先に結論:浸透圧性脱髄症候群(ODS・橋中心髄鞘崩壊症)
- 低ナトリウム血症を急いで補正しすぎたときなどに、脳の浸透圧が急に変わって神経の髄鞘が壊れる病気です。アルコール多飲・低栄養・低カリウム血症・肝移植後の人で起こりやすく、補正の数日後にしゃべりにくい・飲み込みにくい・手足のまひ・意識障害が出ます
- MRIでは橋の中央にT2/FLAIRで高信号(三角形・「トライデント」形)が典型で、周辺部と皮質脊髄路は保たれる傾向があります。基底核・視床など橋以外に出ることもあります(橋外髄鞘崩壊症)
- 症状が出てからMRIの異常が遅れて現れることがあり、初回MRIが正常でも否定できません。拡散強調像(DWI)が通常の撮像より早く異常を示した症例の報告もあります。低ナトリウム血症がない人や、ゆっくり補正した人でも起こりえます。予防のため、低ナトリウム血症はゆっくり補正(1日あたりの上昇幅を制限)することが大切です
浸透圧性脱髄症候群osmotic demyelination syndrome:ODSとは?
- 体液の浸透圧の異常による炎症反応に乏しい脱髄疾患。
- 低Na血症に対する急速な補正が原因。
- ただし、高浸透圧血症の患者の症例にも起こり(低ナトリウム血症のない169例の集計では、42%が高ナトリウム血症であった;Ravioli 2026)、細胞外液が細胞内液に対して相対的に高い状態における障害と考えられている。
- また、糖尿病の高張性非ケトン性昏睡、慢性アルコール中毒や重症熱傷などの代謝障害状態が脳の浸透圧保護機能を低下させることも補助的要因となる。
- 病変は軽症では、脱髄とgliosis、重症ではnecrosisが見られる。
- 主に橋底部中央に見られる。(橋中心髄鞘崩壊症(central pontine myelinolysis:CPM))
- その他、基底核や視床,小脳回、内包、外包、最外包、皮質下白質、皮質などにも見られることがある(橋外髄鞘崩壊症(extra pontine myelinolysis:EPM))。→この場合、低酸素脳症、低血糖脳症、Wilson病、CJDなどが鑑別に挙がる。

橋中心髄鞘崩壊症の読み方・原因と予後
- 読み方:橋中心髄鞘崩壊症は「きょうちゅうしんずいしょうほうかいしょう」。英語はcentral pontine myelinolysis(CPM)。医療で「ODS」と書かれていれば、多くはosmotic demyelination syndrome(浸透圧性脱髄症候群)の略である。
- 原因:成人ODS 541例をまとめた系統的レビューでは、最も多い背景は低ナトリウム血症(78%)で、最も多い症状は脳症(意識の変化など:39%)であった(Singh 2014)。
- スウェーデン全国の83例では86.7%が低ナトリウム血症で、入院時のナトリウム値の中央値は104 mmol/L、全例が慢性の低ナトリウム血症であった。補正速度の中央値は0.72 mmol/L/時であった(Aegisdottir 2019)。長く続いた強い低ナトリウム血症を速く補正したときが典型的な状況である。
- 予後:上記の系統的レビューでは51.9%が良好に回復し、死亡は24.8%であった。肝移植後のODSは死亡または障害が77.4%と、それ以外(44.7%)より多かった(Singh 2014)。スウェーデンの検討では3か月時点で死亡7.2%、60.2%が日常生活自立であった(Aegisdottir 2019)。重い症状で始まっても回復する例がある。
MRI画像所見
- CPMでは橋中央にT2強調像で楕円形〜三角形の凸型の高信号を示す。T1WIでは低信号、FLAIRでは高信号を呈する。障害は横走線維に多く、橋被蓋や縦走線維は温存される傾向にある。T1強調像では橋底部に対称性の低信号がみられ、下行する皮質脊髄路と橋の周辺部は保たれると報告されている(Rippe 1987)。橋中央の高信号が三叉の矛(トライデント)のような形に見えるものが「トライデントサイン」と呼ばれる(Ginwala 2024)。
- 皮質脊髄路が走る橋底部付近が対称性に島状に保たれる傾向にある。また、びまん性に橋に異常高信号を認めても、辺縁部はspareされる傾向がある。
- mass effectに乏しく、造影効果は通常認めないが、辺縁や一部に造影効果が見られることもある。
- 発症後数日~数週にわたってMRI撮影で異常が指摘できないこともある。臨床的には二相性の経過をとることが多く、まず原疾患による症状があり、その後にODSによる橋の症状・意識障害・運動障害が現れる。MRIによる診断で予後は改善したが、なお33〜55%が死亡または介護に依存する状態となる(Lambeck 2019)。確立した治療はなく、予防が基本である。
- 拡散強調像(DWI)は、通常のT1・T2・FLAIRより早く異常を示した症例が報告されている。四肢麻痺の発症から24時間以内に橋中心部の拡散制限が捉えられた報告がある(Ruzek 2004)。ただし1例の報告であり、下の症例1のように拡散制限を認めない症例もある。
MRIはいつ撮る?症状とMRIのずれ
ODSで難しいのは、症状とMRIの異常が同じ時期に現れるとは限らない点です。
- 症状は二相性:まず低ナトリウム血症などの原因となった病気の症状があり、その後にODSによる橋の症状(飲み込みにくさ、意識の低下、運動障害など)が加わる経過が多いとされます(Lambeck 2019)。
- MRIは遅れて見える:画像所見は臨床症状に遅れ、症状の重さと一致するとは限らないとされています(Lampl 2002)。そのため、発症直後のMRIが正常でも、ODSを否定する材料にはなりません。
- 最初に見えるのはDWI:四肢麻痺の発症から24時間以内に、T1・T2・FLAIRで目立つ前にDWIで橋中心部の拡散制限が見つかった症例が報告されています(Ruzek 2004)。犬で急速補正後のMRIを追った実験でも、最初にDWIに変化が出て、その後に造影効果、FLAIR、T2強調像の異常が順に現れたとされています(Laureno 2018)。ただし動物実験の結果であり、そのまま人の撮影時期にあてはめることはできません。
- 読影のとき:橋に病変がないかを見るときは、T2・FLAIRだけでなくDWIも確認します。症状が続くのに画像が正常なときの撮り直しは、臨床経過をみて医師が判断します。
ゆっくり補正しても、低ナトリウム血症でなくても起こる?
- 補正が基準内でも起こりうる:1日10mEq/L以下の補正でODSが起きた21人の報告を集めた検討では、全員が市中発症の慢性低ナトリウム血症で、12人は開始時のナトリウムが115mEq/L未満でした。危険因子としてアルコール使用障害(11人)、低栄養(11人)、肝疾患(6人)、低カリウム血症(5人)が挙げられています(Tandukar 2021)。
- 低ナトリウム血症がない例:ナトリウム135mmol/L以上の169例の集計では、平均年齢42歳、ナトリウムの中央値は140mmol/Lで、42%が高ナトリウム血症でした。糖尿病が28%、アルコール乱用が26%、肝疾患が18%、低栄養が11%でした(Ravioli 2026)。
画像で橋に病変を見つけたら、ナトリウム値の推移だけでなく、飲酒歴、栄養状態、カリウム、糖尿病、肝疾患の有無もあわせて確認します。
症例 60歳代女性 入院中の強直間代発作

