耳小骨(じしょうこつ)は、鼓膜の奥の小さな部屋(鼓室・中耳)の中にある、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨の3つの小さな骨です。鼓膜の振動を、内耳の入り口(卵円窓)まで伝える「てこ」の役目をしています。

耳小骨は数ミリの大きさしかないため、普通の頭部CTではほとんど見えず、薄いスライスで撮る側頭骨CT(高分解能CT)で評価します。この記事では、画像診断cafeの正常な側頭骨CTに色を付けて、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨と鼓膜、上鼓室・中鼓室がどの高さにどう見えるかを、横断像と冠状断で解説します。側頭骨全体をスライスごとに動かして見たい場合は側頭骨CTの正常解剖・画像診断ツールも使えます。

先に結論:耳小骨をCTで見つける目印

  1. 上鼓室の「アイスクリームコーン」:横断像の上の方で、前のツチ骨頭(アイスクリーム)と後ろのキヌタ骨体・短脚(コーン)が組み合わさって見えます
  2. ツチ骨は前・外側、キヌタ骨は後ろ・内側:上から下へ追うと、ツチ骨は頭→頸→柄と細くなり、柄は鼓膜に付きます
  3. キヌタ骨長脚は下へ伸びてアブミ骨とつながる:長脚の先(豆状突起)とアブミ骨頭の関節が、伝音の連鎖の中で外れやすい所です
  4. アブミ骨は前庭の外側の卵円窓に収まる:横断像でも冠状断でも、前庭のすぐ外側を探します
  5. 冠状断ではPrussak腔とscutum:鼓膜の上の部分(弛緩部)の内側の小さなすき間と、その外側の骨のとがりです

耳小骨はどこにある?(ひとことで)

耳小骨は、外耳道の突き当たりの鼓膜と、内耳の入り口である卵円窓の間、側頭骨の中の空気の部屋(鼓室)にあります。鼓室は上下に3つに分けて呼びます。

  • 上鼓室:鼓膜より上の部分。ツチ骨頭とキヌタ骨体がここにあり、後ろは乳突洞口を通って乳突洞・乳突蜂巣へつながります
  • 中鼓室:鼓膜の高さ。ツチ骨柄・キヌタ骨長脚・アブミ骨があります
  • 下鼓室:鼓膜より下の部分。耳小骨はありません

前の方は耳管で上咽頭につながり、内側の壁の向こうには内耳(蝸牛・前庭)があります。内耳(蝸牛・前庭・半規管)は耳小骨とは分けて覚えると整理しやすくなります。解剖を覚える順番はCT・MRIの画像解剖の勉強法を参考にしてください。

高さごとに見る耳小骨のCT解剖(横断像)

図は画面の上が体の前、左側が外側(外耳道の側)です。

1. 上鼓室:アイスクリームコーン

側頭骨CT横断像の上鼓室の高さ。ツチ骨頭・キヌタ骨体・キヌタ骨短脚・顔面神経鼓室部・前鼓室上陥凹を色分けした拡大図
上鼓室の中で、前のツチ骨頭と後ろのキヌタ骨体が組み合わさり、キヌタ骨体から後ろへ短脚が伸びます。内側の壁に沿って顔面神経鼓室部が前後に走ります。
画像:画像診断cafe(正常例)

横断像で耳小骨を探すときは、まず上鼓室を見ます。丸いツチ骨頭が前に、三角形のキヌタ骨体が後ろにあり、2つの骨の関節(キヌタ・ツチ関節)をはさんで並ぶ形がアイスクリームコーンにたとえられます。ツチ骨頭がアイスクリーム、キヌタ骨体と短脚がコーンです。

この形がくずれている、骨の輪郭が欠けている、周りに軟部の影があるときは、真珠腫などによる耳小骨の破壊を考えます。ツチ骨頭の前には前鼓室上陥凹という小さな空間があり、真珠腫が隠れやすい場所の1つです。

上鼓室の内側の壁には顔面神経鼓室部が前後に走っています。顔面神経管の骨の壁は薄く、正常な人のCTでも鼓室部の骨の欠け(顔面神経管裂隙)がよく見られます。健常な人の側頭骨CT184側の検討では51.2%に顔面神経管裂隙があり、49.5%が鼓室部でした(Hernandez-Trejo 2020)。

