扁桃体(へんとうたい)は、側頭葉の内側の前のほう、海馬のすぐ前にある灰白質のかたまりです。のどの「扁桃腺」とは別のもので、脳の中で感情(特に不安や恐怖)に関わる場所として知られています。この記事では、画像診断cafeの正常例の頭部MRIに色を付けて、扁桃体がどの高さに・何を目印に見えるのか、海馬とどう見分けるのかを解説します。

先に結論:扁桃体を見つける順番

  • 高さ:横断像では中脳(大脳脚)と視交叉・鞍上槽が見える高さ。眼球のレンズより少し上のスライスです
  • 左右の位置:側頭葉のいちばん内側(鉤)。鞍上槽のすぐ外側にあります
  • 前後の位置:海馬の前。扁桃体が前・上、海馬が後ろ・下と覚えます
  • いちばんの目印は側脳室下角:下角の先端の前にあるのが扁桃体、下角の内側・下に沿って後ろへ伸びるのが海馬です
  • 信号:T2強調像・FLAIRで大脳皮質とほぼ同じ灰色。正常では左右差がわずかです

扁桃体はどこにある?(頭部MRI横断像)

扁桃体は左右の側頭葉に1つずつあります。横断像では、中脳の両わきに側頭葉の内側が張り出してくる高さで探します。下の図は画像診断cafeの頭部MRI(T2強調像)で、扁桃体・海馬・中脳・視交叉に色を付けたものです(片側のみ色付け。画像の右が患者さんの左です)。

頭部MRI T2強調像の横断像で扁桃体・海馬・中脳・視交叉の位置を示した図

中脳(緑)のすぐ外側、側頭葉の内側の前寄りにあるのが扁桃体(オレンジ)、そのすぐ後ろに並ぶのが海馬(青)です。正中前方の黄色が視交叉で、扁桃体は視交叉とほぼ同じ高さに見えます。

画像:画像診断cafe(正常例)

このように、扁桃体は「脳の真ん中の鞍上槽(下垂体の上の髄液のたまり)と側頭葉がぶつかる角」にあると覚えると探しやすくなります。CTでは周りの灰白質と濃さがほとんど同じで境界が見えないため、扁桃体そのものを確認するのはMRIの役割です。

拡大して見る:側脳室下角が最大の目印

扁桃体と海馬はどちらも灰白質で、T2強調像では同じような灰色に見えます。両者を分けるいちばんの手がかりは、髄液で白く見える側脳室下角(かかく)です。

頭部MRI拡大像で扁桃体・海馬・側脳室下角・漏斗の位置関係を示した図

側脳室下角(水色)の先端の前にあるのが扁桃体(オレンジ)、下角の内側に沿って後ろへ伸びるのが海馬(青)です。正中の黄色は下垂体へ向かう漏斗で、扁桃体はその外側に位置します。

画像:画像診断cafe(正常例)

側脳室下角は側頭葉の中を前に向かって伸びる細い髄液の通り道で、その前の端で行き止まりになるところに扁桃体が蓋をするように位置しています。正常の若い人では下角は細い線のようにしか見えないことも多く、その場合は「海馬の頭(海馬頭)の前上方」を目安にします。

扁桃体の上の端:視索・乳頭体の高さ

1枚上のスライスでは、扁桃体の上の部分が見えます。この高さでは、視交叉から後ろへ伸びる視索が扁桃体のすぐ内側を通り、正中には乳頭体が見えてきます。

頭部MRI拡大像で扁桃体の上部と視索・乳頭体・大脳脚を示した図

扁桃体(オレンジ)の内側を視索(黄)が斜めに走り、その後ろに大脳脚(緑)、正中に乳頭体(紫)が並びます。扁桃体は視索の外側にある、と覚えておくと上下のスライスでも追いかけられます。

画像:画像診断cafe(正常例)

さらに上のスライスに進むと、扁桃体は見えなくなり、代わりに被殻・淡蒼球(レンズ核)や前交連が出てきます。扁桃体はレンズ核のすぐ下・前方にある、という上下の関係も押さえておきましょう。

頭部MRI拡大像で扁桃体の1枚上の高さにある被殻・淡蒼球・前交連・第3脳室を示した図

扁桃体の1枚上では、被殻(オレンジ)・淡蒼球(黄)と、左右をつなぐ前交連(紫)、正中の第3脳室(水色)が見えます。前交連は側頭葉どうしをつなぐ線維で、扁桃体からの線維の一部もここを通ります。

画像:画像診断cafe(正常例)

海馬との違い(場所・形・見え方)

