多発外傷の首の動脈 BCVIをCT血管撮影で見つける基準

交通事故の多発外傷で、頭部CTと頸椎CTのほかに「頸部のCT血管撮影も」と言われました。首の動脈の損傷とは、どんなものですか?
鈍的な外傷で首の動脈(頸動脈・椎骨動脈)が傷つくことを、鈍的脳血管損傷(BCVI)といいます。初めは症状がないまま、あとから脳梗塞を起こすことがあるので、画像で探します。誰に撮るのか、どう読むのかを整理します。

先に結論:BCVIは「症状が出る前に」見つけるために、リスクのある人にCT血管撮影(CTA)を撮る

項目 ポイント
どんな損傷か 頸動脈・椎骨動脈の内膜の裂け、解離、壁内血腫、仮性動脈瘤、閉塞、断裂
頻度 外傷入院の約0.2〜2.7%(報告による)。初めは無症状のことが多い(最大80%)
なぜ探すか 見逃すと脳梗塞の原因になる。治療されなかった頸動脈損傷では、後遺症が32〜67%と報告されている
誰に撮るか 頸椎骨折・頭蓋底骨折・顔面骨折などを伴う高エネルギー外傷(拡大Denver基準)
読み方 血管の走行に沿って、内膜フラップ・壁の肥厚・狭窄・仮性動脈瘤・途絶を追い、Biffl分類で段階づける

多発外傷の頭頸部評価の全体像

多発外傷では、まず救命に直結する損傷(気道・出血・頭蓋内出血)を拾い、そのうえで頭頸部を系統的に見ます。頭頸部で見落としたくないものを、見る順にまとめます。

見るもの 確認すること
頭蓋内 出血(硬膜外・硬膜下・くも膜下・脳内)、脳の腫れ、正中偏位
頭蓋骨・頭蓋底 骨折線、特に頸動脈管・錐体骨・後頭顆への進展(頭蓋底骨折)
顔面骨 Le Fort骨折、下顎骨折、眼窩の骨折(顔面骨折の種類)
頸椎 骨折、脱臼・亜脱臼、椎体の並びの乱れ、横突孔への骨折の進展
頸部の軟部組織 血腫、気道の偏位・狭小化、喉頭・咽頭の損傷を示す皮下気腫
頸部の動脈 上の骨折があるときは、CTAで頸動脈・椎骨動脈を確認する

骨折が見つかると、そこで安心して見るのをやめてしまいやすい場面です。頸椎・頭蓋底・顔面の骨折は、動脈損傷を探す合図だと考えると、見落としが減ります。

鈍的脳血管損傷(BCVI)とは

BCVIは、交通事故や転落、暴行、首吊りなどで、首や頭が強く動いたときに、頸動脈や椎骨動脈が引き伸ばされたり骨に挟まれたりして起こります。動脈の壁の内側(内膜)が裂けて、血液が壁の中に入り込み、血栓ができたり、血管が狭くなったり閉塞したりします。血栓が流れて脳に詰まれば脳梗塞です(Brommeland 2018、So 2022)。

  • 頻度:外傷入院の0.18〜2.70%と、報告の幅があります(Franz 2012)。重症頭部外傷では9%という報告もあります(Brommeland 2018)
  • 症状が遅れて出る:BCVIの患者さんの最大80%が、はじめは無症状とされます(So 2022)
  • 転帰:治療されなかった頸動脈損傷で後遺症32〜67%、死亡17〜38%、椎骨動脈損傷で後遺症14〜24%、死亡8〜18%と報告されています(So 2022)

誰にCTAを撮るか:拡大Denver基準

外傷患者さん全員に頸部のCTAを撮るのは現実的ではないため、症状や外傷の型で対象を絞る基準があります。代表がMemphis基準とDenver基準で、Denver基準を拡大した拡大Denver基準を、北欧の診療指針(Brommeland 2018)は推奨しています。次のどれかがあればCTAの対象になります。

区分 内容(拡大Denver基準 Brommeland 2018)
症状・徴候 首・鼻・口からの動脈性の出血、50歳未満の頸部雑音、拡大する頸部血腫、局所の神経症状、頭部CTと合わない神経所見、2回目のCTでの脳梗塞
リスク因子
(高エネルギー外傷で)
Le Fort II・III型骨折、下顎骨折、複雑な頭蓋骨折・頭蓋底骨折・後頭顆骨折、GCS 6未満の重症頭部外傷、あらゆるレベルの頸椎骨折・亜脱臼・靱帯損傷、低酸素脳症を伴う首吊り、シートベルト痕(強い腫れ・痛み・意識の変化を伴う)、胸部外傷を伴う頭部外傷、頭皮の剥脱、胸部の血管損傷、鈍的心破裂、上位肋骨骨折