2. ツチ骨頸・キヌタ骨長脚・アブミ骨

側頭骨CT横断像の中鼓室上部の高さ。ツチ骨頸・キヌタ骨長脚・アブミ骨・鼓膜張筋・前庭を色分けした拡大図
アイスクリームコーンより下では、前にツチ骨頸、後ろにキヌタ骨長脚が点のように見え、その内側、前庭のすぐ外側にアブミ骨があります。前内側には鼓膜張筋が走ります。
画像:画像診断cafe(正常例)

上鼓室から少し下がると、ツチ骨とキヌタ骨は細くなり、横断像では前の点がツチ骨頸、後ろの点がキヌタ骨長脚として並びます。2つの点が前後に並ぶ様子は、上鼓室のアイスクリームコーンの続きとして追うとわかりやすくなります。

ツチ骨の前内側には鼓膜張筋があり、その腱がツチ骨に付いて鼓膜の張りを調節します。アブミ骨は、キヌタ骨長脚の内側、前庭(内耳)のすぐ外側にあります。

3. キヌタ・アブミ関節と前庭

側頭骨CT横断像のキヌタ・アブミ関節の高さ。キヌタ骨豆状突起・アブミ骨・前庭・蝸牛を色分けした拡大図
キヌタ骨長脚の先の豆状突起が内側へ曲がり、アブミ骨とつながります。アブミ骨の足板は前庭の外側の卵円窓に収まり、その前に蝸牛があります。
画像:画像診断cafe(正常例)

キヌタ骨長脚の先は内側へ曲がって豆状突起になり、アブミ骨頭と関節をつくります(キヌタ・アブミ関節)。この部分は細く血流も少ないため、慢性中耳炎や真珠腫で溶けやすく、外傷でも外れやすい所です。

アブミ骨は、頭・前脚・後脚・足板からなる「あぶみ」の形をしていて、足板が卵円窓にはまっています。横断像ではアブミ骨の前脚と後脚が「ハ」の字に見えることがあります。足板のすぐ内側が前庭で、ここから振動が内耳に入ります。

4. 中鼓室:ツチ骨柄と鼓膜

側頭骨CT横断像の中鼓室の高さ。ツチ骨柄・鼓膜・外耳道・鼓室洞・錐体突起・顔面神経陥凹を色分けした拡大図
外耳道の突き当たりに斜めに張る鼓膜があり、その内側の鼓室にツチ骨柄が点として見えます。鼓室の後ろの壁には、錐体突起をはさんで内側の鼓室洞と外側の顔面神経陥凹があります。
画像:画像診断cafe(正常例)

鼓膜の高さ(中鼓室)では、ツチ骨柄が鼓膜の内側に点として見えます。ツチ骨柄は鼓膜に埋め込まれるように付いているので、鼓膜が振動するとツチ骨が動き、その動きがキヌタ骨、アブミ骨へと伝わります。鼓膜は横断像では外耳道の奥に斜めの細い線として見えます。

鼓室の後ろの壁には、錐体突起(アブミ骨筋の腱が出る小さな骨の突起)をはさんで、内側に鼓室洞、外側に顔面神経陥凹という2つのくぼみがあります。どちらも耳の手術で見えにくく、真珠腫が残りやすい場所として知られています。

冠状断で見る耳小骨と鼓膜

5. Prussak腔とscutum

側頭骨CT冠状断の拡大図。ツチ骨柄・Prussak腔・scutum・鼓膜・外耳道を色分けした図
外耳道の上の壁の先にある骨のとがりがscutumで、その内側、ツチ骨との間の小さなすき間がPrussak腔です。鼓膜は外耳道の奥で斜めに張り、ツチ骨柄が付いています。
画像:画像診断cafe(正常例)

冠状断では、鼓膜の上の部分(弛緩部)の内側にあるPrussak腔と、外耳道の上の壁の先にある骨のとがりscutumを確認します。弛緩部型(上鼓室型)真珠腫はこのPrussak腔から始まることが多く、早い段階からscutumが丸く削れてきます。冠状断でscutumのとがりが保たれているかを左右で比べるのは、真珠腫を見つけるときの基本的な見方です。

6. アブミ骨と卵円窓

側頭骨CT冠状断の拡大図。アブミ骨・卵円窓・蝸牛岬角・前庭・鼓膜を色分けした図
鼓室の内側の壁の上部、前庭のすぐ外側に卵円窓があり、そこにアブミ骨がはまっています。卵円窓の下のふくらみが蝸牛岬角(蝸牛の基底回転のふくらみ)です。
画像:画像診断cafe(正常例)

