頭蓋内と頭蓋外を交通する孔の一つに頸静脈孔(読み方は、けいじょうみゃくこう)があります。
ここには複数の脳神経が走行するため、ここに生じた腫瘍などの病変により脳神経が圧迫され症状をきたすことがあり、頸静脈孔症候群として知られています。
今回はそんな頸静脈孔(英語ではjugular foramen)について
- 頸静脈孔はどこに位置し、何が通るのか
- 頸静脈孔の画像所見・解剖
- 頸静脈孔に起こる病気
- 頸静脈孔症候群とは
といったことをイラストや実際のCT,MRI画像を用いてまとめました。
頸静脈孔の位置は?
頸静脈孔は頸動脈管の後外側、側頭骨錐体部と後頭骨の間に位置します。
頭蓋骨の模型を見てみましょう。
頭蓋骨を輪切りにして上から見た図が左の図になります。
そして拡大した図が右側の図になります。
頸静脈孔は先ほど述べたように側頭骨(錐体部)と後頭骨の間にあることがわかりますね。
頸静脈孔を通るものは?
頸静脈孔は神経部(前内側部)、血管部(後外側部)に大きく分けられ、通過する構造物は
- 神経部:下錐体洞、舌咽神経(Ⅸ)、Jacobson神経(Ⅸの鼓室枝)
- 血管部:内頸静脈、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)、Arnold神経(Ⅹの耳介枝)、上行咽頭動脈の小さい硬膜枝と後頭動脈
があります1)。
この頸静脈孔は正常であっても左右差を示すことが多いのが特徴で、右側が大きい場合が多いとされます。
これは、右は上大静脈へ流れるため、抵抗が少なく血流が多いためと考えられています。
病的な拡大の場合との鑑別は、周囲の骨皮質が正常に保たれているかどうかが重要です。
頸静脈孔の解剖・画像所見は?
頸静脈孔はCTやMRIといった画像検査で描出することが可能です。
CTでは孔として骨が欠損している部位として頸静脈孔を同定することができます。
MRIによる頸静脈孔の信号強度や造影剤を用いた場合の造影効果は様々です。
その理由は、流速、撮像シーケンス、スライス厚などに影響されるためです。
T1強調像で中〜高信号、Gd造影剤によりでしばしば濃染され、T2強調像は無信号のことが多いですが、そうでない場合もあります。
造影効果を左右どちらかだけに認めたりすることで、腫瘍性病変に類似することがあり、pseudolesion(偽病変)と呼ばれることでも有名です。
MRAでは、逆流した血流によって左主体に頸静脈球やS状静脈洞が描出されることがあります。
頸静脈孔の正常変異として、高位頸静脈球、頸静脈球憩室、裂開といった変異が知られています。
実際の画像を見てみましょう。
症例 30歳代男性 スクリーニング
頭部単純CTの骨を見やすくした骨条件の横断像(輪切り)です。
両側の頸静脈孔が類円形の骨欠損部として描出されている様子がわかります。
やや右の頸静脈孔の方がサイズが大きく描出されています。
症例 60歳代女性 スクリーニング
同じく頭部単純CTの横断像です。
右(向かって左)の頸静脈孔を同定することができますが、この高さでは左の頸静脈孔は認めません。
このように高さに左右差があることがしばしばあります。
続いてMRIの画像を見てみましょう。
症例 70歳代女性 スクリーニング
左側がT1強調像、右側がT2強調像のMRIの画像です。
右側(向かって左側)の頸静脈孔がT1強調像で高信号、内部に低信号を認めており、腫瘍のようにも見えます。
これをpseudolesion(偽病変)と言います。
このような頸静脈孔のMRIにおける信号パターンの左右差はよく見られます。
症例 50歳代女性 スクリーニング
このケースも先ほどと同じで、pseudolesion(偽病変)を疑う所見です。
この症例では腫瘍も否定できないと主治医が考え、造影CTも撮影されました。
関連:MRIで血管内(動脈内,静脈内)の高信号や低信号を決定する因子とは?パターンは?
