視交叉(しこうさ)は、下垂体のすぐ上、鞍上槽(あんじょうそう)という髄液のたまりの中で、左右の視神経が合わさってX字に交わる場所です。その後ろ下から下垂体へ向かって垂直に降りていく細い柄が下垂体茎(漏斗)です。この2つはすぐ近くで上下に並んでいるため、下垂体や鞍上部の病気では視野の症状とホルモンの症状が一緒に出ることがあります。この記事では、画像診断cafeの正常例の頭部MRI・CTに色を付けて、視交叉と下垂体茎をどの高さで、何を目印に見つけるかを解説します。
先に結論:鞍上部を見る順番(下から上へ)
- 下垂体:蝶形骨洞のすぐ上、トルコ鞍の中。左右を内頸動脈(海綿静脈洞)にはさまれています
- 下垂体茎:下垂体の上から鞍上槽を縦に貫く細い柄。横断像では鞍上槽の真ん中の小さな点に見えます
- 視交叉:下垂体茎の付け根(漏斗)の前上方。横断像では左右に広がる横長の帯、またはX字に見えます
- 視神経と視索:視交叉の前へ伸びるのが視神経(眼球へ)、後ろ外側へ伸びるのが視索(脳の後ろへ)
- 上と後ろ:第三脳室の床(視床下部・乳頭体)。視交叉は第三脳室の前下端に接しています
視交叉はどこにある?(頭部MRI横断像)
頭部MRIの横断像では、眼球の上の高さで、中脳の前に広がる星形の鞍上槽の中に視交叉が見えます。

鞍上槽の中で左右に広がる黄色の帯が視交叉、そのすぐ後ろの小さな点(オレンジ)が漏斗(下垂体茎の付け根)です。外側の緑は側頭葉内側の扁桃体で、鞍上槽の外の壁の目安になります(片側のみ色付け)。
画像:画像診断cafe(正常例)
T2強調像では、白く見える髄液(鞍上槽)の中に、灰色の視交叉と下垂体茎が浮かんで見えます。鞍上槽のまわりを内頸動脈の終わりの部分・前大脳動脈・後交通動脈が取り囲み、Willis動脈輪の内側に視交叉がある、という位置関係です(脳槽はどこ?、脳MRAの血管名称とWillis動脈輪)。
視交叉の1枚上:視索・視床下部・乳頭体
視交叉より上のスライスでは、視交叉から後ろ外側へ伸びる視索と、第三脳室の床をつくる視床下部・乳頭体が見えてきます。

視交叉から後ろ外側へ斜めに伸びる黄色が視索で、大脳脚の外側を回って外側膝状体へ向かいます。正中では第3脳室(水色)の両わきに視床下部(オレンジ)、その後ろに乳頭体(紫)が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
視索から先の視放線・後頭葉の一次視覚野までは視路のMRI画像解剖で解説しています。この記事では、視交叉より前と下(下垂体側)に注目します。
下垂体茎はどこにある?
視交叉の1枚下では、鞍上槽の真ん中に下垂体茎が点として見え、前方には眼窩から伸びてくる視神経、外側には内頸動脈が見えます。

正中の小さなオレンジの点が下垂体茎、その外側の赤が内頸動脈です。前方の黄色は眼窩から視神経管を通って視交叉へ向かう視神経、水色は蝶形骨洞です。
画像:画像診断cafe(正常例)
下垂体茎は、視床下部(灰白隆起)から下垂体へ向かう神経線維と血管の通り道で、視床下部で作られたホルモン(抗利尿ホルモンなど)を後葉へ運び、前葉の働きを調節する血管も通っています。正常の下垂体茎は上(視交叉の高さ)が太く、下(下垂体への付着部)に向かって細くなります。3TのMRIで健康な成人を測った研究では、太さは視交叉の高さで前後約3.3 mm・左右約3.4 mm、下垂体付着部で前後約2.3 mm・左右約2.2 mm、長さは約5.9 mmでした(Satogami 2010)。下垂体茎はふつう正中をまっすぐ下りるので、太さと傾き(左右へのずれ)を見ると、下垂体や鞍上部の病気の手がかりになります。
下垂体:トルコ鞍の中
下垂体茎をさらに下へたどると、蝶形骨洞の上のくぼみ(トルコ鞍)に収まった下垂体に着きます。

蝶形骨洞(水色)の後上方、トルコ鞍の中にあるのが下垂体(オレンジ)で、その外側を内頸動脈(赤)が通ります。内頸動脈のまわりが海綿静脈洞です。
画像:画像診断cafe(正常例)
下垂体の大きさの基準や前葉・後葉の見え方は下垂体はどこ?MRIの正常画像と大きさ、正常下垂体のMRIで詳しく解説しています。
CTで見る視交叉
頭部CTでも、鞍上槽の高さで視交叉の位置を確認できます。ただしCTでは視交叉と髄液のコントラストが小さく、下垂体茎ははっきりしないことが多いので、詳しい評価はMRIで行います。

