腱板断裂(rotator cuff tear)とは?
- 疫学:60歳以上では20%に全層性腱板断裂があり、40歳以上では35%に部分断裂があるという。
- つまり、無症状の人でもMRIを撮影すると35%に何らかの断裂がある。これから分かるように症状がまずあることが重要である。
- 最も損傷され易いのは棘上筋の大結節付着部。
- 原因は、肩の使い過ぎ、加齢による変性、外傷、(加齢による腱板機能不全に伴う上腕骨頭上方化に伴う)インピンジメントによる二次性変化(肩峰や肩鎖関節の変形性関節症との関連が言われている)。
- 手をついて転倒したりすると起こる(overhead sports=野球・テニス・水泳など)。
- 若年者のスポーツ障害においては、関節の内部での衝突(internal impingement)により腱板の後上部の骨頭側に損傷が多い。小さい関節側部分断裂が多い。
- 中/高齢者では、腱そのものの虚血・変性により起こり、これらが起こりやすい部位、大結節付着部から約1cm内側の部位(critical zone)の小断裂から始まることが多い。広範囲の滑液包側断裂が多い。
- 症状は、肩の痛み、上司挙上困難。
- 腱板はボール(上腕骨)とスプーン(肩甲骨)を結ぶ4つの筋の腱部より構成されている。前方:肩甲下筋、 上後方:棘上筋、 後下方:棘下筋、小円筋。
断裂の分類は?
- 全層断裂(Full-thickness tear)
- 不全(部分)断裂(Partial-thickness tear)
に分類され、不全(部分)断裂はさらに3つにわけられる。
※全層断裂を完全断裂と呼ばないことに注意。
不全(部分)断裂(Partial-thickness tear)
- 関節包側(ariticular side):最多。骨頭に近い方で切れる。
- 滑液包側 (bursal side):浅層側で、滑液包の液体が入ってくる。すぐ上にある肩峰のOA変化やフック型の肩峰形態が原因となる。
- 腱内(実質内) (intersititial):関節鏡では見えない。手術適応にならない。関節鏡を入れても切れていない。
腱板断裂のレントゲン所見
腱板そのものはレントゲンでは確認できない。
- 上腕骨頭の挙上
- 肩峰の骨棘形成(肩峰下インピンジメントが起こっている事が推測される)
進行すると、
- 肩峰と上腕骨頭の間の狭小化、肩峰に増殖性変化を認め、肩峰下臼蓋化が起こる。
- 上腕骨頭の大結節にerosionが生じ、大腿骨頭のように丸くなる(大腿骨頭様変形)。
- 肩甲上腕関節面にも狭小化、変形性変化を認めるようになる。
腱板断裂のMR所見
- T2WIにて棘上筋腱の連続性が悪い(不整)、あるいは高信号が特徴。STIRの方が診断精度が高いが読み過ぎには注意。主に斜冠状断で診断するが、なるべく斜矢状断でも確認する。
※断裂部にT2、T2*にて高信号なのは液体貯留してるから。液体が移動し、上腕二頭筋長頭腱鞘内にも液体貯留が認められることもある。
- 部分断裂は腱の連続性が部分的に消失し、消失部位に滑液包が貯留する。腱板変性や腱板炎などとの鑑別が困難な場合がある。手術適応になるのは、腱板の50%以上が切れているとき。(部分断裂が、関節面側か滑液包面側なのか、断裂の程度が50%以上か以下かに注意を払う。)※関節面側か滑液包面側かにより手術の際のポータルサイトの位置がかわる。
- 全層断裂では、腱の連続性が完全に消失し、上腕骨頭上部表面〜三角筋下まで滑液包が充満していることを確認する。筋が萎縮したり、断裂した腱の断端が変性や牽引を受ける。フック型の肩峰形態
- また、断裂したあと慢性経過をたどると筋が萎縮し、脂肪変性を来し、T1WIで高信号を呈するようになる(fatty atrophy)
Cofield分類とは?
