肩関節MRIでいちばん多く見る断面が斜位冠状断(しゃいかんじょうだん)です。棘上筋(きょくじょうきん)の走る向きに合わせて少し斜めに切った断面で、棘上筋腱・肩峰下(けんぽうか)のすき間・肩鎖関節・上下の関節唇(かんせつしん)を1枚で見渡せます。腱板断裂や肩峰下インピンジメントを疑ったときに、まず開く断面です。
この記事では、画像診断cafeの正常な肩MRI(斜位冠状断)に色を付けて、後ろの断面から前の断面へ、スライスごとに何が見えるかを解説します。肩MRI全体の見方と略語は肩関節MRIの正常解剖と見方、撮影方法と断面ごとのチェック項目は肩のMRIの撮影方法と各断面で見るべきポイントにまとめています。この記事は、そのうち斜位冠状断を1枚ずつ追う「スライスごとの解説」です。
先に結論:斜位冠状断で見る順番と目印
- まず中央の断面を探す:上腕骨頭・関節窩・肩峰が1枚にそろい、骨頭の上を棘上筋腱が横に走る断面が基準です
- 棘上筋腱:筋腹から腱へ移り、肩峰と肩鎖関節の下をくぐって大結節に付きます。正常の腱はどのシーケンスでも黒く、太さがそろっています
- 肩峰下のすき間:三角筋・肩峰と棘上筋腱の間にある細い脂肪の線が、肩峰下滑液包のある場所の目印です
- 関節窩と関節唇:関節窩の上と下のふちに、黒い三角形の関節唇が見えます。上方関節唇には上腕二頭筋長頭腱が付きます
- 後ろへ送る:棘下筋・小円筋が大結節の後ろ側に付く様子を確認します
- 前へ送る:肩甲下筋・小結節・上腕二頭筋長頭腱、烏口突起とそこから出る靱帯を確認します
斜位冠状断とは?どの向きの断面か
肩甲骨は胸の壁に沿って斜め前を向いているため、体の正面に平行な普通の冠状断で切ると、棘上筋が途中で切れてしまいます。そこで棘上筋の長い軸に平行に、斜めに傾けて切ったのが斜位冠状断です。
画像の見方は次のとおりです。
- 画像の左が外側(上腕骨・三角筋)、右が内側(肩甲骨・体の中心)
- 上が頭側で、肩峰と鎖骨が上のふちに並びます
- 画像診断cafeでは1枚目が後ろ、番号が増えるほど前の断面です
斜位冠状断に直交する斜位矢状断では、腱板の4つの筋を輪切りで見られます。こちらはこの記事と同じ形で外側から内側へ解説した「肩MRIの正常解剖(斜位矢状断)」の記事をご覧ください。
後ろの断面:棘下筋と小円筋

いちばん後ろ寄りの断面です。黄色の肩甲棘の下に水色の棘下筋が広がり、その下に緑の小円筋が並んで、どちらも外側の上腕骨頭(紫)の後ろへ向かいます。外側をオレンジの三角筋がおおっています。
画像:画像診断cafe(正常例)
- 肩甲棘は、肩甲骨の後ろの面を上下に分ける骨の稜線です。上が棘上窩(棘上筋)、下が棘下窩(棘下筋)になります
- 棘下筋と小円筋は、大結節の後ろ側の面に付き、腕を外へひねる(外旋)働きをします
- 棘下筋と小円筋の境目ははっきりしないことも多く、上下に並ぶ2つの筋として追うのがコツです
覚え方:後ろの断面は「肩甲棘の下に2段重ね(棘下筋・小円筋)」です。
中央の断面:棘上筋腱・肩峰・関節窩がそろう基準の1枚

基準になる中央の断面です。水色の棘上筋が内側から外側へ横に走り、黄色の肩峰とオレンジの肩鎖関節の下をくぐって、赤の大結節に付きます。上腕骨(紫)の内側に緑の関節窩、そのふちにピンクの関節唇が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
この1枚で確かめることは、次の3つです。
- 棘上筋腱の連続性:筋腹(やや灰色)から腱(黒)へ移ったあと、大結節まで黒い帯が途切れずに続いているか
- 肩峰・肩鎖関節と腱の距離:肩峰の下面や、肩鎖関節の下向きの骨のでっぱりが腱を押していないか
- 関節窩と骨頭の位置:骨頭が関節窩の正面にあり、上へずれていないか
棘上筋は腱板の中でいちばん断裂が多い腱です。断裂は大結節への付着部のすぐ近くに起こりやすいため、腱の外側の端(付着部)を拡大して見るのが基本になります。断裂の分類は腱板断裂のMRI画像診断のポイントで解説しています。
肩峰の下のすき間:肩峰下滑液包はここ

