻痺を避けるために
→顔面神経機能の温存を図るために必要な術式の選択に局在診断は重要。
→特に耳下腺深葉あるいは傍咽頭間隙にまで達する場合は顔面神経損傷を生じる危険性が高い。なので、それを知らせる必要がある。

参考)傍咽頭間隙由来の腫瘍では通常、手術は口腔や顎下部からのアプローチとなる。しかし、耳下腺深葉由来の腫瘍では顔面神経温存のため経耳下腺切開が必要となる。耳下腺深葉由来の腫瘍に対して口腔や顎下部からアプローチすると顔面神経損傷をきたしやすいとされる。

しかし、顔面神経は通常の画像では描出困難。Cadaver耳下腺管に造影剤注入MRIで確認。しかし、そんなことはやってられない。

・茎乳突孔(顔面神経が側頭骨の垂直部を下降してきて耳下腺に開口するところ)に脂肪組織がある。MRIではこの脂肪組織が明瞭に見える。その中に線状構造が見える。これが顔面神経。耳下腺管はそれよりも外側を走る。

・Dailianaらによると、1.5T装置・1.5mm厚の3D gradient echo法で健常者18人を撮像したところ、下顎後静脈の高さまでの耳下腺内顔面神経は72%、主な耳下腺管は66%で描出できたと報告あり(Dailiana 1997)。しかし実際はそんなにはなかなか見えない。

ではどうするか?

浅葉と深葉をいかにわけるか?解剖学的指標、想定線を決める必要があります。

以下の4つの指標が有名。

  • 耳下腺管
  • 椎体の最背側と下顎後静脈の最背側を結んだ線(The Utrecht line)
  • 顎二腹筋後腹と下顎枝を結んだ線(Facial nerve line) があるがいずれも煩雑。
  • 下顎後静脈:これが最も簡便でよい。

下顎後静脈

・顔面神経主幹は側頭骨の茎乳突孔から耳下腺に入り、耳下腺内顔面神経は下顎後静脈の外側を走行。

・下顎後静脈を指標として浅葉と深葉を区分。

・非常に簡便な指標として以前から使用されている。

浅葉・深葉を見分ける画像の指標はどれくらい正確?

下顎後静脈・Utrecht line・facial nerve lineなどの指標を手術所見と比べた21研究(2225人)のメタ解析では、深葉腫瘍の診断の感度は0.67、特異度は0.92でした。とくに筋膜から腫瘍までの最短距離(MDFT)と耳下腺内の顔面神経を直接たどる方法の成績がよく、線を少しでも越える腫瘍を深葉とみなすほうが、体積の半分以上で判断するより正確でした(Kang 2022)。

浅葉の腫瘍 深葉の腫瘍
顔面神経との位置 顔面神経より外側 顔面神経より内側
画像での目安 下顎後静脈より外側 下顎後静脈より内側、傍咽頭間隙へ広がることがある
手術で注意すること ― 顔面神経を傷つけないための術式の選択

▶動画による下顎後静脈の同定

耳下腺腫瘍の質的診断

  • 多形腺腫
  • ワルチン腫瘍
  • その他の腫瘍性病変
    • 良性腫瘍:神経鞘腫、血管腫・リンパ管腫、脂肪腫、単形腺腫・筋上皮腫、オンコサイトーマ
    • 悪性腫瘍:粘表皮癌、腺房細胞癌、腺様嚢胞癌、唾液腺導管癌、悪性リンパ腫
    • 良性病変:木村病、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、リンパ上皮性病変、鰓弓性の嚢胞、耳下腺気腫

鑑別は多く見えますが、実際は耳下腺腫瘍の約半数は多形腺腫。なので怖がることはありません。さらにワルチン腫瘍が2番目に多い腫瘍です。

耳下腺腫瘍の質的診断

・悪性は良性と比較してT2強調像で低信号の傾向あり。

・しかし、多形腺腫、ワルチン腫瘍でも等〜低信号を示すことがある。

・また悪性でも高信号を示すものがある。

・なので、信号強度だけでは、良悪性の鑑別は難しい。術前MRIの検討では、T2強調像での低信号に加え、造影後の境界不明瞭、びまん性の発育、皮下組織への浸潤、リンパ節腫大が悪性を示唆する所見と報告されています。ダイナミック造影MRIの時間信号強度曲線も役立ちます。ピーク時間120秒と洗い出し率30%を基準にすると良悪性の鑑別で感度・特異度とも91%と報告され(Yabuuchi 2003)、多形腺腫はピークが遅く、ワルチン腫瘍は早く染まって速く洗い出され、悪性腫瘍は早く染まるが洗い出しが少ない傾向です。

T2強調像の信号による良悪性の鑑別はあくまで目安と覚えておきましょう。

急に痛んで変わる良性腫瘍(梗塞)

