
先に結論:成人の横隔膜ヘルニアは「場所」で見分ける。後ろ外側ならBochdalek、前内側ならMorgagni、事故のあとなら外傷性
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| Bochdalek孔ヘルニア | 横隔膜の後ろ外側の孔。成人では偶然見つかることが多く、中身は脂肪・大網のことが多いが、腎臓や腸が入ることもある |
| Morgagni孔ヘルニア | 胸骨の裏の前内側の孔。右側が多く、中身は大網や横行結腸。X線では心横隔膜角の影に見える |
| 外傷性 | 事故などの強い外力のあと。横隔膜の連続性の途絶、dependent viscera sign、collar signなどを探す |
| 食道裂孔ヘルニア | 食道が通る孔(食道裂孔)のヘルニアで、上の3つとは別のグループとして扱う |
| CTの要点 | 冠状断・矢状断で孔と、そこを通る脂肪・血管・腸管を確認する。腸管が入っていれば閉塞や嵌頓に注意 |
成人の横隔膜ヘルニアとは
横隔膜は胸とお腹を分ける薄い筋肉の膜です。ここに孔や裂け目があると、お腹の中の臓器が胸の中へ入り込みます。これが横隔膜ヘルニアです。横隔膜の位置や働きは横隔膜はどこにある?場所・働きと横隔膜挙上の原因で解説しています。
新生児期に重い呼吸障害で見つかる先天性横隔膜ヘルニアについては先天性横隔膜ヘルニアの症状、合併症、画像診断にまとめました。この記事では、大人になってから画像で見つかるタイプを中心に扱います。
成人で出会う横隔膜ヘルニアは、次のように整理すると頭に入りやすくなります。
| 種類 | 孔のある場所 | 入りやすいもの | 見つかり方 |
|---|---|---|---|
| Bochdalek孔ヘルニア | 後ろ外側(背中側) | 後腹膜脂肪、大網、腎臓、脾臓、腸管 | CTで偶然。腸管が入ると腹痛・息切れ |
| Morgagni孔ヘルニア(Larrey孔ヘルニアとも) | 前内側(胸骨のすぐ裏) | 大網、横行結腸 | 胸部X線の心横隔膜角の影。息切れ・腹痛 |
| 外傷性横隔膜ヘルニア | 裂けた部位(左が多い) | 胃、腸管、脾臓、肝臓 | 外傷時のCT、または時間がたってから |
| 食道裂孔ヘルニア | 食道裂孔 | 胃 | バリウム、CT、内視鏡 |
先天性のBochdalek孔・Morgagni孔のヘルニアは、あらかじめ横隔膜にある孔を臓器が通り抜ける病気です。外傷による横隔膜の裂けや、食道が通る裂孔のヘルニアとは分けて考えます(Predescu 2023)。この区別が、画像を見るときの出発点になります。
Bochdalek孔ヘルニア:背中側の孔
どれくらいある?
成人のBochdalek孔ヘルニアは、まれというほどではありません。腹部CT 13,138件を見直した検討では、22例(0.17%)で見つかり、平均年齢は66.6歳、女性が17例でした。22例の全員が無症状で、中身は73%が脂肪または大網のみ、27%は脾臓・小腸・大腸などの臓器を含んでいました(Mullins 2001)。つまり、高齢の方のCTで偶然見つかる、脂肪だけの小さなヘルニアが最も多い姿です。
右か左か
小児では左が大半ですが、成人はどうでしょうか。先ほどの検討では右が68%、左が18%、両側が14%でした(Mullins 2001)。一方、成人の右側Bochdalek孔ヘルニアについての系統的レビューでは、右は左より少なく、右側の横隔膜の閉鎖が早いことと肝臓が蓋になることがその理由と説明されています(Ramspott 2022)。症状が出て手術になった報告は左が多く、脂肪だけの偶発例は右にも多いというように、集めた対象によって傾向が変わることを知っておくと混乱しません。
CTで見るところ
- 場所:横隔膜の後ろ外側、腎臓の上の高さ。背中側の肋骨の近く
- 中身:脂肪(大網や後腹膜の脂肪)、腎臓の上極、脾臓、結腸など。連続する腹腔内の組織が、孔を通って胸の方へ入る
- 肺との境:肺底部の腫瘤に見えても、冠状断・矢状断で下の腹腔内とつながっていれば、肺の腫瘍ではない
- 腸管が入っているとき:腸管の壁の造影効果、拡張、腸間膜の血管の渦(捻れ)に注意
胸部X線で右の肺底部に丸い影があり、肺腫瘤・横隔膜の挙上・胸水などと迷うことがあります。肺炎や無気肺、胸水との見分けは胸部レントゲンで片側の肺が白いときの考え方も役に立ちます。
症例 30歳代男性 Bochdalek孔ヘルニア

引用:Hu S, et al. Cureus 2024;16(3):e56950 (Figure 1)(CC BY 4.0)
左の腹部の痛みで受診した32歳の男性です。論文の図では、左の横隔膜の後ろ外側に欠損があり、左の腎臓、胃の一部、腸が胸腔内へ入り込んでいます。左の下葉は縮んで一部が浸潤し、左の横隔膜が挙上していると記載されています。
Morgagni孔ヘルニア:胸骨の裏の孔
Morgagni孔(Larrey孔)は、胸骨のすぐ裏、横隔膜の前内側にあります。成人のMorgagni孔ヘルニア310例を集めた系統的レビューでは、女性が61.0%、平均年齢は57.4歳でした。右側が84.0%で、ヘルニアの中身は大網が74.5%、横行結腸が65.1%でした。症状は息切れなどの呼吸器症状、腹痛、吐き気・嘔吐が多く、治療は手術が標準とされています(Katsaros 2021)。
| 項目 | Morgagni孔ヘルニアの特徴(Katsaros 2021) |
|---|---|
| 性別・年齢 | 女性61.0%、平均57.4±18.4歳 |
