門脈圧亢進では、門脈血が肝臓へ流入しにくくなるため、門脈系と体循環系をつなぐ側副血行路が発達します。
正常では肝臓へ向かう求肝性の血流が主体ですが、門脈圧の上昇に伴って血液の一部が肝臓から離れる方向へ流れ、下大静脈や上大静脈へ還流します。このような経路を遠肝性側副血行路と呼びます。
代表的な遠肝性側副血行路には、噴門部・食道静脈瘤、胃腎短絡路、脾腎短絡路、傍臍静脈、直腸静脈瘤などがあります。これらは静脈瘤出血や肝性脳症の原因となるだけでなく、BRTOやTIPSなどの治療方針にも影響するため、CTで系統的に評価することが重要です[1-4]。
先に結論:門脈圧亢進でできる主な側副血行路(一覧)
| 側副血行路 | 門脈側(どこから) | 体静脈側(どこへ) |
|---|---|---|
| 食道・噴門部静脈瘤 | 左胃静脈など | 奇静脈→上大静脈 |
| 胃腎シャント(胃静脈瘤) | 後胃静脈・短胃静脈 | 左腎静脈→下大静脈 |
| 脾腎シャント | 脾静脈 | 左腎静脈→下大静脈 |
| 臍傍静脈 | 門脈左枝の臍部 | 腹壁の静脈(浅腹壁静脈など。メデューサの頭) |
| 直腸静脈瘤 | 下腸間膜静脈(上直腸静脈) | 中・下直腸静脈→内腸骨静脈 |
側副血行路(側副路)とは、本来の血管の流れが悪くなったときに、ほかの血管がう回路として太くなったものです。門脈圧亢進では、肝臓へ入りにくくなった門脈の血液が肝臓を迂回して全身の静脈へ流れます(遠肝性)。
門脈圧亢進に伴う側副血行路とは
門脈圧亢進とは、門脈系と体循環系との間の圧較差が上昇した状態です。肝硬変が最も多い原因ですが、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、門脈血栓症、Budd-Chiari症候群などでも生じます。
門脈圧が上昇すると、もともと存在する門脈系と体循環系との吻合部が拡張し、血液が肝臓を迂回して下大静脈や上大静脈へ流れるようになります。すなわち、門脈へ戻りにくくなった血液が、別の経路を通って体循環へ還流する状態です。
- 消化管静脈瘤が破裂すると、生命に関わる消化管出血を起こす可能性があります。
- 門脈血が肝臓を通過せず体循環へ流入すると、肝性脳症の原因となることがあります。
- 側副血行路の走行は、内視鏡治療やIVR、手術の治療計画に影響します。
CTで側副血行路が確認された場合は、その存在を指摘するだけではなく、どの門脈系血管から流入し、どの体静脈へ流出しているのかを可能な範囲で評価します。
正常な門脈血流の流れ
まず、正常な門脈系の解剖を確認しておきましょう。
- 上腸間膜静脈:小腸、盲腸、上行結腸、横行結腸などからの静脈血が流入します。
- 下腸間膜静脈:下行結腸、S状結腸、上部直腸などからの静脈血が流入します。
- 脾静脈:脾臓、膵臓、胃の一部などからの静脈血が流入します。
上腸間膜静脈と脾静脈は、通常、膵頸部の背側で合流して門脈を形成します。下腸間膜静脈は脾静脈へ流入することが多いものの、上腸間膜静脈や上腸間膜静脈・脾静脈合流部へ流入する場合もあります。
胃や下部食道からの血流には、左胃静脈、右胃静脈、短胃静脈、後胃静脈などが関与します。特に左胃静脈は、食道・胃静脈瘤の形成を理解するうえで重要です。

代表的な遠肝性側副血行路
門脈圧亢進に伴って形成される主な遠肝性側副血行路には、以下があります。
- 噴門部・食道静脈瘤
- 胃腎短絡路
- 脾腎短絡路
- 傍臍静脈
- 直腸静脈瘤・直腸周囲静脈瘤
- 腸間膜静脈瘤・後腹膜側副血行路
- 精巣静脈・卵巣静脈を介する側副血行路
門脈と肝静脈が交通する肝内門脈大循環短絡もありますが、先天性または医原性の場合もあり、典型的な門脈圧亢進性の肝外側副血行路とは分けて考える必要があります。
噴門部・食道静脈瘤