中央の断面の上半分を拡大しました。黄色の肩峰・オレンジの肩鎖関節・灰色の鎖骨が上にあり、その下を水色の棘上筋腱が通って赤の大結節に付きます。肩峰下滑液包は、肩峰と三角筋(だいだい色)の下、棘上筋腱の上にある、細い脂肪の線に沿った場所にあります。
画像:画像診断cafe(正常例)
肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)は、肩峰・三角筋と腱板の間にある薄い袋で、腕を上げるときに腱板がなめらかに滑るのを助けています。三角筋の下まで続くため、肩峰下三角筋下滑液包とも呼ばれます。
- 正常では袋の中の液体はごくわずかで、MRIでは袋そのものはほとんど見えません。見えるのは、袋に沿った細い脂肪の線(白い線)です
- 液体がたまって袋がふくらんで見えるときは、滑液包炎や、腱板の全層断裂で関節の水が袋へ漏れていることを考えます
- 肩峰・肩鎖関節・烏口肩峰靱帯がつくる屋根(烏口肩峰アーチ)と、骨頭の間の狭いすき間を腱板と滑液包が通るため、ここで擦れることが肩峰下インピンジメントの考え方のもとになっています
滑液包の種類や関節包との交通は肩峰下滑液包(SAB)とは?で詳しく解説しています。
関節窩と上・下の関節唇

関節の部分を拡大しました。緑の関節窩のふちの上と下に、ピンクの黒い三角形が見えます。上が上方関節唇、下が下方関節唇です。紫の上腕骨頭の上を水色の棘上筋腱が通ります。
画像:画像診断cafe(正常例)
関節唇は、浅い受け皿である関節窩のふちを囲む線維軟骨の土手で、受け皿を深くして骨頭を安定させています。斜位冠状断では、関節窩の上(12時方向)と下(6時方向)の関節唇を見ます。前後の関節唇は横断像で確認します。
- 正常の関節唇はどのシーケンスでも黒い三角形で、ふちがなめらかです
- 上方関節唇には上腕二頭筋長頭腱が付いています(上腕二頭筋長頭腱と関節唇の複合体)。投球動作などでここが前後にはがれるのがSLAP損傷です
- 下方関節唇のさらに下には、関節包がたるんだ袋(腋窩陥凹)があり、下関節上腕靱帯が付いています
見分けのポイント:上方関節唇と関節窩の軟骨の間に、なめらかで内側(関節窩の中心)へ向かう細い高信号の線が見えることがあります。これはsublabral recess(関節唇下陥凹)という正常変異のことがあり、損傷と区別が必要です。外側へ向かう線や、ぎざぎざした線は損傷を考えます。詳しくは肩の関節唇・関節上腕靱帯の正常変異のMRIをご覧ください。
前の断面:肩甲下筋と上腕二頭筋長頭腱、烏口突起からの靱帯

中央より前の断面です。①の肩甲下筋が内側から大きく広がり、⑥の小結節へ向かいます。骨頭の外側を②の上腕二頭筋長頭腱が下へ走ります。上のほうには③烏口肩峰靱帯、④烏口鎖骨靱帯、⑤烏口上腕靱帯が並びます。
画像:画像診断cafe(正常例)
- 肩甲下筋は腱板の中でいちばん大きな筋で、肩甲骨の前の面から小結節に付き、腕を内へひねる(内旋)働きをします
- 上腕二頭筋長頭腱は、上方関節唇から出て骨頭の上をまたぎ、大結節と小結節の間の溝(結節間溝)へ下ります。冠状断では骨頭の外側を縦に走る黒い帯として見えます
- 烏口上腕靱帯は、棘上筋腱と肩甲下筋腱のすき間(腱板疎部)をおおい、長頭腱を上から支えます。凍結肩(五十肩)ではここが厚くなります(凍結肩のMRI)
- 烏口肩峰靱帯は烏口突起と肩峰を結ぶ靱帯で、肩峰とともに肩の屋根(烏口肩峰アーチ)をつくります
- 烏口鎖骨靱帯は烏口突起と鎖骨を結び、鎖骨が上へ浮くのを防いでいます。肩鎖関節脱臼の重症度に関わる靱帯です(肩鎖関節脱臼のRockwood分類)
いちばん前の断面:烏口突起と上腕二頭筋短頭

