
先に結論:「どこにあるか」で絞り、次に年齢と性状(嚢胞・充実・石灰化)を見る。動脈瘤の見落としにも注意
| 手順 | ポイント |
|---|---|
| 1. 場所 | 鞍内(下垂体そのもの)か、鞍上部か、傍鞍部(海綿静脈洞・鞍結節)か、下垂体柄か。鞍部以外の腫瘤を下垂体の腫瘤と取り違えない |
| 2. 年齢 | 小児の下垂体柄の肥厚は胚細胞腫瘍、成人ではLCH・転移などの割合が高い(下垂体柄肥厚321例の報告) |
| 3. 性状 | 嚢胞か充実か、石灰化があるか、拡散強調像で高信号か。頭蓋咽頭腫・類表皮嚢胞は画像でほぼ診断できることがある |
| 4. 血管 | 傍鞍部の腫瘤に見えて内頸動脈の動脈瘤のことがある。MRAやCTAで確認 |
| 5. ホルモン | 尿崩症、下垂体機能低下、プロラクチンなどの検査を画像と合わせて考える |
まず「どこにあるか」を決める
鞍部とその周辺にはさまざまな病気が生じますが、よく見られるのはごく一部です。診断の鍵は病変の位置を決めることと、それぞれの病気に特徴的な画像所見を知ることです(Jipa 2021)。位置の判断は、髄膜腫、頭蓋底腫瘍、内頸動脈瘤、頭蓋咽頭腫、蝶形骨洞の腫瘍など、下垂体の外にある腫瘤を、下垂体の腫瘤と区別するために特に重要です。MRIが診断の中心で、CTは骨(トルコ鞍の骨)の評価を補います(Jipa 2021)。
| 場所 | 主な病気 | 詳しい解説 |
|---|---|---|
| 鞍内(下垂体) | 下垂体腺腫(PitNET)、下垂体卒中、ラトケ嚢胞 | 下垂体腺腫/下垂体卒中/ラトケ嚢胞/下垂体の嚢胞 |
| 鞍上部 | 頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、視床下部過誤腫、類上皮腫 | 頭蓋咽頭腫/胚細胞腫瘍/毛様細胞性星細胞腫/視床下部過誤腫/類上皮腫 |
| 傍鞍部(海綿静脈洞・鞍結節周囲) | 髄膜腫、内頸動脈の動脈瘤 | 髄膜腫/脳動脈瘤の好発部位 |
| 下垂体柄・漏斗 | 胚細胞腫瘍、LCH、下垂体炎、転移、サルコイドーシス | 下垂体炎/下垂体転移/LCH/神経サルコイドーシス |
この領域の病変は、新生物、先天性、血管性、炎症性、感染性と幅広く、症状は頭痛、眼の痛み、眼球運動の障害、視野の欠け、脳神経の麻痺、ホルモン異常などの組み合わせで現れます(Lubomirsky 2022)。WHOの2022年の分類(内分泌・神経内分泌腫瘍、第5版)は、下垂体の前葉、後葉、視床下部の腫瘍を分けて整理しています(Asa 2022)。
下垂体柄が太いときの考え方
「下垂体柄の肥厚」は、小さな構造の変化ですが、多くの病気を含みます。MRIで下垂体柄の肥厚が確認された321人の報告では、診断が確定した137人(42.7%)のうち、腫瘍が75.2%、炎症が13.1%、先天異常が11.7%でした。小児では胚細胞腫瘍(小児の確定例の66.7%)が最多で、成人では組織球症(20.0%)と悪性腫瘍の転移(14.7%)が多い原因でした(Zhou 2019)。最初の症状は中枢性尿崩症が68.8%で、画像で区別できない肥厚の38人に再度MRIを撮ると、17人(44.7%)で自然に軽快しました(Zhou 2019)。
| 年齢 | 多い原因 | 文献での数字 |
|---|---|---|
| 小児 | 胚細胞腫瘍(胚腫など) | 小児の確定例の66.7%(Zhou 2019) |
| 成人 | 組織球症(LCHなど)、悪性腫瘍の転移 | それぞれ20.0%、14.7%(Zhou 2019) |
| 全年齢(診断が確定した137人) | 腫瘍、炎症(下垂体炎など)、先天異常 | それぞれ75.2%、13.1%、11.7%(Zhou 2019) |
小児23人(下垂体柄肥厚、多くは尿崩症を伴う)のワルシャワの報告では、17人(73.9%)が胚腫(germinoma)で、LCHは3人でした。尿崩症は91.3%に見られ、「下垂体柄の肥厚がある小児、特に尿崩症があるときは、神経症状や眼の症状がなくても胚腫を疑う」と結論されています(Moszczyńska 2022)。
症例 鞍上部の胚細胞腫瘍(下垂体柄)

引用:Esfahani DR, Alden T, DiPatri A, et al. Cancers (Basel). 2020;12(9):2621 (Figure 6). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)
論文の図(造影T1強調像)です。Aは矢状断、Bは冠状断で、下垂体柄が太くなっています。論文の記載では、18か月続く尿崩症のある7歳女児の鞍上部胚細胞腫瘍で、腫瘍が下垂体柄に限られるタイプとして示されています。鞍上部の胚細胞腫瘍の多くは、第三脳室の底から下垂体柄にかけて存在すると報告されています(Esfahani 2020)。