| 側 | 右84.0% |
| 中身 | 大網74.5%、横行結腸65.1% |
| 症状 | 呼吸器症状、腹痛、吐き気・嘔吐など |
X線とCTの見え方
正面像では右の心横隔膜角に丸い、または三角形の影として見えます。心臓の脂肪(心膜脂肪織)や心膜嚢胞、横隔膜の腫瘍と迷うことがあるため、側面像で胸骨の裏に影があるかを確認します。側面像の見方は胸部レントゲン側面像の見方にまとめています。
CTでは、前内側の横隔膜に欠損があり、そこから脂肪(大網)や結腸が胸の方へ入っていることを確認します。矢状断も分かりやすく、孔と中身の連続が1枚で見えます。中身が脂肪だけなら、血管が一緒に引き込まれているかがヘルニアの目印になります。
症例 20歳代女性 Morgagni孔ヘルニア

引用:Sambhav K, et al. Cureus 2024;16(1):e52463 (Figure 1)(CC BY 4.0)
息切れと胸骨の裏の痛みが1週間続いた25歳の女性です。胸部X線では右の心横隔膜角に三角形の影があり、CTで横隔膜の前内側に約30mm×18mmの欠損と、そこから胸の中へ出た大網の脂肪が確認されました。腸管はヘルニアの中にありませんでした。
外傷性横隔膜ヘルニア:CTで探すサイン
鈍的外傷で横隔膜が裂けると、すぐに、または何か月・何年もたってから臓器が胸へ入り込みます。鈍的外傷の患者さんの0.8〜8%に横隔膜損傷が起こるとされ、症状は他の外傷に隠れやすい点が問題です(Gmachowska 2016)。
横隔膜は薄く、CTでは筋の線として途切れが見えにくいため、サインを組み合わせて探します。
| サイン | 見え方 | メモ |
|---|---|---|
| 横隔膜の連続性の途絶(discontinuous diaphragm) | 横隔膜の線が途中で切れる | 手術で確認した23例の95.7%で見られた(Panda 2014) |
| 横隔膜の肥厚 | 裂けた縁が厚く見える | 69.6%(Panda 2014) |
| collar sign | 横隔膜の孔でヘルニアの腸管がくびれる(首輪のような狭まり) | 鈍的外傷でのみ見られた(Panda 2014) |
| dependent viscera sign | 臓器が背中側の肋骨に直接接する(胃・腸が左の後ろの肋骨に、肝臓の上3分の1が右の後ろの肋骨に接する) | 左では100%、右では83%で見られ、全体の検出率は90%(Bergin 2001) |
| hump sign・band sign | 肝臓などが山のように出る・帯状にくびれる | 右側の破裂で目立った(Gmachowska 2016) |
collar signは、ヘルニアの腸管が横隔膜の裂け目でくびれて、ウエストのように細くなって見える所見です(Bergin 2001)。また、dependent viscera signは、仰向けで撮るCTで、胃・腸や肝臓が背中側の肋骨に直接接して見える所見です(Bergin 2001)。
右側はdependent viscera signの検出が83%と、左(100%)より低くなっていました(Bergin 2001)。手術で確認した12例の検討では、破裂は左が10例、右が2例でした。冠状断・矢状断の再構成で、全例でヘルニアが確認できたと報告されています(Gmachowska 2016)。ヘリカルCTやマルチスライスCTでは、右側のcollar signや肝臓表面のくぼみのような小さなサインも見つけやすくなったとされています(Iochum 2002)。外傷性横隔膜損傷の詳しい画像は横隔膜損傷(破裂)の画像診断も参照してください。
外傷から時間がたって見つかる遅発例は、胸の症状や腹部の症状で受診して初めて画像で気づかれることがあります。以前に胸や腹の大きな外傷、刺創、手術の既往があるかを確かめる意識が、読影にも役に立ちます。
食道裂孔ヘルニアとの違い
食道裂孔ヘルニアは、食道が通る孔から胃が胸の方へ入るものです。Bochdalek孔・Morgagni孔のヘルニアは、食道とは関係のない横隔膜の別の場所の孔で、非裂孔型(non-hiatal)と呼ばれます(Predescu 2023)。
| 見るところ | 食道裂孔ヘルニア | Bochdalek孔・Morgagni孔ヘルニア |
|---|---|---|
| 場所 | 縦隔の中央、食道のすぐそば | Bochdalekは後ろ外側、Morgagniは前内側 |
| 食道との関係 | 食道が裂孔を通り、胃がつながる | 食道とは離れている |
| 主な中身 | 胃 | 脂肪・大網、結腸、腎臓、脾臓など |
食道裂孔ヘルニアの詳しい分類はこの記事では扱いません。CTでは、胃が胸の中の中央に見えるのか、それとも背中側や胸骨の裏に見えるのかを、最初に確認してください。
CTを見る順番のチェックリスト
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 横隔膜の線を、後ろから前まで追って、途切れや孔がないか |
| 2 | 肺底部や心横隔膜角の「腫瘤」が、下の腹腔内とつながっていないか(冠状断・矢状断で) |
| 3 | 中身は脂肪だけか、腸管・腎臓・脾臓などの臓器か |
| 4 | 腸管が入っていれば、拡張・壁の造影不良・腸間膜の血管の捻れがないか |
| 5 | 外傷のあとなら、collar sign、dependent viscera signと臓器の損傷を探す |
| 6 | 以前の画像があれば、孔やヘルニアの大きさの変化を比べる |