引用:Radiopaedia
橋中心にT2WI/FLAIR高信号あり。拡散制限は認めません。
橋中心髄鞘崩壊症(central pontine myelinolysis:CPM)と診断されました。
症例 60歳代男性 意識障害

T2WI・FLAIRでは、橋中央部に左右対称性の広範な高信号域を認めています。
CTでは同部に低吸収域あり(CTは慢性期のもの)。
浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症(central pontine myelinolysis:CPM))と診断されました。
参考)
・よくわかる脳MRI(第3版)
・臨床画像2013年3月 白質の構造からアプローチする脱髄性疾患 森本笑子
ODS・橋中心髄鞘崩壊症でよくある疑問(Q&A)
Q. ODSとCPM(橋中心髄鞘崩壊症)は同じですか。
A. ODSは橋中心髄鞘崩壊症(CPM)と橋外髄鞘崩壊症(EPM)の両方を含む呼び名です。単独で起こることも、合併することもあります(Alleman 2014)。
Q. 治りますか。
A. 541例の系統的レビューでは、51.9%が良好に回復し、24.8%が死亡しました(Singh 2014)。重い症状で始まっても回復する例があります。一方で確立した治療はなく、予防が基本です(Lambeck 2019)。
飲み込みにくさ、ろれつが回らない、手足に力が入らない、意識がぼんやりするといった症状が、低ナトリウム血症の治療後にみられる場合は、すぐに医療機関に伝えてください。
参考文献
- Alleman AM. Osmotic demyelination syndrome: central pontine myelinolysis and extrapontine myelinolysis. Semin Ultrasound CT MR. 2014;35(2):153-159. PubMed
- Ruzek KA, Campeau NG, Miller GM. Early diagnosis of central pontine myelinolysis with diffusion-weighted imaging. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(2):210-213. PubMed
- Lambeck J, Hieber M, Dreßing A, et al. Central pontine myelinosis and osmotic demyelination syndrome. Dtsch Arztebl Int. 2019;116(35-36):600-606. PubMed
- King JD, Rosner MH. Osmotic demyelination syndrome. Am J Med Sci. 2010;339(6):561-567. PubMed
- Singh TD, Fugate JE, Rabinstein AA. Central pontine and extrapontine myelinolysis: a systematic review. Eur J Neurol. 2014;21(12):1443-1450. PubMed
- Aegisdottir H, Cooray C, Wirdefeldt K, et al. Incidence of osmotic demyelination syndrome in Sweden: A nationwide study. Acta Neurol Scand. 2019;140(5):342-349. PubMed
- Rippe DJ, Edwards MK, D’Amour PG, et al. MR imaging of central pontine myelinolysis. J Comput Assist Tomogr. 1987;11(4):724-6. PubMed
- Lampl C, Yazdi K. Central pontine myelinolysis. Eur Neurol. 2002;47(1):3-10. PubMed
- Tandukar S, Sterns RH, Rondon-Berrios H. Osmotic Demyelination Syndrome following Correction of Hyponatremia by ≤10 mEq/L per Day. Kidney360. 2021;2(9):1415-1423. PubMed
- Ravioli S, Fussi F, Schwarz C, et al. Non-hyponatremia-associated osmotic demyelination syndrome: an analysis of published cases. Am J Med. 2026;139(4):495-499. PubMed
- Ginwala A, Thorat V, Jawale S. Osmotic Demyelination Syndrome: Trident Sign. J Assoc Physicians India. 2024;72(10):107. PubMed
- Laureno R, Lamotte G, Mark AS. Sequential MRI in pontine and extrapontine myelinolysis following rapid correction of hyponatremia. BMC Res Notes. 2018;11(1):707. PubMed
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