
先に結論:脳槽(のうそう、cistern)は、脳と頭蓋骨のあいだにある髄液のすき間(くも膜下腔 subarachnoid space)が、脳の底や脳幹のまわりで広くなった部分です。CTでは黒(髄液と同じ)、MRIのT2強調像では白く見えます。
| 高さ(レベル) | 見える主な脳槽 |
|---|---|
| ① 大後頭孔〜延髄 | 大槽(小脳延髄槽)、延髄前槽 |
| ② 橋・第4脳室 | 橋前槽、小脳橋角槽 |
| ③ 中脳・鞍上 | 鞍上槽、脚間槽、迂回槽、四丘体槽、シルビウス槽(外側窩槽) |
| ④ 第3脳室前方〜その上 | 終板槽、大脳半球間裂、(帆間槽) |
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの頭部MRIの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。頭部CTの正常解剖ツールも制作中で、順次公開しています。

画像診断cafe「頭部MRIの正常解剖」の画面(T2強調像)。脳槽の周りの構造をタップすると色と名前が出ます
脳槽とは?くも膜下腔との関係
脳は、外側から硬膜・くも膜・軟膜の3枚の膜に包まれています。くも膜と軟膜のあいだがくも膜下腔で、ここを髄液(脳脊髄液 cerebrospinal fluid, CSF)が流れています。脳の表面は凸凹しているため、脳の底(頭蓋底側)や脳幹のまわりではくも膜下腔が大きく広がり、この広い部分を脳槽と呼びます。脳槽の中を脳神経や太い動脈が通っています(Altafulla 2019)。
- CT:脳槽は髄液と同じ水の濃さなので黒(低吸収)。脳より黒く、骨より黒く見えます。
- MRI:T2強調像で白(高信号)、T1強調像とFLAIR像で黒(低信号)。T2強調像では、脳槽の中を通る血管が黒い点(flow void)として見えます。
脳室(側脳室・第3脳室・第4脳室)も髄液で満たされていますが、脳室は脳の内側の部屋、脳槽は脳の外側のすき間です。両者は第4脳室の出口(正中のマジャンディ孔・左右のルシュカ孔)でつながっています。脳室の解剖は側脳室の解剖で詳しく解説しています。
① 大後頭孔〜延髄の高さ
| 脳槽 | 場所と見分け方 |
|---|---|
| 大槽(だいそう、cisterna magna)=小脳延髄槽(cerebellomedullary cistern) | 小脳の下面と延髄の後ろのあいだ。後頭骨のすぐ前にある、いちばん大きな脳槽 |
| 延髄前槽(premedullary cistern) | 延髄の前、斜台の下部の後ろ。椎骨動脈が通る |
- 「大槽」と「小脳延髄槽」は同じ場所の別の呼び方です。
- 大槽の大きさは人によって差が大きく、大きいだけで小脳虫部や第4脳室に異常がないものは巨大大槽(mega cisterna magna)と呼ばれる正常変異です(後述)。
② 橋・第4脳室の高さ
| 脳槽 | 場所と見分け方 |
|---|---|
| 橋前槽(prepontine cistern) | 橋の前面と斜台のあいだ。脳底動脈(basilar artery)が通り、T2強調像で黒い点として見える |
| 小脳橋角槽(cerebellopontine angle cistern) | 橋・小脳・側頭骨錐体に囲まれた三角の場所。顔面神経・内耳神経が内耳道へ向かう |
小脳橋角槽の神経は、厚さの薄いT2強調像(heavily T2-weighted image)で白い髄液を背景に黒い線として見えます。
③ 中脳・鞍上の高さ(脳槽がいちばん多く見える高さ)
| 脳槽 | 場所と見分け方 |
|---|---|
| 鞍上槽(あんじょうそう、suprasellar cistern) | トルコ鞍(下垂体)の上。横断像で星形・五角形に見える。視交叉、内頸動脈の終わり、ウィリス動脈輪がある |
| 脚間槽(きゃくかんそう、interpeduncular cistern) | 左右の大脳脚のあいだ(中脳の前)。脳底動脈の先端と動眼神経がある |
| 迂回槽(うかいそう、ambient cistern) | 中脳の左右を後ろへ回りこむ細い帯。後大脳動脈・上小脳動脈・脳底静脈が通る |
| 四丘体槽(しきゅうたいそう、quadrigeminal cistern) | 中脳の後ろ(四丘体板)と小脳上面のあいだ。松果体の後ろ下で、ガレン静脈が通る |
| シルビウス槽(外側窩槽 sylvian cistern) | 前頭葉・側頭葉のあいだの深い溝(シルビウス裂)の奥。中大脳動脈が通る |
- 見分け方のコツ:まず星形の鞍上槽を探し、その後ろに「中脳(ミッキーマウスの顔のような形)」を見つけます。中脳の前が脚間槽、横が迂回槽、後ろが四丘体槽です。この3つをまとめて中脳周囲槽(perimesencephalic cistern)と呼ぶことがあります。
- 鞍上槽と脚間槽のあいだにはリリエキスト膜(Liliequist membrane)という薄いくも膜の膜があり、形には個人差があります(Froelich 2008)。
- 脳がむくむ・圧迫されるとこれらの脳槽は狭くなるため、脳槽が左右対称に黒く見えているかは頭部CTを読むときの大事な確認点です。
④ 第3脳室前方〜その上の高さ
| 脳槽 | 場所と見分け方 |
|---|---|
| 終板槽(しゅうばんそう、cistern of lamina terminalis) | 第3脳室の前の壁(終板)の前。前交通動脈の近く |
| 脳梁周囲槽・大脳半球間裂(interhemispheric fissure) | 左右の大脳半球のあいだ。前大脳動脈が通る |
| 帆間槽(はんかんそう、cistern of velum interpositum) | 第3脳室の天井の上、脳弓の下。広いものは中間帆腔(cavum velum interpositum)と呼ばれる正常変異 |
脳槽ごとの高さと形をまとめて見たいときは、頭部CTの解剖・頭部MRIの解剖もあわせてご覧ください。
くも膜下出血で血液がたまる場所
くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage, SAH)は、くも膜下腔に血液が出る病気です。血液は脳槽にたまるため、CTでは本来黒いはずの脳槽が白く(高吸収に)なるのが基本の所見です。
| 出血の原因・型 | 血液がたまりやすい脳槽 |
|---|---|
| 脳動脈瘤の破裂 | 鞍上槽を中心に、シルビウス槽・大脳半球間裂・脚間槽へ広がる。動脈瘤の場所により偏りが出る |
| 中脳周囲非動脈瘤性くも膜下出血(perimesencephalic SAH) | 中脳・橋の前(脚間槽・橋前槽)を中心とした限局した出血(van Gijn 1985) |
| 外傷性くも膜下出血 | 打撲した場所の近くの脳溝・シルビウス裂など、脳の表面寄り |
- CTで見える血液の量・厚さと、その後の脳血管攣縮(vasospasm)との関係が報告されており、Fisher分類のもとになっています(Fisher 1980)。
- 出血が少ないと、鞍上槽や迂回槽が「黒くない」「左右差がある」程度の変化しかないことがあります。見落としを防ぐ見方はくも膜下出血のCT画像所見と見落とさないポイント、全体像はくも膜下出血(SAH)の画像診断へ。
- 脳がむくんで脳槽が狭くなると、出血がないのに脳槽が白っぽく見える偽性くも膜下出血(pseudo-SAH)があります。
脳槽の正常変異と、似て見えるもの
巨大大槽(mega cisterna magna)
- 大槽が大きいものの、小脳虫部と第4脳室は正常で、大槽は第4脳室やくも膜下腔と自由につながっています。
- 多くは偶然見つかる正常変異です。Dandy-Walker奇形(虫部の欠損・第4脳室の嚢胞状拡大・後頭蓋窩の拡大)とは区別されます(Kollias 1993)。
- 後頭蓋窩のくも膜嚢胞と見分けにくいことがあり、まわりを押している感じがあるか、髄液とつながっているかを確認します(Kollias 1993)。詳しくは巨大大槽とくも膜嚢胞のMRI画像診断と見分け方へ。
年齢による変化
年齢とともに脳がやせると(脳萎縮)、脳溝や脳槽は広く見えます。脳槽の広さは年齢を考えて評価します。
中間帆腔(cavum velum interpositum)
第3脳室の上にある帆間槽が広く見えるもので、多くは症状のない正常変異です。
よくある疑問(Q&A)
Q1. CTの報告書に「脳槽は保たれている」とありました。どういう意味ですか?
脳のまわりの髄液のすき間(脳槽)が、つぶれたり白くなったりせず、正常に黒く見えているという意味です。脳のむくみや出血がないかを確認するときの表現です。詳しい意味は検査を受けた医療機関で確認してください。
Q2. 「大槽が大きい」と言われました。病気ですか?
小脳や第4脳室に異常がなく、大槽が広いだけであれば、巨大大槽と呼ばれる正常変異のことが多いです。くも膜嚢胞などとの区別はMRIで行います。
Q3. 脳槽はCTとMRIのどちらがよく見えますか?
形の確認と出血の発見はCTが向いています。脳槽の中を通る神経や血管、膜の細かい形は、厚さの薄いT2強調像などのMRIのほうが見やすい傾向があります。
まとめ
- 脳槽は、くも膜下腔が脳の底や脳幹のまわりで広くなった場所。CTで黒、T2強調像で白。
- 大後頭孔〜延髄=大槽(小脳延髄槽)、橋=橋前槽・小脳橋角槽、中脳=鞍上槽・脚間槽・迂回槽・四丘体槽・シルビウス槽、その上=終板槽・大脳半球間裂。
- くも膜下出血では脳槽が白くなる。動脈瘤破裂は鞍上槽中心、中脳周囲型は中脳・橋の前に限局。
- 巨大大槽は小脳虫部・第4脳室が正常な正常変異。
画像診断cafeの頭部MRIの正常解剖ツールでは、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。頭部CTの正常解剖ツールは制作中で、順次公開しています。iPhoneでは無料アプリ画像診断cafe(頭部MRIの解剖)でも見られます。
参考文献
- Altafulla J, Bordes S, Jenkins S, et al. The Basal Subarachnoid Cisterns: Surgical and Anatomical Considerations. World Neurosurg. 2019;129:190-199. PubMed
- Froelich SC, Abdel Aziz KM, Cohen PD, et al. Microsurgical and endoscopic anatomy of Liliequist’s membrane: a complex and variable structure of the basal cisterns. Neurosurgery. 2008;63(1 Suppl 1):ONS1-8. PubMed
- Fisher CM, Kistler JP, Davis JM. Relation of cerebral vasospasm to subarachnoid hemorrhage visualized by computerized tomographic scanning. Neurosurgery. 1980;6(1):1-9. PubMed
- van Gijn J, van Dongen KJ, Vermeulen M, et al. Perimesencephalic hemorrhage: a nonaneurysmal and benign form of subarachnoid hemorrhage. Neurology. 1985;35(4):493-7. PubMed
- Kollias SS, Ball WS Jr, Prenger EC. Cystic malformations of the posterior fossa: differential diagnosis clarified through embryologic analysis. Radiographics. 1993;13(6):1211-31. PubMed
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