体表の血管腫と血管奇形は異なる疾患
・血管腫の中で頻度の高い乳児血管腫は生後急速に増大し、幼児期に徐々に退縮する病変で、通常治療を要さない。
・一方で、血管奇形は自然退縮することはなく、疼痛・潰瘍・出血・感染・患肢の成長異常、機能障害、整容上の問題などをきたし、しばしば治療を要する。
・血管奇形の患者の中には、血管腫と診断され、いずれ縮小すると言われ放置され治療困難な状態まで増大して、血管奇形に効果のない放射線治療を施行され発育障害を来したり…など誤った診療をされるケースは少なくない。
・なので、血管腫と血管奇形は区別しなくてはならない。
・本邦では血管腫・血管奇形の疾患概念が定着せず、一定の臨床指針がない。
・欧米ではISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomalies )分類により血管腫と血管奇形は明確に区別している。
ISSVA分類
Vascular tumors | Vascular malformations |
Infantile hemangiomaCongenital hemangioma RICH(rapid-involuting) NICH(non-involuting)Other vascular tumors Kaposiform hemangioendothelioma tufted angioma sarcomaPyogenic granuloma(lobular capillary hemangioma)Hemangiopericytoma |
Simple capillary(CM) lymphatic(LM) venous(VM) arterial(AM)Combined AVM/AVF CAVM,CVB,LYM,CLVM,etc |
※血管性腫瘍の末尾に付け加えられる“oma(腫瘍)”は腫瘍細胞の増殖を意味するので、“angioma”“hemangioma”などを血管奇形に用いるのは誤っている。
乳児血管腫と血管奇形の主な相違点
乳児血管腫 | 血管奇形 | |
発症時期および経過 | 幼小児期 | 治療しなければ生涯続く |
経過 | 3期(増殖期、退縮期、退縮後) | 成長に比例して増大/少しずつ増大 |
男:女 | 1:3~9 | 1:1 |
細胞 | 内皮細胞のturnover亢進肥満細胞数の増加厚い基底膜 | 内皮細胞のturnover正常肥満細胞数正常薄い基底膜 |
増大の起点 | ない(あるいは不明) | 外傷、ホルモンの影響 |
病理 | 増殖期、退縮期、退縮後に特徴的な像GLUT-1+ | CM、VM、LM、AVそれぞれの特徴GLUT-1- |
MRI | Flow voidを伴う境界明瞭な腫瘤 | VM、LMではT2WIで高信号AVMはflow void |
治療 | 自然退縮、薬物治療、手術、レーザー | 病変に応じてレーザー、手術、塞栓術、硬化療法など |
Cambridge University Press,NewYork,p,1-18,2007
乳児血管腫(infantile hemangioma)
・内皮細胞の増殖病変。いわゆる「苺状血管腫」
・乳児の約10%に発生。女児に多い(女:男=3:1)
・生後~1-2歳の急速な増殖に続き10歳までの緩徐な退縮。
・危険因子=未熟児・高齢初産・多胎・胎盤異常など。
・GLUT-1陽性→他の類似病変との鑑別に有用。
・Kasabach-Merritt現象は併発しない。
・増生血管が皮内に限局する局面型、皮内から皮下組織まで広がる腫瘤型、皮下組織に限局する皮下型がある。 皮下型は血管奇形尾と混同されること多い。
・典型的なら経過観察のみ、画像診断は不要
・Alarnming hemangioma(視野・気道・聴力・心不全)
→薬物療法>塞栓術(シャントコントロール)
βブロッカー(血管奇形にはきかない)
・視触診で表面の赤味(苺状)、比較的境界明瞭な充実性腫瘤。
・ドップラーにて動脈音(+)。
・画像診断:境界明瞭・充実腫瘤、AVシャント(±)、石灰化(-)
・MRIにてT2高信号、栄養動脈のflow void、全体に均一な強い増強効果。
先天性血管腫
・きわめて稀
