脱髄疾患の鑑別 4つの軸で絞る早見表

MRIで脳や脊髄に「脱髄を疑う病変」と書かれていました。多発性硬化症、NMOSD、MOGADなど名前が多くて、どの記事から読めばいいのか分かりません。
脱髄疾患は、「いつ・どこに・どんな形で」病変が出るかで絞ると整理できます。この記事は、当サイトの脱髄・炎症性疾患の解説への案内です。見分けの軸と診断基準の位置づけを表にまとめ、詳しい読み方は各記事へつなぎます。

先に結論:「時間経過(単相性か再発か)」「病変の場所」「抗体」「腫瘤状か」の4つで絞る

疑う疾患 手がかり 詳しい記事
多発性硬化症(MS) 脳室周囲・傍皮質・皮質・テント下・脊髄・視神経。中心静脈徴候が補助になる MSのMRI
NMOSD 視神経・脊髄・最後野・脳幹・間脳。AQP4抗体で分ける NMOSD
MOGAD MOG抗体が中核。ADEM・視神経炎・脊髄炎の形が多い MOGAD
ADEM 小児に多い急性の多巣性脳脊髄炎 ADEM
脱髄に似た別の病気 ODS、PML、Marchiafava-Bignami病、腫瘍など 下の「見間違えやすい疾患」へ

脱髄疾患を見分ける4つの軸

炎症性の脱髄疾患は、画像だけでは似て見えることがあります。MS、AQP4抗体陽性のNMOSD、MOGADは、脳・脊髄・視神経の病変パターンに違いがあり、予後と治療が異なるため、鑑別が重要とされています(Carnero Contentti 2023)。次の4つの軸を順に見ると、記事も選びやすくなります。

軸 見ること 関連の疾患
1. 時間経過 単相性か、再発・進行するか ADEM(多くは単相性)、MS(再発・進行)、MOGAD(単相性または再発)(Banwell 2023)
2. 病変の場所 視神経、脊髄、最後野・脳幹、脳室周囲・皮質など NMOSDのコア臨床像:視神経、脊髄、最後野、脳幹、間脳、大脳(Wingerchuk 2015)
3. 抗体 AQP4抗体、MOG抗体 NMOSDはAQP4抗体の有無で分類。MOGADはMOG-IgGが診断の中核(Wingerchuk 2015、Banwell 2023)
4. 形 点状か、腫瘤状か、長い脊髄病変か 腫瘤形成性脱髄、長大脊髄病変(LETM)

主な炎症性脱髄疾患:診断基準の位置づけ

多発性硬化症(MS)

診断は、2024年に改訂されたMcDonald基準(Montalban 2025)を確認します。2024年の改訂では、視神経が脳・脊髄などに加わる5つ目の解剖学的部位として使えるようになり、中心静脈徴候、paramagnetic rim lesion、髄液のκ遊離軽鎖を、条件に応じて補助的な根拠として使えると整理されました(Montalban 2025)。個別の記事が以前の版の基準に触れている場合があるため、診断では2024年改訂版の本文を確認してください。撮像の面では、2021年のMAGNIMS-CMSC-NAIMSの推奨が、3D-FLAIRを脳の中核の撮像法とすることを勧めています(Wattjes 2021)。画像の基本は多発性硬化症(MS)のMRI画像診断、補助所見はcentral vein sign(中心静脈徴候)を参照してください。

視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)

2015年の国際基準では、NMOSDという呼び方を使い、AQP4抗体の有無で分けます。AQP4抗体陽性のNMOSDのコア臨床像は、視神経・脊髄・最後野・その他の脳幹・間脳・大脳に関する症候またはMRI所見です。抗体陰性、または検査ができない場合は、より厳しい臨床基準と追加の画像所見が必要です(Wingerchuk 2015)。最後野は吐き気やしゃっくりで始まることがあり、最後野(area postrema)で解説しています。NMOSDの全体像はNMOSDの記事、視神経に出た場合は視神経炎のMRIを参照してください。

MOG抗体関連疾患(MOGAD)

MOGADでは、MOG-IgGの存在が診断基準の中核です。典型的にはADEM、視神経炎、横断性脊髄炎として現れ、皮質脳炎、脳幹、小脳の症状はあまり多くありません。単相性にも再発性にもなり、MOG-IgGは細胞ベースのアッセイで測ることが診断精度の上で重要とされています。MSなどの除外が必要な一方で、MSの患者全員にMOG-IgGの検査を行う必要はないとも示されています(Banwell 2023)。詳しくはMOGADの記事を参照してください。

