首のMRIやCTを見ると、筋肉・血管・脂肪がぎっしり詰まっていて、どこから見ればよいか迷いがちです。そこで役に立つのが、筋肉を「間隙(かんげき)の壁」として見る考え方です。頸部の間隙は筋膜で仕切られた区画で、その仕切りの多くは筋肉に沿っています。目立つ筋肉を先に見つければ、その内側・外側・後ろにある間隙の場所も決まります。
この記事では、画像診断cafeの正常な頸部MRI(T2強調像)に色を付けて、上咽頭〜中咽頭・舌骨・甲状軟骨・首の付け根の4つの高さで、主な筋肉と間隙(咽頭粘膜間隙・傍咽頭間隙・咽頭後間隙・頸動脈間隙など)の位置関係を解説します。筋膜の層(浅葉・中葉・深葉)の理屈は頸部間隙と深頸筋膜とは?、構造を1つずつタップして確かめたい場合は頸部MRIの正常解剖ツールが向いています。
先に結論:頸部の筋肉と間隙を見る順番
- まず胸鎖乳突筋:首の外側を斜めに走るいちばん大きな筋肉。この内側(深い側)に頸動脈間隙があります
- 上の高さでは傍咽頭間隙の脂肪:上咽頭〜中咽頭の高さで、咽頭の外側にある三角形の脂肪。周りの間隙はこの脂肪を押す向きで場所がわかります
- 咽頭収縮筋の内側が咽頭粘膜間隙:咽頭の粘膜・扁桃組織がある区画です
- 頭長筋・頸長筋(椎前筋)の前が咽頭後間隙:椎体の前の筋肉と咽頭の間の薄い脂肪の層です
- 舌骨下では舌骨下筋群:喉頭・甲状腺の前に薄く重なる帯状の筋肉です
- 首の付け根では斜角筋:前斜角筋と中斜角筋の間を腕神経叢が通ります
頸部の間隙とは(ひとことで)
頸部の間隙は、深頸筋膜で仕切られた、病気の広がり方を決める区画です。腫瘍や膿瘍は、はじめは1つの間隙の中で広がり、その間隙の中身(粘膜・唾液腺・血管・リンパ節など)によってできやすい病気が決まります。そのため、病変が「どの間隙から出たか」がわかると、鑑別診断をかなり絞れます。
舌骨より上(舌骨上頸部)の主な間隙は次のとおりです。
- 咽頭粘膜間隙:咽頭の粘膜・リンパ組織(扁桃)・小唾液腺。上咽頭癌・中咽頭癌・リンパ腫の出発点です
- 傍咽頭間隙:咽頭の外側の脂肪の区画。中身はほぼ脂肪で、周りの間隙の病変に押されて形が変わります
- 咀嚼筋間隙:咬筋・内側翼突筋・外側翼突筋・側頭筋と下顎枝(咀嚼筋間隙の解剖と画像診断のポイント)
- 耳下腺間隙:耳下腺・顔面神経・下顎後静脈(耳下腺間隙とは?)
- 頸動脈間隙:内頸動脈(下では総頸動脈)・内頸静脈・迷走神経などの脳神経
- 咽頭後間隙:咽頭の後ろの薄い脂肪の層。外側には咽頭後リンパ節(Rouvièreリンパ節)があります
高さごとに見る頸部の筋肉と間隙
ここからは横断像を上から下へ見ていきます。図は画面の上が体の前です。色分けは片側だけに付けていますが、反対側にも同じ構造があります。
1. 上咽頭〜中咽頭上部の高さ:間隙の配置

咽頭の内腔に面して咽頭粘膜間隙、その外側に脂肪の傍咽頭間隙があり、傍咽頭間隙の前に咀嚼筋間隙、外側に耳下腺間隙、後ろに頸動脈間隙が並びます。咽頭の後ろの薄い層が咽頭後間隙です。
画像:画像診断cafe(正常例)
この高さは、舌骨上頸部の間隙がいちばんそろって見える断面です。中心にあるのは傍咽頭間隙の脂肪で、T2強調像では白く見えます。この脂肪を基準に、
- 脂肪が外側へ押されていれば咽頭粘膜間隙の病変
- 脂肪が内側(後内側)へ押されていれば咀嚼筋間隙の病変
- 脂肪が前へ押されていれば頸動脈間隙の病変
- 脂肪が内側(前内側)へ押されていれば耳下腺深葉の病変
と考えると、病変の出どころを推定できます。上咽頭の外側のくぼみ(Rosenmüller窩)は上咽頭癌の好発部位です(上咽頭癌・上咽頭悪性リンパ腫のCT・MRI画像診断)。
2. 同じ高さの筋肉:間隙の壁をつくる筋