扁桃体と海馬はとなり合っていて、どちらも「辺縁系」に含まれるため混同されがちです。画像で見分けるポイントを表にまとめます。

項目 扁桃体 海馬
前後の位置 前(側頭葉内側の先端寄り) 後ろ(扁桃体の後方へ長く伸びる)
上下の位置 やや上 やや下(側脳室下角の床)
側脳室下角との関係 下角の先端の前 下角の内側・下に沿う
形 丸いかたまり(アーモンド形) 前後に細長い(タツノオトシゴ形)
見やすい断面 冠状断・横断像 冠状断(海馬の長軸に垂直な断面)
主な働き 情動(不安・恐怖)、記憶への感情の色づけ 新しい出来事の記憶

冠状断では、海馬頭のすぐ上に扁桃体が乗るように見え、両者の境目に側脳室下角の先端がはさまります。海馬の見え方は海馬硬化症(内側側頭葉硬化症)のMRI画像診断で冠状断を使って解説しています。冠状断と横断像の対応は頭部MRIの冠状断・矢状断の解剖も参考にしてください。

周りの構造との関係

  • 内側:鞍上槽・迂回槽(髄液)。その中を内頸動脈の終わりの部分、後交通動脈、視索が通ります
  • 上:レンズ核(被殻・淡蒼球)の下面と前交連。そのさらに上が基底核の高さです
  • 後ろ:海馬頭と側脳室下角
  • 外側:側頭葉の白質。側頭葉と前頭葉をつなぐ線維の通り道(側頭葉幹)が近くを走ります(側頭葉幹(temporal stem)とは?)
  • 表面:側頭葉内側の盛り上がり(鉤:こう)の中にあります。鉤は頭蓋内圧が高いときにテント切痕へ落ち込む場所(鉤ヘルニア)でもあります

扁桃体の働き

扁桃体は、見たもの・聞いたものに「危ない」「怖い」といった感情の意味づけをする中枢と考えられています。視床や大脳皮質から情報を受け取り、視床下部や脳幹へ信号を送って、心拍や血圧の変化、身構える反応などを引き起こします。また、となりの海馬と連絡して、感情を伴う出来事を記憶に残りやすくする働きにも関わります。においの情報が直接届く場所でもあり、嗅覚と情動の結びつきにも関係しています。

これらは一般的な解剖・生理の知識で、扁桃体の大きさや信号の変化だけから気分や性格がわかるわけではありません。

よく間違える構造

  • 海馬頭:扁桃体のすぐ後ろ。横断像では連続して見えるため、側脳室下角の先端で前後を分けます
  • 鉤(こう):扁桃体を中に含む側頭葉内側の盛り上がりの名前です。扁桃体そのものではありません
  • のどの扁桃(口蓋扁桃):名前が似ていますが、中咽頭にあるリンパ組織で、脳の扁桃体とは別物です
  • 小脳扁桃:小脳の下面にある部分で、こちらも別の構造です。キアリ奇形などで話題になるのは小脳扁桃です
  • 脈絡裂の嚢胞:海馬の内側に小さな髄液のふくらみが見えることがあり、多くは正常変異です(脈絡裂嚢胞とは?)

扁桃体の位置が役立つ病気

横断像の全体の流れは頭部MRIの解剖(横断像レベルごと)、辺縁系をまとめて見るなら脳MRIの正常解剖図譜(横断像)もあわせてどうぞ。

画像診断cafeで自分で確かめる

この記事の図は、解剖ビューア「画像診断cafe」の頭部MRIから作っています。ビューアでは、スライスを上下に動かしながら扁桃体・海馬・側脳室を色付きで確かめられます。扁桃体がどの高さで現れ、どこで海馬に入れ替わるかを自分の指で追うと、場所の感覚がつかみやすくなります。

扁桃体についてよくある疑問(Q&A)

Q. 扁桃体はCTでも見えますか?
A. CTでは扁桃体と周りの灰白質の濃さがほとんど同じなので、扁桃体だけを区別するのは難しいです。位置(側頭葉内側の前、鞍上槽の外側)はわかりますが、腫れや信号の変化を見るにはMRIのT2強調像・FLAIRや冠状断が向いています。

Q. MRIで扁桃体に左右差があると言われました。
A. 正常でも撮影の角度で左右の見え方が少し違うことがあります。一方で、片側だけの腫れや高信号は脳炎やてんかんに関係することもあるため、症状と合わせて主治医の説明を確認し、必要に応じて冠状断を含めた再検査で確かめます。

Q. 扁桃体と海馬はどちらが前ですか?
A. 扁桃体が前、海馬が後ろです。側脳室下角の先端の前が扁桃体、下角に沿って後ろへ伸びるのが海馬、と覚えると画像でも迷いにくくなります。

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