骨折の種類ごとの手がかりも数字で示されています。

  • 頸椎損傷:頸椎損傷があるとBCVIの合併が約5倍(オッズ比5.45)でした(Franz 2012)。EASTの診療指針でも、頸椎損傷が高リスクの患者さんでは、スクリーニングのCTAが勧められています(Kim 2020)
  • 頭蓋底骨折:米国の全国データでは、BCVIと最も強く関連する外傷でした(オッズ比3.61)(Grigorian 2018)

基準を広げることの問題

基準を広げれば見つかるBCVIは増えますが、撮る患者さんも増えます。ある外傷センターの1,136件のCTAでは、拡大Denver基準を満たした例の12.6%、満たさない例の1.7%にBCVIがありました。ころんだ・殴られた・低速の自動車事故のような低エネルギー外傷で基準を満たさない204例は、見逃しが疑わしい損傷1例、脳梗塞0例で、スクリーニングから外せた可能性が示されています(Hiatt 2023)。一方、多発外傷976例の全身CTでは、BCVIがあった患者さんの37.5%が、Memphis基準のリスク因子を1つも持っていなかったため、全員の確認を勧める報告もあります(Bonatti 2013)。基準を使っても、BCVIの約20%は見つからないと見積もられています(Brommeland 2018)。基準は目安であり、基準に当てはまらなくても、画像で疑わしい所見があれば追加で確認するという姿勢が大切です。

CTAの撮り方と他の検査

検査 位置づけ
頸部CTA 初回のスクリーニングと診断の第一選択。16列以上のマルチスライスCTで、カテーテル血管造影(DSA)に対する感度は64〜98%、特異度は92〜100%(So 2022)。診断までの時間が31.2時間から2.65時間に短縮し、脳梗塞の割合が15.2%から3.8%になった報告がある(So 2022)
MRA DSAに対する感度は50〜75%と低く、単独では推奨されない。壁内血腫の評価や経過観察の補助に使う(So 2022)
カテーテル血管造影(DSA) CTAで判断がつかないとき、説明のつかない神経症状があるとき、治療を予定するときの補助(So 2022)
頸動脈エコー 骨の近くや頭蓋底の損傷を見にくく、感度・特異度が低いため、ほとんど使わない(So 2022)

CTAは、歯の金属によるアーチファクトや動き、造影のタイミングのずれがあると精度が下がります(So 2022)。AJRの専門家パネルのレビューでも、頸部CTAがカテーテル血管造影に代わる第一選択になったとされています(Chatterjee 2024)。

画像所見:どう見えるか

画像所見の幅は、内膜の小さな傷から、壁の全層の断裂、動静脈瘻までさまざまです(So 2022)。

Biffl分類(Denver分類) 所見 頻度(236損傷)
グレードI 壁の不整、解離、壁内血腫(狭窄25%未満) 58%
グレードII 解離・壁内血腫(狭窄25%以上) 22%
グレードIII 仮性動脈瘤 14%
グレードIV 内腔の閉塞 1%
グレードV 断裂(造影剤の血管外漏出)、動静脈瘻 3%

(So 2022)

グレードが上がると、頸動脈では脳梗塞の割合も高くなります。椎骨動脈では、グレードと脳梗塞の割合は直接は対応しません(So 2022)。

見落としやすいポイント

  • 軽い内膜の傷は血管攣縮と間違えやすい:狭窄が25%未満の、わずかな内腔の不整や壁の軽い肥厚は、「攣縮」と読んでしまうことがあります。疑う意識が必要です(So 2022)
  • 内膜フラップは細い線状:壁から伸びる線状の造影欠損として見えます。軸位断だけでなく、多断面の再構成でも確認します(So 2022)
  • 閉塞の形で頸動脈と椎骨動脈が違う:頸動脈の閉塞は、閉塞の手前で先細りになることが多く、椎骨動脈の閉塞は、突然の途絶(abrupt cutoff)になりやすいとされています(So 2022)
  • 動静脈瘻は1相のCTAでは見落とす:動脈相での早い静脈の描出や、拡張した流出静脈が手がかりです(So 2022)
  • 椎骨動脈は横突孔の骨折の近くを重点的に:頸椎の骨折の近くで、血管の不整や途絶がないかを追います

症例 内頸動脈の内膜フラップ(交通事故)

内頸動脈の内膜フラップ 頸部CT血管撮影 軸位断と矢状断再構成(鈍的脳血管損傷)
引用:So TY, et al. Tomography. 2022;8(1):402-413(Figure 1)、CC BY 4.0(図は加工していません)

