腹部超音波検査(腹部エコー検査)を受けると、
「膵管の拡張が見られます。」
「3mm程度の膵管拡張あり。」
などと指摘され、精密検査が必要になることがあります。
*上のイラストでは側臥位ですが、通常膵臓を見るときは仰臥位(仰向け)です。
膵臓はがんなどの病態があった場合に、なかなか初期では発見されず、進行してから発見されることが多いことで知られています。
ちょっとした膵管の拡張所見が膵がんの初期であることを示唆することもあるので注意が必要です。
とはいえ、「膵管拡張=膵がん」というわけでは全くありません。
そこで今回は、
- 膵管拡張とはそもそも何か?
- 膵管拡張の原因
- 膵管拡張の診断
について、図(イラスト)や実際のCT、MRI画像を用いてまとめました。
膵管拡張とは?
まず膵管には膵液が流れています。
膵管の分枝が合流して最も太い主膵管(しゅすいかん)を形成します。
膵管の拡張というのは、この主膵管の拡張を通常は指します。
膵管拡張とはなんらかの原因により、膵液が流れる膵管が拡張してしまうことです。
3mm以上を膵管拡張とするケースもありますが、厳密な定義・基準はありません。
ただし、この「3mm以上」は人間ドック学会でも腹部超音波検査のマニュアル1)においても採用されており、目安にはなりそうです。
人間ドック学会のマニュアルでは、膵体部で3mm以上をひっかけ、判定区分はD2(要精検)と判定されます。
正常の主膵管のMRIの画像は次のようになります。
症例 60歳代男性 スクリーニング
MRIのT2強調像の横断像(輪切り)です。
膵臓の真ん中を白い線が通っています。
これが主膵管です。
正常の場合、膵管はこれくらい細いものです。
では、そんな主膵管が拡張してしまう原因にはどのようなものがあるのかを次に見ていきましょう。
膵管拡張の原因は?
膵管拡張の原因は大きく以下の3つの病態に分けられます。
- 膵臓の萎縮
- 主膵管もしくは乳頭部に病変があり、膵管を塞いでいる
- 膵管内に粘液が排出される
一つ一つ見ていきましょう。
膵臓の萎縮
膵臓が萎縮することが原因となり主膵管が拡張する場合です。
- 加齢性変化
- 慢性膵炎
などがこの原因となります。
膵臓に線維化が起こり、それにより二次的に膵管が引っ張られて拡張します。
慢性膵炎の場合は、主膵管内に結石(膵石)を伴いそれが原因で、より上流の膵管が拡張することもあります。
膵臓の石灰化と慢性膵炎の関係はこちらにまとめました→膵臓の石灰化は慢性膵炎?イラストとCT画像でわかりやすく解説!
慢性膵炎が原因で膵管拡張を伴っている症例を見てみましょう。
症例 80歳代男性
腹部造影CTの横断像です。
膵臓は全体的に萎縮しています。
また、主膵管の著明な拡張を認めています。CTでは黒く見えるのが膵管です。
膵頭部には石灰化を認めています。膵石を疑う所見です。
この膵石が原因で、閉塞性膵炎をおこして膵が萎縮し、膵管が拡張していることが予想されます。
慢性膵炎と診断されました。
主膵管もしくは乳頭部に病変がある
主膵管や主膵管の十二指腸の開口部である乳頭部に病変があり、それが原因で膵液が排出できなくなり、停滞した結果、主膵管が拡張する場合です。
慢性膵炎とも関係の深い膵石に加えて、
- 膵がん
- 乳頭部がん
- 慢性膵炎による膵管の狭窄
- 乳頭部炎
などが、膵液の流れを滞らせる原因となります。
当然最も注意しなければならないのは膵がんです。
膵がんの症例のCT、MRI画像を見てみましょう。
症例 50歳代男性 膵炎を繰り返す
腹部造影CTの横断像です。
膵体部にて主膵管の拡張を認めています。
膵頭部から膵鉤部にかけて不整な腫瘤を認めています。
周囲の脂肪織濃度上昇も認められます。
膵がんを疑う所見であり、膵がんが膵管に浸潤して、より上流の膵管が拡張していることが予測されます。
さらに肝内胆管から総胆管の拡張も認めていました(非提示)。
MRCPにより膵管や胆管の評価が行われました。
主膵管、肝内胆管から総胆管の拡張を認めています。
主膵管は総胆管と合流するはずですが、この合流部が見えずに、ともに途中で途絶しています。
これから主膵管と総胆管を巻き込む形で腫瘍が存在していることが予測されます。
膵がんの総胆管・膵管浸潤と診断されました。
膵管内に粘液が排出される
最後に膵管内に粘液が排出される病変がある場合です。
これは膵管内粘液性乳頭腫瘍(すいかんないねんえきせいにゅうとうしゅよう)と呼ばれるもので、アルファベットでIPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasmの頭文字をとったもの)と表記されます。
読み方はそのまま「アイピーエムエヌ」であり、実際の医療の現場では、日本語よりもこちらの呼び方で呼ばれる方が多いです。
これは、その名の通り、膵管内に粘液を排出する腫瘍です。
- 主膵管型
- 分枝型
- 混合型(主膵管型+分枝型)
の3種類に分けられ、主膵管型や混合型の場合は悪性の可能性がより高いため、精査や定期的なフォローが必要となります。
このIPMNの混合型の症例を見てみましょう。
症例 80歳代女性
造影CTの横断像です。
主膵管の著明な拡張を認めています。
また膵は萎縮しています。
MRCPでは、その全体像が明らかです。
膵体尾部を中心に主膵管の拡張および分葉状の嚢胞性病変を多数認めています。
MRIのT2強調像の横断像です。
CTやMRCPで認めたように、膵体尾部を中心に主膵管の拡張および分葉状の多房性嚢胞性病変を認めています。
明らかな壁在結節や充実部位は認めませんでしたが、手術が施行され、IPMNの混合型(悪性所見はなし)と診断されました。
膵管の拡張が見られた場合の精密検査は?