・ワルチン腫瘍の梗塞:穿刺吸引細胞診(FNA)のあとにワルチン腫瘍が梗塞を起こすことがあり、画像でも組織でも悪性と紛らわしくなります。報告例では、FNA前の造影CTで均一に染まっていた3cmのワルチン腫瘍が、FNAの15日後に痛みを伴う腫れと開口障害で再受診し、CTで内部の造影が消え、ドプラ超音波でも血流がなくなっていました(大きさは不変)。保存的に症状は改善し、切除標本は梗塞したワルチン腫瘍で悪性はありませんでした(Puttamreddy 2026)。FNAなしで自然に梗塞を起こした良性唾液腺腫瘍5例も報告され、細胞診では壊死や異型細胞が悪性を疑わせる原因になります(Anurag 2026)。FNA歴を確認し、梗塞の可能性を報告書に書き添えます。

耳下腺腫瘍の「80%ルール」は目安

教科書的には「唾液腺腫瘍の多くは耳下腺に、耳下腺腫瘍の多くは良性で、良性の多くは多形腺腫で、多くは浅葉に発生する」という80%ルールで覚えます。ただし実際の割合は地域・時期で変わります。

・英国の一定地域の集計では、良性と悪性の比が従来の教えと合わず、大唾液腺のがんは従来考えられていたより少ないと考えられました(Bradley 2013)。

・皮膚がんの多いオーストラリアの耳下腺切除158例では、悪性が46.20%を占め、多形腺腫(29.11%)に次いで皮膚の扁平上皮癌の転移が多くみられました(Coombe 2016)。

・スペインの良性耳下腺腫瘍では、ワルチン腫瘍は男性に多く(79%)、喫煙歴が83%にあり、最近は多形腺腫に対するワルチン腫瘍の割合が増えていました(Yanes-Diaz 2023)。

参考&引用改変)
・頭頸部画像診断に必要不可欠な臨床・画像解剖 関西医大 池田耕士先生
・咽・喉頭癌読影のポイント 頸部筋膜間隙に基づく質的診断 久留米大学 小島和行先生

症例 30歳代女性 左耳下部の痛みのない腫れ

耳下腺多形腺腫 MRI T2強調像 横断像
引用:Radiopaedia(Pleomorphic adenoma – parotid)

左耳下腺(画像の向かって右)に、境界明瞭で分葉状の腫瘤があり、T2強調像で強い高信号を示しています。腫瘤の辺縁には線維性被膜を示す低信号の縁取りがみられます。この症例ではダイナミック造影で漸増性の造影効果を示し、拡散制限はなく、病理で多形腺腫と確認されました。

関連記事:耳下腺間隙とは?耳下腺・顔面神経・下顎後静脈の位置関係と浅葉・深葉の見分け方

参考文献

  1. Lee YY, Wong KT, King AD, et al. Imaging of salivary gland tumours. Eur J Radiol. 2008;66(3):419-36. PubMed
  2. Christe A, Waldherr C, Hallett R, et al. MR imaging of parotid tumors: typical lesion characteristics in MR imaging improve discrimination between benign and malignant disease. AJNR Am J Neuroradiol. 2011;32(7):1202-7. PubMed
  3. Yabuuchi H, Fukuya T, Tajima T, et al. Salivary gland tumors: diagnostic value of gadolinium-enhanced dynamic MR imaging with histopathologic correlation. Radiology. 2003;226(2):345-54. PubMed
  4. Chen J, Liu S, Tang Y, et al. Performance of diffusion-weighted imaging for the diagnosis of parotid gland malignancies: A meta-analysis. Eur J Radiol. 2021;134:109444. PubMed
  5. Puttamreddy SM, Worley L, Borak S, et al. Infarction of parotid gland Warthin tumor following fine needle aspiration: A diagnostic mimicker of malignancy. Radiol Case Rep. 2026;21(10):4514-4518. PubMed
  6. Anurag G, Ariba Z, Swati G, et al. Spontaneous Infarction of Benign Salivary Gland Tumors: A Series of 5 Cases. Diagn Cytopathol. 2026;54(10):E253-E259. PubMed
  7. Dailiana T, Chakeres D, Schmalbrock P, et al. High-resolution MR of the intraparotid facial nerve and parotid duct. AJNR Am J Neuroradiol. 1997;18(1):165-72. PubMed
  8. Kang YJ, Cho JH, Hwang SH. Diagnostic value of various criteria for deep lobe involvement in radiologic studies with parotid mass: a systematic review and meta-analysis. Radiol Med. 2022;127(10):1124-1133. PubMed
  9. Yanes-Diaz J, Riestra-Ayora J, Rodriguez-Rivero A, et al. Trend changes in the incidence of benign parotid tumours in the last 30 years in a Spanish population. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2023;280(2):855-860. PubMed
  10. Bradley PJ, McGurk M. Incidence of salivary gland neoplasms in a defined UK population. Br J Oral Maxillofac Surg. 2013;51(5):399-403. PubMed
  11. Coombe RF, Lam AK, O’Neill J. Histopathological evaluation of parotid gland neoplasms in Queensland, Australia. J Laryngol Otol. 2016;130 Suppl 1:S26-31. PubMed

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