咽頭の壁に上咽頭収縮筋、その後ろの椎体の前に頭長筋があります。前外側には内側翼突筋と咬筋(咀嚼筋)、後外側には顎二腹筋後腹と内頸動脈が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
先ほどの間隙を、筋肉で言い換えると次のようになります。
- 上咽頭収縮筋:咽頭粘膜間隙の外側の壁。この筋肉より内側が咽頭粘膜間隙、外側が傍咽頭間隙です
- 頭長筋:椎体の前にある椎前筋。この筋肉の前、咽頭収縮筋の後ろが咽頭後間隙です。頭長筋とその後ろの椎体のまわりは椎周囲間隙(椎前間隙)と呼ばれます
- 内側翼突筋・咬筋:咀嚼筋間隙の中身。内側翼突筋の内側の縁が、傍咽頭間隙の前外側の境界になります
- 顎二腹筋後腹:耳下腺と頸動脈間隙の間を斜めに走る筋肉で、両者を見分ける目印になります
- 内頸動脈:頸動脈間隙の中心。内頸動脈の外側(やや後ろ)に内頸静脈があります
3. 舌骨上〜舌骨の高さ:首の後ろと横の筋

首の外側を胸鎖乳突筋が覆い、その後ろに肩甲挙筋、首の後ろには外側から僧帽筋・頭板状筋・頭半棘筋が層になって並びます。椎体の前には頸長筋、前方には顎下腺のある顎下間隙が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
舌骨付近になると、胸鎖乳突筋がはっきりしてきます。胸鎖乳突筋は首の外側を前下方から後上方へ斜めに走るので、上の高さでは後ろ寄り、下の高さでは前寄りに見えます。この筋肉の深い側に頸動脈間隙があり、さらに後ろには副神経リンパ節(レベルⅤ)が並ぶ後頸間隙があります。
首の後ろの筋肉は、外側(浅い側)から僧帽筋→頭板状筋→頭半棘筋の順に層をつくります。僧帽筋の見方は僧帽筋のCT・MRI画像の解剖にまとめています。前方の顎下間隙には顎下腺とレベルⅠBのリンパ節があります。
4. 甲状軟骨の高さ:舌骨下筋群と頸動脈間隙

喉頭の前に胸骨舌骨筋・甲状舌骨筋・肩甲舌骨筋(舌骨下筋群)が薄く重なり、胸鎖乳突筋の深い側に頸動脈間隙があります。喉頭の後ろには下咽頭収縮筋が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
舌骨より下(舌骨下頸部)では、喉頭と甲状腺を舌骨下筋群が前から覆います。胸骨舌骨筋がいちばん浅く正中寄り、その深い側に胸骨甲状筋と甲状舌骨筋があり、外側を肩甲舌骨筋が斜めに横切ります。これらの筋肉に囲まれた、喉頭・甲状腺・気管・食道の区画が臓側間隙です。
頸動脈間隙は、この高さでは総頸動脈(上の方では内頸動脈・外頸動脈)と内頸静脈を含み、胸鎖乳突筋の深い側を縦に通ります。頸部リンパ節の多くはこの頸動脈間隙の周りに並ぶので、リンパ節のレベル分類もこの位置関係で覚えると楽です(頸部リンパ節のレベル分類(Ⅰ〜Ⅵ))。
5. 首の付け根:斜角筋と椎前筋

