視力低下と眼球突出 原因別の早見表と詳しい記事へ

片方の目が出てきたように見える、あるいは急に見えにくくなった、という患者さんのCTやMRIを頼まれました。何から考えて、どの記事を見ればよいですか?
まず「痛みや発熱があるか」「片側か両側か」「どの場所の病変か」を整理します。このページは、眼球突出と視力低下の画像鑑別を、原因ごとの早見表と、詳しい記事へのリンクでまとめた入口です。

先に結論:眼球突出は「眼窩の中の病変」、視力低下は「視路のどこか」を探す

症状 まず考えること
眼球突出 痛み・発熱があれば炎症か感染。両側・外眼筋の腫大なら甲状腺眼症。拡散制限のある腫瘤は悪性腫瘍を考える
視力低下 眼球、視神経、視交叉、視索・視放線、後頭葉のどこかに原因がある。部位を決めてから画像を選ぶ
検査の選び方 CTとMRIは補い合う。腫瘤や炎症を疑うときは造影が勧められる
複視・眼球運動障害 眼窩尖、海綿静脈洞、眼窩の炎症を考える

最初に整理する4つのこと

画像を読む前に、臨床の情報を4つ確認すると、鑑別が絞れます。眼窩の造影される充実性の病変では、「拡散制限」「痛み」「蜂窩織炎」の組み合わせで、悪性腫瘍・炎症・感染をおおまかに分けられます(Ferreira 2018)。

確認すること 画像の読み方への影響
痛み・発熱・炎症反応 痛みと蜂窩織炎があり、拡散制限がなければ、炎症か感染。長く続く経過なら炎症、発熱・白血球増多・膿があれば感染を考える(Ferreira 2018)
片側か両側か 甲状腺眼症は両側が多い。外眼筋の腫大は、甲状腺眼症で90%が両側、70%が左右対称とされる(Ferreira 2018)
発症の速さ 急に起こったときは、感染、出血、血管の病変、外傷、視神経の障害を先に除外する
視力・視野・瞳孔 視力低下の位置を決める手がかり。視野の検査は病変の位置を決めるのに重要とされる(Al-Bader 2022)

なお、外傷以外の眼球そのものの病気の多くは、眼科の診察で診断でき、画像は必要ないとされています(Friedman 2025)。画像検査は、視神経より後ろの病変や、眼窩の腫瘤、炎症、外傷が疑われるときに役立ちます。

眼球突出の画像鑑別

眼球突出(proptosis)は、眼窩の中に、眼球を前に押し出す病変があるときに起こります。外眼筋の腫大、眼窩脂肪の増加、腫瘤、炎症、感染、血管の病変が代表です。次の早見表で、画像の手がかりと詳しい記事を確認してください。

原因 画像の手がかり 詳しい記事
甲状腺眼症 両側・対称の外眼筋腫大で、下直筋・内直筋が多い。腱は保たれ、筋は紡錘状。周囲の蜂窩織炎はない(Ferreira 2018)。活動期はSTIRで筋が高信号 甲状腺眼症のMRI・CT
特発性眼窩炎症 痛みを伴い、筋は管状に腫れ、周囲の蜂窩織炎を伴うことが多い(Ferreira 2018) 特発性眼窩炎症のMRI所見
眼窩蜂窩織炎 副鼻腔炎に続く眼窩の感染。眼窩内の炎症と、副鼻腔の陰影・膿瘍 副鼻腔炎の合併症(眼窩蜂窩織炎)
内頸動脈海綿静脈洞瘻 拡張した上眼静脈と外眼筋の腫大、充血・拍動性の眼球突出 内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)
眼窩の転移 拡散制限のある腫瘤は悪性腫瘍を考え、原発巣を探す(Ferreira 2018) 眼窩内転移の原発巣と画像
多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 眼窩外(筋円錐外)の病変で、副鼻腔の病変や骨破壊を伴う(Ferreira 2018) GPAの鼻・副鼻腔病変

両側の外眼筋が腫れているとき:甲状腺眼症とIgG4関連疾患

外眼筋の腫大は、甲状腺眼症が最も典型です。甲状腺眼症では、下直筋が最初に腫れ、次いで内直筋、上直筋、外直筋や斜筋の順で、腱は保たれて筋が紡錘状になります(Ferreira 2018)。腫れた筋と眼窩脂肪の増加が、眼球突出の原因です。IgG4関連疾患の筋病変も両側性で紡錘状ですが、外直筋が最も多く、周囲の蜂窩織炎を伴うことがあります(Ferreira 2018)。

