先に結論:下垂体卒中とは

  • 下垂体卒中は、下垂体(多くはもともとあった下垂体腺腫)の中で急に出血や梗塞(血流が途絶えて壊死)が起こり、腫れて周りを圧迫する状態です
  • 症状は突然の激しい頭痛に加え、見えにくい・視野が欠ける・物が二重に見える(眼筋まひ)・吐き気・意識の低下など。下垂体ホルモン(特に副腎皮質ホルモン)が急に不足して命にかかわることがあり、緊急の治療が必要です
  • 診断はMRIが最も役立ちます。下垂体の腫瘤の中に出血(時期によりT1強調像で白い、T2*強調像で黒い)や液面(ニボー)が見え、拡散強調像で白く写ることもあります。単純CTでは見逃されることがあります
  • 治療は副腎皮質ステロイドの補充がまず優先です。視力・視野の障害が強い、または悪化する場合は手術(経蝶形骨洞手術)、目の症状が軽く意識も保たれていれば保存的治療を選ぶこともあります

※突然の強い頭痛に視力の異常を伴うときは、すぐに救急受診してください。

  • 突然の頭痛と視野障害で急ぐこと:全身状態の安定、副腎皮質ステロイドの補充、視力・視野の評価、脳神経外科と内分泌科による検討です。CTで異常がなくても、疑えばMRIで確認します(来院時のCT・MRIでの検出率は28%・91%でした)

下垂体卒中(pituitary apoplexy)とは?

  • 下垂体の血管障害にて、突然の頭痛、視力障害、眼痛、眼筋麻痺、意識障害などを来す症候群。
  • 出血のみならず、梗塞も含まれる。下垂体腺腫の2〜12%に合併し、とくに非機能性腺腫に多いとされる。
  • 下垂体卒中を来しやすい基礎疾患として、下垂体腺腫(WHO 2022分類では下垂体神経内分泌腫瘍:PitNET)(最多)、妊娠中、分娩後、高血圧、易出血性などがある。誘因には大手術、抗凝固療法、負荷試験なども挙げられる(Briet 2015、妊娠・産後はDonald 2025)。
  • 負荷試験が発症を誘発することがある。TRH・GnRH(LH-RH)負荷試験後の発症例が報告されている(Frankart 1995)。ただし多くの症例では明らかな誘因は同定されない(Bi 2015)。かつては脳神経外科的緊急症とされたが、近年は選ばれた症例で保存的治療も増えており、手術と同程度の転帰が得られている。いずれの場合も副腎皮質ステロイドは発症後ただちに開始する。
  • 治療は、まず副腎皮質ステロイドの補充などで全身状態を安定させる。視力・視野障害や意識障害が強い・進行する場合は、手術(経蝶形骨洞手術)で出血・梗塞部位を除去する。症状が軽い場合は保存的治療で経過をみることもある。

下垂体卒中の症状が出る仕組み

  • 頭痛・吐き気:腫瘍の急な腫大と出血の刺激
  • 視力低下・視野欠損:上にある視交叉の圧迫
  • 複視・眼瞼下垂:両脇の海綿静脈洞を通る動眼・滑車・外転神経の圧迫
  • だるさ・血圧低下・意識低下:ACTH不足による副腎不全など

下垂体卒中の症状が出る仕組み:腫瘍の急な腫大と出血の刺激(頭痛・吐き気)、視交叉の圧迫(視力低下・視野欠損)、海綿静脈洞の神経(動眼・滑車・外転)の圧迫(複視・眼瞼下垂)、ACTH不足による副腎不全など(だるさ・血圧低下・意識低下)
45例の検討では、来院時に下垂体腺腫が分かっていたのは18%だけで、81%に下垂体機能低下があった(Sibal 2004)。腫瘍を知らないまま突然発症することが多い。

下垂体卒中の画像所見のポイントは?

  • CTやMRIでの吸収値や信号は出血の有無や出血の時期によってさまざま。
  • 造影されないことが特徴である。造影されても周囲の被膜のみ。
  • ただし、単純CTでは指摘できないこともあり、疑う場合にはMRの撮影が必要。45例の検討では、下垂体卒中を指摘できたのはCTで28%、MRIで91%だった(Sibal 2004)。
  • 早期よりDWIにて高信号、ADCにて信号低下ありと報告あり。Pituitary Apoplexy: Early Detection with Diffusion-Weighted MR Imaging,AJNR 2002 23: 1240-1245
  • 出血成分の検出にはT2*WIも有用。
  • 出血によるニボーを認めることもある。

症例 30歳代女性 眼窩痛を伴う激しい頭痛の悪化

引用:Radiopaedia

中心部に出血を示唆する高吸収を示す鞍内塊を認めています。

MRIでは、T1WIでトルコ鞍を取り囲むような異常高信号あり、T2*WIでは中心部に出血を示唆する無信号あり、T2WIでは無信号を含む不均一な信号を認めています。病変は鞍部を拡大しており、鞍部上への進展があります。

下垂体卒中と診断されました。

症例 57歳男性 右目の視野狭窄

pituitary apoplexy

Pituitary Apoplexy: Early Detection with Diffusion-Weighted MR Imaging,AJNR 2002 23: 1240-1245より引用。DWIが有用な症例。

