膝MRIの矢状断(サジタル)は、膝を真横から見た向きの断面です。前十字靱帯(ACL)・後十字靱帯(PCL)の全長、半月板の前節(前角)と後節(後角)、そして膝蓋骨・膝蓋腱・大腿四頭筋腱という「膝を伸ばすしくみ(伸展機構)」が1枚で見えるため、膝MRIでいちばんよく見る断面です。
この記事では、画像診断cafeの正常な膝MRI(矢状断)に色を付けて、外側から内側へスライスを進めたときに何がどこに見えるかを順番に解説します。膝MRI全体で何がわかるかは膝のMRIでわかること|半月板・靱帯・関節軟骨の正常な見え方もあわせて参考にしてください。
先に結論:膝MRI矢状断を見る順番と目印
- 外側か内側かを決める:腓骨頭が見えるスライスが外側です。外側から順に、外側半月板→顆間窩(ACL・PCL)→内側半月板と進みます
- 半月板:端のスライスでは前後がつながった「蝶ネクタイ」、中央寄りでは前と後ろに離れた2つの黒い三角形に見えます
- 内側半月板は後節が大きい:内側では後ろの三角形が前より明らかに大きく、外側では前後がほぼ同じ大きさです
- ACL:顆間窩の外側寄りのスライスで、前下がりの細い帯。顆間窩の天井(Blumensaat線)とほぼ平行に張っています
- PCL:ACLより内側寄りのスライスで、太くて真っ黒な弓形。後ろに凸のカーブを描いて脛骨の後ろに付きます
- 伸展機構:前から大腿四頭筋腱→膝蓋骨→膝蓋腱→脛骨粗面。膝蓋腱のすぐ後ろの三角形の脂肪が膝蓋下脂肪体(Hoffa脂肪体)です
膝MRIの矢状断で見えるもの
矢状断では、画面の左が前(膝蓋骨側)、右が後ろ(膝窩側)、上が大腿骨、下が脛骨です。スライスを外側から内側へ動かすと、外側の関節(外側顆と脛骨外側顆)→真ん中の顆間窩→内側の関節(内側顆と脛骨内側顆)の順に見えます。
靱帯・腱・半月板はどれも黒(低信号)が正常です。プロトン密度強調像や脂肪抑制T2強調像で、それらの中に白い線や白い部分が入り込んでいないかを見ます。この記事の図は、外側→伸展機構→ACL→PCL→内側の5枚です。
外側のスライス:外側半月板の前節・後節

外側の関節を真横から見た図です。オレンジが外側半月板の前節、黄オレンジが後節、茶色が腓骨頭、黄色が膝蓋下脂肪体です。
画像:画像診断cafe(正常例)
腓骨頭が見えるのが外側の目印です。大腿骨外側顆と脛骨の間に、前と後ろの2つの小さな黒い三角形が見えます。これが外側半月板の前節と後節で、外側では前後がほぼ同じ大きさなのが特徴です。
もう少し外側の端のスライスでは、前節と後節がつながって「蝶ネクタイ(bow tie)」の形に見えます。半月板はC字(外側はO字に近い)の形をしているので、端を縦に切ると前後がつながって見え、中央寄りでは前後に分かれるためです。蝶ネクタイが見えるスライスの数が少なすぎると、半月板の一部がちぎれて移動したバケツ柄断裂を、多すぎると円板状半月板を考える手がかりになります(内側半月板のバケツ柄状断裂、円板状半月板とは?)。
外側半月板の後節の後ろには膝窩筋腱が通り、半月板との間に液体が入るすき間があります。正常でも白い線に見えるので、断裂と間違えないようにします(半月板断裂と誤診しないために知っておくべき3つの偽病変)。
伸展機構:大腿四頭筋腱・膝蓋骨・膝蓋腱・膝蓋下脂肪体

