先に結論:肩関節脱臼とバンカート損傷・ヒルサックス損傷

  • 肩の脱臼の大部分(約9割)は前方脱臼で、腕を上げて外にひねった姿勢(外転・外旋)で起こりやすく、若い人ほど再脱臼しやすく、くせになる(反復性肩関節脱臼)ことが問題になります
  • 前方に脱臼すると、骨頭と受け皿(関節窩)がぶつかり合って2つの傷ができます:バンカート損傷(Bankart lesion)=関節窩の前下方の関節唇・靱帯がはがれる(骨の欠けを伴うものは骨性バンカート損傷)、ヒルサックス損傷(Hill-Sachs lesion)=上腕骨頭の後外側がへこむ骨折です
  • 関節唇・靱帯の損傷はMRI(関節内に造影剤を入れるMR関節造影も有用)、骨の欠け具合はCT(3D)で評価し、再脱臼を防ぐ手術(関節唇を縫い付けるバンカート修復術など)の方針を決めます

反復性肩関節脱臼

recurrent dislocation of shoulder joint1

  • 肩関節(肩甲上腕関節)は大きな可動性を有する一方で、脱臼を来しやすい関節の一つ。
  • 前方脱臼、後方脱臼、垂直脱臼に大別され、前方脱臼が約9割で最多(Shah 2016)。
  • 米国の救急受診8,940件の検討では、20歳代で発生率が最も高く、46.8%が15〜29歳でした(Zacchilli 2010)。若年者ほど再発が多い。12〜25歳で初回前方脱臼を保存的に治療した例では、25年間で38%が再脱臼に対して手術を受けた(26〜40歳では18%)と報告されている。
  • 通常は、外傷による1回の大きな外力で前方脱臼が生じた際に、前下方関節唇-靭帯複合体に損傷(Bankart lesion)が生じる。前方支持機能不全により、反復性前方脱臼に移行する。
  • 反復性肩関節脱臼とは2回以上の脱臼の既往があるもので、若い人に多い。
  • 上腕の外転・外旋位で、上腕骨頭が前下方に脱臼をきたしやすい。
前方脱臼の合併症
  • Hill-Sachs lesion
  • Bankart lesion
  • 大結節骨折、小結節骨折、上腕骨頸部骨折
  • 腱板損傷
  • 神経損傷(特に腋窩神経)

Bankart lesionとHill-Sachs lesion

  • Hill-Sachs lesion:脱臼時に骨頭の外側後部が関節窩前下縁に衝突して生じる陥没骨折。
  • 骨性Bankart lesion(osseous Bankart lesion):関節窩前下縁に骨損傷(欠損、遊離骨片など)をきたしたもの。骨折がないタイプもある。その場合は健側と比較しないと診断できないので注意。

※これらは作用反作用の結果。

Bankart-lesion-Hill-Sachs-lesion

Bankart lesionとHill-Sachs lesionは外傷の痕跡を見ているといえる。
(外傷の痕跡として有名なものは他に、膝関節のkissing contusion(前十字靱帯損傷による脛骨の前方移動)や膝蓋骨骨軟骨損傷(膝蓋骨外側脱臼による)がある)

Bankart lesion

2種類ある。

  • 関節窩前下部の関節唇剥離(古典的Bankart lesion、soft tissue Bankart lesion)
  • 関節窩の骨折(骨性Bankart lesion,osseous Bankart lesion)
古典的Bankart lesion詳細

古典的Bankart lesion=前下方関節唇の損傷+付着する前下関節上腕靭帯(関節唇~靭帯複合体)~関節包、関節窩骨膜の損傷

HAGL lesion
  • 前方関節唇とともに下関節上腕靱帯(IGHL)が損傷を受けたもの。
  • 下関節上腕靱帯(IGHL)の上腕解剖頸付着部で断裂を来すことがありHAGL lesionと呼ばれ、HAGL修復術が必要となる。
  • 斜冠状断像で、関節包断裂部においてJの形をしたJ shape signを認めるのが特徴。断裂部から関節包に液体が脱出する様子が見られる。