左側の画像では少し見えにくいですが、他の静脈と同じように造影される様子がわかります。
また右側の骨条件の画像では骨欠損部位として認めており、正常の頸静脈孔に矛盾しない所見です。
頸静脈孔症候群とは?
先ほど述べたように、頸静脈孔の神経部には舌咽神経(Ⅸ)、血管部には迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)といった脳神経が通ります。
ですので、この頸静脈孔に腫瘍などが発生し、これらの神経を圧迫することで症状が起こることを頸静脈孔症候群(jugular foramen syndrome、またはヴェルネ症候群(Vernet syndrome))と言います。
具体的には、
- 舌の後1/3の味覚消失(Ⅸ神経障害による)
- 軟口蓋〜喉頭の感覚障害(Ⅸ、Ⅹ神経障害による)
- 嚥下障害(Ⅸ、Ⅹ神経障害による)
- 嗄声(Ⅹ神経障害による)
- 胸鎖乳突筋や僧帽筋の脱力(Ⅺ神経障害による)
と言った症状を来すことがあります。
さらに、この頸静脈孔の近くには内耳孔や舌下神経管もあるため、ここを通る顔面神経(Ⅶ)、内耳神経(Ⅷ)や舌下神経(Ⅻ)の麻痺を合併することもあります2)。
頸静脈孔に起こる病変
このような頸静脈孔症候群を起こす頸静脈孔を侵す病変としては、
- 頭蓋内から頸静脈孔や頸動脈間隙に進展するもの:髄膜腫
- 頸静脈孔に発生するもの:神経原性腫瘍(主として神経鞘腫(中でも迷走神経由来))、グロムス腫瘍
- 頭蓋底から頸静脈孔へ向かうもの:上咽頭癌
の3つに大きく大別され、それぞれ上記の腫瘍などが知られています。
なかでも神経鞘腫とグロムス腫瘍の画像の特徴について簡単にまとめます。
神経鞘腫
- 被包化された良性腫瘍
- CTでは筋と等濃度
- 造影剤により軽度〜中等度に造影される
- MRIではT1強調像で筋と等信号、Gdでよく造影され、T2WIで高信号
- しばしば腫瘍内出血を伴い、腫瘤内に液面形成を伴うことがある
という特徴があります。
グロムス腫瘍
- 拍動性耳鳴をきたす。
- 局在から、Jacobson神経(Ⅸの鼓室枝)に発生する鼓室内グロムス腫瘍(glomus tympanicum)、Arnold神経(Ⅹの耳介枝)に発生する頸静脈グロムス腫瘍(glomus jugular)に分類。
- glomus jugular では頸静脈孔周囲骨の虫食い状破壊性変化を伴うことが多い。
- 非常に血流豊富な腫瘍で造影効果が強い。
- MRIでは腫瘍内部や周辺にflow voidを認めることもある。(salt and pepper appearanceともいわれる。saltは腫瘍内の亜急性期の小血腫。pepperは腫瘍内の血流による無信号)
という特徴があります。
最後に
頸静脈孔についてまとめました。
- 頸静脈孔は側頭骨錐体部と後頭骨の間に位置する。
- 頸静脈孔は頸静脈の他、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)といった神経が通る。
- そのため頸静脈孔に腫瘍が生じるとこれらの神経障害が起こり、さまざまな症状が起こり、これを頸静脈孔症候群とという。
- 頸静脈孔症候群の原因となる腫瘍には、神経鞘腫、グロムス腫瘍、髄膜腫、上咽頭癌などがある。
という点が大きなポイントとなります。
1)頭頸部画像診断に必要不可欠な臨床・画像解剖 P70-86
2)イラスト解剖学 9版 P196
さらに、この頸静脈孔の近くには内耳孔や舌下神経管もあるため、ここを通る顔面神経(Ⅶ)、内耳神経(Ⅷ)や舌咽神経(Ⅻ)の麻痺を合併することもあります2)。
↓
舌下神経(Ⅻ)?
誤植ご指摘いただきましてありがとうございますm(_ _)m
修正しました。