大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)は、高齢の方が転んだあとに股関節の付け根が痛くて歩けなくなる、代表的な骨折のひとつです。同じ「股関節の骨折」でも、関節包の中で折れる大腿骨頸部骨折とは、画像で見るポイントも治療の考え方も違います。
この記事では、頸部骨折との比較は別の記事にゆずり、転子部骨折そのものを画像でどう読むか(安定型か不安定型か、AO分類の考え方、外側壁、レントゲンで見えない潜在骨折とMRI)に絞って、実際の論文の画像を使って解説します。
頸部骨折と転子部骨折の違い・治療の選び方は大腿骨頸部骨折と転子部骨折の違い、頸部骨折のGarden分類は大腿骨頸部骨折のX線・CT・MRI画像診断で解説しています。
先に結論:大腿骨転子部骨折の画像診断
- 転子部骨折は大腿骨の大転子と小転子のあいだ(関節包の外)の骨折で、高齢者の股関節骨折のおよそ半分を占めると報告されています(Chang 2022)
- 画像で一番大事なのは安定型か不安定型かです。小転子・後内側の骨片、外側壁の厚さ・骨折、骨折線の向き(逆斜骨折)を見ます
- AO/OTA分類(31A)は、A1(単純な2パート)・A2(多骨片で外側壁が薄い)・A3(逆斜・横骨折=転子間骨折)の順に不安定になる、と覚えると整理しやすいです
- レントゲンで大転子だけの骨折に見えても、MRIでは多くが転子間まで骨折線が伸びています。3D-CTでも見落とすことがあり、疑わしいときはMRIを考えます(Kim 2015・Chung 2016)
- 強い外傷なしに成人で小転子だけが剥がれているときは、骨転移による病的骨折を疑います(Phillips 1988)
※転んだあとに股関節や太ももの付け根が痛くて立てない・歩けないときは、早めに医療機関(整形外科)を受診してください。
大腿骨転子部骨折とはどんな骨折か
場所:大転子と小転子のあいだ
大腿骨の上の端は、骨頭→頸部→転子部→転子下→骨幹部と続きます。転子部は外側の出っ張り(大転子)と内側の出っ張り(小転子)を含む部分で、ここに中殿筋・小殿筋(大転子)や腸腰筋(小転子)が付いています。部位の名前は大腿骨の場所(骨頭・頸部・転子部)で図解しています。
頸部骨折は関節包の中(関節内)、転子部骨折は関節包の外(関節外)の骨折です。転子部骨折は小転子や後方の骨片を伴う多骨片の骨折になりやすく(Chang 2022)、骨折のずれを支える構造(内側・外側の壁)がどれだけ残っているかが治療成績を左右します。
誰に起きやすいか
多くは高齢者の転倒など軽い外力で起こります。転子部骨折は高齢者の股関節骨折のおよそ50%を占め、高齢化とともに増え続けていると報告されています(Chang 2022)。
若い人では交通事故や転落などの強い外力で起こり、骨盤骨折や大腿骨骨幹部骨折を合併することがあります。また骨粗鬆症の薬を長く使っている方の転子下〜骨幹部の骨折は、非定型大腿骨骨折として別に考えます。
画像の見方① レントゲン(X線)
まず撮るのは股関節の正面と側面
最初の検査は股関節(骨盤)の正面像と、患側の側面像です。正面像では次の順に見ると見落としが減ります。
- 大転子から小転子へ向かう骨折線があるか(転子間線に沿う斜めの線)
- 小転子が別の骨片になっているか、後内側の皮質が残っているか
- 外側壁(大転子の下、外側の皮質)が薄くなっていないか、割れていないか
- 骨折線の向き:内側上から外側下へ下る逆斜骨折や、横骨折ではないか
- 頸部・転子下・骨盤などほかの骨折がないか、骨転移を疑う溶骨像がないか
レントゲンの読む順番の基本は骨のレントゲンの見方(ABCS)、股関節周辺で見落としやすい骨折は見逃しやすい骨折まとめも参考にしてください。
外側壁の厚さとは
AO/OTA分類の2018年版では、外側壁の厚さが分類の基準に入りました。正面像で大転子の無名結節(innominate tubercle)から3cm下の点を起点に、135°上向きに骨折線まで測った距離を外側壁の厚さとし、20.5mm以下を「外側壁が弱い(incompetent)」とします(Chang 2022)。外側壁が薄いと、スライディングヒップスクリュー(DHS)で固定したあとに骨頭側の骨片が内側へずれる(medialization)危険が高くなると考えられています(Chang 2022・Kokoroghiannis 2012)。
