先に結論:鰓裂嚢胞(側頸嚢胞)

  • 鰓裂嚢胞(さいれつのうほう)は、胎児期の首の構造(鰓裂:さいれつ)の名残でできる生まれつきの袋で、最も多いのは第2鰓裂嚢胞です。胸鎖乳突筋の前縁・顎下腺の後ろ・頸動脈の外側にでき、かぜなどで感染すると急に腫れて痛むことがあります
  • CT・MRIでは壁の薄い境界明瞭な嚢胞で、感染すると壁が厚くなり周りがにごります。第1鰓裂嚢胞は耳下腺や外耳道の近くにできます
  • 40歳以上の大人で側頸部の嚢胞を見たら、のどのがん(HPV関連の中咽頭がん)や甲状腺がんの嚢胞状のリンパ節転移を考えて精査します

※首のしこりが続くとき、とくに大人で新しくできたしこりは、耳鼻咽喉科を受診してください。

鰓裂嚢胞(Branchial cleft cyst)

鰓裂とは?読み方は?

「鰓」は「えら」のことで、鰓裂は「さいれつ」、鰓裂嚢胞は「さいれつのうほう」と読みます。胎児期には首の両側に、魚のえらに似た鰓弓(さいきゅう)とその間の溝(鰓裂)、内側のくぼみ(鰓嚢)ができ、これらが顔・首・咽頭の構造のもとになります。この過程で溝や管が閉じきらずに残ると、嚢胞・洞(片側だけ開いた管)・瘻孔(両側が開いた管)ができ、これをまとめて鰓裂異常(鰓性嚢胞)と呼びます(Adams 2016)。

第1鰓裂嚢胞〜第4鰓裂嚢胞がある。

第2鰓裂由来が約95%と大半を占め(Adams 2016)、次いで第1鰓裂嚢胞。

第3、4鰓裂嚢胞は極めてまれ。

種類 主な場所 特徴
第1鰓裂 耳下腺の周囲・外耳道・下顎角 耳下腺内のものは感染をくり返しやすく、顔面神経の近くで手術が難しい
第2鰓裂(側頸嚢胞) 胸鎖乳突筋の前縁、顎下腺の後方、頸動脈の外側 最多。扁桃窩から鎖骨上までのどこにでも生じうる
第3・第4鰓裂(鰓嚢) 頸部下方、梨状窩から甲状腺の周囲 左に多く、くり返す頸部膿瘍や甲状腺炎で見つかる

第1鰓裂嚢胞

  • 耳下腺表層、内部、深部。外耳道や下顎角部の瘻孔。
  • 小児56例の検討では、従来のWork分類で分類できたのは55%にとどまり、耳下腺の外(I型)か内(II型)かで分ける方法が提案されています。耳下腺内のものは感染をくり返しやすく手術の範囲が広くなり、再発は全体で16%でした(Wilson 2024)。

第2鰓裂嚢胞

  • 側頸嚢胞とも呼ばれる。
  • 扁桃窩から鎖骨上部までどこにでも生じうるが(Koeller 1999)、側頚部上方に多い。
  • Baileyの分類 Ⅰ型:胸鎖乳突筋前縁、Ⅱ型(最多):胸鎖乳突筋前縁で頸動脈鞘側方で顎下腺後方、Ⅲ型:内外頸動脈の間から内側に進展(きわめてまれ)、Ⅳ型:咽頭粘膜間隙内(Hande 2022)。
  • 第2鰓裂瘻孔は扁桃窩から鎖骨直上の胸鎖乳突筋前縁まで。成人の側頸部嚢胞157例の検討では25例が悪性で、40歳以上では男性の30%・女性の10%が悪性、原発は同側口蓋扁桃が最多(50%)、85%にHPV感染を認めた。穿刺吸引細胞診でのHPV-DNA検査は、最終的に鰓裂嚢胞と診断された176例では全例陰性で、嚢胞状転移との区別に役立つと報告されている。
症例 20歳代女性

左頸部にやや壁の厚い嚢胞性病変を認めています。感染のない良性の第2鰓裂嚢胞でも、造影CT・MRIで偏在性の平滑な壁肥厚(厚さ2〜4mm、多くは壁周の半分未満)がみられることが報告されています。

手術が施行され、第2鰓裂嚢胞と診断されました。

第3鰓裂嚢胞(まれ)

  • 頸動脈鞘の後方。左に多い。
  • 嚢胞性リンパ管腫と鑑別が必要。
  • 第3鰓裂瘻孔は梨状窩から下顎角レベルの頸動脈鞘後方から鎖骨直上の胸鎖乳突筋前縁まで。