下垂体卒中の治療

  • 英国のガイドライン(UK guidelines 2011)では、神経症状が悪化する場合は手術とし、それ以外は手術と保存的治療のどちらがよいか定まっていないとしている(Rajasekaran 2011)。
  • スペインの多施設301例では69.4%が手術を受け、手術例は腫瘍が大きく視交叉の圧迫が多かった。永続的なバソプレシン欠乏(尿崩症)は手術後に多かった(Biagetti 2025)。

突然の頭痛と視野障害:何を急ぐか、なぜCTで見えにくいか

場面 急ぐこと・見るポイント
疑う臨床像 突然の頭痛に、嘔吐、視力・視野の障害、意識低下が加わり、第2・3・4・6脳神経(視神経と眼球運動の神経)の症状を伴うことがあります(Rajasekaran 2011)
まず行うこと 血行動態の安定、ステロイドの補充、神経眼科的な経過観察が中心です。典型的な下垂体卒中ではヒドロコルチゾンの迅速な補充が命を救うことがあるとされています(Rajasekaran 2011, Biagetti 2026)。薬の量は主治医の指示に従ってください
手術を考える場面 視力・視野の悪化が進む、または意識が下がるとき、手術による減圧が検討されます(Biagetti 2026)。症状が軽く進行しない例では保存的治療も選ばれます(Sibal 2004)
治療方針の補助 Pituitary Apoplexy Score(PAS)が方針決定に使われますが、頭痛が続くことや視力の変化の進み方など、取り込めない要素もあります(Biagetti 2026)
  • CTで見えにくい理由:45例の検討で下垂体卒中を指摘できたのはCTで28%、MRIで91%でした(Sibal 2004)。トルコ鞍は骨に囲まれ、出血の吸収値は時期によって変わるため、単純CTでは周囲との差がはっきりしにくいためと考えられます
  • くも膜下出血との区別:突然の頭痛と意識障害が出る点が似るため、くも膜下出血と診断された後に下垂体卒中と判明した症例が報告されています。くも膜下出血では、下垂体卒中のような両耳側半盲は通常みられません(Sergides 2009)
  • MRIで確認すること:腫瘍の大きさ、視交叉の圧迫、海綿静脈洞への広がり、出血の時期と範囲、造影されない部分(壊死・梗塞)です。DWIは超急性期の梗塞を早く捉えます(Rogg 2002)

Q. 下垂体卒中と下垂体出血は同じですか?
A. 同じではありません。下垂体卒中は突然の頭痛や視力低下などの症状を伴う症候群で、症状のない腺腫内出血などはこれに含めません(Bi 2015)。

Q. 突然の頭痛と視野の欠けで、何を一番急ぎますか?
A. 副腎皮質ホルモンの不足は命にかかわるため、ステロイドの補充と全身状態の安定が優先されます。視力・視野が悪化するときは、手術による減圧も検討されます(Rajasekaran 2011, Biagetti 2026)。

Q. CTで異常なしと言われたら安心ですか?
A. いいえ。CTで下垂体卒中を指摘できたのは28%でした。疑わしい症状があるときは、MRIでの確認が必要です(Sibal 2004)。

参考文献

  1. Briet C, Salenave S, Bonneville JF, et al. Pituitary Apoplexy. Endocr Rev. 2015;36(6):622-45. PubMed
  2. Rajasekaran S, Vanderpump M, Baldeweg S, et al. UK guidelines for the management of pituitary apoplexy. Clin Endocrinol (Oxf). 2011;74(1):9-20. PubMed
  3. Rogg JM, Tung GA, Anderson G, et al. Pituitary apoplexy: early detection with diffusion-weighted MR imaging. AJNR Am J Neuroradiol. 2002;23(7):1240-5. PubMed
  4. Asa SL, Mete O, Perry A, et al. Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Tumors. Endocr Pathol. 2022;33(1):6-26. PubMed
  5. Briet C, Salenave S, Chanson P. Pituitary apoplexy. Endocrinol Metab Clin North Am. 2015;44(1):199-209. PubMed
  6. Bi WL, Dunn IF, Laws ER. Pituitary apoplexy. Endocrine. 2015;48(1):69-75. PubMed
  7. Sibal L, Ball SG, Connolly V, et al. Pituitary apoplexy: a review of clinical presentation, management and outcome in 45 cases. Pituitary. 2004;7(3):157-163. PubMed
  8. Biagetti B, Cordero Asanza E, Pérez-López C, et al. Pituitary Apoplexy: Comorbidities, Management, and Outcomes-A Spanish Observational Multicenter Study. J Clin Endocrinol Metab. 2025;110(6):e1811-e1820. PubMed
  9. Donald DM, Tomkins M, O’Reilly MW, et al. Pituitary disorders in pregnancy. Clin Med (Lond). 2025;25(5):100488. PubMed
  10. Frankart L, De Hertogh R, Donckier J, et al. [Pituitary apoplexy of a gonadotrophinoma and TRH/GnRH tests. Literature review]. Acta Clin Belg. 1995;50(3):163-170. PubMed
  11. Biagetti B, Marques P, Ntali G, et al. Management of endocrine disease: update on the management of pituitary apoplexy. Eur J Endocrinol. 2026;194(2):R49-R66. PubMed
  12. Sergides IG, Minhas PS, Anotun N, et al. Pituitary apoplexy can mimic subarachnoid haemorrhage clinically and radiologically. BMJ Case Rep. 2009;2009:. PubMed

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