【胸部】症例23
【症例】80歳代男性
【主訴】胸部圧迫感、味覚障害
【現病歴】半年くらいから前屈みや動いたときに胸の苦しさあり。一昨日から味覚障害あり。
【既往歴】心筋梗塞、CABG後、胸部大動脈瘤、陳旧性脳梗塞
【内服薬】アレロック、レバミピド、シナール、ルリコン、シグマート、リバロ、マグラックス、プルゼニド、バイアスピリン、ラシックス、アルダクトン、タケプロン、アーチスト、メチコバール
【身体所見】意識清明、血圧 右151/102mmHg、左 132/91mmHg、P 73bpm、BT 36.2℃、SpO2 100%(RA)
、心音:不整、no murmur、肺音:no rale、下腿浮腫+/+
【データ】WBC 7200、CRP 1.98、D-dimer 4.8、BNP 453.1
画像はこちら
まず胸部レントゲンから見ていきましょう。
縦隔陰影および心陰影の拡大を認めており、特に縦隔陰影の拡大が目立ちます。
次にCTを見てみましょう。
大動脈弓部に最大短径6.4cm大の紡錘状動脈瘤を認めていることがわかります。
最大短径が6cmを超えており手術適応のサイズです。
※皆さんの環境ではサイズは測定できません。申し訳ありません。
冠状断像では、上行大動脈から大動脈弓部の拡張の様子がよく分かります。
胸部レントゲンにおける縦隔陰影の拡大をこれらが形成していることがわかりますね。
半年前の画像がありましたので、比較してみました。
一見同じように見えますが、最大短径を測定すると半年で約5mm拡大していました。
胸部大動脈瘤の手術適応は以下の場合です。
- 嚢状動脈瘤
- 径が6cm(5.5cm)以上の場合もしくは、半年で5mm以上の拡大を認める紡錘状動脈瘤。
今回は最大短径が6cmを超えていて、さらには半年で5mm以上の拡大を認めており、手術適応であることがわかります。
診断:胸部大動脈瘤(手術適応)
また今回、胸の苦しさや急に2日前から味覚障害(※味覚障害がどうして起こるのかは不明です。この症状の機序がお分かりの方がおられたら教えていただければ幸いです)といった症状が出てきていることから、動脈瘤が破裂に近づいているいわゆる切迫破裂の疑いがあると臨床的に判断され、心臓血管外科のある病院に転送となりました。
※今回の画像だけで、切迫破裂の疑いまで言及するのは困難です。
他院で手術が施行されました。術後の2ヶ月後のCTです。
大動脈弓部にステントが留置されている様子がわかります。
その他所見:
- 開胸術後。
- 右胸水貯留あり。
- 両側女性化乳房あり。
- 両側男性線維腫あり。
- 肝嚢胞あり。肝血管腫疑い。
- 腎のう胞あり。
関連:
【胸部】症例23の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
大動脈瘤辺縁の低信号域は血栓を示すのですか?