噴門部・食道静脈瘤では、主に左胃静脈から流入した血液が、噴門部や下部食道の静脈叢を通り、食道周囲静脈から奇静脈・半奇静脈系を介して上大静脈へ流出します。
造影CTでは、食道胃接合部や下部食道壁内・壁外に、蛇行して造影される血管として認められます。

CT画像診断のポイント
- 下部食道壁内の蛇行血管を確認します。
- 食道外側の傍食道静脈の拡張を確認します。
- 左胃静脈の拡張と連続性を確認します。
- 胃穹窿部静脈瘤の併存を確認します。
- 造影剤の血管外漏出があれば、活動性出血を疑います。
CTは食道周囲を含めた側副血行路の全体像を評価できますが、静脈瘤表面の発赤所見などは評価できません。食道静脈瘤の治療適応や破裂リスクの評価では、上部消化管内視鏡所見との対比が必要です[1,2]。
胃腎短絡路と脾腎短絡路
胃腎短絡路
胃腎短絡路(gastrorenal shunt:G-R shunt)は、胃静脈瘤から左下横隔静脈などを経由して、左腎静脈へ流出する側副血行路です。
胃静脈瘤の流入路には、短胃静脈、後胃静脈、左胃静脈などが関与します。胃腎短絡路は、胃静脈瘤に対するBRTOなどの逆行性経静脈的治療を検討する際に重要な経路となります[4]。胃静脈瘤からの出血は、食道静脈瘤の出血より頻度は低いものの死亡率が高いとされます。治療ではTIPSによる門脈減圧とBRTOによる塞栓が選択肢となり、どちらを選ぶかには胃静脈瘤系の流出路の解剖が関わるため、CTでの胃腎短絡路の評価が重要です。
脾腎短絡路
脾腎短絡路(splenorenal shunt:S-R shunt)は、脾静脈と左腎静脈との間に形成される側副血行路です。
胃静脈瘤を介して左腎静脈へ流出する胃腎短絡路とは異なるため、CTレポートでは可能な範囲で区別して記載します。

CT画像診断のポイント
- 胃穹窿部周囲の静脈瘤を確認します。
- 短胃静脈、後胃静脈、左胃静脈などの流入路を追跡します。
- 静脈瘤から左腎静脈へ連続する流出路を確認します。
- 胃腎短絡路と脾腎短絡路を区別します。
- 複数の流出路やシャント内血栓の有無も確認します。
傍臍静脈
傍臍静脈は、左門脈臍部から肝円索に沿って臍方向へ走行し、腹壁静脈を介して上大静脈または下大静脈系へ流出する側副血行路です。
一般に「臍静脈の再開通」と表現されることがありますが、成人で拡張している血管の多くは、胎生期の臍静脈そのものではなく傍臍静脈です。
著明に発達すると、臍周囲の皮下静脈が放射状に怒張するcaput medusaeを形成します。

CT画像診断のポイント
- 左門脈臍部から肝円索裂へ向かう血管を確認します。
- 肝円索に沿って臍方向へ走行する造影血管を追跡します。
- 上腹壁静脈、下腹壁静脈、胸腹壁静脈との連続性を確認します。
- 臍周囲の皮下静脈拡張を確認します。
直腸静脈瘤・直腸周囲静脈瘤
直腸静脈瘤は、門脈系である上直腸静脈と、体循環系である中直腸静脈・下直腸静脈との吻合が拡張して形成されます。
門脈系の血液は、下腸間膜静脈から上直腸静脈へ流れ、直腸壁内または直腸周囲の静脈叢を介して、中直腸静脈や下直腸静脈から内腸骨静脈系へ流出します。

直腸静脈瘤と一般的な痔核は同一ではありません。直腸静脈瘤は門脈圧亢進によって形成される門脈―体循環側副血行路ですが、痔核は肛門クッションの支持組織や血管構造の変化を主体とします。
症例:50歳代男性、肝硬変

肝硬変があり、直腸壁から直腸周囲にかけて拡張した静脈を認めます。門脈圧亢進に伴う直腸静脈瘤および直腸周囲側副血行路が示唆されます。
CT画像診断のポイント
- 直腸壁内および直腸周囲の蛇行する造影血管を確認します。
- 上直腸静脈および下腸間膜静脈との連続性を確認します。
- 中直腸静脈、下直腸静脈、内腸骨静脈への流出を確認します。
- 下血がある場合は、造影剤の血管外漏出の有無を確認します。
直腸静脈瘤を認めても、それだけで出血源とは断定できません。活動性出血の有無、内視鏡所見、臨床症状などを総合して判断します。
