扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅいのうよう)という病気があります。

漢字だらけでややこしいですが、扁桃腺炎(へんとうせん)が重症化し、周囲に炎症が及び膿(うみ)を作った状態です。

膿瘍(のうよう)ができると、なかなか抗生物質のみでは治療ができないことがあります。

今回はそんな扁桃周囲膿瘍(扁桃周囲炎)について

  • そもそも扁桃周囲膿瘍とはどんな病気なのか
  • その原因
  • 診断
  • 治療

などについて、図(イラスト)と実際のCT画像を用いてまとめました。

扁桃周囲膿瘍とは?

扁桃周囲膿瘍等は、上で述べたように扁桃腺炎(へんとうせん)が重症化し、周囲に炎症が及び膿(うみ)を作った状態です。

膿瘍(のうよう)とは膿(うみ)の溜まりのことです。

(膿を作らずに炎症が及んだ状態を扁桃周囲炎と呼びます。)

厳密には、下の画像のように咽頭収縮筋と扁桃との間の間隙に生じる膿瘍(のうよう)のことです。

この画像はMRIのT2強調像の横断像(輪切り)の正常画像です。

口蓋扁桃で起こった扁桃腺炎がその周囲(背部)に広がって、膿瘍を作った状態が扁桃周囲膿瘍です。

MRI画像に膿(うみ)のイラストをつけると次のようになります。

 

さらにこれをわかりやすくするために、上のMRIの画像から必要な部分を取り出してイラストを作ってみました。

上のように真ん中に口蓋垂(のどちんこ)があり、左右にいわゆる扁桃腺である口蓋扁桃があります。(上のイラストでは向かって右側のみ記載しています。)

そしてその後ろには上咽頭収縮筋があります。

さて、口蓋扁桃に感染が起こり、扁桃腺炎を起こし、さらに炎症が広がり、扁桃周囲膿瘍を形成すると次のようになります。

扁桃腺が腫れて、その周囲に膿(膿瘍)を作っている様子がお分かりいただけると思います。

膿瘍ができると、なかなか抗生物質のみでは治療ができないことがあります。

扁桃周囲膿瘍の原因は?

扁桃周囲膿瘍は、急性口蓋扁桃炎という扁桃腺の炎症(細菌感染)が広がった状態です。

具体的には扁桃の被膜と咽頭収縮筋という筋肉に間に炎症が広がりそこで膿瘍を形成したものです。

原因となる菌には以下のようなものがあります。

扁桃周囲膿瘍の原因菌(起炎菌)
  • β溶連菌
  • 肺炎球菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • インフルエンザ菌

 

扁桃周囲膿瘍の好発年齢は?

扁桃周囲膿瘍は若い男性に多いとされます。

好発年齢は、30歳代前半〜40歳代前半の男性に多いとされます。
小児にも起こりますが、小児は扁桃の免疫能が保たれているので、それが落ちてきたこれらの年齢に多いとされます。

なら高齢者にも多そうですが?・・・

高齢者は扁桃そのものが萎縮するため、かかりにくいとされます。

ただし、高齢者にかかった場合は、免疫能がそもそも落ちている場合は、重症化することもあるので注意が必要です。

また小児は上述のように扁桃腺そのものの免疫力が保たれているため、扁桃周囲膿瘍よりはより重症な咽後膿瘍を形成しやすいので注意が必要です。

 

扁桃周囲膿瘍の症状は?

扁桃周囲膿瘍の症状には以下のものがあります。

  • 発熱
  • リンパ節腫脹
  • 嚥下痛
  • 食事摂取困難
  • 開口障害 など

このうち開口障害は、炎症が扁桃周囲から傍咽頭間隙、そしてその横にある咀嚼筋間隙にある内側翼突筋に及ぶと生じるとされます。

この傍咽頭間隙には炎症が波及しやすいのですが、その理由はリンパの流れが原因と言われています。

また、扁桃周囲の上側と下側のどちらに膿瘍形成が起こるかで重症度が異なるとされています。
一般的に頻度が高いのは上側ですが、稀に下側に膿瘍が形成され、下咽頭や喉頭に炎症が波及することがあり、その場合、重症度の高い

  • 急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん):嚥下痛、嗄声、呼吸困難
  • 咽後膿瘍(いんごのうよう)

を引き起こすことがあります。
一方頻度の高い上側に膿瘍が形成された場合は、視診でも診断できることが多く、口を開けてもらえれば診断できることがあります。

では次に、扁桃周囲膿瘍の診断方法について見ていきましょう。

扁桃周囲膿瘍の診断は?

診断には上述のように診察がまず行われます。

視診にて、

  • 患側(炎症が起こっている側)の口蓋弓の発赤・腫脹
  • 口蓋垂(いわゆるノドチンコ)の健側(炎症が起こっていない側)への偏位

が見られます。これらは膿瘍を形成していない状態の扁桃炎においても見られるものです。

そして、膿瘍形成があるかの判断には造影CTが有用とされます。

扁桃周囲膿瘍のCT所見は?

造影CTでは、

  • 咽頭壁の腫脹。
  • 辺縁が造影される壁構造を持ち、被包化された液貯留
  • 周囲の脂肪織濃度上昇、リンパ節腫大

が見られます。特に、壁が造影される液=膿が見られるのがポイントです。さらに、炎症がどこまで波及しているのかを評価することができます。

つまり、傍咽頭間隙、咀嚼筋間隙、咽頭後間隙などに広がっていないかをチェックできます。

また、重症な急性喉頭蓋炎の診断にはレントゲンのthumb signという親指を突き上げたような喉頭蓋の腫大を見つけるのが有用とされますが、CTの矢状断を利用することによりこの評価も可能となります。

では実際の画像を見てみましょう。

症例 50歳代男性

頚部造影CTの横断像(輪切り)です。

右の扁桃の腫大及び、扁桃周囲に辺縁が造影される低吸収域を認めています。

これが膿瘍を疑う所見です。

右の扁桃周囲膿瘍と診断され、切開排膿されました。

症例 20歳代男性

続いても、頚部造影CTの横断像(輪切り)です。

右優位に両側に両側口蓋扁桃〜扁桃周囲に膿瘍形成を認めています。

腫大し著明に左側に偏位して言える様子がわかります。

これを冠状断像(前から見た図と考えてください。)で見ると次のようになります。

左側に偏位して言える様子がますますわかります。

両側の扁桃周囲膿瘍〜扁桃膿瘍と診断され、切開排膿されました。

扁桃周囲膿瘍の治療は?

治療は、

  • 抗生物質((例)ユナシン®3g+生理食塩水100mlあるいはダラシン®600mg+生理食塩水100ml)
  • 切開排膿(Chiari法)

が必要となります。

単に抗生物質のみで治療することもありますが、基本的に膿瘍には抗生剤は届かないことが多いので、その場合は切開したり吸引したり膿を物理的に取り出す必要があります。

場合によっては上の症例のように扁桃そのものを摘出することもあります。

最後に

扁桃周囲膿瘍についてまとめました。

扁桃腺炎
→炎症が周囲に波及
→扁桃周囲膿瘍
→重症化すると急性喉頭蓋炎・咽後膿瘍を起こすことがある。

という流れがおわかりいただけたでしょうか?

扁桃炎はとてもメジャーな疾患ですが、そこが重症化すると膿瘍を作ったり、さらに様々な炎症の波及を起こして命に関わることがあるということです。

扁桃炎だと診断され、抗生物質を飲んでも治らない場合や、症状が悪化した場合は、膿瘍形成の可能性も考えて早めに医療機関を再度受診するようにしてください。

参考になれば幸いです( ^ω^ )

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