画像の見方② 分類:安定型と不安定型、AO/OTA分類の考え方
安定型・不安定型を分けるもの
転子部骨折の「安定」とは、整復して固定したあとに、体重をかけても骨片どうしが支え合ってずれにくいことを指します。画像では次の所見があると不安定型と考えます。
| 所見 | なぜ不安定か |
|---|---|
| 小転子・後内側の骨片(多骨片) | 内側の支えがなくなる |
| 外側壁が薄い・割れている | 骨頭側の骨片が外へ逃げ、内側へずれやすい |
| 逆斜骨折・横骨折 | 骨折線に沿って骨幹部が内側へずれやすい |
| 転子下への骨折線の伸び | 固定具の支えが弱くなる |
総説では、スライディングヒップスクリューは標準的な固定法である一方、横骨折・逆斜骨折や、外側壁が術中・術後に壊れる多骨片骨折では失敗しやすく、髄内釘がこうした内側へのずれを防ぐと述べられています(Kokoroghiannis 2012)。
AO/OTA分類(31A)を3段階で覚える
| 型 | 名前 | 特徴 |
|---|---|---|
| A1 | 単純な転子貫通骨折 | 2パート。外側壁が保たれている(20.5mmより厚い) |
| A2 | 多骨片の転子貫通骨折 | 小転子などの骨片があり、外側壁が弱い(20.5mm以下) |
| A3 | 転子間骨折 | 逆斜骨折・横骨折。外側壁は最初から割れている |
3D-CTを撮った550例の転子部骨折を分けた研究では、A1が20%、A2が62.5%、A3が15.5%で、内側前方の皮質まで粉砕した型(この研究で提案された拡張分類のA4)が2%でした(Chang 2022)。同じ研究では、A1はDHSで安全に治療でき、A2には短い髄内釘、A3には長い髄内釘がすすめられています(Chang 2022)。

引用:Chang et al. Front Surg 2022(Figure 8)
AO/OTA分類A2.2にあたる転子部骨折の3D-CTです。後方の大転子(1)、転子間稜(2)、小転子(3)、後内側皮質(4)をひとつながりに含む、大きなバナナ状の後方骨片が見えます(出典:Chang et al. Front Surg 2022, Figure 8, CC BY 4.0)。
画像の見方③ CT:骨片の数と向きを立体で見る
レントゲンで転子部骨折と診断がついても、CTを撮ると小転子や後方の骨片の大きさ、外側壁の割れ方、頸部への骨折線の伸びが立体的にわかります。上の分類研究も、骨片の評価にはCTと3D再構成が役に立つと述べています(Chang 2022)。
特に注意したいのは、骨折線が骨片どうしを「かみ合わせて」しまい、牽引しても戻らない型です。小転子が上下2つに割れる2パートの転子間骨折では、上半分が骨頭側の骨片について腸腰筋に引かれ、整復できない(irreducible)型になると報告されています(Hu 2023)。

引用:Hu et al. Geriatr Orthop Surg Rehabil 2023(Figure 2)
小転子が二分された転子間骨折の症例です。(A)術前のX線、(B)冠状断CTで外側上方の骨のかみ合い(矢印)、(C)大腿骨頸部の後方皮質は保たれ、骨頭頸部の骨片が外旋しています。(D)3D-CT、(F)腸腰筋腱が骨頭頸部の骨片の内側に付いている様子、(G〜M)術中整復と術後・1年後の画像です(出典:Hu et al. Geriatr Orthop Surg Rehabil 2023, Figure 2, CC BY-NC 4.0)。
画像の見方④ MRI:レントゲンで見えない潜在骨折
「大転子だけの骨折」に見えたら
転んだあと股関節が痛いのに、レントゲンでは大転子の小さな骨折しか見えない、ということがあります。7つの研究・110例をまとめた解析では、レントゲンで大転子単独骨折とされた例のうち、MRIでも本当に大転子だけだったのは11例(10%)で、99例(90%)は転子間まで骨折線が伸びていました。手術が必要になったのは55%でした(Kim 2015)。

引用:Kim et al. BMC Musculoskelet Disord 2015(Figure 2)