鞍上槽の中で左右に広がる黄色が視交叉で、その両側に内頸動脈(赤)、後ろに橋(緑)があります。CTで鞍上槽の形が崩れていないか、左右対称かを見ると、鞍上部の腫瘤や出血に気づく手がかりになります。
画像:画像診断cafe(正常例)
周りの構造との位置関係(まとめ)
- 下:下垂体茎 → 下垂体(トルコ鞍の中)→ 蝶形骨洞。下垂体の上の膜(鞍隔膜)と視交叉の間には、ふつう鞍上槽の髄液のすき間があります
- 上・後ろ:第三脳室の前下端(視交叉陥凹・漏斗陥凹)、視床下部、乳頭体
- 前:視神経が視神経管を通って眼窩へ続きます(視神経管・上眼窩裂を通るもの、眼窩の画像解剖)
- 外側:内頸動脈と海綿静脈洞。その中を動眼神経・滑車神経・外転神経などが通ります
- まわり:前大脳動脈・前交通動脈が視交叉の上を通ります
視交叉の働きと、障害されたときの見え方
視交叉では、左右の目の鼻側(内側)の網膜から来た線維だけが反対側へ交差し、耳側(外側)の網膜から来た線維は同じ側をそのまま進みます。その結果、視交叉より後ろの視索・視放線には、左右の目の同じ側の視野の情報がまとめられます。
- 視交叉の真ん中が押される(下垂体腺腫が下から押すなど):交差する線維が障害され、両目の外側(耳側)の視野が欠ける両耳側半盲になります
- 視神経が障害される:その目だけの視力・視野の低下
- 視索より後ろが障害される:両目の同じ側の視野が欠ける同名半盲
このように、視野の欠け方から障害されている場所を推定できるので、画像では「症状に合う場所に病変があるか」を確かめます。
よく間違える構造・正常変異
- 漏斗と下垂体茎:漏斗は下垂体茎の付け根(視床下部側)の部分を指すことが多く、ほぼ同じ構造の上下を呼び分けた名前です
- 前交通動脈・前大脳動脈:視交叉のすぐ上を横に走るため、横断像で視交叉と重なって見えることがあります。MRAや流れによる信号の抜けで区別します
- トルコ鞍の空洞(empty sella):下垂体が薄くトルコ鞍に髄液が入りこんで見える状態で、症状がなければ正常範囲のことも多いです
- 下垂体後葉の高信号:T1強調像で後葉が白く見えるのは正常です(下垂体の嚢胞と言われたら)
- 鞍背の骨棘:トルコ鞍の後ろの骨から小さな突起が出ることがあり、正常変異です(トルコ鞍内の骨棘sellar spine)
視交叉・下垂体茎の位置が役立つ病気
- 下垂体腺腫:大きくなると鞍隔膜を越えて上へ伸び、視交叉を下から押し上げます。視交叉との距離と押され方を冠状断で確認します(下垂体腺腫(PitNET)のMRI)
- 頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞:鞍上部・鞍内に嚢胞をつくり、視交叉や下垂体茎を押します(頭蓋咽頭腫とは?、ラトケ嚢胞のMRI)
- 下垂体茎が太くなる病気:下垂体炎(リンパ球性・IgG4関連、免疫チェックポイント阻害薬によるもの)、胚腫、ランゲルハンス細胞組織球症、転移などで、尿崩症を伴うことがあります(下垂体炎のMRI、下垂体転移のMRI、免疫チェックポイント阻害剤による中枢神経合併症)
- 視床下部の病変:視交叉の後ろ・下垂体茎の付け根(灰白隆起)にできる病変として、視床下部過誤腫などがあります(視床下部過誤腫のMRI)
- 視神経・視交叉そのものの病気:視神経膠腫や視神経炎(NMOSDでは視交叉に及ぶことがある)で、視交叉が腫れたり信号が変わったりします(視神経膠腫のMRI、視神経炎のMRI)
- 頭蓋内圧亢進:鞍上槽が広がり、トルコ鞍が空洞のように見えたり、視神経のまわりの髄液腔が広がったりします(視神経周囲くも膜下腔と鞍上槽の画像診断)
頭部MRIの冠状断・矢状断で下垂体と視交叉を見る方法は頭部MRIの冠状断・矢状断の解剖にまとめています。
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の図は、解剖ビューア「画像診断cafe」の頭部MRI・頭部CTから作っています。ビューアでスライスを下から上へ動かすと、下垂体→下垂体茎→視交叉→視索と、小さな構造が入れ替わっていく様子を色付きで確かめられます。
- Web版:画像診断cafe 頭部MRI/画像診断cafe 頭部CT
- iPhone:App Storeで「画像診断cafe」を検索
- Android:Google Play「画像診断cafe」
視交叉・下垂体茎についてよくある疑問(Q&A)
Q. 下垂体の腫瘍で、なぜ目の症状が出るのですか?
A. 下垂体のすぐ上に視交叉があるためです。腫瘍が上へ大きくなると視交叉を下から押し、両目の外側の視野が欠ける(両耳側半盲)ことがあります。ゆっくり進むため本人が気づきにくく、眼科での視野検査がきっかけで見つかることもあります。
Q. 「下垂体茎が少し傾いている」と言われました。
A. 下垂体の片側にある小さな腫瘍に押されて傾くことがある一方、正常でも少し傾いて見えることがあります。傾きだけで判断せず、下垂体の形・造影のされ方・ホルモンの検査と合わせて評価します。
Q. 視交叉はCTでも見えますか?
A. 鞍上槽の中にある位置はCTでもわかりますが、視交叉や下垂体茎の細かい形はMRIのほうがはっきり見えます。下垂体や鞍上部の評価には、冠状断・矢状断を含めた薄いスライスのMRIが使われます。
参考文献
- Satogami N, Miki Y, Koyama T, Kataoka M, Togashi K. Normal pituitary stalk: high-resolution MR imaging at 3T. AJNR Am J Neuroradiol. 2010;31(2):355-9. PubMed
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