腹部で見られるヘルニアとは、お腹の中の臓器が腹膜を被ったままお腹の外に脱出するものを指します。
一番有名なのは、鼠径(そけい)ヘルニアですが、それ以外にも様々な種類があります。
- 「外ヘルニアとはそもそも何なのか?」
- 「外ヘルニアにはどのような分類があるのか?またそれぞれの特徴は?」
- 「外ヘルニアの症状・治療はどのようなものか?」
そんな疑問にお答えするべく、今回は外ヘルニアについてイラストと実際のCT画像を交えながらわかりやすく解説しました。
外ヘルニアとは?内ヘルニアとの違いは?
外ヘルニアとは腹膜臓器が腹腔外へ逸脱することを指します。
一方で、内ヘルニアは、腹腔内にできた穴に腹膜臓器が入り込むことです。
イラストで表すと次のようになります。
内ヘルニアも外ヘルニアも腹部臓器が脱出するという意味では同じです。違いは、脱出する先が腹腔外か腹腔内かという違いです。
頻度としては、外ヘルニアが95%を占めると言われており、内ヘルニアは稀です。
外ヘルニアの分類は?
外ヘルニアの分類としては、まず次の2つに分けられます。
- 鼠径部に生じるもの
- 腹壁に生じるもの
鼠径部に生じる外ヘルニアは?
鼠径部に生じる外ヘルニアには以下のものがあります。
- 外鼠径ヘルニア
- 内鼠径ヘルニア
- 閉鎖孔ヘルニア
- 膀胱上窩ヘルニア
- 大腿ヘルニア
外鼠径ヘルニア
イヤーノート 2017: 内科・外科編 鼠径ヘルニアを参考に作図。
上のイラストのように、外側鼠径窩→内鼠径輪→鼠径管を経て、外鼠径輪から皮下に脱出し陰嚢、大陰唇方向に向かうヘルニアのことです。間接鼠径ヘルニア、斜鼠径ヘルニアとも呼ばれ最も多いヘルニアです。
腹膜に接する内(深)鼠径輪から皮下に通ずる外(浅)鼠径輪に至る管腔で、内部には精索(男性の場合)あるいは子宮円索(女性の場合)が通っています。
外鼠径ヘルニアは先天性要因が強く、精巣が降下する男子に多い(9:1)とされていますが、乳児期に最も多く、活動性の高い10 ~25歳が続きます。
CT画像診断のポイントは、ヘルニア門の内側に下腹壁動脈を触れることです。
症例 60歳代男性 右鼠径部の膨隆
下腹壁動脈の外側(ヘルニア門の内側に下腹壁動脈がある)に脂肪濃度の脱出を認めているのがわかります。大網の外鼠径ヘルニアを疑う所見です。
内(直接)鼠径ヘルニア
イヤーノート 2017: 内科・外科編 鼠径ヘルニアを参考に作図。
上のイラストのように、内側鼠径窩から脆弱になった腹壁を突き破って、外鼠径輪を経て皮下に脱出するヘルニアを内鼠径ヘルニアと言います。
直接鼠径ヘルニアとも呼ばれ、年輩の男性に多く、小児には少ないのが特徴です。
診断のポイントはヘルニア門の外側に下腹壁動脈を触れる。これはCTでも確認できる所見です。
下腹壁動脈の内なのか外なのかが、内と外鼠径ヘルニアを診断する上で重要なのです。
つまり、
- ヘルニア門の内側に下腹壁動脈:外鼠径ヘルニア
- ヘルニア門の外側に下腹壁動脈:内鼠径ヘルニア
となります。
閉鎖孔ヘルニア
高齢女性に多く、恥骨筋と外閉鎖筋の間の閉鎖孔に小腸などの腹部臓器が脱出したものを指します。
恥骨筋と外閉鎖筋の解剖、位置関係は以下のようになります。
高齢の痩せた多産女性に多く、閉鎖神経が圧排されて出現するHowship-Romberg症候が有名です。
それでは実際の症例を見てみましょう。
症例 80歳代女性
小腸の広範な拡張およびニボー像を認めていて、一方で結腸には拡張は認めないので、小腸イレウスを疑う所見です。
右閉鎖孔に腸管の脱出を認めており、右閉鎖孔ヘルニア嵌頓による小腸イレウスであることが診断できます。
Richterヘルニア(腸壁ヘルニア)とは?