椎体の外側から前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋が並び、椎体の前には頸長筋があります。前斜角筋の前に内頸静脈と総頸動脈、その前を胸鎖乳突筋が覆います。
画像:画像診断cafe(正常例)
首の付け根では斜角筋が目立ちます。前斜角筋と中斜角筋の間のすき間(斜角筋隙)を腕神経叢と鎖骨下動脈が通り、鎖骨下静脈は前斜角筋の前を通ります。ここが狭くなって神経や血管が圧迫されるのが胸郭出口症候群です(胸郭出口症候群のレントゲン・CT・MRI画像診断)。腕神経叢そのものを見るMRIの撮り方は腕神経叢損傷に適したMRI撮像方法で扱っています。
椎体の前の頸長筋は、頭長筋と合わせて椎前筋と呼ばれ、これらと椎体を包む区画が椎周囲間隙です。咽頭後間隙と、そのすぐ後ろの危険間隙は縦隔までつながっているため、咽頭後膿瘍が縦隔へ広がることがあります。
よく間違える構造と正常変異
- 傍咽頭間隙の左右差:頭の傾きや撮影の位置で、正常でも左右の形が少し違って見えます。脂肪が一方へ押されているか、脂肪の中に異常な信号があるかで判断します
- 咽頭後リンパ節:咽頭後間隙の外側にある小さなリンパ節で、若い人では正常でも見えます。大きさや形、内部の信号で異常を判断します
- 内頸動脈の走行:内頸動脈が蛇行して咽頭後壁に寄っていることがあり、粘膜下の腫瘤と間違えやすい正常変異です(内頸動脈の走行異常)
- 内頸静脈の左右差:右の内頸静脈が太いことが多く、左右差そのものは異常ではありません
- 肩甲挙筋とリンパ節:肩甲挙筋は断面によって2つに分かれて見えることがあり、リンパ節と間違えないように上下のスライスでつながりを確かめます
頸部の筋肉と間隙の解剖が役立つ病気
- 咽頭粘膜間隙の腫瘍:上咽頭癌・中咽頭癌・リンパ腫。上咽頭癌のCT・MRI画像診断、中咽頭の画像解剖
- 下咽頭癌:下咽頭収縮筋の内側から発生します。下咽頭癌の画像診断
- 頸動脈間隙の腫瘍:神経鞘腫・傍神経節腫など。頸静脈孔から下りてくる腫瘍もあります。頸静脈孔とは?場所と通るもの
- 頸部の嚢胞性腫瘤:間隙と年齢で鑑別を絞ります。頸部の嚢胞性腫瘤の鑑別、リンパ管腫(リンパ管奇形)のCT・MRI画像所見
- 頸部リンパ節転移:頸部リンパ節のレベル分類
頸部CT全体を読む順番は頸部CTの読影ポイントにまとめています。
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の図は、画像診断cafeの頸部MRIビューアの正常画像を使っています。ビューアでは、筋肉・間隙・リンパ節レベルを色分けで表示でき、タップで名前を確かめられます。上咽頭から首の付け根までスライスを動かし、胸鎖乳突筋や頭長筋がどう形を変えていくかを追うと、間隙の位置関係が立体的にわかってきます。
スマートフォンでは、アプリ版も使えます。iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」を検索してください。AndroidはGoogle Playの画像診断cafeからインストールできます。解剖の覚え方はCT・MRIの画像解剖の勉強法も参考にしてください。
頸部の筋肉と間隙でよくある疑問(Q&A)
Q. 間隙の名前がたくさんあって覚えられません。何から覚えればよいですか?
A. まず傍咽頭間隙の脂肪を見つけ、その周りに「内側:咽頭粘膜間隙、前:咀嚼筋間隙、外側:耳下腺間隙、後ろ:頸動脈間隙」が並ぶ、と覚えるのがおすすめです。そのうえで咽頭後間隙と椎周囲間隙を加えると、舌骨上頸部の主な間隙がそろいます。
Q. 筋肉の名前はどこまで覚えればよいですか?
A. 読影でよく使うのは、胸鎖乳突筋・咽頭収縮筋・頭長筋/頸長筋・内側翼突筋・舌骨下筋群・斜角筋です。これらは間隙やリンパ節レベルの境界になるので、先に覚えておくと他の構造の場所も決めやすくなります。
Q. 頸部の解剖はCTとMRIのどちらで勉強するのがよいですか?
A. 筋肉と脂肪、粘膜の区別はMRIのほうが見やすく、間隙の勉強に向いています。一方、実際の診療で最初に撮られることが多いのはCTなので、MRIで位置関係を覚えたら、同じ高さのCTでも確かめておくと役に立ちます。
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参考文献
- Omami G, Bateman C, Wiggins R. Imaging of the Suprahyoid Spaces of the Head and Neck. Oral Maxillofac Surg Clin North Am. 2026. PubMed
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