75歳女性。(a)正面のX線では左の大転子にわずかにずれた骨折だけが見えます(矢印)。(b)MRIでは大転子から小転子へ向かう骨折線が、内側皮質までの半分を超えて伸びているのがわかります(出典:Kim et al. BMC Musculoskelet Disord 2015, Figure 2, CC BY 4.0)。
3D-CTで「なし」でも安心できない
大転子骨折23例を調べた研究では、3D-CTだけで評価した9例はすべて転子間骨折なしと判断されましたが、CTとMRIの両方を撮った14例のうち13例でMRIにより潜在性の転子間骨折が見つかりました。著者らは、3D-CTは潜在性転子間骨折の診断精度がとても低く、MRIで確かめることをすすめています(Chung 2016)。

引用:Chung et al. Hip Pelvis 2016(Figure 2)
68歳女性、転倒後の左股関節痛。(A)初回のX線は大転子単独骨折、(B)3D-CTでは転子間骨折が見えません。(C)冠状断T1強調像で大転子から小転子へ向かう骨折線が明らかになり、(D)コンプレッションヒップスクリューで固定されました(出典:Chung et al. Hip Pelvis 2016, Figure 2, CC BY-NC 4.0)。
股関節の潜在骨折全体ではCTとMRIのどちらか
大腿骨近位部の潜在骨折に対するCTのメタ解析(13研究・1,248人)では、感度94%、特異度100%でした。ただしCTで異常がなくても臨床的に骨折が疑われ続けるときはMRIを撮るべき、とまとめています(Kellock 2019)。12研究・1,819人を比べた別のメタ解析でも、CTもMRIも有用ですが、MRIのほうが感度・特異度とも高いと報告されています(Qu 2024)。
MRIでは冠状断のT1強調像で骨髄の中を走る低信号の線として骨折線を探し、脂肪抑制T2強調像やSTIRで周りの骨髄浮腫を確認します。MRIの撮り方の基本はMRIの基本シーケンス(部位別)、CTとMRIの使い分けはCTとMRIの違いも参考にしてください。
見逃しやすい点・まぎらわしいもの
- 恥骨・仙骨の骨折:股関節の痛みでも、実際には骨盤の脆弱性骨折のことがあります。骨盤脆弱性骨折(FFP)や骨盤骨折も一緒に見ます
- 大腿骨頭の軟骨下脆弱性骨折:骨頭の中の骨折はレントゲンで見えにくく、MRIで見つかります(SIF・SIFFHの記事)
- 中殿筋腱・小殿筋腱の断裂:大転子のまわりの痛みは腱の断裂や滑液包炎でも起こります(大転子疼痛症候群のMRI)
- 成人の小転子単独の剥離:外傷による小転子の剥離骨折は主に思春期のスポーツ選手に見られ、成人ではまれです。強い外傷のない成人の小転子剥離は、否定されるまで骨転移によるものと考えるべきだと報告されています(Phillips 1988)。溶骨性の変化は溶骨性骨転移と造骨性骨転移の違い(病的骨折)も参照してください
- 人工関節が入っている人:ステムの周りの骨折は別の分類で考えます(大腿骨ステム周囲骨折とVancouver分類)
- レントゲンで異常がない股関節痛の考え方は単純X線で異常のない股関節痛の鑑別にまとめています
治療方針に関わる画像所見
転子部骨折は多くが手術(骨接合)で治療されます。画像の役割は、手術をするかどうかよりも、どの固定具を選ぶか・どこまで固定するかを決める材料を出すことです。一般的には次のように整理されます。
- 外側壁が保たれた単純な2パート(A1):スライディングヒップスクリューで治療できる(Chang 2022)
- 小転子などの骨片があり外側壁が弱い(A2):短い髄内釘がすすめられる(Chang 2022)
- 逆斜骨折・横骨折(A3)や転子下への伸び:長い髄内釘がすすめられ、スライディングヒップスクリュー単独は失敗しやすい(Chang 2022・Kokoroghiannis 2012)
- 潜在性の転子間骨折:MRIで骨折線の長さを確認し、手術か保存かを判断する材料にする(Kim 2015・Chung 2016)
術後のレントゲンでは、スクリューの位置、骨片のずれ、スクリューが骨頭を突き抜けていないかを見ます。固定具のチェックポイントは人工関節・プレート・スクリューのレントゲンの見方で解説しています。
Q&A
Q1. 転子部骨折と頸部骨折は、レントゲンでどう見分けますか?
