
先に結論:偶発所見は「全部を追う」のでも「全部を無視する」のでもなく、臓器ごとの基準で振り分ける。画像の報告書に書かれていたら、自己判断せず主治医と相談する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 考え方 | 偶発所見の多くは良性だが、追加検査や経過観察が必要な所見も含まれる。ACRの白書は、臓器別に「経過観察を終えてよい所見」と「次の対応を考える所見」を分けるアルゴリズムを示している |
| 臓器別の出典 | 肺結節はFleischner 2017、副腎はACR 2017、腎はACR 2018とBosniak 2019、肝はACR 2017、膵嚢胞はACR 2017、甲状腺結節はACR 2015 |
| 注意 | 数字や期間は臓器・年齢・既往で変わる。この記事は考え方の地図で、個別の方針は主治医が決める |
| 受診の目安 | 報告書に「精査」「経過観察」と書かれていたら主治医に相談。強い腹痛、発熱、血尿、体重減少などがあれば早めに受診 |
偶発所見とは:なぜ「全部は追わない」のか
偶発所見(incidental finding)は、検査の目的と関係なく見つかった異常のことです。たとえば腹痛でCTを撮ったときに見つかる腎臓の嚢胞や、胸部CTで見つかる甲状腺の結節がこれにあたります。
ACR偶発所見委員会は、腹部CTで見つかる所見の管理指針として2010年に白書を出し、その後、臓器ごとに更新しています(Mayo-Smith 2017)。更新版の考え方は共通で、患者の特徴と画像の特徴で枝分かれし、最後に「良性または進行がゆっくりで、経過観察をやめてよい」という結論か、次の対応の推奨に至る形です(Mayo-Smith 2017、Gore 2017、Megibow 2017)。目的は、不要な検査や治療の連鎖を避けながら、見逃したくない病変を拾うことです。
臓器別の早見表
次の表は、各白書の考え方を、一般の読者向けに「心配の少ない所見」「追加検査・フォローを考える所見」「詳しい記事」の3つに分けて整理したものです。個々の数値(大きさ・CT値・間隔)は、各白書と各記事で確認してください。
| 臓器 | 心配の少ない所見 | 追加検査・フォローを考える所見 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| 肺結節 | 石灰化した結節、肺内リンパ節など良性パターンを示すもの。小さな結節ではフォロー不要となる大きさの下限がある | サイズが大きい、すりガラス成分がある、前回より大きくなっている、複数ある、がんの危険因子がある | Fleischner 2017、多発肺結節、石灰化を伴う肺結節、肺内リンパ節 |
| 副腎 | 脂肪成分を多く含む腺腫を示す所見(単純CTで低い濃度)、骨髄脂肪腫、嚢胞 | 大きい、形がいびつ、造影で洗い出しが遅い、がんの既往、ホルモン異常の症状 | 副腎腫瘍(副腎腺腫)、骨髄脂肪腫、副腎嚢胞、副腎転移 |
| 腎臓 | 水と同じ濃度で壁の薄い単純性嚢胞(Bosniak分類で低いクラス) | 壁や隔壁の肥厚、造影される部分、内部が複雑な嚢胞、造影される充実性の腫瘤 | 腎嚢胞とBosniak分類、Bosniak分類2019、非定型腎嚢胞、腎腫瘍の画像診断 |
| 肝臓 | 単純性の嚢胞、典型的な血管腫 | がんの既往・肝硬変がある患者の結節、造影パターンが典型的でない結節 | 肝嚢胞、肝血管腫、肝の嚢胞性疾患の鑑別、肝転移 |
| 膵嚢胞 | 小さく、壁や結節がなく、主膵管の拡張がない嚢胞(年齢とともに増える) | 大きい、壁在結節、主膵管の拡張、増大傾向、家族歴 | 膵嚢胞とは、膵嚢胞の鑑別、IPMN、膵管拡張 |
| 甲状腺結節 | 小さな結節の大半は良性で、小さな偶発がんは進行がゆっくり | 大きい、石灰化など超音波で悪性を疑う所見、リンパ節腫大、周囲への浸潤が疑われる | 甲状腺の結節をCTで指摘されたら、甲状腺結節の鑑別とエコー所見、甲状腺のCT画像診断 |
臓器ごとの考え方と出典
肺結節:Fleischner 2017
Fleischner Societyの2017年の指針は、CTで偶発的に見つかった肺結節の管理指針です。2005年と2013年の指針を改訂し、経過観察を始める大きさの下限が引き上げられ、間隔が1つの数字ではなく幅で示されるようになりました。固形結節とすりガラス結節(部分充実を含む)は1つの表にまとめられ、複数の結節についての推奨も加わっています(MacMahon 2017)。間隔は、危険因子や本人の希望に応じて医師と患者が選べる幅を持たせた形です。個々の基準はFleischnerガイドライン2017とは?の表で確認してください。
副腎:ACR 2017
