
先に結論:途切れのあるリング・弱い圧排・高いADCがTDLを支持する。ただし最後は生検や経過で決める
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| TDLとは | 大きな炎症性脱髄の病変で、2cmを超える大きさ・圧排・浮腫・リング状の造影など、腫瘍のような所見を示すもの |
| open ring sign | 白質に限局した、一部が途切れたリング(馬蹄形)状の造影。脱髄に特異度が高いが、膠芽腫でも見られる |
| TDLを支持する所見 | 途切れのあるリング、圧排が弱い、皮質に及ばない、ADCが高い、ほかの白質病変がある |
| 腫瘍を考える所見 | 強い圧排、閉じたリングや中心部の造影、皮質への浸潤、拡散制限(ADC低値) |
| 確定 | 画像だけで決めきれないときは、髄液・経過観察・生検を組み合わせる |
腫瘤形成性脱髄病変(TDL)とは
脱髄とは、神経線維を包む髄鞘が壊れることです。多発性硬化症(MS)などの病気で起こり、多くは小さな病変が多発します。まれに、病変が大きく、周囲の浮腫や圧排を伴って脳腫瘍のように見えることがあり、これを腫瘤形成性脱髄病変(tumefactive demyelinating lesion:TDL)、あるいはtumefactive MSと呼びます。MSでみられる非典型な所見として、大きさが2cmを超える、圧排がある、浮腫がある、リング状に造影される、といった特徴がまとめて語られます(Lucchinetti 2008)。
生検で確認された炎症性脱髄性疾患168人の報告では、発症時の年齢の中央値は37歳、男女比は1.2:1でした。最初の神経症状としての発症が61%で、追跡中に70%が確定したMSに進みました(Lucchinetti 2008)。病変は多発していることが多く(生検前のMRIで70%)、単発のままだったのは17%でした。病変の最大径の中央値は4cmで、圧排が45%、浮腫が77%にみられ、リング状の造影も多く認められました(Lucchinetti 2008)。症状は運動・感覚・認知機能の障害が中心で、失語や痙攣、視野障害を示す例もありました。
TDLはMSだけで起こるわけではありません。抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)・抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)でも、2cm以上の腫瘤状の病変が報告されています。米国Mayo Clinicの検討では、そうした病変がMOGADの22%(43/194人)、NMOSDの5%(16/359人)にみられました(Cacciaguerra 2023)。MSについては多発性硬化症(MS)のMRI画像診断、NMOSDについては視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)もご覧ください。
MRI所見:open ring signとは
造影MRIでTDLによくみられるのが、リングが閉じきっていない、途切れのある辺縁の造影です。open ring sign(開いたリング徴候)は、白質に限局する、開いた輪状または三日月状の造影をいいます(Masdeu 2000)。
この所見の価値を調べた報告では、病理で診断の確定した脱髄32例と、腫瘍・感染症の画像を比べ、脱髄を腫瘍・感染から見分ける特異度は2人の放射線科医でそれぞれ93.8%、84.4%でした。尤度比は、脱髄が腫瘍より約5倍、感染より約17倍でした。ただし、腫瘍や感染症のほうが頻度がはるかに高いため、open ring signがあっても、実際には腫瘍や感染症であることが多いと、報告は注意しています(Masdeu 2000)。つまり、この所見は有力な手がかりですが、それだけで脱髄と決めてはいけません。
症例 20歳女性 腫瘤形成性脱髄病変

引用:Radiopaedia(Tumefactive demyelination)
左前頭頭頂葉に、腫瘍のように見える2つの卵円形の病変があります。造影後のT1強調像では、途切れのある(開いた)リング状の造影を示し、周囲に浮腫と圧排があり、正中構造が軽く偏位しています。症例ページでは、T2強調像で辺縁が低信号、中心が高信号で、拡散強調像では辺縁に拡散制限があるとされています。副腎皮質ステロイドの大量静注療法の1か月後には、病変は縮小し、造影も消えて、臨床的にも大きく改善したと記載されています。
脳腫瘍(膠芽腫・リンパ腫)との見分け方