そのほかの遠肝性側副血行路
腸間膜・後腹膜側副血行路
上腸間膜静脈や下腸間膜静脈の分枝から、腰静脈、腎静脈、性腺静脈、下大静脈などへ流出する側副血行路があります。
十二指腸、小腸、結腸、胆道周囲、ストーマ周囲などに形成される静脈瘤は、異所性静脈瘤と呼ばれます。腹部手術後では、癒着部や吻合部に通常とは異なる側副血行路が形成されることがあります。
精巣静脈・卵巣静脈を介する側副血行路
腸間膜静脈系から性腺静脈を介して下大静脈や左腎静脈へ流出する経路が形成されることがあります。骨盤内に蛇行する血管を認めた場合は、性腺静脈との連続性を確認します。
遠肝性側副血行路をCTで評価するポイント
1.造影CTの門脈相を中心に評価する
側副血行路は、造影CTの門脈相で門脈系や体静脈系と同程度に造影される、蛇行した管状構造として描出されます。
活動性出血が疑われる場合は動脈相を含めた多時相撮影が有用です。一方、単純CTだけでは、静脈瘤がリンパ節や腫瘤、腸管壁肥厚などに見えることがあるため注意が必要です。
2.薄いスライスと多断面再構成を使用する
側副血行路は三次元的に複雑な走行を示します。横断像だけでなく、冠状断像、矢状断像、MIP画像などを用いて連続性を確認します。
胃腎短絡路や脾腎短絡路では、冠状断像で左腎静脈への流出経路を追跡すると理解しやすくなります。
3.流入路・静脈瘤・流出路を確認する
側副血行路を見つけた場合は、次の3点を一筆書きのように追跡します。
- 流入路:どの門脈系血管から血液が流入しているか。
- 静脈瘤・短絡路:どの部位に静脈瘤やシャントが形成されているか。
- 流出路:どの体静脈へ流出しているか。
| 側副血行路 | 主な流入路 | 主な流出路 |
|---|---|---|
| 食道・噴門部静脈瘤 | 左胃静脈 | 奇静脈・半奇静脈 |
| 胃腎短絡路 | 短胃静脈・後胃静脈など | 左腎静脈 |
| 脾腎短絡路 | 脾静脈 | 左腎静脈 |
| 傍臍静脈 | 左門脈臍部 | 腹壁静脈 |
| 直腸静脈瘤 | 上直腸静脈 | 中・下直腸静脈、内腸骨静脈 |
4.門脈本幹と主要分枝も評価する
側副血行路だけでなく、以下の所見を同時に確認します。
- 門脈本幹、左右門脈枝の開存性
- 脾静脈、上腸間膜静脈の血栓や狭窄
- 門脈血栓、海綿状変化
- 脾腫
- 腹水
- 肝硬変の形態
- 肝細胞癌などの背景疾患
特に脾静脈閉塞に伴う左側門脈圧亢進症では、胃静脈瘤が形成されても、典型的な肝硬変の所見を伴わないことがあります。
5.CTだけで血流方向を断定できない場合がある
造影CTでは血管の解剖学的連続性を詳細に評価できますが、通常の単一時相CTは静的な画像であり、血流方向を直接測定する検査ではありません。
複雑な短絡路で血流方向の確定が必要な場合は、ドプラ超音波、造影超音波、時間分解能を有するMRI、血管造影などを組み合わせます。
遠肝性側副血行路を指摘する臨床的意義
静脈瘤出血
食道、胃、直腸、腸管などに形成された静脈瘤は、破裂によって消化管出血を起こす可能性があります。
CTで静脈瘤を認めた場合は、その部位、広がり、流入路、流出路を記載します。ただし、CTだけで将来の破裂リスクを正確に判定することは困難であり、必要に応じて内視鏡所見と対比します[1,2]。
肝性脳症
胃腎短絡路や脾腎短絡路などの大型門脈大循環短絡では、アンモニアを含む門脈血が肝臓を通過せず、直接体循環へ流入します。
そのため、肝機能が比較的保たれている患者でも、反復性または難治性の肝性脳症を生じることがあります。意識障害や高アンモニア血症を認める場合は、大型シャントの有無を確認することが重要です。
CTで確認される自発性門脈大循環短絡は、肝性脳症、門脈血栓症、消化管出血、死亡リスクとの関連が報告されています[6,7]。
肝硬変ではどのくらい側副血行路(シャント)が見つかる?