冠状断では、前庭の外側の壁にあいた卵円窓と、そこに向かうアブミ骨が見えます。卵円窓のすぐ上には顔面神経鼓室部が通るので、卵円窓・アブミ骨・顔面神経の3つはセットで確認します。卵円窓の下のふくらみが蝸牛岬角で、その後下方に正円窓があります。

耳小骨と周りの構造との関係

  • 外側:鼓膜と外耳道。ツチ骨柄が鼓膜に付いています
  • 内側:内耳。アブミ骨の足板が卵円窓で前庭に接し、その下に正円窓があります
  • 上:鼓室天蓋(tegmen tympani)。薄い骨の板で、その上は中頭蓋窩(側頭葉)です
  • 後ろ:乳突洞口と乳突洞。上鼓室の後ろから乳突蜂巣へつながります
  • 内側の壁沿い:顔面神経。鼓室部が卵円窓の上を通り、後ろで下に曲がって乳突部になります
  • 前:耳管。鼓室と上咽頭をつなぎ、鼓室の圧を外と同じに保ちます

耳小骨の働き

耳小骨は、空気の振動を、液体で満たされた内耳へ効率よく伝えるための装置です。音は空気から液体へそのまま伝わると大部分がはね返ってしまいますが、面積の大きい鼓膜で受けた振動を、面積の小さいアブミ骨の足板に集め、さらにツチ骨とキヌタ骨のてこの作用で力を強めることで、内耳に伝わる圧を大きくしています。

また、鼓膜張筋とアブミ骨筋は、大きな音のときに縮んで耳小骨の動きをおさえ、内耳を守る働きがあります。アブミ骨筋は顔面神経の枝で動くため、顔面神経麻痺では大きな音が響いて聞こえる(聴覚過敏)ことがあります。

よく間違える構造と正常の見え方

  • アブミ骨が見えにくい:アブミ骨は非常に細く、正常でもスライスによっては一部しか見えません。1枚で見えないことだけで「欠損」とせず、前後のスライスと冠状断で確かめます
  • 顔面神経管の骨の欠け:上で述べたように、鼓室部の骨の欠けは正常な人にもよく見られます
  • 耳小骨の周りの軟部影:耳小骨を包む粘膜のひだや靭帯が細い線として見えることがあります。腫瘤のような塊とは区別します
  • 左右差:乳突蜂巣の発育には個人差・左右差があり、蜂巣が少ないこと自体は異常とは限りません(頭蓋底・側頭骨の正常変異)

耳小骨の解剖が役立つ病気

画像診断cafeで自分で確かめる

この記事の図は、画像診断cafeの側頭骨CTビューア(横断像・冠状断)の正常画像を使っています。ビューアでは、ツチ骨頭からツチ骨柄、キヌタ骨体から豆状突起、アブミ骨までをスライスごとにタップして確かめられます。上鼓室のアイスクリームコーンから下へ1枚ずつ追ってみると、3つの骨のつながりがつかみやすくなります。

スマートフォンでは、アプリ版も使えます。iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」を検索してください。AndroidはGoogle Playの画像診断cafeからインストールできます。

耳小骨でよくある疑問(Q&A)

Q. 普通の頭部CTで耳小骨は見えますか?
A. 頭部CTはスライスが厚く、骨の細かい部分が見えるように再構成されていないことが多いため、耳小骨の評価には向きません。耳小骨や鼓室を見たいときは、薄いスライスで骨の条件に再構成した側頭骨CTを撮ります。

Q. アイスクリームコーンが見えないのは異常ですか?
A. 撮影の角度やスライスの位置によっては、ツチ骨頭とキヌタ骨体が1枚にそろわないことがあります。前後のスライスで両方の骨が確認できれば異常とはいえません。反対側と同じ高さで比べるのが確実です。

Q. 耳小骨の中でいちばん傷みやすいのはどこですか?
A. キヌタ骨長脚の先(豆状突起)と、キヌタ・アブミ関節です。細く血流が少ないため、慢性中耳炎や真珠腫で溶けやすく、外傷で外れやすい部分です。

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参考文献

  • Hernandez-Trejo AF, et al. Prevalence of facial canal dehiscence and other bone defects by computed tomography. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020. PubMed

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