・生後の経過が異なる2種類のタイプ
ーRapid-involuting CH(RICH) 1年前後で退縮
ーNon-involuting CH(NICH) 非退縮性
・画像所見は乳児血管腫に類似する。
・発生頻度に性差なし。
・GLUT-1陰性。
・薬物療法は無効、潰瘍-出血のリスクがあれば切除。
血管奇形Vascular malformations
・CM、LM、VM→Low flow
・AVM→High flow
・Combined
※これらの細分類は非常に重要!診断と治療のいずれに関してもサブタイプによって異なるから。
毛細血管奇形Capillary malformation(CM)
・「赤あざ」「ポートワイン斑」「毛細血管拡張」等と呼ばれる最も多い血管奇形(新生児0.3-0.5%)。
・あまり画像診断の対象にならない。
・関連症候群
-Sturge-Weber syndrome
-Klippel-Trenaunay syndrome(CLVM)
-Parks-Weber syndrome(CAVM)
-CM-AVM(RASA1 遺伝子異常)
-先天性血管拡張様大理石皮斑症
-遺伝性出血性毛細血管拡張症
リンパ管奇形Lymphatic malformation(LM)
・いわゆる「リンパ管腫」
・Macrocystic(硬化療法効きやすい) 、microcystic(硬化療法効きにくい)がある。
・病変内の感染や出血を合併しやすい。
・関連症候群
-Kippel-Trenaunay syndrome(LVM,CLMV)
-Gorham syndrome
・視触診にて表面の紫褐色のリンパ水泡、軟部組織腫脹・リンパ浮腫
・ドップラーにて無音。
・画像診断にて単胞状・多胞状・海綿状・索状・綿状
・MRIにてT2WI高信号、出血成分による液面形成、嚢胞壁・隔壁の増強効果。
静脈奇形Venous malformation(VM)
・「海綿状血管腫」「筋肉内血管腫」「静脈性血管腫」等の呼称
・治療目的にIVR医に紹介される血管奇形の過半数
・稀ながら多発・家族性(約1%)
・関連症候群
– Kippel-Trenaunay syndrome(CLVM)
– Blue rubber bleb nevus syndrome
– Glomuvenous malformation(GVM)
– Maffuci syndrome
・視触診にて表面の青紫色結節や網状静脈瘤、非拍動性腫瘤(皮下青味透見)、結石・血栓触知。
・ドップラーにて通常無音・稀に静脈音(AV shunt)
・画像診断にて単胞状・多胞状・海綿状など様々、静脈関与は乏しい(まれにAV shunt)、石灰化(静脈石)が特徴的。
・MRIにてT2WI高信号-中間信号、凝固成分による液面形成、静脈石の低信号、緩徐な増強効果(乏しいことも )。
・治療は硬化療法と切除が基本。
びまん性静脈奇形Diffuse or extensive VM
・患肢から体幹部に連続し得る広範囲のVM
・しばしばKlippel-Weber症候群等と呼ばれるが、純粋なVMとして扱うべき
・脚長差(±)
・血液貯留による慢性凝固異常を合併しやすい→これをKasabach-Merritt現象と混同しやすい。
動静脈奇形Arteriovenous malformation
・動静脈吻合異常によるnidusや動静脈瘻を形成。
・血行動態的ストレスが大きく、進行例で症状悪化が著しい。
・症候例(疼痛・腫脹・潰瘍・出血・醜形)は塞栓術の対象。
・関連症候群
– Parks-Weber syndrome(CLVM)
– CM-AVM
– Cobb syndrome
– Wyburn-Mason syndrome
– Hereditary Hemorrhage Telangiectasia(HHT)
・視触診にて静脈怒張 拍動性腫瘤・腫脹、血管雑音・thrill 音感
・ドップラーにてシャント雑音。
・画像診断にてAV シャントを含む著しい血管増生、腫瘤様の充実・間質成分は目立たない、周囲の繊維脂肪変性や軟部組織肥厚
・MRIにて蛇行血管のflow void、種々の増強効果。
参考)画像診断vol.32 No.10 2012 p974-1003