TDLが最も問題になるのは、悪性度の高い神経膠腫(膠芽腫など)と中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)との区別です。いずれも治療の方針が大きく異なるため、見分けが重要です。
| 所見 | TDLを支持 | 腫瘍(膠芽腫・リンパ腫)を支持 |
|---|---|---|
| 造影のパターン | 途切れのある辺縁の造影、中心部は造影されない | 閉じたリング、中心部まで造影される |
| 圧排(mass effect) | なし〜軽度 | 強い |
| 皮質への進展 | 皮質に及ばない | 皮質に及ぶ |
| 拡散(ADC) | 高い(拡散制限が弱い) | 低い(最小ADCが低い) |
| ほかの病変 | 別の白質病変(古い脱髄巣)がある | 遠隔の白質病変がない |
| 症状 | 運動・感覚の障害、運動失調 | 頭痛、意識・精神状態の変化 |
(Kim 2009、Mabray 2015、Chew 2023)
通常のMRIでの手がかり
TDL15人と脳腫瘍48人(リンパ腫10人、神経膠腫38人)を比べた研究では、TDLに多い所見は、途切れのあるリング状造影、造影される部分のT2強調像での等〜高信号の混在、圧排がないこと、皮質に及ばないことでした(Kim 2009)。66人(TDL23人、高悪性度神経膠腫31人、PCNSL12人)の別の検討でも、TDLは若く、女性が多く、病変がやや小さく、圧排が弱いか軽く、辺縁の途切れのある造影があり、中心部の造影や拡散制限がなく、皮質に及ばず、初回のMRIで別の白質病変があることが特徴でした(Chew 2023)。同じ検討では、一部のTDLはリンパ腫と見た目が似ることも指摘されています。
拡散強調像(ADC)
ADCの値も参考になります。TDL 24人、PCNSL 28人、高悪性度神経膠腫23人を調べた報告では、病変内の最小ADCの平均はTDLで0.886、PCNSLで0.547、高悪性度神経膠腫で0.470(×10-3 mm2/s)と、TDLで有意に高い結果でした。平均ADCはPCNSLよりTDLで高かったものの、高悪性度神経膠腫との差は有意でありませんでした(Mabray 2015)。著者らは、途切れのあるリング状造影、高いADC、病変の数が多いことが、それぞれTDLの可能性を高めると結論しています。ADCは単独の数値ではなく、ほかの所見と合わせて使うものです。
単純CTも役に立つ
意外ですが、単純CTも手がかりになります。MRIで造影された部分が、CTで低吸収だったのは、TDLの93%(14/15人)に対し、腫瘍では4%(2/48人)でした。MRIだけの診断の正確度が73%だったのに対し、単純CTを加えると97%になりました(Kim 2009)。
膠芽腫にもopen ringはある
膠芽腫でもopen ring patternが報告されています。55歳の症例では、初診時のMRIで圧排の少ない小さな開いたリング状の造影があり、脱髄を疑って精査を進めていましたが、8週間で病変は大きくなり、リングは閉じて、周囲に小病変が出て、MRSと灌流画像も腫瘍を示しました。生検で膠芽腫と診断されています。報告者は、open ringが見られたときは、ほかの画像検査を併用し、慎重に経過をみる必要があるとしています(Kinon 2017)。膠芽腫については膠芽腫のMRI画像所見、リング状に造影される病変の全体像は脳でリング状増強効果を呈する疾患の鑑別診断、リンパ腫については中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)のMRI画像所見で解説しています。
画像以外の手がかり:髄液と経過
画像だけで決めきれないときは、髄液の検査と経過が役立ちます。TDLと中枢神経系リンパ腫などを比べた日本の研究では、リンパ腫で髄液の可溶性IL-2受容体(sIL-2R)が高く、リンパ腫の判別の曲線下面積は0.867、感度83.3%、特異度90.0%でした(Ikeguchi 2018)。MOGADでは髄液の白血球数がMSより多く、オリゴクローナルバンドの陽性がMSで70%、MOGADで5%と大きく違いました(Cacciaguerra 2023)。
MOGADかMSかの見分けでは、T2強調像での辺縁の低信号、T1強調像での低信号、拡散制限(特に弧状)、リング状造影、Baló様や嚢胞状の見え方がMSを支持し、MOGADは頭痛や傾眠が多いとされます(Cacciaguerra 2023)。また、腫瘤状の病変がなくなる(消退する)頻度はMOGADで高いとされています。
MRIで診断がつかないときには脳生検が行われます。生検の前にステロイドなどの治療を始めるかどうかは、画像・髄液・経過を見たうえで、専門施設が判断します。
よくある疑問(Q&A)