図 眼窩の造影される充実性病変の判断の流れ

眼窩の造影される充実性病変の判断の流れ(拡散制限・痛み・蜂窩織炎) 図
引用:Ferreira TA, et al. Neuroradiology. 2018;60(12):1253-1266(Figure 13)、CC BY 4.0(図は加工していません)

拡散強調像(DWI)で拡散制限があり、痛みも蜂窩織炎もなければ、悪性腫瘍を考えて生検を検討します。拡散制限がなく痛みも蜂窩織炎もなければ、血管奇形や良性腫瘍を考えます。拡散制限がなく痛みや蜂窩織炎があれば、炎症か感染で、臨床の感染所見があれば感染と考えます。炎症で、既知の全身性炎症疾患がない場合は、画像のパターンで、特発性眼窩炎症(痛み・管状の筋・蜂窩織炎)、サルコイドーシス(前下方・ぶどう膜炎)、IgG4関連疾患(外側・上方)、甲状腺眼症(両側・下方・内側、紡錘状の筋)、GPA(筋円錐外・副鼻腔・骨破壊)に分けられます。

症例 甲状腺眼症とIgG4関連疾患の外眼筋

甲状腺眼症とIgG4関連疾患の外眼筋 眼窩MRI
引用:Ferreira TA, et al. Neuroradiology. 2018;60(12):1253-1266(Figure 9)、CC BY 4.0(図は加工していません)

左(a、b)は40歳女性の甲状腺眼症で、下直筋・内直筋・上眼瞼挙筋と上直筋の複合体が両側対称に腫れています。腱が保たれて筋は紡錘状で、脂肪への浸潤はありません。右(c〜e)は35歳男性のIgG4関連疾患で、両側の眼窩の上外側に病変があり、涙腺が両側で腫れ、近くの筋にも病変が及んでいます。拡散制限はありません。

視力低下の画像鑑別:視路の部位で考える

視力低下は、眼球、視神経、視交叉、視索、視放線、後頭葉の視覚野のどこの異常でも起こります。部位ごとに鑑別を考える「コンパートメント」の考え方が、画像検査の選択に役立ちます(Kennedy 2018)。CTとMRIはどちらも使われ、補い合う関係で、調べる範囲も眼窩だけか、脳も含めるかを決めます。腫瘤や炎症を疑うときは、造影が勧められます(Kennedy 2018)。

部位 代表的な原因 画像の手がかり・記事
眼球 ぶどう膜悪性黒色腫、眼球癆など 多くは眼科の診察で診断する。画像は眼球内悪性黒色腫の画像診断
視神経 視神経炎(多発性硬化症・NMOSD・MOGAD)、甲状腺眼症の圧迫、頭蓋内圧亢進 視神経の造影、T2・FLAIRの高信号。視神経炎のMRI、特発性頭蓋内圧亢進症のMRI
眼窩尖 炎症、腫瘍、外傷、感染 視神経管・上眼窩裂の周囲を見る。視神経管・上眼窩裂を通るものと眼窩尖症候群
視交叉・鞍上部 下垂体腺腫、下垂体卒中、髄膜腫、頭蓋咽頭腫 視交叉の圧排と視野障害。下垂体卒中、下垂体腺腫、髄膜腫
視索・視放線・後頭葉 脳梗塞、脳出血、腫瘍 同名性の視野障害。拡散強調像で脳梗塞を確認
血管(全身性) 巨細胞性動脈炎など 高齢者の急な視力低下で見逃したくない病気。巨細胞性動脈炎の画像診断

視神経が原因のとき

視神経炎は、自己免疫性・肉芽腫性・脱髄性・感染性・腫瘍随伴性など、原因ごとに臨床の手がかり、画像、検査が異なり、原因によって視力の予後や再発のリスクが変わります(Bennett 2019)。画像では、視神経の造影とT2強調像・FLAIRでの高信号が特徴で、拡散制限を示すこともあります(Ferreira 2018)。

甲状腺眼症では、視神経が眼窩尖で圧迫されて視力が落ちることがあります(圧迫性視神経症 DON)。DONは甲状腺眼症の約5〜8%に起こり、診断は視力低下・色覚低下・相対的瞳孔求心路障害・視野障害・乳頭浮腫のうち2つ以上の組み合わせで、画像は眼窩尖の混み合い(apical crowding)や視神経の伸展を確認して補助します(Potvin 2023)。上眼静脈の拡大や頭蓋内への脂肪の脱出も、眼窩尖の混雑を示す間接的な所見です(Ferreira 2018)。

視交叉・鞍上部が原因のとき

下垂体周囲の腫瘤は、圧迫性視神経症、視交叉症候群、脳神経麻痺による眼筋麻痺といった眼の症状を起こします。視野検査は病変の位置を決めるのに重要で、画像は病変の性質と位置を確認するのに必要です(Al-Bader 2022)。突然の頭痛と視力障害は下垂体卒中を考えます。