いちばん前の断面です。黄色の烏口突起から、水色の上腕二頭筋短頭と緑の烏口腕筋が下へ伸びています。内側には紫の肩甲下筋が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
烏口突起は肩甲骨から前へ突き出た「くちばし」のような骨で、上腕二頭筋短頭・烏口腕筋(2つの腱はまとまって共同腱になります)・小胸筋が付きます。斜位冠状断では前のほうの数枚にしか出てこないため、烏口突起が見えたら前のはしと覚えると位置がわかりやすくなります。
よく間違える構造・正常変異
- マジックアングル効果:棘上筋腱が大結節へ向かってカーブする部分は、撮像条件(TEの短いシーケンス)によって腱が灰色〜白っぽく見えることがあります。T2強調像で黒ければ正常のことが多く、断裂と区別します(Magic angle effectとは?)
- 筋と腱の移行部:棘上筋の筋腹から腱に変わるところは、筋が混ざって灰色に見えます。ここだけで異常と決めず、腱の全長を追います
- 部分容積効果:前後の筋(棘下筋や肩甲下筋)が重なる断面では、腱が厚く見えたり、すき間があるように見えたりします。前後のスライスと見比べます
- 肩峰骨(os acromiale):肩峰の先が骨としてくっつかずに残る正常変異で、骨折と間違えやすいものです(肩峰骨の画像所見)
- sublabral recess:上方関節唇の下の正常なくぼみ。上に書いたように、線の向きとなめらかさで損傷と見分けます
- 上腕骨頭の嚢胞:大結節付近の小さな嚢胞は、腱板の付着部の変化と関係することがあります(上腕骨頭の嚢胞と腱板断裂の関係)
この解剖が役立つ病気
- 腱板断裂:棘上筋腱の付着部を中心に、全層か部分か、どこまで縮んでいるかを見ます → 腱板断裂のMRI画像診断のポイント
- 石灰沈着性腱板炎:棘上筋腱の中に黒い塊として見えます → 石灰沈着性腱板炎とは?
- 肩峰下インピンジメント・滑液包炎:肩峰の形、肩鎖関節の骨棘、滑液包の液体 → 肩峰下インピンジメント症候群、肩峰下滑液包(SAB)
- SLAP損傷:上方関節唇と長頭腱の付着部 → SLAP損傷のMRI画像所見
- 肩関節脱臼:下方〜前方の関節唇、骨頭の後ろのくぼみ → 肩関節脱臼の画像診断
- 傍関節唇嚢胞:関節唇の損傷から嚢胞ができ、肩甲上神経を圧迫することがあります → 傍関節唇嚢胞による肩甲上神経絞扼症候群
- 上腕二頭筋長頭腱の異常:腱鞘炎・断裂・脱臼 → 上腕二頭筋長頭腱のMRI・エコー
関節唇や腱板をより細かく見たいときは、関節の中に造影剤を入れるMR関節造影を行うことがあります(関節造影・MR関節造影とは)。整形外科領域の記事は整形外科領域のCT、MRI画像診断まとめから探せます。
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の図は、正常な肩MRIをタップすると解剖名がわかる無料ツール「画像診断cafe」から作りました。肩MRI 斜位冠状断の正常解剖(画像診断cafe)では、後ろから前へスライスを動かしながら、棘上筋・棘下筋・肩甲下筋や関節唇、烏口突起まわりの靱帯を色と名前で確かめられます。
スマートフォンではアプリも使えます。iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」と検索してください。AndroidはGoogle Play(画像診断cafe)からインストールできます。画像解剖の覚え方の順番はCT・MRIの画像解剖の勉強法も参考にしてください。
肩MRIの斜位冠状断でよくある疑問(Q&A)
Q. 斜位冠状断で棘上筋腱がいちばんよく見えるのはどのスライスですか?
上腕骨頭・関節窩・肩峰が1枚にそろう中央の断面です。そこから前後に1〜2枚ずつ送ると、腱の前寄りと後ろ寄りの部分も確認できます。断裂は腱の前寄りから始まることが多いため、中央より少し前の断面も見ておくと安心です。
Q. 肩峰下滑液包がMRIで見えないのは異常ですか?
異常ではありません。正常の滑液包は薄くつぶれていて、MRIではほとんど見えないのがふつうです。袋に沿った細い脂肪の線が見えていれば、その位置に滑液包があります。逆に、袋が液体でふくらんではっきり見えるときに、滑液包炎や腱板断裂を考えます。
Q. 関節唇は斜位冠状断だけで評価できますか?
斜位冠状断で見られるのは主に上と下の関節唇です。脱臼でよく傷む前下方や後方の関節唇は横断像で、関節唇全体のぐるりは斜位矢状断で確認します。3方向を組み合わせて見るのが基本です。
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