胸部CTの肺野条件で、肺門のあたりに見える「黒い管」が気管支、「白い管」が肺動脈と肺静脈です。気管支の名前(主気管支・中間気管支・葉気管支・区域気管支)がCTで言えるようになると、肺がんや無気肺、誤嚥性肺炎がどの気管支の先にあるかを説明できるようになります。
この記事では、画像診断cafeの正常な胸部CTに色を付けて、気管分岐部から下へ、スライスの高さごとに気管支の名前と、それに並ぶ肺動脈・肺静脈の見分け方を解説します。肺の構造(間質や二次小葉)は胸部CTで見る肺の解剖、肺区域S1〜S10の位置は肺区域S1〜S10の名前とCTでの位置で扱っているため、ここでは「CTの1枚1枚で気管支と肺静脈を見つける」ことに絞ります。
先に結論:気管支と肺静脈をCTで追う順番
- 気管分岐部(カリーナ)を探し、左右の主気管支に分かれる所を決めます
- 右は分岐部のすぐ下で右上葉気管支が外側へ出ます。その先、下へ続く太い1本が中間気管支です
- 左主気管支は長く、左肺動脈がその上を乗り越えて後ろへ回ります。その先で左上葉気管支と左下葉気管支に分かれます
- 中間気管支は前に中葉気管支(B4・B5)、後ろにB6を出して、右下葉気管支になります
- 肺動脈は気管支に寄り添って走り、肺静脈は気管支から離れて区域の間を走り、左心房へ入ります
- 上肺静脈は肺門の前、下肺静脈は肺門の下・後ろで、ほぼ水平に左心房へ向かいます
気管支の名前の全体像
気管は胸の中で左右の主気管支に分かれ、さらに肺葉ごとの葉気管支、肺区域ごとの区域気管支へと枝分かれします。区域気管支には番号(B1〜B10)が付き、その先の肺区域(S1〜S10)と同じ番号です。
- 右:右主気管支 → 右上葉気管支(B1・B2・B3)/中間気管支 → 中葉気管支(B4・B5)・右下葉気管支(B6・B7・B8・B9・B10)
- 左:左主気管支 → 左上葉気管支(上区:B1+2・B3/舌区:B4・B5)・左下葉気管支(B6・B8・B9・B10。B7はB8と共通幹になることが多い)
右には「中間気管支」という、右上葉気管支が分かれたあと中葉・下葉へ分かれるまでの区間がありますが、左にはありません。右は3葉・左は2葉で、左の上葉に舌区が含まれるという違いが、そのまま気管支の形の違いになります。
気管分岐部の高さ:左右の主気管支と右上葉気管支

緑が右主気管支、黄色が左主気管支で、気管がちょうど左右に分かれた高さです。右主気管支からは青の右上葉気管支が外側へ出ていて、左主気管支の外側には赤の左肺動脈が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
右主気管支は左より太く短く、縦に近い角度で下ります。そのため、飲み込んだ物や誤嚥したものは右へ入りやすく、気管支異物や誤嚥性肺炎が右に多い理由になっています。
右上葉気管支は、右主気管支から分岐部のすぐ下で外側へ水平に出る、短い太い枝です。この先でB1(肺尖枝)・B2(後上葉枝)・B3(前上葉枝)の3本に分かれます。CTでは、B1は上へ(縦に輪切りになって丸く)、B2は後ろへ、B3は前へ走るので、上葉の中で「上・後ろ・前」と覚えます。
覚え方のポイントは、右上葉気管支だけが右肺動脈より上にあることです。右上葉気管支のすぐ下を右肺動脈が通り、それ以外の気管支は左右とも肺動脈の下(または内側)を走ります。
中間気管支と上肺静脈の高さ

分岐部から少し下の高さです。右では中間気管支(1)の前を右肺動脈(2)が横切り、その外側前方に右上肺静脈(3)があります。左では左主気管支(4)から左上葉気管支(5)が出て、その前に左上肺静脈(6)、後ろ外側に左肺動脈(7)が並びます。
画像:画像診断cafe(正常例)
中間気管支は、右上葉気管支が出たあとの右主気管支の続きで、縦に下りるためCTでは数スライスにわたって丸い(楕円の)黒い穴として見えます。後ろの壁は直接肺(奇静脈食道陥凹の肺)に接しているので、壁は薄く見えるのが正常です。中間気管支の後ろの壁が厚いときは、リンパ節の腫大や腫瘍、浮腫を考えるきっかけになります。
左主気管支は右より長く、大動脈弓の下をくぐって外側下方へ進みます。左肺動脈はその上を前から後ろへ乗り越えるため、左の肺門では「気管支の上と後ろに肺動脈」という並びになります。左主気管支は左上葉気管支と左下葉気管支に分かれ、左上葉気管支はさらに上区(B1+2・B3)と舌区(B4・B5)へ分かれます。
この高さで覚えたいのが上肺静脈です。左右とも、上肺静脈は肺門のいちばん前にあり、気管支と肺動脈の前を通って左心房へ向かいます。右上肺静脈は右上葉と中葉、左上肺静脈は左上葉(舌区を含む)の血液を集めます。
中葉気管支とB6の高さ