腸管全体ではなくて、腸管壁の一部のみがはまりこんで、絞扼をきたすヘルニアで、閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアなどに見られるとされます。
腸管壁の一部のみですので、CT画像診断で指摘が困難なことが多いので注意が必要です。
膀胱上窩ヘルニア
高齢男性に多く、鼠径靭帯の前、臍動脈索の内側にヘルニアを認めます。
大腿ヘルニア
高齢女性に多く、鼠径靭帯の後・恥骨筋の前方、大伏在静脈のすぐ内側にヘルニアを認めます。
外ヘルニアと好発年齢、位置関係、血管との関係をまとめると次のようになります。
外ヘルニア | 好発年齢 | 位置関係 | 血管との関係 |
外鼠径ヘルニア | 男児 | 鼠径靭帯の前 | 下腹壁動脈の外側 |
内鼠径ヘルニア | 高齢男性 | 鼠径靭帯の前 | 下腹壁動脈の内側 |
閉鎖孔ヘルニア | 高齢女性 | 恥骨筋と外閉鎖筋の間 | – |
膀胱上窩ヘルニア | 高齢男性 | 鼠径靭帯の前 | 臍動脈索の内側 |
大腿ヘルニア | 高齢女性 | 鼠径靭帯の後 恥骨筋の前方 |
大伏在静脈のすぐ内側 |
腹壁に生じる外ヘルニアは?
腹壁に生じる外ヘルニアには以下のものがあります。
- 正中腹壁ヘルニア
- 臍ヘルニア
- 白線ヘルニア
- 側腹壁ヘルニア
- 半月状線ヘルニア
- 腹壁瘢痕ヘルニア
中でも頻度が高く重要なのが、
- 臍ヘルニア
- 腹壁瘢痕ヘルニア
の2つです。
臍ヘルニア
先天性あるいは後天性に起こります。
後天性の臍ヘルニアは腹水、妊娠、肥満などの腹部膨隆がある人に起こりやすいとされています。
オヘソの部位(臍部)に半球状の柔らかい直径1,2cmの隆起として視診においてもわかりますが、咳をしたりなど腹圧が上昇するときだけに認められることも多いとされます。
成人の場合、臍ヘルニアは、腹壁瘢痕ヘルニアよりも嵌頓しやすいとされています。
症例 50歳代 男性 臍部痛
臍部に腸管のはまり込みを認めており、臍ヘルニア嵌頓の所見です。周囲にはヘルニア水も認めています。
手術にはならずに、用手的に整復されました。
腸管が外ヘルニアとして嵌頓する
→静脈閉塞のためにうっ血がおこる
→血管壁の透過性が高まり浮腫となる
→腸管外へ液体が漏出する
→ヘルニア嚢に液体が貯留する。
この液体をヘルニア水といいます。
ですので、嵌頓が起こって静脈閉塞が起こっている事を示唆する所見とされます。
腹壁瘢痕ヘルニア
手術をした後の傷口(手術創)の感染による(二次的治癒)瘢痕からの発生がほとんどを占め、肥満や腹圧上昇時に腹部臓器が脱出するヘルニアです。
ただし、ヘルニア門(ヘルニアの入り口)が大きいのが一般的であり、腸管がはまり込む(嵌頓:かんとん)はまれとされています。
治療としては、ヘルニア門となっている手術後の瘢痕を十分に切除して、ヘルニア門周囲の筋膜を露出させ、腹壁を縫合します。
症例 70歳代男性 S状結腸癌術後、肝右葉切除後。
腹壁瘢痕ヘルニアを認めています。周囲にはヘルニア水あり。口側の腸管は拡張あり。Closed loopの形成および絞扼を疑う所見を認めていました。
用手的に解除され、後日待機的に手術が施行されました。
術中所見にて、右腎摘出術後の創直下に小腸の嵌頓ありました。
症例 60歳代男性 肝がん術後
こちらの症例も腹壁瘢痕ヘルニアを認めています。口側の腸管は拡張あり。Closed loopの形成および絞扼を疑う所見を認めていました。
外ヘルニアの症状は?
外ヘルニアが起こると、起こった部位での膨隆が認められます。
ただし、閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアなど皮膚の視診ではわからない外ヘルニアもあり、注意が必要です。
また、ヘルニア内で腸管の嵌頓が起こると、腸閉塞(機械性イレウスから絞扼性イレウス)を起こすことがあり、腹部膨満、腹痛、嘔気嘔吐といった症状が出てきます。
絞扼性イレウスになると腸管が壊死に陥りますので、敗血症から、DIC、ショック、多臓器不全といった症状が出てくることがあるので早期診断が重要です。
特に閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアは気付きにくくかつ嵌頓する頻度が高いため、腹部CT検査が必要となります。
また、特にこれらは鼠径部に認められるヘルニアであるため、CTの撮像範囲から外さないように注意が必要です。
外ヘルニアの治療は?
用手的にヘルニアを戻せる場合は戻しますが、そうでない場合は待機的手術、腸管の嵌頓を伴っている場合は緊急手術となることがあります。
最後に
腹部のヘルニアの1つである外ヘルニアについてまとめました。
- 外ヘルニアは鼠径部・腹壁に生じるものに二分される。
- 鼠径部、腹壁に生じるものにも複数の種類がある。
- 最も頻度の高い鼠径ヘルニアは内・外鼠径ヘルニアに分類される。
- 嵌頓しやすい閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアは腹部CTで撮像範囲内にしっかり入るように撮影することが重要。
といった点がポイントになります。