肩関節MRIの斜位矢状断(しゃいしじょうだん)は、関節窩の面に平行に切った断面です。腱板(けんばん)をつくる棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋を輪切りにして一度に見られるため、どの腱が傷んでいるか、筋がやせて脂肪に置きかわっていないかを判断するのに欠かせません。肩甲骨が「Y」の字に見える断面もここに含まれます。
この記事では、画像診断cafeの正常な肩MRI(斜位矢状断)に色を付けて、外側(上腕骨頭)から内側(肩甲骨)へスライスを送りながら、腱板の4つの筋、Y字の見方、関節上腕靱帯の位置を解説します。肩MRI全体の見方と略語は肩関節MRIの正常解剖と見方、断面ごとのチェック項目は肩のMRIの撮影方法と各断面で見るべきポイントにまとめています。
先に結論:斜位矢状断で見る順番と目印
- 向きを決める:画像の左が後ろ、右が前、上が頭側です。烏口突起が見える側が前です
- 外側の断面:上腕骨頭の上に腱の付着部が並びます。上が棘上筋、後ろが棘下筋・小円筋、前が肩甲下筋、その間の溝に上腕二頭筋長頭腱です
- 腱板疎部の高さ:棘上筋腱と肩甲下筋腱のすき間に、烏口上腕靱帯と上腕二頭筋長頭腱が通ります
- 関節窩の面:関節窩のふちを関節唇がぐるりと囲み、前側に関節上腕靱帯(上・中・下)が付きます
- Y字の断面:肩甲棘(後ろの枝)・烏口突起(前の枝)・肩甲骨体部(下の柄)がYの字に見えます
- Y字で腱板の筋を数える:上に棘上筋、後ろに棘下筋と小円筋、前に肩甲下筋。筋のやせ方と脂肪の混ざり方をここで評価します
斜位矢状断とは?どの向きの断面か
関節窩の面に平行で、斜位冠状断に直交する断面です。上腕骨頭を真横から輪切りにするイメージで、肩の「時計の文字盤」のように構造が並びます。
- 画像の左が後ろ(棘下筋・小円筋)、右が前(肩甲下筋・烏口突起・大胸筋)
- 上が頭側で、肩峰・鎖骨が上のふちに並びます
- 画像診断cafeでは1枚目が外側(上腕骨頭)、番号が増えるほど内側(肩甲骨・体の中心)です
棘上筋腱を長軸で見る斜位冠状断は、この記事と同じ形で後ろから前へスライスごとに解説した「肩MRIの正常解剖(斜位冠状断)」の記事をご覧ください。
外側の断面:腱板が骨頭に付くところ

いちばん外側に近い断面です。紫の上腕骨頭の上の部分(赤)が大結節で、腱板の腱が付く場所です。前側(画像の右)を黄色の上腕二頭筋長頭腱が縦に走ります。
画像:画像診断cafe(正常例)
外側の断面では、腱板が骨頭を帽子のようにおおって付着しているのが見えます。時計に見立てると、おおまかに次のように並びます。
- 上(12時付近):棘上筋腱 → 大結節の上の面
- 後ろ上〜後ろ:棘下筋腱 → 大結節の中央の面
- 後ろ下:小円筋腱 → 大結節の下の面
- 前:肩甲下筋腱 → 小結節
- 前上の溝:上腕二頭筋長頭腱(大結節と小結節の間の結節間溝)
正常の腱はどれも黒く、骨頭の丸みに沿ってなめらかに付いています。腱板断裂では、この付着部に液体の高信号や腱の途切れが見え、断裂の前後の幅をこの断面で測ります(腱板断裂のMRI画像診断のポイント)。
腱板疎部の高さ:烏口上腕靱帯と上腕二頭筋長頭腱