膝の前の構造です。緑青色が大腿四頭筋腱、灰色が膝蓋骨、青が膝蓋腱、黄色が膝蓋下脂肪体、緑が膝蓋骨の上の奥にある膝蓋上包です。
画像:画像診断cafe(正常例)
膝の前では、上から大腿四頭筋腱→膝蓋骨→膝蓋腱(膝蓋靱帯)と一直線につながり、脛骨粗面に付きます。これが膝を伸ばすしくみ(伸展機構)です。大腿四頭筋腱は、大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋の腱が重なってできるため、矢状断で数層の縞に見えることがあり、正常です(大腿四頭筋のMRI画像の解剖)。
膝蓋腱は、細く、均一に黒い帯が正常です。膝蓋骨の下の端の付着部で、後ろ側が白く太くなっていればジャンパー膝(膝蓋腱炎)を考えます。
膝蓋腱のすぐ後ろ、関節の前にある三角形の脂肪が膝蓋下脂肪体(Hoffa脂肪体)です。脂肪なのでT1強調像で白く、脂肪抑制では黒くなります。中に細い線(滑膜ヒダや血管)が通るのは正常ですが、腫れて浮腫が強い場合はHoffa症候群を考えます(Hoffa症候群の画像診断、滑膜ヒダ(タナ)障害)。
膝蓋骨の上の奥に広がる袋が膝蓋上包で、関節とつながっています。関節液が増えるとここが最初に膨らむので、関節液の量を見る場所です(膝の滑液包の種類と場所)。
顆間窩(外側寄り):前十字靱帯(ACL)

顆間窩の外側寄りのスライスです。赤が前十字靱帯で、大腿骨の後ろ上から脛骨の前の方へ斜めに下ります。上の赤は膝窩動脈です。
画像:画像診断cafe(正常例)
外側の関節を過ぎて大腿骨外側顆が小さくなると、顆間窩に入ります。ここで後ろ上から前下へ斜めに走る帯が見えたら、それが前十字靱帯(ACL)です。ACLは大腿骨外側顆の内側の壁(顆間窩の外側の壁)の後ろから始まり、脛骨の顆間の前の方に付きます。
正常のACLは、まっすぐ張っていて、顆間窩の天井(Blumensaat線)とほぼ平行です。PCLよりやや明るく、細い線維の束が縞のように見えることがありますが正常です。ACLが途切れている、波打っている、天井より寝てしまっている、といった変化は断裂を示します。断裂では大腿骨外側顆と脛骨の後ろ外側に骨挫傷が出ることも多く、あわせて確認します(前十字靱帯(ACL)断裂のMRI画像診断)。
コツ:ACLは斜めに走るため、1枚で全長が見えないことがあります。前後の数枚をつなげて、大腿骨側から脛骨側まで途切れなく追えるかを確認します。脛骨側の付着部が骨ごと剥がれる骨折は脛骨顆間隆起骨折で解説しています。
顆間窩(内側寄り):後十字靱帯(PCL)

顆間窩の内側寄りのスライスです。紫が後十字靱帯で、後ろに凸の弓のような形で脛骨の後ろへ下ります。ピンクは脛骨の後ろにある膝窩筋です。
画像:画像診断cafe(正常例)
ACLより少し内側のスライスで、太くて真っ黒な弓形の帯が見えます。これが後十字靱帯(PCL)です。PCLは大腿骨内側顆の外側の壁から始まり、後ろへカーブして脛骨の後ろの中央(関節面より下)に付きます。膝を軽く曲げた撮影姿勢では、なめらかなカーブを描くのが正常です(Sonin 1995)。
PCLはACLより太く、中まで均一に黒いのが特徴です。PCLの中が白く太く見える、途切れる場合は損傷を考えます。また、バケツ柄断裂でちぎれた内側半月板がPCLの前下に移動すると、PCLが2本あるように見えるdouble PCL signになります。
PCLの前や後ろを、外側半月板の後節から大腿骨内側顆へ向かう細い半月板大腿靱帯が通ることがあり、小さな黒い点に見えます。正常の構造なので遊離体と間違えないようにします。
内側のスライス:内側半月板の前節・後節

