滑膜ヒダ(タナ)障害とは?
- 膝関節は発生途中でいくつかの滑膜による隔壁により分割されているが、生下時には単一の関節腔となる。この滑膜隔壁の遺残が滑膜ヒダ(タナ)といわれる。
頻度の高いものに
- 膝蓋上ヒダ(suprapatellar plica)
- 内側ヒダ(mediopatellar plica)
- 膝蓋下ヒダ(infrapatellar plica)
がある。
- いずれも正常構造であり、薄く柔軟性に富み、臨床的に問題とはならない。関節鏡で観察すると白色の膜様構造として見られる。
- しかし繰り返す機械的刺激などにより反応性滑膜炎が生じ、ヒダの肥厚や瘢痕化が進行すると症状が出現し、タナ障害と呼ばれる。
膝蓋上ヒダ(suprapatellar plica)
- 胎生期には膝蓋上隔壁(suprapatellar septum)により膝蓋上嚢と膝関節腔は分離しているが、この隔壁が退縮して膝蓋上ヒダとなる。
- この退縮にはvariationがあり、type1(全く退縮せずに残ったもの):16.2%、type2(ヒダに穴が空く形で大部分が残ったもの):29.5%、type3(一部のみが残ったもの):42.9%、type4(全く残っていないもの):11.4%と分類される(T zidorn arthroscopy 1992;8(4):459-64)
- 全く退縮せずに残ったtype1のものは、完全に膝蓋上滑液包が分離しており、孤立膝蓋上嚢とばれる。そこに外傷、感染、出血などにより膝蓋上腔に液体貯留が促進されることにより、膝蓋上部に皮下腫瘤を触れることがある(孤立膝蓋上滑液包炎)。
内側滑膜ヒダ(mediopatellar plica)
- 膝関節腔の内側を走向する滑膜ヒダ。
- MRI横断画像で高頻度に認められる。
- 関節液が少ないと認識されないこともある。
- 外側の滑膜ヒダはまれである。
- 大きな内側ヒダはタナ(shelf)と呼ばれ、膝蓋大腿関節に挟み込まれ、クリックや疼痛を来し、重度の場合にはロッキングを来たし、いわゆる「タナ障害」を発生する。
- 画像で肥厚した内側滑膜ヒダが見えても、必ずしも臨床症状に一致せず、MRIでのタナ障害の確定診断は困難。
- MRIで内側滑膜ヒダは、横断像で内腔へ張り出す。T2強調像で低信号の索状・帯状物として見られる。
症例 40歳代女性 右膝の痛み
T2WIの横断像にて、内側滑膜ヒダを認めており、肥厚あり。関節内水腫あり。内側滑膜ヒダのタナ障害が疑われた。
膝蓋下ヒダ(infrapatellar plica)
- 前十字靭帯の前方に位置し大腿雁骨関節腔を左右に振り分けるように存在し、膝蓋下脂肪体と順間窩前方を連絡する。
- 膝蓋下脂肪体(Hoffa‘s fat pad)をつり上げる役割といわれる。
- 膝関節鏡施行時に高頻度で認められ、操作に支障をきたす場合は切除(穿破)することもある。
- 3つの滑膜ヒダのうちMRIで認識できる頻度は低い。
- 前十字靭帯の前方頭側をほぼ平行に走向する薄い索状物としてまれに見られる。
- 臨床的に問題となることは少ないが、まれにその腫脹により膝伸展障害をきたすことがある。