ACRの副腎白書(2017年)は、CTまたはMRIで偶発的に見つかった副腎の腫瘤について、患者の特徴と画像の特徴で枝分かれし、「良性または進行がゆっくりで経過観察を終えてよい」か、次の対応に進むかを示すアルゴリズムです(Mayo-Smith 2017)。副腎腫瘤の大半は機能しない腺腫ですが、ホルモンを出す腫瘍やがんの転移もあるため、血液・尿の検査や、がんの既往の確認を合わせて行うことがあります。CT値の基準は副腎腫瘍(副腎腺腫)に、がんの既往があるときは副腎転移の画像診断を参照してください。
腎:ACR 2018とBosniak 2019
ACRの腎白書(2018年)は、CTで偶発的に見つかった腎の腫瘤について、追加の画像検査、経過観察、専門医への紹介が必要になる画像所見をフローチャートで示しています(Herts 2018)。嚢胞性病変の細かい分類はBosniak分類で行います。2019年のBosniak分類の改訂提案は、MRIを組み込み、あいまいだった画像用語に定義を与え、より多くの病変を低リスクのクラスに入れられるようにするものです。嚢胞性の腎細胞癌は過剰に診断・治療されてきた可能性が高く、嚢胞性の腫瘤は充実性に比べ良性が多く、悪性でも悪性度が低いと述べられています(Silverman 2019)。なお、この改訂は検証が必要な提案として発表されています。分類の詳細は腎嚢胞のBosniak分類2019とは?と腎嚢胞とは?を参照してください。
肝:ACR 2017
ACRの肝白書(2017年)は、CTで偶発的に見つかった肝の病変を、患者の特徴(がんの既往や肝硬変の有無など)と画像の特徴で分類し、「良性と評価できる」か、具体的な経過観察の推奨に至るアルゴリズムです(Gore 2017)。嚢胞や典型的な血管腫は多くが心配のいらない所見ですが、がんの既往があると転移も考えて対応が変わります。詳しくは上の表の記事を参照してください。
膵嚢胞:ACR 2017
ACRの膵嚢胞白書(2017年)は、CTまたはMRIで偶発的に見つかった膵嚢胞を、患者の特徴と画像の特徴で分類し、良性・進行がゆっくりで経過観察を終えられる場合か、次の対応を示すアルゴリズムです。作成には放射線科医に加え、消化器内科医と膵臓外科医が加わっています(Megibow 2017)。頻度は、他の目的で撮った成人外来の腹部造影CT 2,832件のうち2.6%に偶発の膵嚢胞があり、40歳未満には見つからず、80〜89歳では8.7%でした(Laffan 2008)。年齢とともに増える所見です。鑑別は上の表の記事を参照してください。
甲状腺結節:ACR 2015
CTやMRI、核医学検査、超音波で偶発的に見つかる甲状腺結節について、ACRの甲状腺偶発所見委員会は2015年に白書を出しました。偶発的な甲状腺結節の大半は良性で、小さな偶発がんは進行がゆっくりであること、過剰な精査が費用と患者のリスクを増やしうることを踏まえた方針です(Hoang 2015)。見つかったら超音波で精査するかどうかの判断が中心になります。詳しくは上の表の記事を参照してください。
白書の発行年と対象の一覧
| 臓器 | 指針 | 発行年 | 対象の検査 |
|---|---|---|---|
| 肺結節 | Fleischner Society(MacMahon) | 2017 | CT |
| 副腎 | ACR偶発所見委員会(Mayo-Smith) | 2017 | CT・MRI |
| 腎臓 | ACR偶発所見委員会(Herts) | 2018 | CT |
| 腎嚢胞 | Bosniak分類の改訂提案(Silverman) | 2019 | CT・MRI(提案) |
| 肝臓 | ACR偶発所見委員会(Gore) | 2017 | CT |
| 膵嚢胞 | ACR偶発所見委員会(Megibow) | 2017 | CT・MRI |
| 甲状腺結節 | ACR甲状腺偶発所見委員会(Hoang) | 2015 | CT・MRI・核医学・超音波 |
古い版と新しい版を混ぜて使わないよう、報告書にどの基準で書かれているかを確認することが大切です。なお、国や学会で基準は異なり、日本の指針の数値はこの記事では扱いません。
ほかの臓器の偶発所見
CTでは、ほかにも多くの所見が偶発的に見つかります。胆嚢ポリープ、胃粘膜下腫瘍、脾臓の腫瘍、PETで甲状腺・耳下腺・腸に集積があると言われたときなどは、それぞれの記事を参照してください。
受診・相談の目安
画像の報告書に「要精査」「経過観察」「追加の検査を推奨」などと書かれていたら、自分で判断せず、主治医と相談してください。報告書の文言は、専門医向けに書かれていて、緊急度が分かりにくいことがあります。次のような症状があるときは、報告書を待たずに早めに受診してください。
- 強い腹痛・背中の痛み、発熱を伴う
- 血尿が出る、尿が出にくい
- 体重の減少、食欲低下が続く、白目や皮膚が黄色い
- 急な動悸・発汗・頭痛と高血圧の発作(副腎のホルモン異常が疑われるとき)
- 首の腫れ、声がれ、息苦しさ
気になる症状があれば医療機関へ相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 偶発所見はがんですか?