症例 60歳代男性

CT findings of recurrent dislocation of shoulder joint1

肩脱臼の画像所見(MRIのT2、T2*が重要)

  • 関節窩前部の骨折または関節唇前部の断裂(Bankart lesion)→関節唇の欠損、関節唇内の高信号。
    ※ただし、健常者でも関節唇内に高信号が認められることがあり、これだけで断裂とは診断できない。
  • 関節包の断裂や剥離。
  • 上腕骨頭後外側の圧迫骨折(Hill-Sachs lesion)
    ※Hill-Sachs lesionを評価する場合、上腕骨頭の後ろ外側に存在する正常の溝を誤って病変としないように注意する必要がある。正常の溝より上方(骨頭の上部のスライス)に存在することがポイントである。

症例 40歳代男性 反復する前方肩関節脱臼

CT and MRI findings of recurrent dislocation of shoulder joint1

肩関節CTでHill-Sachs損傷を認めていますが、骨性Bankart損傷ははっきりしません。

MRIのT2*強調像では、前方下方の関節唇がはっきりせず、Bankart損傷と診断されました。

症例 10歳代女性 反復する前方肩関節脱臼

MRIのT2*強調像では、前方下方の関節唇がはっきりせず、Bankart損傷と診断されました。

こちらの症例を動画でチェックする。

実際の画像:ヒルサックス損傷

ヒルサックス損傷 MRI
引用:De Filippo M et al. Skeletal Radiol 2026(Fig. 5)

前方脱臼の結果として起こった、上腕骨頭の後上外側の皮質のへこみ(矢印)です。(出典:De Filippo M et al. Skeletal Radiol 2026, Fig. 5, CC BY 4.0)

骨頭の上のほうのスライスで、後外側の輪郭がへこみ、まわりの骨髄が高信号になっています。正常の溝(骨頭の下のほうにある)と取り違えないよう、高さを確かめます。

 

バンカート損傷・ヒルサックス損傷・HAGL損傷の違い

傷む場所 中身 見やすい検査
バンカート損傷 関節窩(受け皿)の前下方 関節唇・靱帯がはがれる(骨が欠ければ骨性) MRI(骨片はCT)
ヒルサックス損傷 上腕骨頭の後外側(上部) 陥没骨折 CT・MRI
HAGL損傷 下関節上腕靱帯の上腕骨側 靱帯が上腕骨からはがれる MRI(J shape sign)

関節唇前上部は正常変異多い

  • 関節唇前上部(12時から3時方向)は正常変異(sublabral foramen・Buford complexなど)が多く、損傷と誤らないよう注意する。
  • 関節唇前上部の正常変異を、安易にSLAP lesion(superior labrum anterior to posterior)と読まないこと。

復習

  • SLAP lesionは関節唇上部
  • Bankart lesionは関節唇前下部。

①関節唇下間隙(superior sublabral recess):関節唇上部損傷(SLAP lesion)との鑑別が問題となる。線状で平滑なら正常。正常変異。

②関節唇下孔(sublabral foramen=sublabral hole):関節唇が関節窩から離れてすき間になっているもの。

③Buford complex:関節唇前上部の欠損と索状の中肩甲上腕靭帯が併存しているもの。

関連記事:関節唇および肩甲上腕靱帯の正常変異とMRI画像所見のポイント

その他チェックポイント

  • 下関節上腕靭帯前束(AIGHL)は外転外旋位での安定化機構であり、Bankart lesionでは同部位も損傷されるため、反復性肩関節脱臼という悪循環の原因となる。
  • AIGHLの連続性や太さなどもチェックする。骨欠損の評価では、関節窩と上腕骨頭の両方の欠損(bipolar bone loss)をあわせて考えるglenoid track(on-track/off-track)の概念が使われます。Hill-Sachs損傷の内側縁がglenoid trackの外に出る(off-track)と引っかかり(engagement)が起こりやすく、20〜25%を超える関節窩骨欠損とoff-track病変は術後再脱臼の危険因子とされ、Latarjet法などの骨移植術が検討されます(Park 2020)。なお、関節唇・関節包靱帯複合体の損傷やSLAP損傷の評価では、MR関節造影が造影剤を使わない通常のMRIより診断能が高いと報告されています(Pavic 2013)。Hill-Sachs損傷は通常のMRIでも感度97%・特異度91%と高い精度で検出できます(Workman 1992)。