通常、スクリーニングなどの腹部エコー検査で膵管拡張が見つかることが多く、その後の精密検査(二次検査)としては、
- 腹部造影CT
- MRCP
- 超音波内視鏡検査
- ERCP
などが行われます。
腹部造影CT
造影剤を用いた腹部のCT検査です。
とくに膵臓にタイミングを合わせて膵臓ダイナミックCTが撮影されます。
膵がんの場合、ダイナミックの早期相で周りの正常膵実質と比較して造影効果(染まり)が悪い(これを乏血性といいます)のが特徴です。
そのような性質を示す腫瘤がないかを主にチェックします。
ただし、このような性質を示さない膵がんやCTでは同定できないような小さな膵がんもあるため注意が必要です。
そのほか、
- 膵管の拡張
- 膵臓周囲の脂肪織濃度上昇の有無
- 周囲のリンパ節の腫大の有無
- 膵臓以外の腹部臓器
などをチェックすることができます。
MRCPなどのMRI検査と比べて、腹部全体を評価することができるのもCT検査の特徴です。
ダイナミックCTとはどのようなものなのかについてはこちらにまとめました。→【画像あり】ダイナミックCT検査とは?造影CTとの違いは?
MRCP
MRCPはMRI検査の一つであり、胆管や膵管といった液体が流れる部分を抽出して評価することができる検査です。
それに加えて通常の腹部のMRIも撮影することで、
- 胆管の拡張・狭窄の有無
- 膵管の拡張・狭窄の有無
- 膵嚢胞の有無
- 膵臓の腫瘍の有無
などを評価することが可能です。
CT検査と比較して、腹部全体を見ることはできませんが、膵管の拡張の程度や、IPMNなどの評価にはこちらのほうが優れています。
MRCP検査についてはこちらに詳しくまとめました。→【画像あり】MRCPとは?検査方法・前処置・わかる病気・看護まとめ!
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査(EUS:endoscopic ultrasonography)は内視鏡(胃カメラ)を用いて、十二指腸まで進み、そこから超音波検査を行います。
体表から当てる通常の腹部超音波検査(腹部エコー検査)よりも、臓器のすぐ近くで超音波を当てるため、5mm程度の小さな膵がんの検出も可能といわれます。
さらに、そこから組織を生検することもでき、EUS-FNAB(EUSガイド下穿刺吸引細胞組織診)と呼ばれます。
ERCP
超音波内視鏡検査と同じように内視鏡を用いて十二指腸まで進み、十二指腸の乳頭部から膵管や胆管にガイドワイヤーを進めて造影する検査です。
検査後の急性膵炎(ERCP後膵炎)などを起こすことがあり、侵襲性が高いためMRCP検査登場後、出番が減ってきてはいますが、
- 膵液細胞診
- 膵管生検
といった膵がんの早期発見には重要な検査をすることができるため、行われることがあります。
ERCPについてはこちらにまとめました。→【まとめ】ERCPとは?検査の手順や合併症について
膵管の拡張を認めるが異常がない場合もある?
主膵管の拡張を認める=病気がある、というわけではありません。
先ほども述べたように、膵臓の加齢性変化により、線維化が進み二次的に拡張することもあります。
また、人によってはとくに異常は見つからないのに拡張が目立つ場合もあります。
その場合は、画像で定期フォローとなります。
また再検査をすると、膵管の拡張は目立たなくなったということもあります。
実際に膵管の拡張を指摘されて、精密検査では異常が認められなかった症例を見てみましょう。
症例 70歳代男性 腹部エコーで膵管の拡張を指摘された
上のように腹部エコー検査で、主膵管は3.3mmと拡張を指摘されました。
造影CTの横断像です。
確かに主膵管の拡張がやや目立ちますが、閉塞機転となるような所見は認められませんでした。
その後のフォローにおいても同様です。
膵管拡張の症状は?
膵管が軽度拡張していても無症状であることが多いです。
その原因が、膵石や膵がんの場合は、膵管を狭窄〜閉塞してしまうことがあり、それにより膵管の内圧が上がり、膵炎を起こしてしまうことがあります。(これを閉塞性膵炎といいます。)
膵炎を起こすと
- 上腹部痛
- 背部痛
- 発熱
- 悪心嘔吐
などの症状が起こることがあります。
また、膵がんなどで総胆管にも浸潤が及ぶと総胆管にも狭窄をきたしてしまい、
- 黄疸
などの症状を起こすことがあります。
(このようにして起こる黄疸を閉塞性黄疸といいます。)
最後に
膵管の拡張について実際の画像を交えながらまとめてみました。
- 人間ドック学会のマニュアルでは、膵体部で3mm以上の膵管拡張を精密検査への基準としている
- 膵管が拡張する原因は大きく3つに分けられる
- 膵がん以外にも加齢性変化や慢性膵炎、IPMNなどが原因になる
- 精密検査としては、CT、MRCP、EUSなどが中心となる
- 精密検査でも異常が認められないこともある
という点がポイントです。
わずかな膵管の拡張が早期膵がんの発見のきっかけとなった、ということもあります。
指摘された場合は、必ず専門科(消化器内科、胃腸科など)を受診しましょう。
参考になれば幸いです<(_ _)>
参考サイト)
1)腹部超音波健診判定マニュアル 人間ドック学会