第4鰓裂嚢胞(極めてまれ)

  • 瘻孔は経路が長く完全な瘻孔の報告なし。
  • 梨状窩瘻孔は繰り返す甲状腺膿瘍や頚部下部膿瘍の原因になる。左に多い。第3・第4鰓嚢由来の洞67例では68.7%が左側で、くり返す頸部下方の膿瘍や、感染を伴う皮膚の瘻孔として見つかることが多く、炎症が落ち着いた時期の造影CTや喉頭内視鏡が評価に役立ちました(Li 2019)。

壁の厚い側頸嚢胞は鰓裂嚢胞か、嚢胞状のリンパ節転移か

  • 良性でも壁は厚く見える:感染のない良性の第2鰓裂嚢胞では、厚くなった壁がT2強調像で正常リンパ節と同じ程度の信号(8例中7例)を示し、造影では軽く均一に染まりました(Kawaguchi 2019)。壁の一部が厚い、充実部があるように見えるというだけで悪性とは決められません。
  • 嚢胞状転移との違い:鰓裂嚢胞21例と咽頭扁平上皮癌の嚢胞状リンパ節転移29例を造影CTで比べた検討では、鰓裂嚢胞のほうが大きく、内部が均一で、被膜外への広がりや隔壁が少ない傾向でした。ただし画像だけでは決めきれず、穿刺吸引細胞診が要ることもあります(Goyal 2012)。
  • 「鰓性癌」と考える前に:鰓裂嚢胞そのものから発生した癌(branchiogenic carcinoma)と診断するには、正常の扁平上皮から浸潤癌への移行を組織で示し、経過を追っても他に原発巣が見つからないことが条件になります。この基準を満たした報告は系統的レビューで33例にとどまります(Shen 2026)。鰓性癌も疑われた50歳代女性の側頸部嚢胞で、PET-CTと両側扁桃摘出を行ったところ同側のp16陽性扁桃癌が見つかった報告もあり(Karatzanis 2022)、成人ではまず中咽頭(扁桃・舌根)の原発を探します。

あわせて読みたい:頸部の嚢胞性腫瘤の鑑別

参考文献

  1. Koeller KK, Alamo L, Adair CF, et al. Congenital cystic masses of the neck: radiologic-pathologic correlation. Radiographics. 1999;19(1):121-46. PubMed
  2. Kawaguchi M, Kato H, Aoki M, et al. CT and MR imaging findings of infection-free and benign second branchial cleft cysts. Radiol Med. 2019;124(3):199-205. PubMed
  3. Adams A, Mankad K, Offiah C, et al. Branchial cleft anomalies: a pictorial review of embryological development and spectrum of imaging findings. Insights Imaging. 2016;7(1):69-76. PubMed
  4. Jones GH, Chudek D, Davies K, et al. Lateral cystic neck masses in adults: a ten-year series and comparative analysis of diagnostic modalities. J Laryngol Otol. 2023;137(3):312-318. PubMed
  5. Jörtsö E, Marklund L, Harper Hysek M, et al. Fine needle aspiration cytology including the analysis of human papilloma virus (HPV) DNA enhances the diagnostic workup of solitary cystic neck lesions in a population with a high incidence of HPV positive oropharyngeal cancer. Acta Oncol. 2025;64:276-283. PubMed
  6. Goyal N, Zacharia TT, Goldenberg D. Differentiation of branchial cleft cysts and malignant cystic adenopathy of pharyngeal origin. AJR Am J Roentgenol. 2012;199(2):W216-21. PubMed
  7. Shen J, Wei X, Bian Y, et al. A Systematic Review of 33 Cases of Branchiogenic Carcinoma: Clinicopathological Features and Prognostic Outcomes. Head Neck. 2026;48(8):2087-2098. PubMed
  8. Karatzanis A, Mylopotamitaki K, Lagoudaki E, et al. Clinical Controversy Surrounding the Differential Diagnosis of Branchiogenic Carcinoma. Case Rep Otolaryngol. 2022;2022:4582262. PubMed
  9. Wilson J 4th, Jaju A, Wadhwani N, et al. Reworking Classification of First Branchial Cleft Anomalies. Laryngoscope. 2024;134(1):459-465. PubMed
  10. Hande V, Jain S, Singh CV, et al. Type III Second Branchial Cleft Cyst: A Rare Presentation. Cureus. 2022;14(8):e28568. PubMed
  11. Li Y, Lyu K, Wen Y, et al. Third or fourth branchial pouch sinus lesions: a case series and management algorithm. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2019;48(1):61. PubMed

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