内側の関節を拡大した図です。左の黄色が内側半月板の前節、右の濃い黄色が後節です。後節の三角形の方が明らかに大きく見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
内側の関節では、大腿骨内側顆と脛骨内側顆の間に、内側半月板の前節と後節が見えます。内側半月板は後節が前節より大きいのが正常で、外側半月板(前後がほぼ同じ)との違いになります。前節の方が大きく見えるときは、後節がちぎれて前へ移動した可能性を考えます。
内側半月板の後節は、半月板断裂がもっとも多い場所です。三角形の中に表面(上の面か下の面)まで届く白い線があれば断裂、表面に届かない白い点や線は変性と考えます(半月板断裂・損傷のMRI画像所見|grade分類、高齢者の半月板病変について)。後節の付け根(根部)や、後節と関節包の境目(ramp)の損傷は見落としやすく、近年注目されています(Tomsan 2023)。
よく間違える構造・正常変異
- 横靱帯(膝横靱帯):内側半月板と外側半月板の前節をつなぐ細い靱帯で、前節の前に小さな黒い点として見えます。前節との間の白い線が断裂に見えることがあります
- 膝窩筋腱のすき間:外側半月板の後節の後ろを通る膝窩筋腱との間の液体は、正常でも白く見えます
- 大腿四頭筋腱の縞:複数の筋の腱が重なるため、層の間が白く見えることがあり、部分断裂と見分けます
- 二分膝蓋骨:膝蓋骨の外側上方が分かれて見える正常変異です(分裂膝蓋骨(二分膝蓋骨)とは?)
- 大腿骨顆部の不整:子どもの大腿骨顆部の後ろの不整は、骨化の途中の正常変異のことがあります
この解剖が役立つ病気
- 内側半月板と外側半月板断裂のMRI画像診断:断裂の形と血行
- 前十字靱帯(ACL)断裂:矢状断で連続性と傾きを見ます
- 膝蓋骨外側脱臼による骨軟骨損傷:膝蓋骨の内側と大腿骨外側顆の前の骨挫傷が特徴です
- 膝蓋軟骨軟化症のMRI所見:膝蓋骨の裏の軟骨を矢状断と横断で見ます
- Baker嚢胞(膝窩嚢胞):膝の後ろ内側、腓腹筋内側頭と半膜様筋腱の間にできる嚢胞です
- 膝のガングリオン:ACL・PCLに沿った嚢胞は矢状断で形がよくわかります
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の画像は、正常なMRIをタップすると解剖名がわかる無料ツール「画像診断cafe」から作りました。膝MRI矢状断の正常解剖(画像診断cafe)では、外側から内側までスライスを動かしながら、ACL・PCL・半月板の前節と後節・膝蓋下脂肪体の色分けを1枚ずつ確かめられます。冠状断(膝MRI冠状断)と見比べると、靱帯の走り方が立体的にわかります。
スマートフォンではアプリも使えます。iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」と検索してください。AndroidはGoogle Play(画像診断cafe)からインストールできます。アプリの紹介は画像診断cafeアプリを公開しました、解剖の覚え方はCT・MRIの画像解剖の勉強法にまとめています。
膝MRIの矢状断でよくある疑問(Q&A)
Q. 矢状断でACLとPCLはどちらが外側ですか?
A. ACLが外側寄り、PCLが内側寄りです。外側半月板が見えるスライスから内側へ進むと、先にACL、続いてPCLが現れます。ACLは前下がりの細い帯、PCLは太い弓形なので、形でも見分けられます。
Q. 半月板の後節が前節より大きいのは異常ですか?
A. 内側半月板では正常です。内側半月板は後節が大きく、外側半月板は前後がほぼ同じ大きさです。逆に、内側で前節の方が大きく見えるときは、後節の一部がちぎれて前に移動していないかを確認します。
Q. 膝蓋下脂肪体は何のためにあるのですか?
A. 膝蓋腱と関節の間をうめるクッションのような脂肪で、膝の曲げ伸ばしで形を変えながら関節の前のすき間を埋めています。神経や血管が多く、腫れたり挟まったりすると膝の前の痛みの原因になります。
参考文献
- Sonin AH, Fitzgerald SW, Hoff FL, et al. MR imaging of the posterior cruciate ligament: normal, abnormal, and associated injury patterns. Radiographics. 1995;15(3):551-61. PubMed
- Tomsan H, Gorbachova T, Fritz RC, et al. Knee MRI: Meniscus Roots, Ramps, Repairs, and Repercussions. Radiographics. 2023;43(7):e220208. PubMed
- Nguyen JC, De Smet AA, Graf BK, et al. MR imaging-based diagnosis and classification of meniscal tears. Radiographics. 2014;34(4):981-99. PubMed
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