人間ドックなどで症状がない状態で、頸部エコー(超音波検査)やCT、MRIなどの検査でたまたま甲状腺に腫瘤や結節が発見されることがあり、これを偶発甲状腺腫瘤と言います。
この偶発甲状腺腫瘤が見つかることは、日常診療で思ったより頻度が高く、多くは甲状腺腫や嚢胞など良性病変なのですが、中には甲状腺癌といった悪性のものが含まれます。
そこでこのような甲状腺腫瘤や結節を認めたときに
- 悪性の確率はどれくらいあるのか?
- どういう時に悪性の確率が上がるのか?
- どのように検査を進めればいいのか?
という点についてまとめました。
甲状腺に腫瘤がたまたま見つかる頻度・確率は?
甲状腺に腫瘤や結節が偶然に発見される頻度は検査により異なり、報告によると、
- 頸部エコー(超音波検査)で20-67%
- 胸部CTで約25%
- 頸部CT/MRIで16-18%
- FDG-PETで1.2-4.3%
で見つかるといわれています(J Am Coll Radiol 12:143-150,2015)。
これを見てお分かりのようにかなり頻度は高いです。
症例 50歳代 女性 胸部CT
胸部CTを撮影した際に、甲状腺左葉にLDA(低吸収域:low density area)が見つかりました。
症例 40歳代 女性 胸部CT
スクリーニング目的で胸部CTを撮影した際に、甲状腺右葉に粗大なLDA(低吸収域:low density area)が見つかりました。
こんな感じで胸部のCT検査で甲状腺結節や腫瘤はかなり頻度が高く検出されます。
CTでは4人に1人程度で見つかるといわれています。
見つかった甲状腺腫瘤が悪性である確率は?
さらにたまたま見つかった甲状腺の腫瘤が悪性または悪性の可能性が高い確率は、0-11%と報告されています。
また、FDG-PETで通常甲状腺には集積を認めませんが、限局的な集積を甲状腺に認めた場合は35%で悪性であると報告されています。(J Am Coll Radiol 12:143-150,2015)
FDG-PETで限局的な集積を甲状腺に認めた場合は、悪性の確率が結構高いことがわかります。
甲状腺腫瘤が悪性の可能性があるのはどんな時?
見つかった甲状腺腫瘤の最終的な良性か悪性かの判断は針生検で組織を調べることが必要となります。
上に述べたように、頸部エコーの20-67%でこの甲状腺腫瘤を認めますので、何でもかんでも針生検するわけにはいきません。
針生検自体、侵襲的ですし合併症のリスクもあります。
ですので、あくまで悪性が疑わしい場合のみにしなければありません。
それではどのような甲状腺腫瘤に対して悪性が疑わしいと判断するのでしょうか?
悪性が疑わしい甲状腺腫瘤及びリスク因子は以下の通りです。
腫瘤の性状(特に石灰化を認めるとき)
検査にはエコー、CT、MRIとありますが、実は甲状腺については、感度及び特異度の点で最も優れているのはエコー(超音波)検査なのです。
というのは、甲状腺腫瘤に石灰化を伴う場合、悪性の確率が上がります。
石灰化自体はCTも強い(MRIは弱い)ところなのですが、甲状腺癌の中の乳頭癌はCTでは検出できない微細石灰化を示すものがかなりあります。
エコーではこの微細石灰化を検出することができるのです。
症例 50歳代 男性 単純CT+甲状腺エコー
CTで甲状腺左葉に1.5cm大の不均一な低吸収腫瘤あり。石灰化ははっきりしません。
しかし、甲状腺エコー(超音波検査)では、内部にCTでは見えなかった微細石灰化を認めています。
生検にて甲状腺乳頭癌と診断され、手術となりました。
症例 50歳代 女性 甲状腺エコー
この症例においてもCTでは石灰化ははっきりしませんでした(非提示)が、エコーでは微細な石灰化がみられます。
こちらも甲状腺乳頭癌で、手術が施行されました。
CTでは主に粗大な石灰化を検出することができます。石灰化があれば悪性というわけではありません。
CTで見つかった甲状腺腫瘤のうち良性であったものの26%に石灰化があったと報告されています。
見つかる腫瘤の多くは良性ですので、26%というのはかなりの数です。
リスク因子
石灰化以外に、甲状腺腫瘤の悪性の確率を高める因子として甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは以下のものが挙げられています。
- 頸部への放射線被ばくの既往
- 甲状腺腫瘤の合併または既往
- 体重増加
- 甲状腺の病気の家族歴
- 症状・理学的所見(結節の周囲組織への固定、リンパ節腫脹、声帯麻痺、40mm以上の結節、呼吸困難、嚥下困難、咳嗽)
ですので、甲状腺にたまたま腫瘤を見つかった場合は、腫瘤の性状に加えてその人のリスク因子を確認する必要があります。
主にCTで甲状腺に腫瘤や結節が見つかった時の取り扱いは?
上で述べたように日常診療において甲状腺に腫瘤や結節が見つかることはしばしばあります。
この場合、どのような場合に生検をして、どのような場合にはフォローで良いのか明確な基準が欲しいところですが、そのようなガイドラインはありません。
そこで、CTやMRI、PETで見つかった甲状腺腫瘤・結節を3段階に分けたカテゴリー分類(Hoangらにより提案)を基に作られた以下の表に沿うのが良いと思われます(画像診断 vol.36 No.9 2016 P858-859より引用改変)。
カテゴリー1(最も悪性の可能性が高い)
- PETで結節状の集積を甲状腺に認める。
- 被膜外浸潤を疑う画像所見(CT,MRI)がある。
- 頸部リンパ節腫大(CT,MRI)がある。
→このいずれかに当てはまる場合、サイズに関係なく、超音波検査や穿刺吸引細胞診を強く勧める。
症例 50歳代 女性(上の超音波の症例と同じ)
甲状腺左葉に境界不明瞭なLDAあり。被膜外浸潤を疑う所見です。
左頚部にはリンパ節腫大を認めています。
CTからも極めて悪性の可能性が高い症例であり、上のようにエコー検査では内部にCTでは見えなかった微細石灰化を多数認めていました。手術の結果、乳頭癌でした。
カテゴリー2
- 35歳未満かつカテゴリ−1を満たさない。
→10mm以上の結節に限り、超音波検査を進める。
カテゴリー3
- 35歳以上かつカテゴリ−1,2を満たさない。
→15mm以上の結節に限り、超音波検査を進める。
というものです。
あくまで画像所見における目安であり、実際は、これだけではなく、家族歴や既往歴などリスク因子も考慮し、より感度特異度の高い超音波検査へと進めることが望ましいと考えます。
最後に
エコー(超音波)検査よりCTの方がより精密に臓器が見える印象がありますが、甲状腺についてはエコーの方が感度特異度ともに高い検査です。
主にCTで甲状腺に腫瘤や結節が指摘されることは、非常に多く上で述べたように4人に1人と報告されています。
そしてそのほとんどは良性病変です。
ですので甲状腺に腫瘤や結節が指摘されてもまずは慌てずに、他の因子を考慮した上で、主治医の指示に従いフォローや精査進めることが重要です。
参考文献)画像診断 vol.36 No.9 2016 P858-859