多くは良性です。たとえば偶発の膵嚢胞は成人外来の2.6%で見つかる比較的よくある所見で(Laffan 2008)、偶発の甲状腺結節も大半は良性とされています(Hoang 2015)。ただし、画像の特徴によって追加の検査が必要になるため、報告書の判断は主治医と相談してください。
Q2. 経過観察と言われたら何をするのですか?
臓器と所見ごとに、何を、いつ、どの検査で確認するかが決まっています。ACRの白書は、経過観察を終えてよい所見と、次の対応に進む所見をアルゴリズムで示しています(Mayo-Smith 2017、Gore 2017)。間隔や期間は主治医の指示に従ってください。
Q3. 前の年の健診と基準が違うと言われました
肺結節はFleischner 2005・2013から2017で、経過観察を始める大きさの下限が引き上げられ、間隔も幅で示されるようになりました(MacMahon 2017)。腎嚢胞のBosniak分類も2019年の改訂提案があります(Silverman 2019)。基準の版が変わると推奨も変わりうるので、どの版で書かれているかを確認してください。
Q4. 詳しい検査で被ばくは増えませんか?
追加の検査にCTを使うかMRIや超音波にするかは、所見と状況で選ばれます。ACRの白書の中にも、CTだけでなくMRIで対応する枠組みがあります(Mayo-Smith 2017、Megibow 2017)。検査の選択は主治医と相談してください。
参考文献
- MacMahon H, Naidich DP, Goo JM, et al. Guidelines for Management of Incidental Pulmonary Nodules Detected on CT Images: From the Fleischner Society 2017. Radiology. 2017;284(1):228-243. PubMed
- Mayo-Smith WW, Song JH, Boland GL, et al. Management of Incidental Adrenal Masses: A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2017;14(8):1038-1044. PubMed
- Herts BR, Silverman SG, Hindman NM, et al. Management of the Incidental Renal Mass on CT: A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2018;15(2):264-273. PubMed
- Silverman SG, Pedrosa I, Ellis JH, et al. Bosniak Classification of Cystic Renal Masses, Version 2019: An Update Proposal and Needs Assessment. Radiology. 2019;292(2):475-488. PubMed
- Gore RM, Pickhardt PJ, Mortele KJ, et al. Management of Incidental Liver Lesions on CT: A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2017;14(11):1429-1437. PubMed
- Megibow AJ, Baker ME, Morgan DE, et al. Management of Incidental Pancreatic Cysts: A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2017;14(7):911-923. PubMed
- Hoang JK, Langer JE, Middleton WD, et al. Managing incidental thyroid nodules detected on imaging: white paper of the ACR Incidental Thyroid Findings Committee. J Am Coll Radiol. 2015;12(2):143-150. PubMed
- Laffan TA, Horton KM, Klein AP, et al. Prevalence of unsuspected pancreatic cysts on MDCT. AJR Am J Roentgenol. 2008;191(3):802-807. PubMed
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