- 全層断裂の重症度分類に用いられる。
- 腱板の近位断端から大結節の距離を測定する(大結節に付着した断裂した腱板は切除するためこの部分は無視する)
- 小断裂:断裂長が1cm未満
- 中断裂:断裂長が1cm以上3cm未満
- 大断裂:断裂長が3cm以上5cm未満
- 広範囲断裂:断裂長が5cm以上もしくは2つ以上の腱板全層断裂
Goutallier分類とは?
断裂している筋肉の脂肪変性の程度から、手術をしても再断裂する可能性を考慮して、Gradeの高いものは手術適応からはずそうとする分類。CTもしくはMRの矢状断で評価する。
- Grade0:脂肪沈着なし
- Grade1:わずかな索状の脂肪
- Grade2:筋肉>脂肪
- Grade3:筋肉=脂肪 Grade3以上では術後に再断裂のリスクが上がる。
- Grade4:脂肪>筋肉 Grade4では手術しない。
Grade3以上は修復しても再断裂の頻度が高く、上方関節包再建術やreverse型人工関節置換術が施行されることが多くなる。
Thomazeau分類とは?
- 断裂している筋肉の筋萎縮のの程度からの分類。CTもしくはMRの矢状断で評価する。
- StageⅠ(正常or軽度萎縮):占拠率1.00~0.60
- StageⅡ(中等度萎縮):占拠率0.60~0.40
- StageⅢ(高度萎縮):占拠率<0.40
Ellman分類とは?
- 部分断裂の評価に用いられ、gradeに応じて治療方針が変わることがある。
- 関節部位→A:関節側、B:滑液包側、C:腱内の3つに分ける。
- 断裂の深さで3つのgradeに分ける。正常腱板の厚みを12mmとしている。
- gradeⅠ:3mm未満
- gradeⅡ:3mm以上6mm以下
- gradeⅢ:6mmを越える。
症例 60歳代 男性
棘上筋腱は完全に断裂し棘上筋の萎縮あり。
上腕骨頭には骨挫傷を疑う異常高信号あり。
この症例を動画でチェックする。
症例 70歳代男性
棘上筋腱の滑液包側及び腱内に断裂を疑う異常な高信号所見あり。
棘上筋腱の滑液包側の不全(部分)断裂を疑う所見です。
症例 60歳代男性
棘上筋腱の関節側に断裂を疑う異常な高信号所見あり。
棘上筋腱の関節包側の不全(部分)断裂を疑う所見です。
腱板断裂の随伴所見-逆にこれらを見たら腱板断裂を疑う
- 肩峰下-三角筋下滑液包の液体貯留や肥厚
- 肩峰下骨棘や烏口肩峰靭帯の肥厚(インピンジメントを示す所見)
- 腱の退縮、筋萎縮、脂肪変性
- 大結節前上部の嚢胞性変化
- 筋肉の浮腫や嚢胞性変化(棘上・下筋)
- 上腕二頭筋長頭腱(LHB)の断裂や内側偏位
- 肩鎖関節嚢胞
治療は?
- 不全(部分)断裂→保存的治療
- 全層(完全)断裂→手術(断裂部を縫合)
腱板大断裂+上腕二頭筋長頭筋腱内方偏位とは?
- 腱板断裂は棘上筋腱の大結節付着部での断裂が最多だが、棘下筋腱や肩甲下筋腱に断裂が及ぶことがある。
- 肩甲下筋腱腱の断裂は外傷が多い。
- 肩甲下筋腱が切れると、支持している(肩甲下筋腱が上から押さえていた)上腕二頭筋長頭筋腱が内方偏位(脱臼)する。→画像では、この腱が結節間溝に同定できるかをチェックする。
- 逆に、上腕二頭筋長頭腱の亜脱臼を認めたら、肩甲下筋腱の部分断裂 (hidden lesion)を疑う。