そうですね。血栓ですね。解離腔ではないですね。
血栓や血腫は低信号って認識がなかったです。crecent signなど高信号な気もしましたし、今回の動画6:40秒くらいでもスライド2に高吸収を示す血腫とあるので混乱しています。
アウトプットありがとうございます。
壁在血栓や粥腫(プラーク)、血腫は慢性的に存在する場合は低吸収となります。
一方で新しい血腫である、偽腔閉鎖型でも比較的新しい血腫や切迫破裂といった新しい血腫の場合は高吸収を示すと言うことです。
脳出血でも発症時は高吸収ですが、徐々に低吸収になっていきますよね。あれと同じと考えていただければよいです。
今回の胸水は動脈瘤とは関係なさそうですね。
胸部は縦隔と肺野と見るところが多く難しいですね
そうですね、関係なさそうですね。
>胸部は縦隔と肺野と見るところが多く難しいですね
そうですね。1部位で2つの条件で見ないといけないので多く感じるかもしれませんね。
大動脈瘤に限りませんが…以前の画像との比較はとても大切な作業ですね。
そうですね。
一見同じようなサイズに見えますので、見た目だけではなくサイズを測ることも重要ですね。
既往に大動脈瘤があったのでサイズをスルーしてしまいました。胸部症状もありますし疑わないといけませんね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。形状が同じような形なので、つい変化がないと思ってしまいがちですが、サイズを計測する癖をつけることが大事ですね。
皆さんの環境ではサイズを測れないので申し訳ないのですが。
大動脈瘤の壁在血栓と、偽腔閉鎖型の大動脈解離をうまく見分ける方法・コツがあれば教えてほしいです。
アウトプットありがとうございます。
局所的な場合は、両者は鑑別が難しいこともありますが、
・内膜の石灰化の偏位の有無
・大動脈の他の部位の動脈硬化の程度
を参考にします。
内膜の石灰化の内側への偏位があれば解離が疑われます。
大動脈の他の部位の動脈硬化(主に粥腫形成の強さを見ます)もより動脈硬化が疑わしいのかの参考になります。
両者はPAU,ULPと言って画像で似ていることがあるので、判断が難しいこともあります。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/35500
いつも勉強になる症例をありがとうございます。
本症例の解説動画でもありましたが、
無気肺についての胸部レントゲン、胸部CTでの評価の仕方がわかりません。
肺炎像なのか、胸水をみているのか、、、など。
もし可能でしたらご教授いただけますと幸いです。
アウトプットありがとうございます。
レントゲンでの局所的な無気肺の診断は難しいです。
右上葉の完全無気肺など、葉単位の無気肺の場合はレントゲンでもある程度推測可能です。
参考:
http://www.obayashihp.or.jp/kakuka/pdf/kensi_series2-f1.pdf
今回の症例のようなCTでの無気肺は、肺野条件だけでは胸水なのか無気肺なのかはわかりにくいので、必ず縦隔条件で確認します。
水濃度の低吸収な部分が胸水で、その上にある高吸収な板状構造が無気肺となります。
そのため板状無気肺とも呼ばれます。
軽度のCRP上昇+低信号域があることも併せて考え、壁が肥厚していることから感染性大動脈や自己免疫疾患などの大動脈炎の可能性も否定できないと考えたのですが、その可能性は画像上否定できるのでしょうか。
壁のCT値などを測定すれば、血栓と壁の炎症性肥厚は区別できるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>壁が肥厚していることから感染性大動脈や自己免疫疾患などの大動脈炎の可能性も否定できないと考えたのですが、その可能性は画像上否定できるのでしょうか。
これらを画像から否定するのは難しいですが、感染性大動脈瘤の場合は周囲に軟部陰影が目立ったり、大動脈炎症候群の場合は全周性に厚くなることが多いです。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/23906
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/21896
ですので、それらとしては典型的ではないということになります。
解離して偽腔をつくっているのか,瘤による壁肥厚なのか,迷いました.この画像から大動脈解離は考えにくいですか?また,解離瘤という言葉もあり,この症例のようなことを指しているのかと思っていました.壁肥厚のみられる瘤と解離の鑑別おしえていただきたいです.
アウトプットありがとうございます。
両者の鑑別は難しいこともありますが、今回は
・内膜の石灰化が粥腫の低吸収よりも外側にある
・粥腫の低吸収が明瞭で均一
と言った点から解離ではなく動脈硬化と考えられます。
本日もありがとうございました。
レントゲンで傍気管支腺の右側に不自然な高吸収域がありますが、これは以前やった腕頭動脈の蛇行ですね。
左右肋骨横隔膜はsharpに見えますが、右には胸水がありますね。横隔膜は背側の方が深く潜り込んでいるため、胸水が背側から溜まりやすく、少量だとdullに見えないと何かの本に書いてあったような気がします、、。
やはり、レントゲンの読影レポートでは、”左右胸水を認めず”ではなくて、”左右肋骨横隔膜はsharp”と書いたほうがいいのでしょうか?