CTを撮影した肝硬変222例の検討では、自発性門脈大循環短絡(SPSS)が63.5%(141例)にみられ、径1cm以上の大きなシャントは18%(40例)でした。シャントがあることには門脈血栓症とChild-Pugh分類Cが、1cm以上の大きなシャントには肝性脳症の既往と門脈血栓症が関連していました。シャントのある患者さんは死亡率が高く(部分分布ハザード比1.9)、肝性脳症も多くみられました[6]。
肝硬変のCTでは、側副血行路は「あるかないか」だけでなく、種類と太さまで記載しておくと、その後の合併症の評価や治療方針の検討に役立ちます。
IVR・手術前の血管地図
胃静脈瘤に対するBRTO、PARTO、CARTO、TIPS、経皮経肝的塞栓術などでは、側副血行路の正確な把握が不可欠です。
治療前CTでは、主な流入路と流出路だけでなく、副流出路、シャント内血栓、門脈本幹の開存性、ほかの静脈瘤の有無も確認します。
読影で見落とさないためのチェックポイント
- 肝硬変を認めたら、食道胃接合部と胃穹窿部を確認します。
- 左胃静脈、短胃静脈、後胃静脈の拡張を確認します。
- 脾門部から左腎静脈周囲にかけてシャントを検索します。
- 肝円索裂から臍方向へ走行する傍臍静脈を確認します。
- 骨盤まで撮影されている場合は、直腸壁・直腸周囲を確認します。
- 門脈、脾静脈、上腸間膜静脈の血栓や狭窄を確認します。
- 横断像だけでなく、冠状断像と矢状断像で血管の連続性を追跡します。
- 大型シャントがある場合は、肝性脳症との関連を考慮します。
読影のポイント:側副血行路を見つけたら、「どこから入り、どこに静脈瘤を形成し、どこへ流出するのか」を一筆書きで追跡します。
まとめ
門脈圧亢進では、門脈系の血液が肝臓を迂回して体循環へ流れる遠肝性側副血行路が形成されます。
代表的な経路には、噴門部・食道静脈瘤、胃腎短絡路、脾腎短絡路、傍臍静脈、直腸静脈瘤があります。
CT画像診断では、造影CTの門脈相と多断面再構成画像を用いて、流入路・静脈瘤・流出路を連続的に評価することが重要です。
遠肝性側副血行路は、静脈瘤出血、肝性脳症、門脈血栓症と関連し、IVRや手術の治療方針にも影響します。側副血行路の存在だけでなく、走行、太さ、血栓、門脈系の開存性まで具体的にレポートへ記載しましょう。
関連記事:門脈の解剖とCT画像所見のポイント
よくある質問
遠肝性側副血行路とはどのような血管ですか?
門脈圧の上昇によって、門脈血が肝臓から離れる方向へ流れ、門脈系から体静脈系へ還流する経路です。食道・胃静脈瘤、胃腎短絡路、傍臍静脈などが代表的です。
胃腎短絡路と脾腎短絡路は同じですか?
異なります。胃腎短絡路は胃静脈瘤を介して左腎静脈へ流出する経路です。脾腎短絡路は、脾静脈と左腎静脈が交通する経路です。
CTで食道静脈瘤が見えれば内視鏡は不要ですか?
不要とはいえません。CTは食道壁内・食道周囲の静脈や側副血行路全体を評価できますが、粘膜表面の発赤所見などは評価できません。治療適応の判断には内視鏡所見が重要です。
傍臍静脈と臍傍静脈は同じですか?
同じ血管を指します。英語のparaumbilical veinの訳で、「傍臍静脈(ぼうさいじょうみゃく)」「臍傍静脈」のどちらの表記も使われます。成人の門脈圧亢進で拡張するのは多くの場合この傍臍静脈で、胎生期の臍静脈そのものの再開通とは区別されます。
求肝性と遠肝性の違いは何ですか?
求肝性(hepatopetal)は肝臓へ向かう正常な門脈血の流れ、遠肝性(hepatofugal)は肝臓から離れる方向の流れです。門脈圧が上がると門脈血の一部が側副血行路を通って肝臓を迂回し、遠肝性の流れになります。
大型シャントがあれば門脈圧が下がるので安全ですか?
必ずしも安全ではありません。大型シャントは門脈系を減圧する一方、門脈血が肝臓を迂回するため、肝性脳症や門脈血栓症などと関連する可能性があります。
あわせて読みたい:食道静脈瘤のCT所見
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