肩鎖関節の解剖と周囲の靱帯
肩甲骨と鎖骨との間の靱帯には、
- 肩鎖靱帯
- 烏口鎖骨靱帯(菱形靱帯+円錐靱帯)
- 烏口肩峰靱帯 ←これは肩甲骨同士の靱帯
がある。
なかでも肩鎖関節脱臼に関与する肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯は以下の様。
肩鎖靱帯
肩鎖靱帯は、肩甲骨の肩峰と鎖骨遠位端の間の靱帯であり、肩鎖関節を構成し、関節の水平方向の安定性に寄与している。
烏口鎖骨靱帯
烏口鎖骨靱帯は、肩甲骨の烏口突起と鎖骨の遠位端の間の靱帯であり、菱形靱帯と円錐靱帯とからなる。
関節の垂直方向の安定性に寄与している。
これらの解剖を動画解説しました。
肩鎖関節脱臼と分類1)
- 交通外傷やスポーツでの受傷が多い。20-40歳代の男性に多く、その25-50%がスポーツ中に受傷する。
- 転倒・転落時に上肢をない点した状態で肩峰の前上方を打ち付ける直達外傷での受傷が多い。
- 上方への脱臼がある場合は、浮き上がった鎖骨遠位端を下方へ圧迫すると動揺性が生じ、あたかもピアノのキーのように戻ってくることからPiano key signと呼ばれる。浮き上がった鎖骨は視診で皮下の突出として確認でき、肩章サインとも呼ばれる。
- 肩関節レントントゲンを元に脱臼の程度・方向をtypeⅠ~Ⅵに分けたRockwood分類が広く用いられている。
- typeⅣ、Ⅵは稀なので、非整形外科医はtypeⅠ/ⅡとⅢ/Ⅴの区別だけできればOK2)。正面像で肩峰下端と鎖骨下端の距離が13mm未満ならtypeⅠ/Ⅱ、13mm以上ある場合はtypeⅢ/Ⅴとなる。
- 一般にtypeⅠ、Ⅱは保存療法、Ⅲ〜Ⅵは原則手術。
Rockwood分類
- typeⅠ(捻挫):肩鎖靱帯損傷・部分断裂でX線上の関節不安定性は認めない。
- typeⅡ(亜脱臼):肩鎖靱帯の断裂と烏口鎖骨靱帯の損傷・部分断裂が起こり、肩鎖関節の開大・水平方向の不安定性はあるが上方への転位はわずか。
- typeⅢ(上方脱臼):肩鎖靱帯の断裂と烏口鎖骨靱帯の完全断裂を起こし、垂直・水平方向の不安定性を来す。烏口鎖骨間距離は健側と比較して25-100%となる。
- typeⅣ(後方脱臼):肩鎖・烏口鎖骨靱帯の完全断裂で鎖骨遠位端が後方に脱臼している。
- typeⅤ(明らかな上方脱臼):typeⅢと同様の上方への脱臼だが、より重症で、烏口鎖骨間距離は健側と比較して100-300%となる。
- typeⅥ(下方脱臼):下方脱臼を起こし鎖骨遠位端が肩峰か烏口突起の下に転位する。
※上記イラストでは頻度の少ないtypeⅣ、Ⅵは掲載しておりません。
症例 40歳代女性 右肩痛
鎖骨下端と肩峰下端は23mm(>13mm)と開大を認め、Rockwood分類のtypeⅢの肩鎖関節脱臼と診断されました。
参考文献:
- 臨整外 56巻5号 2021年5月 P446-449
- 骨折ハンター P106-107