弾性繊維腫、やりましたね! やったことは覚えているのですが、気づかなかったです^^; これを機に見直します。
質問なのですが、右肺の胸水はなぜ出てきたのでしょうか。考えてみたのですが、よく分かりませんでした。。
よく見ると、腕頭動脈の蛇行というより、大動脈の蛇行ですね。。
アウトプットありがとうございます。
>レントゲンで傍気管支腺の右側に不自然な高吸収域がありますが、これは以前やった腕頭動脈の蛇行ですね。
おっしゃるように大動脈の蛇行もありますが、上の方は腕頭動脈による接線を形成していますね。
>レントゲンの読影レポートでは、”左右胸水を認めず”ではなくて、”左右肋骨横隔膜はsharp”と書いたほうがいいのでしょうか?
そうですね。ある程度の量がないとレントゲンでは胸水はわからないので、そのように記載した方がよいです。
>弾性繊維腫、やりましたね! やったことは覚えているのですが、気づかなかったです^^; これを機に見直します。
両側だと気づきにくいですよね(^_^;)
>右肺の胸水はなぜ出てきたのでしょうか。考えてみたのですが、よく分かりませんでした。
右優位に両側胸水を認めていますね。
胸水の原因はさまざまですので、画像だけではわからないこともしばしばありますが、今回は心不全があるのかもしれません。
肺水腫には至っていないですが。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/34911
本日もありがとうございます。
質問です、冠状断の28枚目前後で大動脈ではなく右心房に接して同じ濃度の陰影がありますが、これは何でしょうか。同じくらいの濃度に見えますが・・・心臓周囲の脂肪でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>右心房に接して同じ濃度の陰影がありますが
同じ濃度とは何と同じ濃度でしょうか?
液貯留ならば心嚢水です。
こちらも参考にしてください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/13529
すみません皆さんが質問している事と重複しているかもしれません。
今回の動脈瘤の辺縁の低信号域は解離腔ではなく血栓が疑われる理由としては、解離性大動脈瘤の切迫破裂であれば解離腔内はCT上高吸収になるはずだけど今回は低吸収=血流がいっていない ため偽腔ではなく血栓が疑わしいという解釈でよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
画像で切迫破裂を疑うのは単純CTで高吸収なcrescent signを認める場合です。
参考
https://qqct.sakura.ne.jp/seminar_answer_id_294.html
今回は造影CTですが、
・動脈硬化による石灰化が低吸収の内側にある→解離があり、低吸収は偽腔
・動脈硬化による石灰化が低吸収の外側にある→動脈硬化であり、低吸収は粥腫
と考えることができます。
今回は石灰化が低吸収の外側にありますので、解離ではなく動脈硬化と判断できます。
なお、今回の画像のみで切迫破裂とは言えません。
いつも丁寧な解説、ありがとうございます。勉強になります。
スマートフォンで拝見しているので、きちんと画像を捉えられているのかが少々不安なのですが、今回の症例では右優位の胸水貯留と血管陰影が肺野の末梢近くまで追えて見えたので、心不全を合併した壁在血栓を伴う胸部大動脈瘤と判断したのですが、over readingだったのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように胸水貯留もありますので、心不全もあるのだろうと推測されます。
over readingではないです。
動脈瘤の計測の仕方について教えてください。
常々、
『内膜から内膜を測るのか、外膜から外膜からを測るのか、血流のある腔を測るのか』
『蛇行しているところや弓部など、斜め切りになるところはどこで測ればいいのか』
と疑問に思っていました。
冠状断にして
今回の動画をみて、
・弓部では最大短径を測ればよい。
・外膜から外膜を測る
ということが分かりました。
きちんと輪切りにできていれば、最大長径で良いのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
大動脈瘤の計測は弓部であれ腹部であれどこであれ、常に「最大短径」で行うことになっています。
最大長径を計測すると蛇行しているときに過大評価するためです。
内膜から内膜なのか、外膜から外膜なのかについてはの記載はおそらくないのですが、外膜から外膜で良いと考えます。
