内ヘルニアの定義は?外ヘルニアとの違いは?
腹膜臓器が
- 腹腔内の陥凹部(腹膜窩)
- 腸間膜などの欠損部(異常裂孔)
いずれかに入り込んだ状態。
ここまでわかる急性腹症のCTより引用改変。
・外ヘルニアとの違いは?:腹膜臓器が腹腔外に脱出するのを外ヘルニアと言うのに対して内ヘルニアは、腹腔内の穴に嵌るというイメージです。
・内ヘルニアは腸閉塞手術例でも1%以下と稀。
・closed loopを形成し、腸管虚血から壊死(絞扼性イレウス)に陥ることがあるため、速やかに解除する必要があるヘルニア。
・腸間膜などの欠損部の原因としては、先天性の異常裂孔である場合と、手術や外傷などの後天的な要因で形成されるものがある。
・ヘルニアを生じた裂孔部の間膜の部位によりヘルニアの名称が異なる。診断にはへルニア門の存在する膜の部位を特定することが必要不可欠といえる。
内ヘルニアの分類は?
内ヘルニアは大きく、
- 正常構造部位へ入るもの。=網嚢孔ヘルニア
- 異常構造部位へ入るもの。
・腹膜へできた凹みへ入るもの。=腹膜窩ヘルニア
・異常な穴へ入るもの。=異常裂孔ヘルニア
に分けられる。
内ヘルニアの原因は?
- 先天性の要因:胎生期の回転異常、腸間膜固定の異常
- 後天的な要因:手術や外傷など。
※腹膜窩ヘルニアは腸管が腸間膜を失い後腹膜に固定される部位と、腸間膜を有する部位の境界付近に認められる。そこに腸間膜の固定がゆるく、腹膜窩が生じやすいから。
内ヘルニアの部位と頻度は?
内ヘルニアの部位と頻度は以下の通りです。
- 1位:傍十二指腸ヘルニア 53%(左右合わせて)
- 2位:傍盲腸ヘルニア 13%
- 3位:Winslow孔ヘルニア 8%
- 4位:腸間膜裂孔ヘルニア 8%
- 5位:骨盤部ヘルニア 7%
- 6位: S状結腸間膜ヘルニア 6%
※一般的に、腹膜窩ヘルニア、中でも傍十二指腸ヘルニアが多いが、本邦では異常裂孔ヘルニアが多いとの報告もあり。
内ヘルニアのCT画像所見は?
- step1 closed loopを探す。
- step2 ヘルニア嚢とヘルニア門を探す。
- step3 ヘルニアによって偏位している血管を同定する。
各内ヘルニア(腹膜窩ヘルニア)の特徴と同定すべき(ランドマークになる)構造
内ヘルニア | 特徴(同定するべき構造物) |
右傍十二指腸 | SMA/SMVの右背側 |
左傍十二指腸 | IMV(上腹部)の左背側 |
S状結腸間膜 | IMA/IMV(下腹部)・S状結腸の背側 |
盲腸周囲 | 盲腸・上行結腸の背外側 |
傍直腸 | 直腸の隣 |
Winslow孔 | 門脈と下大静脈の間から網嚢=胃の背側へ |
子宮広間膜裂孔 | 子宮の隣 |
腸間膜・大網裂孔 | 部位によって多彩。腸軸捻転を伴うことが多い。 |
ここまでわかる急性腹症のCTより引用改変。
腹膜窩ヘルニアとは?
- 腸管が腸間膜を失い後腹膜に固定される部位と、腸間膜を有する部位の境界付近に認められ、壁側腹膜を押しのけながら、進展する。
- その姿は、蛇が袋の中にいるかのようであり、snake in a bagと表現される。
- Treitz靭帯付近、盲腸付近のものは、中腸回転異常に関連し、中腸回転異常を伴うことあり。
腹膜窩ヘルニアの分類
- Treitz靭帯付近に生じる:①左傍十二指腸ヘルニア、②右傍十二指腸ヘルニア
- 盲腸付近に生じる:③傍盲腸ヘルニア
- S状結腸部に生じる:④S状結腸間膜ヘルニア
ここまでわかる急性腹症のCTより引用改変。
※⑤網嚢孔(winslow孔)ヘルニア(※⑤だけ正常孔ヘルニア)
異常裂孔ヘルニアとは?
ここまでわかる急性腹症のCTより引用改変。
異常裂孔ヘルニアの好発部位
腸間膜
- 小腸間膜:小腸間膜ヘルニア
- 横行結腸間膜:横行結腸間膜ヘルニア
- S状結腸間膜:S状結腸間膜ヘルニア
関連記事)腸間膜(間膜)の画像診断!間膜の理解には主要な動静脈を同定する。
大網
- 大網ヘルニア
子宮広間膜
- 子宮広間膜ヘルニア
術後重要なもの
- Roux-en-Y術後の内ヘルニア
症例:60歳代女性 小腸間膜欠損部への内ヘルニア(closed loop形成あり)
小腸間膜に異常裂孔を作ってclosed loopを形成した内ヘルニアの症例です。
単純CTの冠状断像で、ピンク色がclosed loop、水色が口側腸管、茶色が肛門側腸管です。
シェーマで書くとこんな↓感じです。
小腸間膜に穴が空いており、ここに腸管が入り込んでいました。
幸いこの症例は早期に手術され、腸管は壊死には陥っておらず、ヘルニアの解除のみを行いました。
小腸間膜ヘルニア(異常裂孔ヘルニアの1つ)による内ヘルニアと診断されました。
症例 50歳代男性 腹痛
腹部造影CTの横断像で前方に小腸イレウスを認めており、正中部にヘルニア門を認めています。
冠状断像では、逸脱した腸管の様子がよくわかります。
矢状断像ではヘルニア門及び逸脱した腸管の様子がよくわかります。
大網裂孔ヘルニア(異常裂孔ヘルニアの一つ)による内ヘルニアと診断されました。
参考文献)
・ここまでわかる急性腹症のCT 植木力先生
・マルチスライスCTによる腹部救急疾患の画像診断 山崎道夫先生
・腹部間膜と内ヘルニア(画像診断2011年10月) 大分大学 本郷哲央先生
・消化管閉塞 2.内ヘルニア(画像診断2012年12月)昭和大学藤が丘病院 竹山信之先生