交通事故に遭った73歳男性の例です。軸位断(a)と矢状断の再構成(b)で、右内頸動脈の起始部に小さな、盛り上がった内膜フラップ(矢印)があります。

症例 内頸動脈の先細りの閉塞(多発外傷)

左内頸動脈の先細りの閉塞 頸部CT血管撮影 冠状断(鈍的脳血管損傷)
引用:So TY, et al. Tomography. 2022;8(1):402-413(Figure 11)、CC BY 4.0(図は加工していません)

多発外傷で搬送された70歳男性の例です。冠状断のCT血管撮影で、左内頸動脈が長い範囲で先細りしながら閉塞しています(矢印)。

フォローアップと治療の考え方

治療(抗血栓療法や血管内治療)は外傷チームが、損傷のグレードや他の出血を考えて決めるため、ここでは詳しく扱いません。ただし、画像で見つけることの意味を示す数字として、EASTの診療指針では、抗血栓療法をした群で脳梗塞のリスクが低く(オッズ比0.20)、死亡のリスクも低い(オッズ比0.17)とされています(Kim 2020)。

画像の経過観察では、初回の7〜10日後のCTAで、治療を止められる例が多いとされます。BCVIの多くは時間とともに改善・消失し(最大84%)、その変化の76%は1か月以内に起こります(So 2022)。北欧の診療指針では、7日目と3か月目の再撮影が条件付きで勧められています(Brommeland 2018)。

よくある疑問(Q&A)

Q1. 首の動脈の損傷は、症状がなければ心配いらないですか?

いいえ。BCVIの患者さんの多くは、はじめは症状がありません(最大80%)。症状が出る前に診断して治療を始めることが、脳梗塞の予防につながります(So 2022)。事故のあとに、片側の手足の力が入らない、言葉が出ない、ふらつくなどの症状が出たら、すぐに医療機関に連絡してください。

Q2. 外傷では、頸動脈の損傷はどの骨折と関係しますか?

頸椎骨折、頭蓋底骨折、顔面骨折(Le Fort II・III型・下顎骨折)が代表です。頸動脈管や横突孔の近くの骨折は、動脈の損傷を考える手がかりになります。

Q3. 自然に起こる動脈解離とは違いますか?

解離という血管の中の変化は似ています。外傷のない自然発症の場合は、内頚動脈解離や椎骨動脈解離の記事も参考にしてください。外傷では、骨折や高エネルギーの受傷機転があること、Biffl分類で記載することが特徴です。

Q4. 低エネルギーの外傷でもCTAは必要ですか?

ころんだなどの低エネルギー外傷で、拡大Denver基準を満たさない場合は、BCVIが少なく、基準を満たす場合に限ってスクリーニングを行う考え方があります(Hiatt 2023)。ただし、基準は目安で、症状や画像の所見があれば追加で確認します。

あわせて読みたい:頭頸部癌の治療後画像の読み方、頭頸部のサルコイドーシス、有毛性ポリープ(鼻咽頭)のCT・MRI

参考文献

  1. So TY, Sawhney A, Wang L, et al. Current Concepts in Imaging Diagnosis and Screening of Blunt Cerebrovascular Injuries. Tomography. 2022;8(1):402-413. PubMed
  2. Brommeland T, Helseth E, Aarhus M, et al. Best practice guidelines for blunt cerebrovascular injury (BCVI). Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2018;26(1):90. PubMed
  3. Kim DY, Biffl W, Bokhari F, et al. Evaluation and management of blunt cerebrovascular injury: A practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. J Trauma Acute Care Surg. 2020;88(6):875-887. PubMed
  4. Franz RW, Willette PA, Wood MJ, et al. A systematic review and meta-analysis of diagnostic screening criteria for blunt cerebrovascular injuries. J Am Coll Surg. 2012;214(3):313-27. PubMed
  5. Grigorian A, Kabutey NK, Schubl S, et al. Blunt cerebrovascular injury incidence, stroke-rate, and mortality with the expanded Denver criteria. Surgery. 2018;164(3):494-499. PubMed
  6. Hiatt KD, Agarwal R, Oravec CS, et al. Blunt Cerebrovascular Injury: Are We Overscreening Low-Mechanism Trauma? AJNR Am J Neuroradiol. 2023;44(11):1296-1301. PubMed
  7. Bonatti M, Vezzali N, Ferro F, et al. Blunt cerebrovascular injury: diagnosis at whole-body MDCT for multi-trauma. Insights Imaging. 2013;4(3):347-55. PubMed
  8. Chatterjee AR, Malhotra A, Curl P, et al. Traumatic Cervical Cerebrovascular Injury and the Role of CTA: AJR Expert Panel Narrative Review. AJR Am J Roentgenol. 2024;223(1):e2329783. PubMed

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