少し内側の断面です。後ろ上に②の肩峰、前に⑥の烏口突起があり、その間を③の烏口肩峰靱帯が結んで屋根をつくります。屋根の下、骨頭(①)の前上に④の烏口上腕靱帯と⑦の上腕二頭筋長頭腱、骨頭の前に⑤の中関節上腕靱帯が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
腱板疎部(けんばんそぶ)は、上の棘上筋腱と前の肩甲下筋腱の間にあるすき間で、腱板の「切れ目」にあたります。ここには次のものが通ります。
- 上腕二頭筋長頭腱:関節の中を通って結節間溝へ向かいます
- 烏口上腕靱帯:烏口突起から骨頭へ張り、すき間を上からおおいます
- 上関節上腕靱帯:烏口上腕靱帯とともに長頭腱を支える「滑車(pulley)」をつくります
凍結肩(五十肩)では、腱板疎部の脂肪が見えにくくなり、烏口上腕靱帯が厚くなります(凍結肩・肩関節周囲炎のMRI)。長頭腱が溝から外れる脱臼や滑車の損傷は上腕二頭筋長頭腱のMRIで解説しています。
また、この高さでは肩峰の下の面の形(平ら・カーブ・かぎ状)もわかります。肩峰と烏口肩峰靱帯がつくる屋根と骨頭の間の狭いすき間が、肩峰下インピンジメントの舞台になります。屋根と腱の間には肩峰下滑液包があります。
関節窩の面:関節唇と関節上腕靱帯

関節窩の面です。中央の丸い関節窩を、①ピンクの関節唇がふちどっています。下のふちには②の下関節上腕靱帯が付き、前上には③の上関節上腕靱帯があります。上には⑥肩峰と④肩鎖関節、前には⑤烏口突起が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)
この断面では、関節唇を時計の文字盤のようにぐるりと見渡せます。上(12時)には上腕二頭筋長頭腱が付き、前下(3〜6時)は脱臼でもっとも傷みやすい場所です(右肩では前が3時)。
関節上腕靱帯は、関節包の前側が厚くなった3本の靱帯です。
- 上関節上腕靱帯:関節窩の上から出て、烏口上腕靱帯とともに長頭腱を支えます
- 中関節上腕靱帯:前側を斜めに走ります。太さの個人差が大きく、ひも状に太い、または見えない人もいます
- 下関節上腕靱帯:前の帯・腋窩の袋(腋窩陥凹)・後ろの帯からなるハンモックのような構造で、腕を上げて外へひねったときの前方の安定にもっとも大事な靱帯です
見分けのポイント:前上方の関節唇が欠けていて、中関節上腕靱帯がひも状に太い組み合わせはBuford complexという正常変異で、関節唇の損傷と間違えやすいものです。前上方の関節唇の下にすき間があるsublabral foramenも正常変異です(肩の関節唇・関節上腕靱帯の正常変異のMRI)。
Y字の断面:肩甲骨の3本の枝

さらに内側へ送ると、肩甲骨が「Y」の字に見える断面になります。②肩甲棘が後ろ上の枝、③烏口突起が前上の枝、①肩甲骨体部が下へ伸びる柄です。上には④鎖骨があります。
画像:画像診断cafe(正常例)
Y字の3本は次のように覚えます。
- 後ろ上の枝:肩甲棘(外側へ続くと肩峰になります)
- 前上の枝:烏口突起
- 下の柄:肩甲骨体部
Yの3本が交わるあたりが関節窩の根もとです。レントゲンの「肩甲骨Y撮影」で骨頭がYの中心にあるかどうかを見て脱臼を判断するのと同じ形です(肩関節脱臼の画像診断)。
Y字で腱板の4つの筋を数える

