中殿筋腱断裂 股関節の外側の痛みとMRIの読み方

股関節の外側が痛くて整形外科にかかったら、「滑液包炎」と言われました。MRIの結果には「中殿筋腱の断裂」とも書いてあります。この2つは何が違うのですか?
股関節の外側の痛みは「大転子疼痛症候群」とまとめて呼ばれ、滑液包の炎症だけのこともあれば、大転子に付く殿筋の腱が傷んでいることもあります。MRIでは滑液包の水だけでなく、腱そのものの状態を見るのが大切です。見る順番と、断裂という言葉の受け止め方を整理します。

先に結論:外側の痛みの原因は「滑液包」より「殿筋の腱」のことが多い。MRIは腱の連続性・周囲の骨・筋の脂肪変性を順に見る

項目 ポイント
どんな病気か 大転子(太ももの付け根の外側の出っ張り)に付く中殿筋・小殿筋の腱が傷む。中高年の女性に多い
MRIで見る所 腱の信号と連続性、滑液包の水、大転子の骨の変化、筋の脂肪変性の4点
滑液包炎との関係 滑液包の水は腱の傷みに伴って見えることが多く、水だけで原因とは決められない
注意点 腱症(傷んで変性した状態)はMRIで見つかっても痛みがないことがある。症状と診察所見を合わせて判断する

大転子疼痛症候群とは

大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome:GTPS)は、股関節の外側、大転子のまわりの痛みと圧痛をまとめて呼ぶ名前です。滑液包炎(trochanteric bursitis)、殿筋の腱の病変(abductor tendon pathology)、外側型の弾発股(external coxa saltans)などを含む幅広い病態で、まず問診と診察で診断する疾患とされています(Pianka 2021)。

以前は大転子部の痛みの多くが滑液包炎と考えられてきました。しかしMRIとエコーの総説では、大転子疼痛症候群は滑液包炎というより、小殿筋や中殿筋の傷みが原因であることが多いと述べられています。殿筋腱の障害は中年から高齢の女性に多く(Kong 2007)、女性に多く年齢とともに増えるという報告もあります(Kenanidis 2020)。

解剖:中殿筋・小殿筋の腱はどこに付くか

中殿筋と小殿筋は骨盤の外側(腸骨)から出て、大転子に付く筋肉です。歩くときに骨盤が傾かないよう支える「外転筋」として働きます。大転子は面が分かれていて、小殿筋の腱は主に前面、中殿筋の腱は外側面と後上方の面に付きます。筋の起始・停止の詳しい解説は中殿筋(中臀筋)の起始停止・作用・神経支配とCT画像の解剖、大転子に付く筋と滑液包の位置関係は大転子・小転子に付着する筋の一覧と滑液包のMRI解剖にまとめています。

病変の場所にも傾向があります。臨床試験に参加した殿筋腱障害の204人のMRIとX線を評価した報告では、中殿筋腱では前方の部分、小殿筋腱では後方の部分が最も傷んでいました(Grimaldi 2025)。「中殿筋腱の断裂」といっても腱全体が切れているとは限らず、前方の一部の線維から始まるタイプが多いと知っておくと読みやすくなります。

MRIで見る順番

MRIの所見は、腱そのものを見る「直接所見」と、周囲の変化を見る「間接所見」に分けて整理できます(Kong 2007)。

順番 見る所 読み方
1 腱の信号と太さ 腱の肥厚と信号上昇は腱症(変性)の所見。腱の連続性は保たれている
2 腱の連続性 腱の一部に水の信号が入れば部分断裂。腱の付着部が途切れて引き込まれていれば全層断裂
3 大転子の骨 付着部の骨髄浮腫、表面の不整、骨棘などの骨の変化(間接所見)
4 滑液包 大転子の外側・後方の水。炎症の指標だが、腱の傷みに伴うことも多い
5 筋の脂肪変性・萎縮 中殿筋・小殿筋の筋腹に脂肪が入り込む。慢性の経過を示す

(Kong 2007を参考に、解剖の一般的な知識を加えて整理)

腱の傷みの分類は、腱周囲炎・腱症・部分断裂・全層断裂といった直接所見と、滑液包の液体・骨の変化・筋の脂肪萎縮といった間接所見に分けて報告されています(Kong 2007)。肩の腱板断裂と同じ考え方で、中殿筋の付着部炎・付着部症(エンテーシス)の画像とあわせて見ると、腱症から断裂までが一連の変化だと理解しやすくなります。