症状と治療の考え方
脂肪だけが入った小さなヘルニアは、症状がなく偶然見つかります(Mullins 2001)。一方、腸管が入ると、嵌頓(はまり込んで戻らない状態)・捻転・閉塞・穿孔などが起こりえます。まれですが重い合併症で、突然の強い症状として現れることがあります(Predescu 2023)。成人のMorgagni孔ヘルニアでは、手術が標準的な治療とされています(Katsaros 2021)。手術をするか経過をみるかは、症状、孔の大きさ、中身を総合して外科で決めます。胸や腹の痛み、息切れ、吐き気が続くときは、医療機関を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 横隔膜ヘルニアは生まれつきですか?
A. Bochdalek孔・Morgagni孔のヘルニアは、生まれつきの孔が原因で、大人になって初めて見つかることがあります。事故や手術のあとに横隔膜が裂けて起こる外傷性のものは、後天性です(Predescu 2023)。
Q. 症状がなければ手術は不要ですか?
A. 腹部CTで偶然見つかった脂肪だけの小さなBochdalek孔ヘルニアは、無症状であることが多いと報告されています(Mullins 2001)。ただし、腸管が入っているかどうかで考え方が変わるため、主治医と相談してください。
Q. 胸部X線で心臓の横の影と言われました。ヘルニアの可能性はありますか?
A. 右の心横隔膜角の影は、Morgagni孔ヘルニアでも見られます。CTで、横隔膜の欠損と脂肪や腸管の連続を確認すれば区別できます(Katsaros 2021)。
Q. collar signとは何ですか?
A. ヘルニアになった腸管が、横隔膜の裂け目でくびれて細く見える所見です(Bergin 2001)。外傷による横隔膜損傷のサインのひとつです。
あわせて読みたい:肺ヘルニアとは
参考文献
- Mullins ME, Stein J, Saini SS, et al. Prevalence of incidental Bochdalek’s hernia in a large adult population. AJR Am J Roentgenol. 2001;177(2):363-6. PubMed
- Katsaros I, Katelani S, Giannopoulos S, et al. Management of Morgagni’s Hernia in the Adult Population: A Systematic Review of the Literature. World J Surg. 2021;45(10):3065-3072. PubMed
- Ramspott JP, Jäger T, Lechner M, et al. A systematic review on diagnostics and surgical treatment of adult right-sided Bochdalek hernias and presentation of the current management pathway. Hernia. 2022;26(1):47-59. PubMed
- Predescu D, Achim F, Socea B, et al. Rare Diaphragmatic Hernias in Adults-Experience of a Tertiary Center in Esophageal Surgery and Narrative Review of the Literature. Diagnostics (Basel). 2023;14(1). PubMed
- Panda A, Kumar A, Gamanagatti S, et al. Traumatic diaphragmatic injury: a review of CT signs and the difference between blunt and penetrating injury. Diagn Interv Radiol. 2014;20(2):121-8. PubMed
- Bergin D, Ennis R, Keogh C, et al. The “dependent viscera” sign in CT diagnosis of blunt traumatic diaphragmatic rupture. AJR Am J Roentgenol. 2001;177(5):1137-40. PubMed
- Gmachowska A, Pacho R, Anysz-Grodzicka A, et al. The Role of Computed Tomography in the Diagnostics of Diaphragmatic Injury After Blunt Thoraco-Abdominal Trauma. Pol J Radiol. 2016;81:522-528. PubMed
- Iochum S, Ludig T, Walter F, et al. Imaging of diaphragmatic injury: a diagnostic challenge? Radiographics. 2002;22 Spec No:S103-16; discussion S116-8. PubMed
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