同じY字の断面で筋に色を付けました。①棘上筋はYの上のくぼみ、②棘下筋と③小円筋は後ろ側に上下に並び、④肩甲下筋は肩甲骨体部の前に大きく広がります。⑤大円筋は腱板には含まれない筋です。
画像:画像診断cafe(正常例)
- 棘上筋:肩甲棘と烏口突起の間、Yの上のくぼみ(棘上窩)にあります
- 棘下筋:Yの後ろ側、肩甲棘の下にあります
- 小円筋:棘下筋のすぐ下にある小さめの筋です
- 肩甲下筋:Yの前側、肩甲骨体部と胸の壁の間にある大きな筋です
- 大円筋:小円筋の下にありますが、腱板ではありません。小円筋と間違えないように、上下の位置で区別します
覚え方:Yの上に1つ(棘上筋)、後ろに2つ(棘下筋・小円筋)、前に1つ(肩甲下筋)で、合わせて4つです。
この断面は、腱板断裂が長く続いたときの筋のやせ(萎縮)と脂肪の混ざり方(脂肪変性)を評価する場所でもあります。肩甲棘と肩甲骨体部がつながって見えるいちばん外側のY字の断面で、棘上筋が棘上窩をどれだけ埋めているかを見ます。正常では筋がくぼみをふくらむように満たしていますが、萎縮すると筋が小さくなり、すき間に脂肪が増えます。脂肪変性の程度はGoutallier分類で表します(腱板断裂のMRI画像診断のポイント)。手術で腱を縫い戻せるかどうかの判断に関わるため、Y字の断面は腱板断裂のMRIで見落とせない1枚です。
よく間違える構造・正常変異
- 小円筋と大円筋:どちらも後ろ下にある筋です。上にあって大結節に付くのが小円筋(腱板)、下にあって上腕骨の前へ回るのが大円筋です
- 肩甲下筋の筋と腱:肩甲下筋は筋の中に何本も腱の線が走るため、矢状断では縞模様に見えます。正常の構造です
- Buford complex・sublabral foramen:前上方の関節唇の正常変異。損傷と区別します(正常変異のMRI)
- 中関節上腕靱帯の太さの個人差:細い、太い、見えないのいずれも正常範囲のことがあります
- 肩峰骨(os acromiale):肩峰の先が骨としてくっつかずに残る正常変異です(肩峰骨の画像所見)
- 腱の灰色っぽい信号:撮像条件によるマジックアングル効果で腱が明るく見えることがあります(Magic angle effectとは?)
この解剖が役立つ病気
- 腱板断裂:どの腱が切れているか、前後の幅、筋の萎縮と脂肪変性 → 腱板断裂のMRI画像診断のポイント、上腕骨頭の嚢胞と腱板断裂の関係
- 凍結肩(五十肩):腱板疎部の脂肪の消失、烏口上腕靱帯の肥厚 → 凍結肩・肩関節周囲炎のMRI
- 肩関節脱臼・不安定症:前下方の関節唇と下関節上腕靱帯 → 肩関節脱臼の画像診断
- SLAP損傷:上方関節唇と長頭腱の付着部 → SLAP損傷のMRI画像所見
- 肩甲上神経の圧迫:関節唇の損傷からできた嚢胞が棘上筋・棘下筋の神経を押すと、筋だけがやせます → 傍関節唇嚢胞による肩甲上神経絞扼症候群
- 上腕二頭筋長頭腱の脱臼・断裂 → 上腕二頭筋長頭腱のMRI・エコー
- 肩峰下インピンジメント → 肩峰下インピンジメント症候群とは?
関節唇や関節上腕靱帯をくわしく見るMR関節造影は関節造影・MR関節造影とは、整形外科領域の記事一覧は整形外科領域のCT、MRI画像診断まとめをご覧ください。
画像診断cafeで自分で確かめる
この記事の図は、正常な肩MRIをタップすると解剖名がわかる無料ツール「画像診断cafe」から作りました。肩MRI 斜位矢状断の正常解剖(画像診断cafe)では、外側から内側へスライスを動かしながら、腱板の4つの筋がYの字のまわりに集まっていく様子や、関節上腕靱帯・烏口上腕靱帯を色と名前で確かめられます。
スマートフォンではアプリも使えます。iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」と検索してください。AndroidはGoogle Play(画像診断cafe)からインストールできます。画像解剖の覚え方はCT・MRIの画像解剖の勉強法も参考にしてください。
肩MRIの斜位矢状断でよくある疑問(Q&A)
Q. 腱板の4つの筋はどの断面で見分けるのがよいですか?
Y字が見える斜位矢状断がいちばんわかりやすい断面です。Yの上に棘上筋、後ろに棘下筋と小円筋、前に肩甲下筋が並ぶので、4つを一度に比べられます。腱そのものの断裂は、斜位冠状断(棘上筋・棘下筋)と横断像(肩甲下筋)で長軸に沿って確認します。
Q. Y字の断面はどうやって探しますか?
外側から内側へスライスを送り、肩甲棘(後ろ)と烏口突起(前)の両方が見え、その下に肩甲骨体部がつながる最初の断面を探します。筋の萎縮を評価するときは、このいちばん外側のY字の断面を使うのが一般的です。
Q. 中関節上腕靱帯が見えないのは異常ですか?
中関節上腕靱帯は個人差がとても大きく、細くて見えにくい人や、もともとない人もいます。それだけで異常とはいえません。前上方の関節唇が欠けて靱帯がひも状に太い場合は、Buford complexという正常変異を考えます。
あわせて読みたい
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