MRIの診断精度:偽陽性に注意

手術所見を基準にした7つの研究のシステマティックレビューでは、殿筋腱断裂のMRIの感度は33〜100%、特異度は92〜100%、陽性的中率は71〜100%で、偽陽性(実際は断裂でないのに断裂と読む)が多いと報告されています。大転子より上方(近位側)の高信号は断裂との関連が強いとされました(Westacott 2011)。

保存治療が効かず手術で中殿筋腱の補強を受けた45人(女性41人・男性4人、平均62.9歳)で、術前のX線・エコー・MRI・骨シンチを手術所見と比べた研究があります。MRIは感度98%、陽性的中率91.1%と最も信頼できる単独の検査でしたが、偽陽性は問題として残りました。X線の感度は21%にとどまりました(Van Quickenborne 2025)。X線で異常がなくても、腱の傷みは否定できません。X線で異常のない股関節痛の考え方は単純X線で異常のない股関節痛の鑑別診断も参考になります。

症例 大転子の骨棘と中殿筋腱の不連続(論文の図)

大転子の骨棘を示す股関節X線正面像(右)と、中殿筋の脂肪変性・滑液包の液体・殿筋腱の不連続を示す股関節T2強調MRI(左)
引用:Van Quickenborne D, et al. J Clin Med. 2025;14(19):6714 (Figure 1) CC BY 4.0(加工なし)・PubMed

左(A)は右股関節のX線正面像で、大転子の遠位に骨棘があり、皮質が不整です(矢印)。右(B)は左股関節のT2強調像で、中殿筋(GMed)の脂肪変性、液体が溜まった滑液包、途切れた殿筋腱が示されています。論文の図の説明では、AとBは別の側の股関節として記載されています。X線の骨の変化と、MRIの腱・筋・滑液包の変化を並べて見られる図です。

滑液包炎との違い

大転子の外側には複数の滑液包があり、炎症が起きると水が溜まります。MRIで滑液包の水が見えると「滑液包炎」と書かれますが、殿筋腱の傷みがあるときに滑液包の水が見えることも多く、水の存在だけでは原因を決められません。滑液包の解剖と画像は股関節周囲の滑液包と滑液包炎のCT・MRI画像診断で説明しています。

所見 考えること
滑液包の水だけ、腱は正常 滑液包炎が主体。ただし腱の信号を見直す
腱の肥厚・信号上昇(連続性あり) 腱症。症状と合わせて判断する
腱の一部に水の信号、付着部の骨の変化 部分断裂。大転子疼痛の原因として有力
腱の連続性の消失+筋の脂肪変性 全層断裂と慢性化。外転筋力の低下を伴うことがある

痛みがなくても所見がある:MRIの限界

MRIで腱の異常が見つかっても、いつも痛みの原因とは限りません。寛骨臼と大腿骨のぶつかり(FAI)の関節鏡手術を受けた2,851股関節(2,452人)のMRIを調べた研究では、中殿筋の異常は871股関節(30.6%)に見つかりました。このうち症状のないものが457股関節(16.0%)で、その大半は腱症(408股関節、14.3%)でした。症状のない部分断裂は49股関節(1.7%)にとどまり、症状のない全層断裂はありませんでした(Meghpara 2020)。

つまり、腱症は症状がなくても見つかるのに対し、部分断裂や全層断裂は症状と結びつきやすいということです。一方、殿筋腱障害の204人の検討では、MRIの変化の重さと痛み・機能・障害の程度は関連しませんでした(Grimaldi 2025)。MRIの重症度だけで痛みの強さは予測できないため、診察所見と合わせて考えます。

他の原因との見分け

外側の痛みには、股関節の変形性関節症、FAI、腰椎の狭窄なども紛らわしい原因として挙げられます(Pianka 2021)。診察では、片脚立ちの30秒保持やhip lag signが外転筋の機能不全の診断に有用とされています(Kenanidis 2020)。画像を読むときは、関節内(関節唇・軟骨・骨頭)も同じ検査で見て、外側の所見が唯一の原因と決めつけないことが大切です。