Q. 腫瘤形成性脱髄病変は、MSになりますか?
A. 生検で確認された168人の報告では、追跡中に70%が確定したMSに進みました(Lucchinetti 2008)。一方で、MOGADやNMOSDでも腫瘤状の病変は起こります(Cacciaguerra 2023)。抗体の検査を含めて、原因の病気を調べます。
Q. open ring signがあれば、脱髄と考えてよいですか?
A. 脱髄を強く示唆しますが、それだけで決めてはいけません。膠芽腫でも同じ所見を示した報告があります(Kinon 2017)。経過や、ほかの画像・検査所見と合わせて判断します。
Q. 症状は腫瘍と違いますか?
A. 傾向としては、TDLでは運動や感覚の障害、運動失調が多く、悪性度の高い神経膠腫やリンパ腫では頭痛や精神状態の変化が多いと報告されています(Chew 2023)。ただし重なりが大きいため、症状だけでの区別はできません。
Q. 気になる症状があるときはどうすればよいですか?
A. 手足の力が入りにくい、しびれる、言葉が出にくい、視野が欠けるなどの症状があれば、早めに医療機関(脳神経内科・脳神経外科)を受診してください。
参考文献
- Lucchinetti CF, Gavrilova RH, Metz I, et al. Clinical and radiographic spectrum of pathologically confirmed tumefactive multiple sclerosis. Brain. 2008;131(Pt 7):1759-75. PubMed
- Masdeu JC, Quinto C, Olivera C, et al. Open-ring imaging sign: highly specific for atypical brain demyelination. Neurology. 2000;54(7):1427-33. PubMed
- Kim DS, Na DG, Kim KH, et al. Distinguishing tumefactive demyelinating lesions from glioma or central nervous system lymphoma: added value of unenhanced CT compared with conventional contrast-enhanced MR imaging. Radiology. 2009;251(2):467-75. PubMed
- Mabray MC, Cohen BA, Villanueva-Meyer JE, et al. Performance of Apparent Diffusion Coefficient Values and Conventional MRI Features in Differentiating Tumefactive Demyelinating Lesions From Primary Brain Neoplasms. AJR Am J Roentgenol. 2015;205(5):1075-85. PubMed
- Chew SH, Achmad Sankala HB, Chew E, et al. Tumefactive demyelinating lesions versus CNS neoplasms, a comparative study. Mult Scler Relat Disord. 2023;79():104992. PubMed
- Cacciaguerra L, Morris P, Tobin WO, et al. Tumefactive Demyelination in MOG Ab-Associated Disease, Multiple Sclerosis, and AQP-4-IgG-Positive Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder. Neurology. 2023;100(13):e1418-e1432. PubMed
- Kinon MD, Scoco A, Farinhas JM, et al. Glioblastoma multiforme presenting with an open ring pattern of enhancement on MR imaging. Surg Neurol Int. 2017;8():106. PubMed
- Ikeguchi R, Shimizu Y, Shimizu S, et al. CSF and clinical data are useful in differentiating CNS inflammatory demyelinating disease from CNS lymphoma. Mult Scler. 2018;24(9):1212-1223. PubMed
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