画像でほぼ決まる病気と、迷いやすい組み合わせ
鞍部の病気の画像はさまざまですが、頭蓋咽頭腫や類表皮嚢胞(類上皮腫)は、画像だけでほぼ診断できる特徴を持つ場合があります。一方、下垂体炎や下垂体の過形成では、画像で正しく判断できれば生検や手術を避けられる場合があります(Jipa 2021)。
腫瘍が疑われる場合、多くは鼻から蝶形骨洞を通る内視鏡で生検や切除が行われます。そのため、画像診断では鞍上槽、頭蓋底、海綿静脈洞への浸潤があるかを報告に書くことが重要とされています(Jipa 2021)。多くの病変は最終的に病理での確認が必要ですが、頭蓋底の解剖と重要な画像所見を知っていると、鑑別を絞り、治療方針の検討に役立つとされています(Lubomirsky 2022)。
鞍上部の毛様細胞性星細胞腫と頭蓋咽頭腫
鞍上部で迷いやすいのが、毛様細胞性星細胞腫(PA)とエナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫(ACP)です。鞍上部のPA 24人とACP 36人の造影T1強調像を比べた研究では、造影される腫瘤の内側の縁が、ピーマンの断面のように凹凸(crest)を持ち、内部に点状の造影効果が散らばる「cut green pepper sign」が、PAの50%(24人中12人)、ACPの5.6%(36人中2人)に見られました。PAの診断について、感度50%、特異度94.4%、陽性的中率85.7%、陰性的中率73.9%でした(Xu 2023)。特異度は高いものの、このサインがなくてもPAは否定できません。
症例 鞍上部の毛様細胞性星細胞腫(cut green pepper sign)

引用:Xu S, Yang W, Luo Y, et al. BMC Med Imaging. 2023;23(1):191 (Figure 2). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)
論文の図(造影T1強調像)です。21歳の鞍上部PAで、A(axial)では腫瘤の表面に複数の凹みと強く造影される壁在結節が、B(sagittal)では内部に点状の造影効果が散在し、ピーマンの種のように見えると説明されています。
病気ごとの早見表
| 病気 | 要点 |
|---|---|
| 下垂体腺腫(PitNET) | 鞍内に多く、大きくなると鞍上部へ伸びて視交叉を圧迫する。微小腺腫と大腺腫、ラトケ嚢胞との違い |
| 下垂体卒中 | 突然の頭痛と視力障害。腺腫の出血・梗塞を示す所見 |
| ラトケ嚢胞 | 鞍内〜鞍上部の嚢胞。waxy nodule(嚢胞内の小結節)と頭蓋咽頭腫との違い |
| 下垂体の嚢胞と言われたら | 正常でも見える小さな嚢胞や、後葉の「白い点」の考え方 |
| 頭蓋咽頭腫 | 鞍上部の嚢胞性・石灰化を伴う腫瘍。エナメル上皮腫型と扁平上皮乳頭型 |
| 胚細胞腫瘍(胚腫) | 小児・若年の鞍上部・松果体部。下垂体柄の肥厚と尿崩症に注意 |
| 毛様細胞性星細胞腫 | 嚢胞と壁在結節。小児の視神経・視床下部に好発 |
| 視床下部過誤腫 | 視床下部の灰白隆起にできる良性病変。正常解剖とCTでの見え方 |
| 類上皮腫(類表皮嚢胞) | 拡散強調像で高信号。くも膜嚢胞との違い |
| 髄膜腫 | 硬膜に接する造影効果の強い腫瘤。dural tail sign、石灰化 |
| 脳動脈瘤の好発部位 | 内頸動脈の分岐部など。傍鞍部の腫瘤に見えたら血管を確認 |
| 下垂体炎 | リンパ球性・IgG4関連。下垂体や下垂体柄の腫大 |
| 下垂体転移 | 後葉・漏斗に多く、尿崩症で気づかれる。下垂体腺腫との違い |
| ランゲルハンス細胞組織球症(LCH) | 下垂体柄の肥厚と尿崩症。頭蓋骨・肺・下垂体の所見 |
| 神経サルコイドーシス | 髄膜・下垂体・視床下部の造影される病変 |
読影のチェックリスト
- 病変の中心は鞍内か、鞍上部か、傍鞍部か。正常の下垂体と別に見えるか
- 下垂体柄は太くないか。連続性は保たれているか(小児なら胚腫を考える)
- 嚢胞成分、石灰化、拡散制限、flow void、出血はあるか
- 視交叉の圧排、海綿静脈洞・内頸動脈・蝶形骨洞への浸潤はないか
- 傍鞍部の腫瘤では、動脈瘤の可能性を考えてMRAやCTAを確認したか
- 年齢、尿崩症、下垂体ホルモンの異常、悪性腫瘍の既往を確認したか
- 画像で区別できない下垂体柄の肥厚は、再検査での変化を見る(自然に軽快する例がある)
よくある疑問(Q&A)