また過去画像と比較する場合は必ず横断像の同じ部位を表示して測定します。
自分も解離腔か動脈瘤の壁内血栓かで悩みました。両者の区別は難しそうですね、、
今回の動脈瘤は画像上では切迫破裂の画像ではなく、臨床症状から切迫破裂の疑いがあると診断されたのですね。
アウトプットありがとうございます。
>腹部TIPS補強自分も解離腔か動脈瘤の壁内血栓かで悩みました。両者の区別は難しそうですね、、
石灰化の分布がヒントになりますが、ない場合などは区別が難しいこともあります。
>今回の動脈瘤は画像上では切迫破裂の画像ではなく、臨床症状から切迫破裂の疑いがあると診断されたのですね。
おっしゃるとおりです。
切迫破裂の典型的な画像を見つけることができなかったためです。
画像は合致しても症状が合致せず経時的変化も見られないものしかありませんでした。
今回の症例では、臨床症状と過去画像との比較、実際の径から診断されました。
胸部大動脈瘤の既往が書いてあり、今回はそれがあっても別のものを探していました。
大動脈解離はなさそうだし・・・味覚障害にも引っ張られました。
大動脈瘤の経過観察でそれが拡大し、切迫破裂の可能性があることをチェックできるかどうかという
ことに思い至りませんでした。
他の先生も指摘されています上心膜腔の液貯留(96/115)ですが、リンパ節腫大ではなさそうと言いたいところですが、心嚢液が心臓の周りに少し見られていますので、上心膜腔の液貯留には触れずに、単に「心嚢液貯留あり」とすべきでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>胸部大動脈瘤の既往が書いてあり、今回はそれがあっても別のものを探していました。
そうですね。既往にあるから、これが問題になってはいないのではないかと考えてしまいますよね(^_^;)
サイズが計測できない環境なので申し訳ありません。
>他の先生も指摘されています上心膜腔の液貯留(96/115)ですが、リンパ節腫大ではなさそうと言いたいところですが、心嚢液が心臓の周りに少し見られていますので、上心膜腔の液貯留には触れずに、単に「心嚢液貯留あり」とすべきでしょうか。
そうですね。あえて分ける必要はなく、心嚢液貯留あり、で大丈夫です。
冠状断像の23枚目付近で、大動脈弓部に低吸収の線状陰影のように見えるのは、アーチファクトでしょうか?解離しているのかと思ってしまいました…でも横断像では見えないので違いますかね…
アウトプットありがとうございます。
確かにありますね。横断像を見ると左上腕からアーチファクトを引いていることがわかり、その影響と考えられます。
左上腕がCT画像に入っており、詳細はわからないのですが、左腕を上に上げられない事情がありそうですね。
レントゲンでもその様子がわかりますが。
いつもありがとうございます。主題と外れるのですが、横断像15-17、79-84/115、冠状断15-26/81において、左腕頭静脈内にガス像が見えます。造影剤注入時に入ってしまったものでしょうか。画像上、右上肢の方向から造影剤は入ってきているように見えますが、軽いから右房に行かず左腕頭静脈にエアが回り込んだ? 造影剤注入時には、この程度のエアが入ってしまうことはしばしばあるのでしょうか。最終的には、肺にトラップされてしまうのでしょうけど。
アウトプットありがとうございます。
>左腕頭静脈内にガス像が見えます。造影剤注入時に入ってしまったものでしょうか。画像上、右上肢の方向から造影剤は入ってきているように見えますが、軽いから右房に行かず左腕頭静脈にエアが回り込んだ? 造影剤注入時には、この程度のエアが入ってしまうことはしばしばあるのでしょうか。
おっしゃるとおりですね。左に認めているのもおっしゃる機序だと思います。
造影剤注入時もですし、ルート確保時に入ってしまうことはしばしばあります。
肺動脈本幹などに認めることもしばしばあります。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5267
大動脈解離と間違えてしまいました・・・。コメント欄を読み内膜切開化を見直したら確かに〜と思いました。基部まで解離しているかと思いましたが心嚢液なのですね。common diseasesだけど全然読めてないなあと落ち込みました。引き続き頑張ります。
アウトプットありがとうございます。
>基部まで解離しているかと思いましたが心嚢液なのですね。
確かに1スライスだけ見ると上行大動脈に解離があるようにも見えますが、上下にスクロールすると心嚢液であることがわかりますね。
>common diseasesだけど全然読めてないなあと落ち込みました。引き続き頑張ります。
ここで間違えても、現場で活かせたらいいので引き続きよろしくお願いします。