
先に結論:子どもの「大きい胸腺」「首の胸腺」の多くは正常な胸腺か、その名残
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 胸腺とは | 心臓の前(前縦隔)にある、免疫のリンパ球(T細胞)を育てる臓器。子どもでは相対的に大きい |
| 首まで伸びている | 首のエコーを受けた子どもの約3〜5割で見られる正常な形のバリエーション |
| 異所性胸腺 | 首や甲状腺の中に離れて残った胸腺。多くは経過観察で、時間とともに小さくなる |
| 注意したいとき | 周りを押す症状(息苦しさなど)、胸腺とのつながりや見た目が典型的でないとき |
| 次にすること | 多くはエコーで確認して経過観察。判断は主治医(小児科)と相談 |
胸腺とは?子どもでは大きく見えるのが普通
胸腺(きょうせん、thymus)は胸骨のすぐ裏、心臓の前上方(前縦隔)にある臓器で、免疫の司令塔となるT細胞を育てています。乳幼児期にとくに大きく、思春期以降は脂肪に置きかわって小さくなっていきます。
小児の胸部レントゲンでは、正常な胸腺でも縦隔の腫瘤(しこり)のように見えることがあるとされ、縦隔の評価が難しい理由のひとつになっています(Williams 2003)。腫瘤が疑われたときは、どの区画(前・中・後縦隔)にあるかで鑑別をしぼり、エコー・CT・MRIで性状や広がりを確かめます(Williams 2003)。
首まで伸びた胸腺(胸腺の頸部進展)
胸腺は胎児期に首のほうから胸の中へ降りてくる臓器です。そのため、胸腺の上の端が胸骨の上縁をこえて首のほうへ伸びて見えることがあり、これは正常な形のバリエーションです。
| 報告 | 対象 | 首まで伸びた胸腺が見えた割合 |
|---|---|---|
| Koc 2022 | 首のエコーを受けた子ども220人(1か月〜18歳) | 46.8%(年齢が低いほど多い) |
| Xia 2021 | 甲状腺・下頸部のエコーを受けた子ども278人 | 約37%(年齢が低いほど多い) |
Xia 2021では、首に伸びた胸腺の見え方はさまざまで、内部は低エコー38.1%・混在37.1%・高エコー24.8%でした。位置は気管の左側が65.0%と多く、形も四角形・楕円形・三角形などばらばらでした。このように見た目が一定しないため、首の軟部腫瘤と間違えられ、不要な検査や処置につながることがあると注意が促されています(Koc 2022、Xia 2021)。
読影のポイントは、首に見えている組織が胸の中の胸腺と連続しているかをエコーで追うことです。
首や甲状腺の中に残った胸腺(異所性胸腺)
胸腺が降りてくる途中で一部が首に取り残されたものを異所性胸腺(ectopic thymus)と呼びます。首のしこりや、甲状腺エコーでの「結節」として偶然見つかることがあります。
どこに見つかる?
異所性頸部胸腺と画像で診断された小児100人(115病変)の検討では、診断の98%がエコーで行われ、場所は次のとおりでした(Purcell 2020)。
| 場所 | 割合 |
|---|---|
| 甲状腺にかかる | 44% |
| 首の中央(甲状腺とは別) | 29% |
| 縦隔まで続く | 18% |
| 顎の下(顎下部) | 8% |
甲状腺の中の胸腺のエコー所見
甲状腺内異所性胸腺の小児30人を長く追った報告では、エコーで低エコーの中に線状・点状の高エコーが多数ある、血流が乏しい、縦断像で紡錘形・横断像で円形〜多角形、という特徴が繰り返し見られました(Januś 2020)。全員の甲状腺機能は正常でした(Januś 2020)。甲状腺のしこりの一般的な見方は甲状腺結節の鑑別とエコー所見で解説しています。
その後どうなる?