Q. 鞍上部の腫瘤は、全部手術が必要ですか?
A. 病気によって方針は違います。下垂体炎や過形成のように、画像の判断で生検や手術を避けられる場合があります(Jipa 2021)。下垂体柄の肥厚でも、経過で自然に軽快する例が報告されています(Zhou 2019)。主治医と相談してください。
Q. 子どもが多飲・多尿と言われました。何を調べますか?
A. 小児の下垂体柄の肥厚では胚細胞腫瘍の頻度が高く、尿崩症があるときは胚腫を疑うことが勧められています(Zhou 2019、Moszczyńska 2022)。頭部MRIとホルモンの検査で調べます。のどが渇く、尿が多いなどの症状があれば小児科・内分泌内科を受診してください。
Q. 動脈瘤は腫瘍とどう区別しますか?
A. 傍鞍部には内頸動脈の動脈瘤があり、腫瘍と間違えないよう位置の判断が大切とされます(Jipa 2021)。MRIでflow voidを確認し、MRAやCTAで血管との連続を調べます。
Q. 視野が欠けると言われました。鞍上部の腫瘤と関係がありますか?
A. 鞍上部の腫瘤は視交叉を圧迫して視野の障害の原因になることがあります(Lubomirsky 2022)。視野の変化や強い頭痛が続くときは、眼科や脳神経外科を受診してください。
あわせて読みたい:膠肉腫(gliosarcoma)とは?MRI所見と膠芽腫・髄膜腫との見分け方、WHO分類2021での位置づけ、pituicytoma(下垂体後葉の腫瘍)とは?症状・MRI所見と下垂体腺腫との見分け方、ガレン大静脈瘤(VGAM)とは?新生児の心不全・水頭症とMRI・超音波所見
参考文献
- Jipa A, Jain V. Imaging of the sellar and parasellar regions. Clin Imaging. 2021;77:254-275. PubMed
- Lubomirsky B, Jenner ZB, Jude MB, et al. Sellar, suprasellar, and parasellar masses: Imaging features and neurosurgical approaches. Neuroradiol J. 2022;35(3):269-283. PubMed
- Zhou X, Zhu H, Yao Y, et al. Etiological Spectrum and Pattern of Change in Pituitary Stalk Thickening: Experience in 321 Patients. J Clin Endocrinol Metab. 2019;104(8):3419-3427. PubMed
- Moszczyńska E, Kunecka K, Baszyńska-Wilk M, et al. Pituitary Stalk Thickening: Causes and Consequences. The Children’s Memorial Health Institute Experience and Literature Review. Front Endocrinol (Lausanne). 2022;13:868558. PubMed
- Xu S, Yang W, Luo Y, et al. A novel MRI feature, the cut green pepper sign, can help differentiate a suprasellar pilocytic astrocytoma from an adamantinomatous craniopharyngioma. BMC Med Imaging. 2023;23(1):191. PubMed
- Esfahani DR, Alden T, DiPatri A, et al. Pediatric Suprasellar Germ Cell Tumors: A Clinical and Radiographic Review of Solitary vs. Bifocal Tumors and Its Therapeutic Implications. Cancers (Basel). 2020;12(9):2621. PubMed
- Asa SL, Mete O, Perry A, et al. Overview of the 2022 WHO Classification of Pituitary Tumors. Endocr Pathol. 2022;33(1):6-26. PubMed
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