右肺門の拡大です。中間気管支の前からB4(赤・外側)とB5(緑・内側)が前方へ出て、後ろからは青のB6(下葉の上区へ行く枝)が後方へ伸びています。紫は左心房へ向かう右上肺静脈です。
画像:画像診断cafe(正常例)
中間気管支の終わりで、前へ中葉気管支、後ろへB6がほぼ同じ高さで出ます。中葉気管支はすぐにB4(外側中葉枝)とB5(内側中葉枝)に分かれ、前外側・前内側へ走ります。B6は下葉の上区(S6)へ行く枝で、真後ろへ向かいます。
この「前に中葉、後ろにB6」の高さを過ぎると、残りは右下葉気管支(底幹)になり、さらに下でB7(内側)・B8(前)・B9(外側)・B10(後ろ)の底区枝に分かれます。底区枝は下へ向かうため、CTでは小さな丸い黒い点の集まりとして見えます。
左では、左上葉気管支の下側から舌区気管支(B4・B5)が前下方へ出ます。左下葉気管支からも、右と同じように後ろへB6が出ます。
下葉気管支と下肺静脈の高さ

心臓の下部の高さです。左右とも、下葉気管支(緑・黄色)の前にほぼ水平に走る下肺静脈(青・紫)があり、内側の心臓(左心房)へ入っていきます。
画像:画像診断cafe(正常例)
下肺静脈は、下葉の血液を集めて肺門の下・後ろから、ほぼ水平に左心房へ入ります。肺動脈が気管支と並んで縦に下りていくのに対して、下肺静脈は横向きに心臓へ向かうので、横断像では横長の白い管として見えます。

同じ人の縦隔条件です。赤の左心房の左右の後ろの角に、青の肺静脈が入っていくのがわかります。黄色は下行大動脈です。
画像:画像診断cafe(正常例)
肺動脈と肺静脈の見分け方
肺野条件では、肺動脈も肺静脈も同じ白い管に見えます。見分けるコツは次の3つです。
- 気管支の隣にあるか:肺動脈は気管支と並んで走ります(気管支血管束)。肺静脈は気管支から離れ、区域と区域の間を走ります
- どこへつながるか:中枢へたどって、肺動脈幹(右室から出る)につながれば肺動脈、左心房に入れば肺静脈です
- 走る向き:肺門付近では、下肺静脈は横向きに心臓へ、肺動脈は気管支と一緒に外側・下へ広がります
肺門の並びは、大まかに前から「上肺静脈 → 肺動脈 → 気管支」と覚えると整理しやすくなります。左右どちらでも、いちばん前にあるのは上肺静脈で、気管支はいちばん後ろ寄りです。ただし、左は肺動脈が気管支の上を乗り越えて後ろへ回るため、下のほうのスライスでは肺動脈が気管支の後ろ外側に見えます。
迷ったときは、1枚の画像で決めずに上下のスライスを行き来して、管がどこへつながるかを追うのがいちばんの近道です。気管支は黒い管として中枢の気管へ、肺動脈は肺動脈幹へ、肺静脈は左心房へと、それぞれ別の場所にたどり着きます。
よく間違える構造・正常変異
- 気管気管支:右上葉の枝が気管から直接出る正常変異です(気管気管支)
- 副心臓枝:中間気管支の内側から出る短い盲端の枝です(副心臓枝)
- 肺静脈の本数の違い:左の上下の肺静脈が1本にまとまって左心房に入ることや、右の中葉の静脈が単独で入ることがあります。心房細動のアブレーション前のCTでは、この本数と形を確認します(肺静脈隔離術の合併症とCT)
- 肺静脈を結節やリンパ節と間違える:輪切りの肺静脈は丸い結節に見えることがあります。上下のスライスでつながりを追うと区別できます(胸部CTの偽病変)
- 肺静脈が左心房以外に入る:部分肺静脈還流異常で、右下肺の静脈が下大静脈へ入る形はシミター症候群と呼ばれます
この解剖が役立つ病気
- 無気肺:どの葉気管支が詰まったかで影の形が決まります(肺葉性無気肺の胸部レントゲン所見、閉塞性肺炎)
- 誤嚥性肺炎:右下葉、特にS6・S10など背中側に起こりやすい(誤嚥性肺炎の好発部位)
- 気管支の拡張・粘液栓:気管支拡張症、気管支粘液栓、気管支閉鎖症
- 肺がん:腫瘍がどの気管支に及ぶかが病期や手術の範囲に関わります(肺癌のCT画像とステージ、縦隔リンパ節の番号)
- 肺静脈の病気:肺静脈狭窄、肺静脈閉塞症(PVOD)
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の画像は、画像診断cafeの胸部CT(肺野条件)の正常解剖ビューアから作りました。スライスを上下に動かしながら気管支・肺動脈・肺静脈をタップすると、名前と色で確かめられます。全体の使い方は胸部(肺)CTの正常解剖ツール、冠状断で気管支の枝分かれを縦に見たい場合は胸部CTの冠状断・矢状断の解剖もどうぞ。
スマートフォンでは、iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」と検索、AndroidはGoogle Playの画像診断cafeからアプリで使えます。
気管支と肺静脈でよくある疑問(Q&A)
Q. 中間気管支(中間気管支幹)とは、どこからどこまでですか?
A. 右主気管支から右上葉気管支が分かれた所から、中葉気管支と右下葉気管支(B6)が分かれる所までの区間です。右にだけあり、CTでは数スライスにわたって縦に下りる丸い気管支として見えます。
Q. 区域気管支の番号(B1〜B10)は、CTでどう見分けますか?
A. まず葉気管支を決め、そこから「どの方向へ走るか」で番号を当てます。右上葉ならB1は上、B2は後ろ、B3は前です。下葉ではB6が真後ろへ出て、その下の底区枝がB7(内側)・B8(前)・B9(外側)・B10(後ろ)になります。
Q. 肺静脈は何本ありますか?
A. 基本は左右に上肺静脈と下肺静脈が1本ずつ、合わせて4本が左心房に入ります。ただし、左の2本が1本にまとまる形や、右の中葉の静脈が別に入る形など、本数が変わることは珍しくありません。
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