- Purcell 2020:平均2年の経過で体積は平均4.3cm³から2.7cm³へ小さくなり、98%は手術せずに経過観察で問題なし。手術は2人だけ(圧迫症状1人、悪性の否定1人)
- Januś 2020:30人中12人で、平均81.7か月後にエコーで見えなくなった。特徴的なエコー所見をもとに、多くは安全に長期経過観察できると結論
症例 3歳女児 甲状腺内の異所性胸腺

引用:Radiopaedia(Ectopic thymus within the thyroid gland)
甲状腺の左葉の下の方に、境界のはっきりした楕円形の低エコー域があり、中に小さな白い点(高エコー)がたくさん見えます(緑の矢印)。症例ページでは、胸腺と同じ見え方であることから異所性胸腺とされ、典型例では針生検や手術を避けられると記載されています。
「大きすぎる」胸腺のとき
巨大胸腺過形成(massive thymic hyperplasia)
正常の構造を保ったまま胸腺が非常に大きくなるきわめてまれな状態で、多くは乳幼児・小児で報告されています。術前に胸腺や前縦隔の腫瘍と確実に見分ける方法がなく、周りを圧迫することもあるため、報告では切除して組織を確認することが勧められています(Linegar 1993)。
治療のあとに胸腺が大きくなる(リバウンド)
抗がん剤治療などで一度小さくなった胸腺が、回復期に再び大きくなることがあります(反応性過形成・リバウンド)。リンパ腫の治療で寛解した小児31人の検討では、67.7%で胸腺のリバウンドが見られ、その中でリンパ腫の再発は(中央値5年の経過で)ありませんでした。この現象を知っておくことが不要な手術や治療を避けるうえで大切とされています(Chen 2017)。胸腺過形成の画像の詳細は胸腺過形成の分類とMRI・CT画像をご覧ください。
心配が少ない場合・確認が要る場合
| 心配が少ない所見 | 確認が要る所見 |
|---|---|
| 胸の中の胸腺と連続している | 胸腺とのつながりがはっきりしない |
| エコーで線状・点状の高エコーを含む典型的な見た目 | 見た目が典型的でない、増大していく |
| 症状がない、甲状腺機能が正常 | 息苦しさ・飲み込みにくさなど圧迫の症状 |
| 経過で小さくなる | ほかに病気の治療歴があり、再発との区別が要る |
前縦隔のしこり全体の考え方は前縦隔腫瘤の鑑別診断と手順、胸腺の袋状の病変は胸腺嚢胞のCT・MRI画像診断で解説しています。
次にすること
- 首やのどのしこりは、まずエコーで胸腺と同じ見た目か、胸腺とつながっているかを確認するのが基本です(Purcell 2020)。
- 典型的な所見なら、エコーで大きさの変化を見ていく経過観察が中心です(Purcell 2020、Januś 2020)。
- 見た目が典型的でない場合や症状がある場合は、CT・MRIなどの追加検査を主治医が検討します。
息苦しさ、ぜーぜーする、飲み込みにくい、しこりが急に大きくなるなど気になる症状があれば医療機関を受診してください。具体的な検査や経過観察の間隔は、検査をした主治医に相談しましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q. 胸腺が大きいと免疫の病気なのですか?
A. 子どもの胸腺はもともと大きく、レントゲンで目立つこと自体は珍しくありません(Williams 2003)。大きさだけで病気とは判断しません。
Q. 首の胸腺は取ったほうがいいですか?
A. 異所性頸部胸腺の小児100人では98%が手術なしで経過を見られ、多くは小さくなっていきました(Purcell 2020)。手術は圧迫症状がある場合や、悪性を否定する必要がある場合に限られていました。
Q. 甲状腺のしこりと言われました。がんではないのですか?
A. 子どもの甲状腺の中に胸腺が残っていて、しこりに見えることがあります。エコーで特徴的な見た目があれば、多くは経過観察されています(Januś 2020)。ただし見た目だけで判断できないこともあるので、主治医の説明を聞いてください。
参考文献
- Koc G, Esmat HA, Coskun M. Prevalence of cervical extension of the thymus in children. Ann Med Surg (Lond). 2022;76:103483. PubMed
- Xia C, Chen S, Baikpour M, et al. Cervical Extension of the Normal Thymus in Children and Adolescents: Sonographic Features and Prevalence. J Ultrasound Med. 2021;40(11):2361-2367. PubMed
- Purcell PL, Marquez Garcia J, Zawawi F, et al. Ectopic cervical thymus in children: Clinical and radiographic features. Laryngoscope. 2020;130(6):1577-1582. PubMed
- Januś D, Kalicka-Kasperczyk A, Wójcik M, et al. Long-term ultrasound follow-up of intrathyroidal ectopic thymus in children. J Endocrinol Invest. 2020;43(6):841-852. PubMed
- Williams HJ, Alton HM. Imaging of paediatric mediastinal abnormalities. Paediatr Respir Rev. 2003;4(1):55-66. PubMed
- Linegar AG, Odell JA, Fennell WM, et al. Massive thymic hyperplasia. Ann Thorac Surg. 1993;55(5):1197-201. PubMed
- Chen CH, Hsiao CC, Chen YC, et al. Rebound Thymic Hyperplasia after Chemotherapy in Children with Lymphoma. Pediatr Neonatol. 2017;58(2):151-157. PubMed
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