A. 骨折線が大転子と小転子のあいだ(転子間線のあたり)を斜めに走っていれば転子部骨折、それより骨頭寄りの細い部分(頸部)で折れていれば頸部骨折です。境目に近い「頸基部骨折」もあり、迷うときはCTで骨折線の位置を確かめます。違いの詳細は頸部骨折と転子部骨折の違いをご覧ください。
Q2. レントゲンで「大転子のひびだけ」と言われました。MRIは必要ですか?
A. 研究では、レントゲンで大転子だけの骨折に見えた例の90%で、MRIでは転子間まで骨折線が伸びていました(Kim 2015)。3D-CTでも見落とされることがあります(Chung 2016)。痛みで歩けない、体重をかけると痛いといった場合は、MRIを撮るかどうかを担当医と相談してください。
Q3. 「不安定型」と言われたら治りにくいのですか?
A. 不安定型とは、固定したあとに骨片がずれやすい形という意味で、骨がつかないという意味ではありません。骨片の数や外側壁の状態に合わせて固定具を選ぶことで対応します。具体的な手術方法は担当の整形外科医が画像を見て判断します。
参考文献:
- Chang SM, Wang ZH, Tian KW, et al. A sophisticated fracture classification system of the proximal femur trochanteric region (AO/OTA-31A) based on 3D-CT images. Front Surg. 2022;9:919225. PubMed
- Kokoroghiannis C, Aktselis I, Deligeorgis A, et al. Evolving concepts of stability and intramedullary fixation of intertrochanteric fractures–a review. Injury. 2012;43(6):686-93. PubMed
- Hu SJ, Chang SM, Du SC, et al. Two-Part Intertrochanteric Femur Fractures with Bisection of the Lesser Trochanter: An Irreducible Fracture Pattern. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2023;14:21514593231153827. PubMed
- Kim SJ, Ahn J, Kim HK, et al. Is magnetic resonance imaging necessary in isolated greater trochanter fracture? A systemic review and pooled analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2015;16:395. PubMed
- Chung PH, Kang S, Kim JP, et al. Occult Intertrochanteric Fracture Mimicking the Fracture of Greater Trochanter. Hip Pelvis. 2016;28(2):112-9. PubMed
- Kellock TT, Khurana B, Mandell JC. Diagnostic Performance of CT for Occult Proximal Femoral Fractures: A Systematic Review and Meta-Analysis. AJR Am J Roentgenol. 2019;213(6):1324-1330. PubMed
- Qu H, Bian L. Comparison of CT and MRI in diagnosing occult hip fracture: a systematic review and meta-analysis. Am J Transl Res. 2024;16(7):2745-2755. PubMed
- Phillips CD, Pope TL Jr, Jones JE, et al. Nontraumatic avulsion of the lesser trochanter: a pathognomonic sign of metastatic disease? Skeletal Radiol. 1988;17(2):106-10. PubMed
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