筋の脂肪変性は何を意味するか

殿筋腱の断裂が慢性化すると、筋腹に脂肪が入り込みます。この脂肪変性の程度は、肩の腱板と同じGoutallier-Fuchs分類で段階づけられ、修復手術の成績の予測にも使われます(Kenanidis 2020、Looney 2022)。殿筋腱断裂の修復手術を受けた201人・206件の4研究をまとめた解析では、脂肪変性が高度な群は、脂肪変性が軽い群や無い群に比べて、術後のHarris Hip Scoreの改善が有意に小さいという結果でした。ただし痛みのスコアの改善は脂肪変性の程度と関係しませんでした(Looney 2022)。

画像診断では、断裂の有無だけでなく、脂肪変性の程度をレポートに書いておくと、治療方針を考える助けになります。

治療の考え方と画像の役割

殿筋腱症(腱の変性)の治療は保存的なものが中心で、症状に応じた薬、活動の調整、リハビリなどが使われます。手術は、部分断裂・全層断裂のうち保存治療で改善しないものが対象となります(Kenanidis 2020)。大転子疼痛症候群の多くは保存治療でよくなるとされ、慢性で保存治療に反応しない場合に手術が検討されます(Pianka 2021)。治療法の選択は主治医と相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 「中殿筋腱の断裂」と言われました。腱が全部切れているのですか?
A. 部分断裂と全層断裂があり、部分断裂のほうが多く報告されています。204人の殿筋腱障害の検討では、99か所の断裂のうち78%が部分断裂、22%が全層断裂でした(Grimaldi 2025)。レポートでどちらかを確認するとよいでしょう。

Q. MRIで滑液包炎と書かれていれば、腱は大丈夫ですか?
A. そうとは言えません。滑液包の水は腱の傷みに伴って見えることも多く、腱の信号と連続性を別に評価する必要があります(Kong 2007)。

Q. X線で異常なしと言われましたが、腱は問題ないのでしょうか?
A. X線は腱を直接見られません。手術を受けた45人の検討では、X線の感度は21%でした(Van Quickenborne 2025)。痛みが続くときはMRIやエコーで腱を見る意味があります。

Q. MRIで腱症があると言われましたが、痛みはありません。
A. 症状のない腱症は見つかることがあります(Meghpara 2020)。気になる症状があれば、整形外科など医療機関に相談してください。

あわせて読みたい:骨芽細胞腫(osteoblastoma)とは

参考文献

  1. Kong A, Van der Vliet A, Zadow S. MRI and US of gluteal tendinopathy in greater trochanteric pain syndrome. Eur Radiol. 2007;17(7):1772-83. PubMed
  2. Westacott DJ, Minns JI, Foguet P. The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging and ultrasonography in gluteal tendon tears–a systematic review. Hip Int. 2011;21(6):637-45. PubMed
  3. Kenanidis E, Kyriakopoulos G, Kaila R, et al. Lesions of the abductors in the hip. EFORT Open Rev. 2020;5(8):464-476. PubMed
  4. Meghpara MB, Bheem R, Shah S, et al. Prevalence of Gluteus Medius Pathology on Magnetic Resonance Imaging in Patients Undergoing Hip Arthroscopy for Femoroacetabular Impingement: Asymptomatic Tears Are Rare, Whereas Tendinosis Is Common. Am J Sports Med. 2020;48(12):2933-2938. PubMed
  5. Van Quickenborne D, Van Der Straeten C, Burssens A, et al. What Imaging Technique Correlates Best with Surgical Findings in Gluteus Medius Tendon Tears? J Clin Med. 2025;14(19):6714. PubMed
  6. Grimaldi A, Nasser A, Mellor R, et al. An examination of imaging findings in patients with clinically diagnosed gluteal tendinopathy: a secondary analysis of a randomised clinical trial. Arch Orthop Trauma Surg. 2025;145(1):347. PubMed
  7. Looney AM, Bodendorfer BM, Donaldson ST, et al. Influence of Fatty Infiltration on Hip Abductor Repair Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. 2022;50(9):2568-2580. PubMed
  8. Pianka MA, Serino J, DeFroda SF, et al. Greater trochanteric pain syndrome: Evaluation and management of a wide spectrum of pathology. SAGE Open Med. 2021;9:20503121211022582. PubMed

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