CTでの関節窩の骨欠損の測り方

関節窩の骨欠損は、CTで関節窩を正面から見た断面(en face)を作り、下半分に円を当てて測る方法がよく使われます。関節窩と上腕骨頭の両方の骨欠損を合わせて考えるon-track/off-trackの評価では、off-trackの損傷は軟部組織の修復だけでは失敗しやすく、骨の手術が必要になることが多いとされます(De Filippo et al. 2026)。

関節窩骨欠損 CT 骨性バンカート損傷
引用:De Filippo M et al. Skeletal Radiol 2026(Fig. 2)

PICO法による関節窩の骨欠損の計測です。関節窩を正面から見たCTの多断面再構成像で、健側の関節窩の下部に円を当て(A)、その円を不安定な側の関節窩に移して骨欠損の面積(この例では123mm²)を囲みます(B)。両側の面積の差から骨欠損の割合を計算します。(出典:De Filippo M et al. Skeletal Radiol 2026, Fig. 2, CC BY 4.0)

X線で見逃されやすい後方脱臼のサイン

肩関節脱臼の多くは前方脱臼ですが、後方脱臼は初診時に見逃されやすいことで知られます。後方脱臼205人(242肩)の系統的レビューでは、正面像(AP像)だけで評価した166例のうち正しく診断されたのは19例(11.4%)にとどまりました。一方、正面像に腋窩像・Y像・CTを加えた36例では全例で初回に正しく診断されていました(Xu 2015)。

正面像での手がかり

  • lightbulb sign:上腕骨頭が内旋位で固定され、電球のような丸い形に見えます(Koutserimpas 2023)。
  • trough line:逆Hill-Sachs損傷(骨頭前内側の陥没骨折)を反映して、骨頭の内側に関節面と平行な線が見えます。急性後方脱臼30例では43%に見られました(Hirai Gimber 2018)。
  • 同じ30例では、逆Hill-Sachs損傷が83%、骨頭の内旋固定が76%に見られ、小結節の粉砕骨折が骨頭や関節に重なる「veil of obscuration」も40%にありました(Hirai Gimber 2018)。

けいれん発作のあとなどで腕が内旋位のまま動かせないときは後方脱臼を疑い、正面像で異常がはっきりしなくても腋窩像・Y像やCTを追加します。

画像の見方のまとめ:どこを見るか

  • レントゲン:正面像に腋窩像やY像を加え、骨頭が前・後ろのどちらにずれているか、大結節・関節窩の骨折がないかを見ます。正面像だけでは後方脱臼を見逃しやすいです(Xu 2015)。
  • CT:骨性バンカート損傷の骨片と関節窩の骨欠損の大きさ、ヒルサックス損傷の大きさと位置を測ります。両方を合わせてon-track/off-trackを判断します(De Filippo et al. 2026)。
  • MRI(MR関節造影):前下方の関節唇・下関節上腕靱帯の損傷、HAGL損傷、腱板損傷を見ます。関節唇の評価ではMR関節造影が通常のMRIより診断能が高いと報告されています(Pavic 2013)。
  • 見逃しやすい点:関節唇前上部の正常変異を損傷と読まないこと、ヒルサックス損傷と骨頭の正常の溝を取り違えないことです。

肩関節前方脱臼 X線
引用:Radiopaedia(Anterior shoulder dislocation 26)