ADEM(急性散在性脳脊髄炎)

小児の脱髄疾患の定義は、国際小児多発性硬化症研究グループ(IPMSSG)の2013年の改訂基準が整理しています。小児のADEM、臨床的孤立症候群、NMO、MSの改訂基準が示されました(Krupp 2013)。ADEMの診断基準・後遺症・MRIの特徴はADEMの記事にまとめています。

MSとNMOSDの病変の場所

多発性硬化症とNMOSDの典型的な病変の場所 MRI FLAIR DIR STIR
引用:Cacciaguerra L, Rocca MA, Filippi M. Korean J Radiol. 2023;24(12):1260-1275 (Figure 2). PubMed(CC BY-NC 4.0、加工なし)

論文の図です。上の6枚はMSの典型的な病変の場所で、脳室周囲、傍皮質、皮質、脳幹、視神経、脊髄です。下の6枚はNMOSDの例で、脳室上衣周囲、間脳、非特異的な白質、中脳水道周囲、視神経、脊髄です。脳はFLAIRの横断像、視神経はDIR、脊髄はSTIRの矢状断で示されています。

形で選ぶ:脊髄・腫瘤状の病変

形・場所 考えること 詳しい記事
長い脊髄病変 急性横断性脊髄炎とLETM。MS、NMOSD、MOGAD、脊髄梗塞を見分ける 急性横断性脊髄炎と長大脊髄病変
腫瘤状の脱髄病変 open ring signが手がかり。膠芽腫やリンパ腫と間違えやすい 腫瘤形成性脱髄病変(TDL)
リング状に造影される病変 膠芽腫、転移、膿瘍、脱髄を並べて鑑別する リング状増強効果を呈する疾患の鑑別

見間違えやすい疾患:脱髄に似た別の病気

疾患 見分けの手がかり 詳しい記事
浸透圧性脱髄症候群(ODS) 血清ナトリウムの急激な補正のあとに橋などに出る脱髄 ODS・橋中心髄鞘崩壊症
進行性多巣性白質脳症(PML) 免疫低下時のJCウイルスによる皮質下白質の病変 PML
Marchiafava-Bignami病 アルコール多飲に関連する脳梁病変 Marchiafava-Bignami病
皮質下白質(U-fiber)を侵す疾患 PML、PRES、CADASILなどの分布による整理 U-fiberを含む皮質下白質を侵す疾患
神経サルコイドーシス 髄膜・下垂体・脊髄の病変。脱髄に似ることがある 神経サルコイドーシス

年齢と背景で考え方が変わる

年齢によって、よくある疾患も診断の道具も変わります。2024年のMcDonald基準は、再発型・進行型のどちらにも使え、小児から高齢者まで生涯を通して使える統一的な基準として示されました。50歳以上の人や、ほかの病気をもつ人での診断の考え方も整理されています(Montalban 2025)。小児では、ADEM、臨床的孤立症候群、NMO、MSの定義が、国際小児多発性硬化症研究グループの2013年の改訂基準にまとめられています(Krupp 2013)。MOGADは、ADEMの形で現れることが典型的とされています(Banwell 2023)。

高齢者や基礎疾患のある人では、血管性の白質病変(慢性虚血性変化)も多く、脱髄との区別が問題になります。白質病変の読み方は、本サイトのU-fiberを含む皮質下白質を侵す疾患の記事のように、分布で整理すると迷いにくくなります。

MRIを撮るとき・読むときに見落としたくないこと

MSのMRIについて、2021年のMAGNIMS-CMSC-NAIMSの推奨は、次の点を挙げています(Wattjes 2021)。

項目 推奨・考え方(Wattjes 2021)
脳の撮像法 3D-FLAIRを中核の撮像法として、診断の精度と新しい病変の検出を高める
脊髄MRI 診断・予後・経過観察のいずれにも価値がある
造影剤 ガドリニウム造影剤は、特定の目的に限って慎重に使う
対象 小児、妊娠中、産後の患者にも推奨を広げて整理している