複視・眼球運動障害があるとき

眼の動きが悪い、物が二重に見えるときは、外眼筋の病変、眼窩尖・海綿静脈洞の病変、脳神経の病変を考えます。有痛性の眼筋麻痺はTolosa-Hunt症候群、眼窩の炎症との鑑別は特発性眼窩炎症の記事が参考になります。

CTとMRIの使い分け

場面 選ぶ検査
外傷、眼窩の異物、骨折 CT(骨の評価に向く)
炎症・腫瘍・視神経 MRI。軟部組織のコントラストが高く、拡散強調像で炎症と悪性腫瘍を見分ける手がかりになる(Ferreira 2018)
甲状腺眼症 CTとMRIのどちらも使われ、使い分けの合意はまだない。臨床的に非典型なとき、手術の計画、他の眼窩病変との鑑別に役立つ(Siakallis 2018)
視力低下で原因の部位が不明 疑う部位に応じて、眼窩と脳の両方を含めて撮る(Kennedy 2018)

眼窩のMRIは、横断像と冠状断像を少なくとも撮り、T1・T2(脂肪抑制あり・なし)、造影後の脂肪抑制T1、拡散強調像を含めるのが標準的とされます(Ferreira 2018)。

研修医が見落としやすい点

  • 眼窩の炎症は、感染や腫瘍と間違えられやすい。拡散制限の有無が分けるポイント(Ferreira 2018)
  • 視力低下は「眼球・視神経・視交叉・後方」のどこかを決めてから撮る。眼窩だけ撮って脳を撮らない、またはその逆を避ける
  • 甲状腺眼症では、眼球突出が軽くても視神経症が起こりうる。眼窩尖の混み合いを確認する
  • 高齢者の急な視力低下では、画像で原因が見つからなくても、血管炎などの全身の病気を考える

よくある疑問(Q&A)

Q1. 眼球突出があるとき、まずCTとMRIのどちらですか?

外傷や骨の評価はCT、炎症・腫瘍・視神経の評価はMRIが向いていて、臨床の疑いによって選びます。腫瘤や炎症が疑われるときは、造影が勧められます(Kennedy 2018)。

Q2. 眼球突出は、甲状腺の病気でしか起こりませんか?

いいえ。甲状腺眼症は代表ですが、炎症、感染、腫瘍、血管の病変でも起こります。片側で痛みがあるときや、急に起こったときは、他の原因の確認が必要です。

Q3. 視力低下は、眼科以外でも調べますか?

眼科の診察で眼球の異常が見つからないとき、視神経より後ろの病変を確認するために、MRIやCTが行われます。急に視力が落ちた、物が二重に見える、片目が出てきたなどの症状があれば、早めに眼科や救急外来を受診してください。

Q4. 眼窩のMRIで、炎症と腫瘍はどう見分けますか?

拡散強調像で拡散制限があり、痛みも蜂窩織炎もなければ、悪性腫瘍を考えます。拡散制限がなく、痛みや蜂窩織炎があれば、炎症か感染を考えます(Ferreira 2018)。確定には、臨床経過や生検が必要になることがあります。

あわせて読みたい:頭頸部癌の治療後画像の読み方、多発外傷の頭頸部評価、頭頸部のサルコイドーシス

参考文献

  1. Expert Panel on Neurological Imaging, Friedman ER, Juliano AF, et al. ACR Appropriateness Criteria® Vision Loss. J Am Coll Radiol. 2025;22(11S):S738-S765. PubMed
  2. Expert Panel on Neurologic Imaging, Kennedy TA, Corey AS, et al. ACR Appropriateness Criteria(®) Orbits Vision and Visual Loss. J Am Coll Radiol. 2018;15(5S):S116-S131. PubMed
  3. Ferreira TA, Saraiva P, Genders SW, et al. CT and MR imaging of orbital inflammation. Neuroradiology. 2018;60(12):1253-1266. PubMed
  4. Siakallis LC, Uddin JM, Miszkiel KA. Imaging Investigation of Thyroid Eye Disease. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2018;34(4S Suppl 1):S41-S51. PubMed
  5. Potvin ARGG, Pakdel F, Saeed P. Dysthyroid Optic Neuropathy. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2023;39(6S):S65-S80. PubMed
  6. Al-Bader D, Hasan A, Behbehani R. Sellar masses: diagnosis and treatment. Front Ophthalmol (Lausanne). 2022;2:970580. PubMed
  7. Bennett JL. Optic Neuritis. Continuum (Minneap Minn). 2019;25(5):1236-1264. PubMed

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