左肩の正面像です。上腕骨頭が関節窩から外れて、内側下方(烏口突起の下)へずれています。前方脱臼の典型的な位置です。

よくある質問

Q. 肩が外れたあと、レントゲンで異常がなければ安心ですか?
A. レントゲンでは関節唇や靱帯は写らないため、バンカート損傷はMRIで確かめます。また後方脱臼は正面像だけでは見逃しやすく、腋窩像・Y像・CTを加えると見つけやすくなります(Xu 2015)。

Q. CTとMRIはどちらを撮ればよいのですか?
A. 骨の欠け(骨性バンカート損傷・関節窩の骨欠損・ヒルサックス損傷の大きさ)はCT、関節唇・靱帯・腱板はMRIが得意です。再脱臼を防ぐ手術を考えるときは、両方を使って骨と軟部組織の損傷を確かめます(De Filippo et al. 2026)。

Q. 若い人は肩の脱臼がくせになりやすいのですか?
A. 40歳以下で初回の前方脱臼を保存的に治療した例を25年間追った研究では、12〜25歳では38%が再脱臼に対して手術を受けていました(Hovelius 2008)。肩が外れた、外れそうな感じがくり返すときは、整形外科を受診してください。

あわせて読みたい:傍関節唇嚢胞による肩甲上神経絞扼症候群のMRI画像診断

参考文献

  1. Shah R, Chhaniyara P, Wallace WA, et al. Pitch-side management of acute shoulder dislocations: a conceptual review. BMJ Open Sport Exerc Med. 2016;2(1):e000116. PubMed
  2. Zacchilli MA, Owens BD. Epidemiology of shoulder dislocations presenting to emergency departments in the United States. J Bone Joint Surg Am. 2010;92(3):542-9. PubMed
  3. Hovelius L, Olofsson A, Sandström B, et al. Nonoperative treatment of primary anterior shoulder dislocation in patients forty years of age and younger. a prospective twenty-five-year follow-up. J Bone Joint Surg Am. 2008;90(5):945-52. PubMed
  4. Workman TL, Burkhard TK, Resnick D, et al. Hill-Sachs lesion: comparison of detection with MR imaging, radiography, and arthroscopy. Radiology. 1992;185(3):847-52. PubMed
  5. Pavic R, Margetic P, Bensic M, et al. Diagnostic value of US, MR and MR arthrography in shoulder instability. Injury. 2013;44 Suppl 3:S26-32. PubMed
  6. Gulati A, Dessouky R, Wadhwa V, et al. New concepts of radiologic preoperative evaluation of anterior shoulder instability: on-track and off-track lesions. Acta Radiol. 2018;59(8):966-972. PubMed
  7. Trivedi S, Pomerantz ML, Gross D, et al. Shoulder instability in the setting of bipolar (glenoid and humeral head) bone loss: the glenoid track concept. Clin Orthop Relat Res. 2014;472(8):2352-2362. PubMed
  8. Park I, Oh MJ, Shin SJ. Effects of Glenoid and Humeral Bone Defects on Recurrent Anterior Instability of the Shoulder. Clin Orthop Surg. 2020;12(2):145-150. PubMed
  9. Xu W, Huang LX, Guo JJ, et al. Neglected posterior dislocation of the shoulder: A systematic literature review. J Orthop Translat. 2015;3(2):89-94. PubMed
  10. Hirai Gimber L, Taljanovic MS, Rockov ZA, et al. The Veil of Obscuration: Additional Radiographic Sign of Posterior Shoulder Dislocation. Acta Med Acad. 2018;47(2):165-175. PubMed
  11. Koutserimpas C, Piagkou M, Karaiskos I, et al. Posterior Dislocation of the Shoulder: The Light-Bulb Sign. Cureus. 2023;15(10):e47800. PubMed
  12. De Filippo M, Fischetti M, De Biase CF, et al. CT-based methods for the assessment of glenoid bone loss. Skeletal Radiol. 2026;55(12):3109-3117. PubMed

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