病変が脳だけに見えても、視神経と脊髄を調べると診断が進むことがあります。2024年のMcDonald基準では視神経が診断に使える部位になり(Montalban 2025)、NMOSDでも視神経・脊髄はコア臨床像の一部です(Wingerchuk 2015)。脳のFLAIRだけで読影を終えず、症状があれば視神経・脊髄の評価の追加を提案します。

画像を読むときの手順

  1. 病変の分布を確認する(脳室周囲、傍皮質、皮質、テント下、視神経、脊髄)
  2. 脊髄病変の長さ(長大病変か、短い病変か)を見る
  3. 形を見る(点状、卵円形、腫瘤状、リング状)
  4. 造影の有無と形(閉じたリングか、open ringか)を確認する
  5. 臨床の情報(年齢、先行感染・ワクチン、免疫状態、電解質、飲酒歴)を確認する
  6. 抗体検査(AQP4抗体・MOG抗体)の結果と照らし合わせる

チェックリスト

  • 単相性か、再発・進行する経過か(過去の画像と比べたか)
  • 視神経・脊髄・最後野・脳幹も含めて評価したか
  • 点状の病変だけでなく、腫瘤状・リング状の病変はないか
  • 免疫低下、電解質異常、飲酒など、別の原因の手がかりはないか
  • MSの診断では2024年改訂版の基準(視神経を含む5つの部位、中心静脈徴候など)を確認したか

よくある疑問(Q&A)

Q1. 脱髄疾患は全部MSですか?

いいえ。MSのほかに、AQP4抗体陽性のNMOSDやMOGADのように、MSとは別の疾患として整理されるものがあり、病変のパターン・予後・治療が異なります(Carnero Contentti 2023)。

Q2. MOG抗体は、MSの人全員で調べますか?

MOGADの診断基準を示した報告では、MSなどの診断を除外する必要がある一方で、MSの患者全員にMOG-IgGの検査をするべきではないとされています(Banwell 2023)。どのような場合に調べるかは、診察をした医師が判断します。

Q3. 中心静脈徴候は診断に使われますか?

2024年改訂のMcDonald基準では、中心静脈徴候を、条件によって補助的な根拠として使えるとされています(Montalban 2025)。

Q4. 症状はなく、MRIだけで脱髄病変が見つかったときは?

症状がなくても、MRIで見つかった所見が診断につながる場合があります。2024年の基準では、無症状でMRIだけに所見がある放射線学的孤立症候群も、一定の条件で診断基準を満たしうるとされています(Montalban 2025)。視力・感覚・歩行などの症状がある、または健診で指摘されたときは、神経内科で相談してください。

あわせて読みたい:Fabry病(ファブリー病)の脳MRI、小児の白質ジストロフィー・代謝疾患のMRI、造血幹細胞移植後の中枢神経合併症

参考文献

  1. Montalban X, Lebrun-Frénay C, Oh J, et al. Diagnosis of multiple sclerosis: 2024 revisions of the McDonald criteria. Lancet Neurol. 2025;24(10):850-865. PubMed
  2. Wattjes MP, Ciccarelli O, Reich DS, et al. 2021 MAGNIMS-CMSC-NAIMS consensus recommendations on the use of MRI in patients with multiple sclerosis. Lancet Neurol. 2021;20(8):653-670. PubMed
  3. Wingerchuk DM, Banwell B, Bennett JL, et al. International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders. Neurology. 2015;85(2):177-89. PubMed
  4. Banwell B, Bennett JL, Marignier R, et al. Diagnosis of myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease: International MOGAD Panel proposed criteria. Lancet Neurol. 2023;22(3):268-282. PubMed
  5. Krupp LB, Tardieu M, Amato MP, et al. International Pediatric Multiple Sclerosis Study Group criteria for pediatric multiple sclerosis and immune-mediated central nervous system demyelinating disorders: revisions to the 2007 definitions. Mult Scler. 2013;19(10):1261-7. PubMed
  6. Carnero Contentti E, Okuda DT, Rojas JI, et al. MRI to differentiate multiple sclerosis, neuromyelitis optica, and myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody disease. J Neuroimaging. 2023;33(5):688-702. PubMed
  7. Cacciaguerra L, Rocca MA, Filippi M. Understanding the Pathophysiology and Magnetic Resonance Imaging of Multiple Sclerosis and Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders. Korean J Radiol. 2023;24(12):1260-1283. PubMed

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